日経ビジネス電子版 SPECIAL

Creating Together

 

事例:三菱電機 顧客体験変革の新基準、
「社会的不満の解決」から
新しいコンセプトを構築

ワークショップ形式で
社会的不満を踏まえた「仮説」を構築

——具体的には、どのように進められたのでしょうか。

廣田プロジェクトは大きく3つのステップで進行。①既存調査を踏まえたブランドコンセプトの一次仮説開発、②仮説の検証、③ブランドコンセプトの精緻化です。三菱電機の冷蔵庫チームの皆様のうち総勢約20名のプロジェクトメンバーの方々を3つのチームに分け、意見を出し合いながら取り組んでいきました。

 その一次仮説を組み立てる上で、活用したのが当社の顧客体験変革の戦略構築を支援する専門チームが開発した社会的不満探索支援ツール「Social Pain Compass(ソーシャルペインコンパス。以下SPC)」です。

中長期ブランドコンセプト策定に向けた3STEP進行

ステップ1で「仮説立て」をしていく上で刺激剤となる情報源として、SNS上に渦巻く生活者の社会的不満を分析した自社ツール「Social Pain Compass(ソーシャルペインコンパス)」を活用。仮説を基に意見や想いを積み上げコンセプトを策定

 大前提として顧客体験変革においては、従来の「3C(顧客、競合、自社)」に「S(社会)」への配慮を加えた「3C+S」の視点、自社・生活者・社会の“三方良し”の実現が欠かせない時代となっています。当社が2020年に実施した調査でも、実に7割超の生活者が「社会や人々の暮らしの課題を解決しようとする姿勢の有無が、今後のブランド/製品選択の基準になってくると思う」と回答しています。

 その観点から開発したSPCは、Twitter上のソーシャルビッグデータを土台に、生活者が抱える社会的不満を分析。「地球・自然」「社会」「人生」「暮らし」の4つの方位の中で、さらに15個のSocial Pain探査テーマを設定し、ソーシャルリスニング分析を行った上で、200個超の「Social Pain Keyword」を抽出。一つひとつのキーワードに対し、“ペインの概況”“社会での解消に向けた動き”までをまとめた、企業が向き合うべき社会的不満の方角を指し示す羅針盤(コンパス)になるものです。

 今回のプロジェクトでは、三菱冷蔵庫に関係するテーマ「家庭」における、“家庭内ジェンダー不平等”や“孤育て”といった膨大なペインを、まさに滝行のようにインプットさせていただき、それらの情報を基にワークショップ形式で仮説を組み立てていきました。最終的には、“人々を、家事におけるジェンダー不平等・ジェンダーバイアスからもっと自由にしていく”という、社会的な価値をブランドに組み込めたことは、大きな実りだと考えています。

田川 絵理

田川 絵理

株式会社電通デジタル
トランスフォーメーションリードルーム
エグゼクティブトランスフォーメーションディレクター

電通入社後、消費財や商業施設のブランド戦略、商品開発支援~コミュニケーションデザインまで、マーケティング戦略プランナーとして従事。2016年電通デジタルに出向し「ファン・マーケティング」の体系化~導入・運用を推進。現在は「顧客体験(CX)の変革を起点にしたDX推進」をミッションとし『Social Pain Compass』『Fan Farming CX』他の提唱・導入を起点に、企業のマーケティングの高度化・変革を支援。

廣田 明子

廣田 明子

株式会社電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門
CX戦略プランニング第1事業部
CX戦略プランニング第1グループ
チーフストラテジックプランナー

2011年電通入社。入社以来、ブランド開発・新商品/サービス開発・統合コミュニケーションまで、幅広い領域で戦略プランニングを担当。ヒット商品の開発支援にも複数従事。2020年1月より電通デジタルに出向。以来、独自のコンサルティングフレームの開発を推進し、『Fu-man insight lab』『Social Pain Compass』『Fan Farming CX』等を発案・提唱。ソリューションとしての体系化を行いながら、企業の課題ごとにカスタマイズしたソリューション導入をリード。

——部署の枠を超えたワークショップで意見を出し合い、納得感あるアウトプットを出していく上で、工夫された点について教えてください。

廣田意見や想いをしっかり出し合いながらも、皆が同じ目標に向かって考え、形にしていくためには、緻密なワークショッププログラム設計と当日のファシリテーターの役割が重要です。例えば、書き込み式のワークシートを作成し、事前に「ブランドに込めたい想いの発散」「三菱冷蔵庫の提供すべき価値仮説の発散」といった宿題を提出していただき、チームごとの議論につなげるなど独自のフレームワーク開発にも工夫を重ねました。

 また、事前に提出いただいた宿題の内容を踏まえ、電通デジタルの支援メンバー内ではワークショップ前日に、当日の流れを想定したランスルーを長時間行い、三菱電機の冷蔵庫チームの皆様が抱く想いの共通項をチェック。また、意見集約時に拠りどころとしてリマインドすべき生活者のニーズなどを入念に確認し合い、当日に挑んでいました。

横尾副次的産物としては、ブランドコンセプトを策定する上でメンバー全員の本音、意見を知ることができたのも、今後の具体的な落とし込み作業につながる大きな収穫でした。

神保どのチームやどの意見が良い、悪いではなく、ボトムアップで個々の想いを融合し合うようなリードをしていただき、目的の一つであった横連携の強化につながったことも大きなポイントと捉えています。

社会課題への姿勢が
ステークホルダーの求心力をも左右

——新たなブランドコンセプトは「自由」がキーワードになっています。そこに込めた想いをお聞かせください。

神保従来、仕事に家事にと頑張る人々の生活を賢くスマートにすることに注力してきましたが、ソーシャルペインのインプットなどから見えてきたのは「頑張れる日もあれば頑張れない日もある」「家族に手伝ってほしくてもそれを素直に言えない自分に嫌悪してしまう」といったリアルな実態でした。

 ならば、頑張ることを前提としない価値提供として「家事は頑張らなくてはいけない」といったレッテルを取り払い、もっと自由で軽やかに暮らせるよう、支えられる冷蔵庫でありたい。「自由」にはそんな想いを込めています。

横尾ブランドターゲット像として設定している、つい1人で何もかも背負いがちな「頑張りゆるめ下手ママ」にも思い入れがあります。お客様像がクリアになったところで、そういう方たちの支えになるようなものを作らねばならないと決意を新たにしています。

神保当社の企業理念にも「活力とゆとりある社会の実現に貢献」とあります。「ゆとりある」とあえて入れているのは、持続可能社会・多様性・ワークライフバランスなどの今日的意味を含む「ゆとり」ある社会を実現したいという想いが込められています。三菱冷蔵庫もそのような価値を提供し続けていきたいと思っています。

——今後の展望についてお聞かせください。

神保ブランドコンセプトに続き、ブランドフィロソフィーとして「三菱冷蔵庫が叶える10の自由」を策定しました。「食材管理の自由」といった機能性に加え、「頑張る・頑張らない等、家事への向き合い方の自由」といったペイン解消につながる要素も盛り込んだもので、お客様や流通の方に向けても丁寧に発信していきたいですね。

 社内においてもブランドコンセプト浸透を進め、具体的な顧客体験変革につなげていく取り組みも加速化していきたいと考えています。

横尾ブランドコンセプトの一環として、三菱冷蔵庫として「Don’t(するべきではないこと)」も策定したのですが、その観点から技術先行での過剰機能・複雑な機能を排除し、お客様の生活に合わせ、あえてローテクノロジーやそれらの組み合わせを選択していく。開発手法のアップデートを進める上で、そうした発想の転換も浸透させていきたいと思います。

課題の現在地点

ブランドコンセプト策定を経て、今後は各顧客体験全般に落とし込み、機能やサービスを具現化していく作業に推移。開発現場だけでなく、宣伝や販売会社、流通業界など社内外へブランド指針を浸透させていく

廣田2022年3月に実施した大企業社員300名を対象とする当社調査では、「社員としてモチベーションが高まる自社の変革ビジョンに必要な要素とは?」という問いに対して、約9割が「社会課題解決に取り組むことによる“社会的価値の所有”」と回答しています。

 社会的価値は社員のモチベーション向上、全ステークホルダーにとっての求心力にもなります。今後、協業を進めていく上での重要なポイントになり得る点からも、その重要性を当社としても発信していきたいですね。

田川社会的価値の追求は、自社の社会的な存在意義を改めて問い直すことですが、関わる社員自身の存在意義を再認識することでもあると捉えています。顧客、社会の課題に向き合って策定したコンセプトは、社外への認知はもちろんのこと、具体的な機能や商品・サービスに落とし込んでこそ真価を発揮するものです。なので、社員一人ひとりが誇りと自覚を持って変革に取り組み、組織間連携によるシナジーを創出できるよう、当社では各企業のカルチャーや環境に応じて、プロジェクトの進め方にも工夫を凝らし伴走しています。

 構想を構想で終わらせずその具現化に向けて、三菱電機様はじめ、今後も多くの企業の顧客体験変革を一気通貫で支援させていただきたいと思います。