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N e w F u t u r e

Vol.8 サイバーからフィジカルに。
戦いの舞台が変わる
日本の製造業が
これから訪れるチャンスを
つかむためにすべきこと

世界市場において、日本の製造業は今までのものづくりだけでは限界がある。社会の変化に対応し、製造業が次の時代で勝ち残るためには何が必要か。独大手メーカーで「インダストリー4.0」の神髄を知り、現在は東芝でCDOを務める島田太郎氏と、アクセンチュアで製造業のDXをリードする河野真一郎氏が語り合った。

「ものづくり」だけを考えていては
競争に勝てない時代に

河野島田さんは、シーメンスから東芝のCDO(最高デジタル責任者)になられて、世界と日本の製造業の実情を熟知されています。その立場から、日本の製造業を取り巻く環境をどう感じていますか。

島田状況としては単純で、これまで敵だと思っていなかったところから攻撃を受けているということです。

 そして、IT企業がクルマをつくったり、ECを手掛ける企業が店舗を始めるなど、攻撃範囲はどんどん広がっています。ITの巨人がデジタル側の市場に限界を感じて、フィジカル側にしみ出してきているのです。まだ新興デジタル企業が製造分野で大成功を収めているという例は多くありませんが、テスラなど、かなり困難だろうと思われていた領域で成功している企業も現れています。はっきりしているのは、今までの製造業の「ものづくり」だけの方法論では、勝ち目がないということです。

島田太郎 氏

島田太郎 東芝
執行役上席常務 最高デジタル責任者
東芝デジタルソリューションズ 取締役社長
航空機開発のエンジニアを務めた後、米国ソフトウェア会社に入社、2010年に日本法人社長に就任。同社は独シーメンスにより買収、ドイツ本社駐在を経て、2015年シーメンス日本法人の専務執行役員に就任。2018年10月、東芝に入社し現職。

 一番大切なのは、過去10年、20年に成功してきた企業が、どういう手段を使って成功してきたのかをよく分析し、それに対抗する手段を考えることです。私はそのカギを「スケールフリーネットワーク」という言葉で説明しています。彼らは、実際のソリューションを作らずに人を集めること、また、プラットフォームを用意し、ネットワークを増殖することで企業価値を爆発的に拡大しました。それを、日本の製造業が超えられるのかに懸かっているのです。

河野日本企業の得意分野は、今ある製品を少しずつ良くすることでした。地道な改善のロードマップを作ることは世界一だと思います。ですがそれでは、今起きている競争には勝てません。もう1つは、今指摘があったネットワーク作りの秀逸さ。そこは日本企業がとくに弱いところです。この2つを考えてやっていく必要がありますね。

河野真一郎 氏

河野真一郎 アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
インダストリーXグループ日本統括
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括
マネジング・ディレクター
1993年アクセンチュア入社。自動車業界を中心に、製造業向けのコンサルティングに長年従事。2017年より製造業のデジタル変革を推進・支援するインダストリーXグループの日本統括を務める。

島田ネットワークの強みはオープン性にあります。これは何十年も前から言われてきたことです。しかし日本企業は、公開しても問題ないものを極力秘匿し、それが当たり前と思ってきました。この考えを改めなければいけません。

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他社ができることは強みではない。
「手放す」ことを恐れない

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河野日本の製造業は、「根本からの自前主義」が大前提だったと思います。

島田当たり前ですが、他社でもできることは自社の強みにはなりません。なので、例えば、1番になるまで取り組むなど、強みと答えられるまで徹底的に追求する必要があります。自社の既成概念を超えて取り組まなければいけません。

 企業間の取引でも同じです。例えば電気自動車の時代に、クルマは全く違う構造になるはずです。そのときに、ガソリン車の磨き込んだサプライチェーンがあっても、部品の調達ができるのか、根本から考えなければいけないのです。

河野東芝では島田さんがリードして、レシートのデジタル化である「スマートレシート」と、IoTサービスの「ifLink」を軸としたサービス事例が早くも出てきています。これらは新しいつながりと価値を生み出すものとして進めているということですね。

島田はい。スマートレシートは、グループ企業の東芝テックが、POSレジで圧倒的なシェアを持っているからこそ始めたサービスです。今まで紙を受け取るだけでほとんど活用していなかったレシートの購買データを個人が管理できるサービスを作ることで、ネットワークを広げようとしています。またこれは、企業がマーケティングや生産に活用することもできます。

 欧米の巨大企業は、既存の法律が存在しないところにも賢く攻め込んできます。しかし日本企業は逆で、法律がないところに進んではいけないと考えている。この差は非常に大きいと思います。時代によって常識は変わるのです。今時点の常識が、絶対的なものと考えず、自ら新しいコンセプトを打ち立てていき、そのコンセプトと社会を合致させていくよう、対話を重ねていくことが必要です。

 新しい社会の標準を作る際に、どういう方法を取るかも大事です。多大な資金が必要な米国式の「お金を燃やす」、複数の国同士が協議して決める欧州式の「デジュール」がありますが、どちらも相当の経済規模が必要です。そこで私は第3の道である「アセットオープン化」を勧めています。自社の資産を先に公開し、共創の場をつくる方式が、日本には一番合っていると思います(図1)。

図1 図1

図1:スケールフリーネットワークを作る方法

河野日本の製造業の現場には、長年蓄積してきた強みがあります。しかし、なかなかその強みを生かすことができずにいます。どうやって活性化させればいいのでしょうか。

島田私は「宝の山」と呼んでいますが、現場には地道に磨いている研究開発の強みが隠されています。そこを見直すことで、次のコンセプトにつなぐことができます。東芝では量子暗号通信に関する研究を20年以上続けてきたからこそ、ここから本格的な取り組みが始められるのです。

 最大の問題は、強みを再構成して、実ビジネスに生かすことができる人材がほとんどいないことです。日本企業は内部留保も多く、その気になれば投資できます。私は冗談で「バブル時代を思い出して、大胆にいったほうがいい」と話しています(笑)。

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製造業が次のステージで
勝つために必要な戦略とは

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河野大企業が、既存のビジネスモデルを破壊していくには相当なエネルギーが必要です。島田さんのような強いDXリーダーがいない企業では、どうすればいいのでしょうか。

島田たいしたことはしていませんよ。私が心掛けているのは、いわゆる「チャラ男」になること。これは、著名な大学教授の方が提唱されている方法ですが、いつもの仕事の範囲を飛び出して、一番詳しいと思う人に話を聞きに行くことです。それが、ネットワークのハブを広げ、スケールフリー化する第一歩になります。

 ただし、教えてもらうだけではだめです。自分も情報を出さなければいけません。ifLinkのコミュニティ(一般社団法人ifLinkオープンコミュニティ)でも、参加者には「何をギブできますか?」ということを求めています。

島田氏と加藤氏

河野考え方と同時に、仕組みとしてデータを提供し、受け取る仕組みを整えることもDXの1つのポイントです。ただし、手段が目的化することは避けなければいけません。アクセンチュアでは、顧客企業のデジタル化の目的がはっきりするまで、とことん議論をさせてもらっています。

 また直近では、アクセンチュアはディアイスクエアから製造業向けコンサルティング部門の事業譲渡を受けました。製造業のDXに関して、考え方だけでなく、実装のところまで一貫して伴走できる体制を整えるためです。グローバルでも体制強化を積極的に加速しています。

島田製造業のデジタル化は、通常のシステムインテグレーションとは違って専門性が高いディープな世界ですから、そうした取り組みは必要でしょう。

河野これからの製造業には、いろいろな道があると思います。例えばものづくりに関して、世界一の品質とコストの企業を目指すということもあり得ます。ですが、その道を選べる企業はごく一部です。多くの製造業は、これまで関わってこなかった領域に足を踏み入れ、生まれ変わらなければいけません。製造業の成長のためには4つのチャレンジがあると考えています(図2)。

図2 図2

図2:成長のキーを実現するためのチャレンジ

島田チャンスはあります。最初にお話ししたとおり、サイバーな世界からフィジカルの世界に競争の舞台が変わってきているのです。次の時代の勝者は、まだ決まっていません。はっきりしているのは、次のステージでの勝利を目指すとき、東芝1社では無理だということです。みんなで知恵を持ち寄り、挑戦していければと思います。

河野私が統括している製造業向けDX支援組織「インダストリーX」は、年々陣容を拡大しています。もともとアクセンチュアにいた人材だけでなく、半導体、自動車、製薬など、各業界の事業会社から「日本の製造業を変えたい」という思いで集まった社員も多く、彼らの会話からは、新しいビジネスのヒントが次々とあふれ出てきます。このオープンさを、顧客企業の支援の場でも作っていくことが大事だと思っています。

 ぜひ製造業に関わる皆さんと一丸となり、日本の製造業全体の変革を実現し、新しい時代のチャンスと成功を共につかみ取っていきたいと考えています。

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