「自分が育てる、自分だけのAI」が「Human by Design」によって起きる第一の変化は、情報と利用者のマッチングである。山根氏は、従来は検索に頼っていた情報収集手段が、生成AIの登場で、大きく変わろうとしていると指摘する。
「これまで、インターネットの利用者は検索によって情報がありそうな場所を提示する『ライブラリアンモデル』が主流でした。しかし生成AIの登場により、答えそのものを対話によって直接生成していくことができるようになります。これを『アドバイザーモデル』と呼んでいます」
「検索中心主義」の時代から「アドバイザーモデル」に移行することで、企業は新たなサービスを提供することが可能である。例えば、営業部員の行動をアドバイスする生成AIサービスや、魅力的なエントリーシートの書き方をアドバイスするサービスなど、検索結果に頼らず目的の情報を得るサービスはすでに登場している。
図2:生成AIによる情報と利用者のマッチングの変化
ここでのポイントは、汎用の生成AIを利用するだけでなく、企業が自ら保有するデータを学習させたAIを組み合わせてサービスを組み立てることだと、山根氏は言う。
「検索中心主義の時代において、顧客の検索結果は検索エンジンを提供するビッグテック企業のアルゴリズムによる優先順位で提示されていました。それが必ずしも顧客とマッチングしたものとは限りません。しかし、顧客のAIエージェントと企業のAIエージェントの直接的な対話が可能になると、顧客の知りたいことに見合った情報を企業AIエージェントが対話の中で提案することができます。その結果、企業は『データ主権』を取り戻し、顧客と直接つながることで、より顧客ニーズにマッチしたサービスを生み出すことができます」(山根氏)
自社固有のデータをAIに学習させることで、オープンな生成AIモデルよりも回答の精度を高めることができる。すでに様々な業種の企業が、それぞれの自社データを学習させ、特徴ある生成AIの構築に乗り出しており、それを組み込んだアドバイザーモデルによって、顧客向けサービスや自社の業務効率改善に成果を挙げている。例えば北米地区のBMW販売会社では、アクセンチュアの生成AIプラットフォームを活用し、独自の生成AIエージェントに過去の商談ナレッジを読み込ませており、顧客からの複雑な問い合わせに対して最適な回答を引き出すことで、業務効率化を図っている。
またアクセンチュア社内では人事手続きや制度についてなど社員からの様々な問い合わせにAIによるチャットボットで対応する社員向けAIコンシェルジュ「Randy-san(ランディさん)」を活用。バックオフィスの業務効率化に大きく貢献している。
ただし、生成AIの活用によって企業がデータ主権を取り戻すためには、AIが与えるリスクを理解し、対処する必要があると、山根氏は注意を促す。「生成AIが誤った回答を生成するハルシネーションや、不適切な表現、著作権の侵害などによって、企業が訴訟を起こされるリスクがあります。入力情報が漏洩しないよう対策することも必要です」(山根氏)。
アクセンチュアは、企業がAIを扱うとき、「責任あるAI(Responsible AI)」となるように支援している。責任あるAIとは特定の技術ではなく、顧客や社会に対してAIの公正性や中立性を担保する方法論である。そして、責任あるAIのそれを行動規範として「TRUST※」を提唱している。
※T(Trustworthy・信用できる)、
R(Reliable・信頼できる)、
U(Understandable・理解できる)、
S(Secure・安全が保たれている)、
T(Teachable・共に学びあう)
このようなAIのリスク管理を前提としたときに、様々なビジネスシーンにおいて人間をサポートする立場から、将来的に行動を伴い、物理世界にも影響を及ぼしていく自分専用の「AIエージェント」の実現につながっていくと山根氏は考えている。
「これまでは、AIは人間が行っていた作業を代行し、人間の時間を創出するという使い方にフォーカスが当てられていましたが、これからは人間の能力を強化、拡張することが本丸になると思っています」
現在日本では生成AIを個人の作業効率化に使うケースが上位を占め、その実力を生かし切っていないと、山根氏は懸念する。
「その理由は様々な要因が交錯していますが、1つは、日本人が人との対話を通じて思考を高めたり、行動を変化するというプロセスに慣れていないことがあると思います。生成AIがサポートできる仕事の”幅”は非常に広く、自分に与えられた仕事を完璧にこなすために使うだけでは、その能力をほとんど生かせていません。対話によって、新しいアイデアを引き出すなど、自分の可能性を拡張するために使っていくべきです」
企業組織の中でAIのパーソナル化が進むと、個人の組織内のポジションによって得られる情報でAIの能力も規制されてしまう懸念はないだろうか。この点に関して山根氏は、「現状でも個人の役割や権限によって得られる情報は限定されており、その情報と外部の情報を組み合わせて業務が行われています。AIエージェントのパーソナル化で、その状況に大きな差が出るとは考えにくいです。むしろ、現状の限定された情報を、AIによって生かし切ることができるようになります」と話す。
山根氏は、生成AIについて企業の経営者などの上層部はまだ理解していない部分があり、積極的に活用している現場の社員との温度差があることを指摘している。
生成AIの活用における企業内でのギャップを解消すべく、アクセンチュア ジャパンでは、生成AIを日常的な業務に取り入れることを目的として「PeerWorker Platform」を開発し、社員が作った生成AIアプリの社内共有を開始している。
また、新入社員向けのプログラミング指導を行うAIも開発した。生成AIエージェントのプログラミングコーチはベテランプログラマーの知識レベルを持ち、個人の習熟度に合わせた指導ができる。同社では、人間のコーチによる指導では生徒の2週間後の理解度が約50%だったのに対し、AIコーチの場合は過去最高の約70%に達したという。
このように、AIが人間に教え、その結果をAIがさらに学習していく相互学習によって、人間の可能性が広がり、AIの精度もさらに高まる。さらに、AIエージェントは、単独で利用するだけでなく、複数のAIエージェントを組み合わせたエコシステムの形成も重要であると山根氏は指摘する。
図3:日本企業で生成AI活用における経営幹部と従業員のギャップ
山根氏は、AIをパートナーとして捉え、新たな価値創造に向けて共に学ぶことを行う必要があると話す。
ただ、どのように業務にAIを組み込んでいけばいいか分からない企業も多い。山根氏は、アクセンチュアが実際に行っている方法を紹介する。
「当社では、まず新卒社員については、学生のときからすでに生成AIの利用に慣れている前提で、入社当初から仕事の仕方を『AIありき』で覚えるカリキュラムを組んでいます。既存社員は、別途トレーニングを実施し、社員が生成AIのサンドボックス環境を用意して、自分が開発したツールを活用できる環境を整えています。そして、生成AIを活用している社員の表彰や、人事評価への反映も行っています」
こうした制度面の整備と同時に、社内で生成AIを活用するためのシステムへの投資も不可欠だと山根氏は話す。活用の目的と、社内のデータをどこまでAIに使うかによって、外部の生成AIモデルをそのまま使うケースから、独自の生成AIモデルを開発するケースまで、企業は最適なシステムを選ばなければいけない。
「Technology Vision 2024」では声、画像などすべて生成AIで作成した「山根バディ」が公開された。このAIバディはデジタル空間では様々な用途で活用することができる。その生み出す価値について次ページで紹介していこう。
動画:声、画像などを生成AIで作成した「山根バディ」 ①