New Future 日経ビジネス 電子版SPECIAL

N e w F u t u r e

Vol.20 「Technology Vision 2024」が示した、
人とAIが出会う未来
「自分が育てる、自分だけのAI」が
ビジネスの相棒になる

テクノロジーによって、私たちの社会生活やビジネスはどう変化を遂げるのか。その未来を占う「Technology Vision」の最新版がアクセンチュアから発表された。テーマは何と言っても生成AIを含めたAIの進展だが、アクセンチュアでは、テクノロジーを取り込んだ人間自身の進化にも着目する。人間とテクノロジーの「共進化」によって、世界はどう変わるのか。

AIが人間性を持ち、
人はテクノロジーで能力強化する
「共進化」が起きる

 アクセンチュアでは年に1度、その年の社会やビジネスがテクノロジーによってどのような影響を受けるかを示す指針として「Technology Vision」を公開している。2024年のTechnology Visionのメインテーマは、「Human by Design」。この言葉の意味をアクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェント・ソフトウェア・エンジニアリング・サービスグループ 日本統括の山根圭輔氏は「人間性を組み込む」と表現したが、「新たにデザインされた人間性」とも言えると語った。

「Human by Design」とは、AIが人間性を備える進化と、人間がテクノロジーを生かすことで新たな能力と言える「人間性」を身に付けることの、2つの方向の進化が同時に起こることを意味している。その上で、AIと人間は融合していく未来が来るというのである。

山根 圭輔 氏

山根 圭輔 アクセンチュア 執行役員
テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェント・ソフトウェア・
エンジニアリング・サービスグループ 日本統括
金融機関を中心に、エマージングテクノロジーおよびプロジェクトマネジメントのスペシャリストとしてコンサルティング&デリバリーを実施。テクノロジーはエンタープライズアーキテクチャからFinTech分野にわたり、プロジェクトマネジメントは大規模統合プログラムマネジメントからアジャイルデリバリーまで幅広く推進する。現在、アクセンチュア ジャパンにおけるクラウドエンジニアリング/カスタムテクノロジーアーキテクチャ/データ&AIデリバリーのリードを務める。

「Human by Design」は、「人間性を組み込む」とも、「新たにデザインされた人間性」とも解釈できるが、この言葉をひも解くカギは、2019年の「Technology Vision」で掲げられたテーマ「Human+Worker」にあるという。これはデジタルにより人間の活動が機械やシステムと融合することが予想され、企業はそういった方向に投資をしていかなければならない、という意味だ。

 ところが山根氏は、現実は、このときの予想を“斜め上”に超え、AIの活用によりさらに驚くべき状況が生まれると話している。「この5年間で、生成AIの誕生などによりAIの表現能力は飛躍的に高まり、人間に近づきました。その結果、AIを人間が使いこなすという考え方は時代遅れとなり、AIエージェントはテクノロジーにより人間性を得て、ある意味『バディ』として、私たちのすぐそばに存在している、そんな状況が生まれています」。

図1 図1

図1:AIの活用において
当初予想されていた世界観の変化

 AIの進化によって、テクノロジーがより人間らしくなっただけではない。人間の側にも、変化が起きつつあると山根氏は指摘する。

「空間コンピューティング、ヒューマンマシンインターフェースの進展で、人間の能力が大きく拡張されます。こうしたテクノロジーを活用することで、人間のあり方にも大きな変化が起きているのです」(山根氏)

 AIエージェントがより人間らしくなると同時に、人間もテクノロジーの力で新たな能力を身に付け、変わっていく。この2つの進化が同時に進む。アクセンチュアではこれを「共進化」と呼んでいる。そして、社会、ビジネスは「Human by Design=人間性を組み込む」ことで飛躍的な進化を遂げる。これが2024年の「Technology Vision」が示す世界である。

 具体的に、どんな変化が訪れるのか。例えば、人間性を備えたAIエージェントは、より身近でパーソナルな存在になるという。自分専用のAIを持ち歩く「BYOAI(Bring Your Own AI)」の世界である。アクセンチュアが描く「Human by Design」の世界を、次ページ以降で詳しく見ていこう。

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AIが企業の保有するデータを学習
複数のAIエージェントを組み合わせた
エコシステムが実現する世界

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「Human by Design」によって起きる第一の変化は、情報と利用者のマッチングである。山根氏は、従来は検索に頼っていた情報収集手段が、生成AIの登場で、大きく変わろうとしていると指摘する。

「これまで、インターネットの利用者は検索によって情報がありそうな場所を提示する『ライブラリアンモデル』が主流でした。しかし生成AIの登場により、答えそのものを対話によって直接生成していくことができるようになります。これを『アドバイザーモデル』と呼んでいます」

「検索中心主義」の時代から「アドバイザーモデル」に移行することで、企業は新たなサービスを提供することが可能である。例えば、営業部員の行動をアドバイスする生成AIサービスや、魅力的なエントリーシートの書き方をアドバイスするサービスなど、検索結果に頼らず目的の情報を得るサービスはすでに登場している。

図2 図2

図2:生成AIによる情報と利用者のマッチングの変化

 ここでのポイントは、汎用の生成AIを利用するだけでなく、企業が自ら保有するデータを学習させたAIを組み合わせてサービスを組み立てることだと、山根氏は言う。

「検索中心主義の時代において、顧客の検索結果は検索エンジンを提供するビッグテック企業のアルゴリズムによる優先順位で提示されていました。それが必ずしも顧客とマッチングしたものとは限りません。しかし、顧客のAIエージェントと企業のAIエージェントの直接的な対話が可能になると、顧客の知りたいことに見合った情報を企業AIエージェントが対話の中で提案することができます。その結果、企業は『データ主権』を取り戻し、顧客と直接つながることで、より顧客ニーズにマッチしたサービスを生み出すことができます」(山根氏)

 自社固有のデータをAIに学習させることで、オープンな生成AIモデルよりも回答の精度を高めることができる。すでに様々な業種の企業が、それぞれの自社データを学習させ、特徴ある生成AIの構築に乗り出しており、それを組み込んだアドバイザーモデルによって、顧客向けサービスや自社の業務効率改善に成果を挙げている。例えば北米地区のBMW販売会社では、アクセンチュアの生成AIプラットフォームを活用し、独自の生成AIエージェントに過去の商談ナレッジを読み込ませており、顧客からの複雑な問い合わせに対して最適な回答を引き出すことで、業務効率化を図っている。

 またアクセンチュア社内では人事手続きや制度についてなど社員からの様々な問い合わせにAIによるチャットボットで対応する社員向けAIコンシェルジュ「Randy-san(ランディさん)」を活用。バックオフィスの業務効率化に大きく貢献している。

 ただし、生成AIの活用によって企業がデータ主権を取り戻すためには、AIが与えるリスクを理解し、対処する必要があると、山根氏は注意を促す。「生成AIが誤った回答を生成するハルシネーションや、不適切な表現、著作権の侵害などによって、企業が訴訟を起こされるリスクがあります。入力情報が漏洩しないよう対策することも必要です」(山根氏)。

 アクセンチュアは、企業がAIを扱うとき、「責任あるAI(Responsible AI)」となるように支援している。責任あるAIとは特定の技術ではなく、顧客や社会に対してAIの公正性や中立性を担保する方法論である。そして、責任あるAIのそれを行動規範として「TRUST」を提唱している。

※T(Trustworthy・信用できる)、
R(Reliable・信頼できる)、
U(Understandable・理解できる)、
S(Secure・安全が保たれている)、
T(Teachable・共に学びあう)

 このようなAIのリスク管理を前提としたときに、様々なビジネスシーンにおいて人間をサポートする立場から、将来的に行動を伴い、物理世界にも影響を及ぼしていく自分専用の「AIエージェント」の実現につながっていくと山根氏は考えている。

「これまでは、AIは人間が行っていた作業を代行し、人間の時間を創出するという使い方にフォーカスが当てられていましたが、これからは人間の能力を強化、拡張することが本丸になると思っています」

 現在日本では生成AIを個人の作業効率化に使うケースが上位を占め、その実力を生かし切っていないと、山根氏は懸念する。

「その理由は様々な要因が交錯していますが、1つは、日本人が人との対話を通じて思考を高めたり、行動を変化するというプロセスに慣れていないことがあると思います。生成AIがサポートできる仕事の”幅”は非常に広く、自分に与えられた仕事を完璧にこなすために使うだけでは、その能力をほとんど生かせていません。対話によって、新しいアイデアを引き出すなど、自分の可能性を拡張するために使っていくべきです」

 企業組織の中でAIのパーソナル化が進むと、個人の組織内のポジションによって得られる情報でAIの能力も規制されてしまう懸念はないだろうか。この点に関して山根氏は、「現状でも個人の役割や権限によって得られる情報は限定されており、その情報と外部の情報を組み合わせて業務が行われています。AIエージェントのパーソナル化で、その状況に大きな差が出るとは考えにくいです。むしろ、現状の限定された情報を、AIによって生かし切ることができるようになります」と話す。

生成AI活用に対する大きなギャップ
アクセンチュアの取り組みから見る
企業内での生成AI活用法

 山根氏は、生成AIについて企業の経営者などの上層部はまだ理解していない部分があり、積極的に活用している現場の社員との温度差があることを指摘している。

 生成AIの活用における企業内でのギャップを解消すべく、アクセンチュア ジャパンでは、生成AIを日常的な業務に取り入れることを目的として「PeerWorker Platform」を開発し、社員が作った生成AIアプリの社内共有を開始している。

 また、新入社員向けのプログラミング指導を行うAIも開発した。生成AIエージェントのプログラミングコーチはベテランプログラマーの知識レベルを持ち、個人の習熟度に合わせた指導ができる。同社では、人間のコーチによる指導では生徒の2週間後の理解度が約50%だったのに対し、AIコーチの場合は過去最高の約70%に達したという。

 このように、AIが人間に教え、その結果をAIがさらに学習していく相互学習によって、人間の可能性が広がり、AIの精度もさらに高まる。さらに、AIエージェントは、単独で利用するだけでなく、複数のAIエージェントを組み合わせたエコシステムの形成も重要であると山根氏は指摘する。

図3 図3

図3:日本企業で生成AI活用における
経営幹部と従業員のギャップ

 山根氏は、AIをパートナーとして捉え、新たな価値創造に向けて共に学ぶことを行う必要があると話す。

 ただ、どのように業務にAIを組み込んでいけばいいか分からない企業も多い。山根氏は、アクセンチュアが実際に行っている方法を紹介する。

「当社では、まず新卒社員については、学生のときからすでに生成AIの利用に慣れている前提で、入社当初から仕事の仕方を『AIありき』で覚えるカリキュラムを組んでいます。既存社員は、別途トレーニングを実施し、社員が生成AIのサンドボックス環境を用意して、自分が開発したツールを活用できる環境を整えています。そして、生成AIを活用している社員の表彰や、人事評価への反映も行っています」

 こうした制度面の整備と同時に、社内で生成AIを活用するためのシステムへの投資も不可欠だと山根氏は話す。活用の目的と、社内のデータをどこまでAIに使うかによって、外部の生成AIモデルをそのまま使うケースから、独自の生成AIモデルを開発するケースまで、企業は最適なシステムを選ばなければいけない。

「Technology Vision 2024」では声、画像などすべて生成AIで作成した「山根バディ」が公開された。このAIバディはデジタル空間では様々な用途で活用することができる。その生み出す価値について次ページで紹介していこう。

動画:声、画像などを生成AIで作成した
「山根バディ」 ①

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空間コンピューティングに
解き放たれる人間の能力
その世界の先に見える
「BYOAI世代」の誕生

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 AIのパーソナル化と進化によって、AIが人間味を持つようになるが、その一方で、テクノロジーによって、人間の活動範囲もバーチャル空間に拡張している。そうした中、アクセンチュアが予測するのが、「空間コンピューティング」上の人間の活動である。

 空間コンピューティングとは、リアル空間で人間が得ている様々な感覚を、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)空間でも体験できるようにして、相互の行き来を可能にすることである。高性能なVRゴーグルをはじめ、視覚や聴覚、手触り、重みなどの触覚をバーチャル空間でも維持するテクノロジーが、次々と開発されている。

「コンピューターの進化は、パーソナルコンピューター(PC)、モバイルコンピューター(スマートフォン)へと続いてきました。この次が、『空間コンピューター』です。パーソナルな空間自体をどこにでも自由に持ち運ぶことができる、新しいパラダイムを生み出しています」(山根氏)

 VR、ARは一時期注目されたものの、今は落ち込んでいる印象があるかもしれないが、米国では10代の若者の3割がすでにVR機器を所有しており、いわゆるZ世代の期待は非常に高まっているという。また、高精度なゴーグルの登場により、ゲームやコミュニティなどのB2C用途だけでなく、遠隔医療、機器保守などのB2B用途でも利用が拡大している。

 ただし、空間コンピューティングが発展していくためには、人間が安全に没入できる環境を整えることが必要だという。刺激が強すぎて疲労や事故を起こさないインターフェースの開発が求められている。

 新たなテクノロジーによる人間の能力の拡張は、ヒューマンインターフェースの進化からも見て取れる。「声や目線、さらに脳神経によって考えただけでマシンを動かすことができるようになります。さらに、人間が直接指示を出さなくても、人間の動きの癖を検知して、潜在的なニーズに沿った価値を提供する、つまりテクノロジーが人間の機微を察して、先回りして動く時代も近づいています」(山根氏)。

図4 図4

図4:今後考えられる
ヒューマンインターフェースの進化

 例えば、車載カメラで歩道を歩く人の関節や足の動きを追うことで、20m前方の歩行者が道路を渡るかどうかを0.6秒の間に約90%の正答率で予測できることを、中国の同済大学が発表している。また、人間が指示しなくても表情や声、視線から、失敗を認識するロボットの開発も進んでいる。

「これまで、人間とテクノロジーの間にははっきりとした境界が存在していました。しかし今後は、テクノロジーは人間が意識しない形で溶け込んで人間の一部分となり、分けることができなくなるでしょう」(山根氏)

 山根氏は、人間とAIと共進化について、最後に次のように述べた。

「人間とAIの関係性はジャズセッションに似ていると考えます。人間とAIの対話や相互学習によって多くのものを生み出します。AIエージェント同士のコミュニケーションができる世界の実現も可能となります。そこで誕生するのが自分専用のAIエージェントをバディとする『BYOAI世代』です」

 だが、ここで疑問が生じる。いつでもAIがバディとして横にいるとしたら、人間のすべての意思決定をAIが操る“ディストピア”にはならないのだろうか。この問いに対して、再び「山根バディ」に回答してもらうことをもって本稿の締めとしたい。

動画:声、画像などを生成AIで作成した
「山根バディ」 ②

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