キリン流・CSV経営学
キリン流・CSV経営学

酒類メーカーとしての責任 ノンアルコール飲料のパイオニアとしてアルコールに関する社会課題を解決 酒類メーカーとしての責任 ノンアルコール飲料のパイオニアとしてアルコールに関する社会課題を解決

お酒は適度に愉しむことで、人と人とのコミュニケーションを深め、
人生をより豊かで味わい深いものにしてくれる存在だ。
その一方で、過度な飲酒は人々の健康や社会に悪影響を及ぼす。
また、お酒を飲む人、飲まない人が共に価値を分かち合えるシーンや商品へのニーズも年々高まっている。
そうした中、キリングループはCSV※1パーパスの土台である「酒類メーカーとしての責任」を果たすべく、
アルコール関連問題に真正面から取り組むとともに、ノンアルコール飲料の文化醸成や市場拡大にも貢献。
社会課題の解決と新しい価値共創の両立に挑む、キリングループの取り組みを紹介する。

※1 Creating Shared Valueの略。共通価値の創造。社会的ニーズや社会問題の解決に取り組むことで
社会的価値の創出と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていくこと。

※内容や出演者の所属は、取材当時のものになります

アルコールを取り巻く世界的な変化と
コロナ禍による消費者の意識変容

キリングループは、社会とともに価値を創り出し、持続的に成長していくための指針として、4つのCSVパーパスを掲げている。これまでも本シリーズで取り上げてきた「健康」「コミュニティ」「環境」、そしてそれらすべての土台となる「酒類メーカーとしての責任」だ。

お酒やビールの魅力化に努める一方で、アルコール関連問題と真摯に向き合うことは、キリングループにとって最も重要な社会的責務である。キリンビールをはじめとするグループ各社は、早くから適正飲酒の啓発などに取り組み、お酒文化の健全な発展と継承に寄与してきた。その範囲は日本国内にとどまらない。現在では、事業を展開するすべての国と地域において、有害な飲酒の根絶に向けた取り組みを進めている。

「その背景には、アルコールを取り巻く社会の変化があります」と、キリンビール企画部の塩出洋子氏は説明する。

キリンビール株式会社
企画部

塩出 洋子 氏

世界では、2010年に世界保健機関(WHO)で「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択されて以降、アルコール飲料の販売・マーケティングの規制を含む取り組みが継続的に議論されている。また日本国内においても、2014年に「アルコール健康障害対策基本法」が施行され、2021年には「アルコール健康障害対策推進基本計画(第2期)」が閣議決定されるなど、不適切な飲酒による健康被害への対策が進められている。

さらに、アルコールに対する消費者の考え方や嗜好も大きく変わってきた。お酒は飲めても、あえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」や、1月を禁酒月間とする「ドライジャニュアリー」などのムーブメントが海外で巻き起こり、いまや日本にも波及しつつあるのだ。

「コロナ禍を経て、お酒を飲む場所や人数、飲む量や種類も見直されるなど、お客様の意識は大きく変化しています。そうした中、ますます注目されるようになったのが、ノンアルコール飲料です」(塩出氏)

2022年のノンアルコール飲料市場は、2019年比で117%の伸長。なかでもノンアルコール・ビールテイスト飲料は105%伸長し、ノンアルコール飲料市場の約8割を占めている。※2

※2 キリンビール自社調べ。2019年1月-2022年9月の3か月稼働平均(季節調整後)。

キリンビール マーケティング部でノンアルコールカテゴリーを担当する佐藤洋介氏によれば、好調の要因は大きく3つあるという。

「1つはソバーキュリアスなどの世界的なトレンドが追い風になったこと。2つ目に、各社参入によるノンアルコール商品の多様化。そして3つ目が、圧倒的なおいしさの進化です。特に味覚に関しては、お客様調査でも『昔より断然おいしくなっていて、びっくりした』というお声も多数いただいています」(佐藤氏)

キリンビール株式会社
マーケティング本部 マーケティング部
ビール類カテゴリー戦略担当 ノンアルチーム

佐藤 洋介 氏

ブランドを通じた様々な取り組みで
「飲酒運転ゼロ」の社会を目指す

ノンアルコール飲料の歴史は、2009年にキリンビールが発売した世界初、アルコール0.00%のビールテイスト飲料、「キリンフリー」から始まった。開発のきっかけは、当時大きな社会問題となっていた飲酒運転を撲滅したいという想いにあった。

「車の運転前など、今まで飲めなかったシーンでも安心してお楽しみいただけるビールテイスト飲料というコンセプトで発売しました。上市にあたっては、警察庁科学警察研究所の論文を参考に運転シミュレーターでの実験を行い、『キリンフリー』を飲んでも運転能力に影響がないことを確認しています」(佐藤氏)

飲食店とともに飲酒運転をなくす取り組みを全国に広げていくために、「キリンフリー ハンドルキーパーびん」も発売。「ハンドルキーパー運動」の認知拡大と浸透にも貢献した。

ハンドルキーパー運動とは、全日本交通安全協会、日本フードサービス協会、日本自動車連盟(JAF)が推進する、「自動車で仲間と飲食店などへ行く場合に、お酒を飲まない人(ハンドルキーパー)を決めて、その人が運転して仲間を自宅まで送り届ける」ことを啓発する活動だ。キリンビールでは、「キリンフリー」に続き、2017年に発売された「キリン 零ICHI(ゼロイチ)」、そして2023年2月に新登場した「キリン グリーンズフリー」の小びんにもハンドルキーパーマークをデザインし、運動への参加を呼びかけている。

「キリン グリーンズフリー」の採用店舗数は、全国で2万4000店を突破※3。飲食店やお客様に対する訴求効果への期待も高まっている。

※3 2023年7月19日時点。缶・小びんの合計。

キリンビールは、2009年から「ハンドルキーパー運動」を支援。2023年2月21日に発売された「キリン グリーンズフリー」小びん容器にもハンドルキーパーマークを掲出し、飲酒運転防止に向けた取り組みを継続している。

「キリン グリーンズフリー」は、キリンビールが2020年に発売したノンアルコール・ビールテイスト飲料。2023年1月からのリニューアルでおいしさがさらに磨かれ、6月までの累計販売数量は前年比約4割増※4と好調だ。その理由は、味覚評価で数々の賞に輝いた※5おいしさに加え、「幸福感」や「楽しい気分」といった情緒的価値をもたらすブランディングの成功にある。

※4 缶・小びんを含む。
※5 ジャパン・フード・セレクション第59回(2023年)グランプリ、モンドセレクション第62回(2023年)ビール部門金賞、国際味覚審査機構(2023年)優秀味覚賞一ツ星。いずれもリニューアル前の商品で受賞。

「『キリン グリーンズフリー』でご提案するのは、『お酒が飲めない時に代替として飲む』といった消極的な飲用から、『リフレッシュしたい時に、飲み物の選択肢の一つとして好んで飲む』といった積極的な飲用という、新しいノンアルの楽しみ方。これまでとは違う価値を提供することでお客様の選択肢を広げ、飲酒運転の撲滅や適正飲酒の普及につなげていくのが狙いです」(佐藤氏)

「キリン グリーンズフリー」が持つ明るく爽やかなブランドイメージは、アルコール関連問題に対する社会の共感を獲得する役割としても機能している。同社ではこの7月から、「キリン グリーンズフリー」を通じて飲酒運転根絶を訴える動画をYouTubeや同社ブランドサイトで公開。YouTubeでの再生回数は2週間で計120万回を超えるなど、大きな反響を呼んでいる。

キリン グリーンズフリー
「ハンドルキーパー訴求」 菅野篇

キリン グリーンズフリー
「ハンドルキーパー訴求」 坂口篇

「様々な取り組みにより飲酒運転は確実に減っていますが、これを限りなくゼロにしたいというのが当社の願いです。その想いを『キリン グリーンズフリー』の明るい世界観に乗せて訴えることで、お客様にもより身近な問題として捉えていただけるのではないかと考え、ブランドと連携した動画制作やSNS配信を実施しました。今後もブランドを効果的に活用しながら、適正飲酒の啓発に取り組んでまいります」(塩出氏)

グループ全社・全従業員を挙げて
アルコール有害摂取の
根絶に取り組む

アルコール関連問題に向き合っているのは、キリンビールだけではない。キリンではグループを挙げてアルコール有害摂取の根絶に取り組むことを、経営上の重要課題としている。これを象徴するのが、経営陣によるアルコール依存症の医療施設訪問だ。

この活動では、キリンホールディングス社長とグループ各社の役員が、アルコール依存症の専門治療を行う医療機関を訪れ、医師との対話や施設の見学を実施。アルコールを取り巻く状況を再認識したうえで、経営の施策やグループ社員への意識啓発に反映しているという。

また全従業員に向けては、適正飲酒に関する正しい知識の習得や、酒類メーカーの従業員の一員として自覚ある行動をとるための研修を実施しているほか、自身の飲酒習慣を振り返る飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)も実施している。酒類を扱う企業の従業員にとって、アルコール関連問題は一人ひとりが真剣に取り組むべき課題となるからだ。

その意識と知識を活かし、社外に向けた活動も積極的に行っている。例えば、新社会人や大学生、工場見学者を対象とした適正飲酒啓発セミナーでは、アルコールパッチテストを活用して、自身のアルコール体質を確認しながら、正しく楽しい飲み方をアドバイスしているという。

また、キリンビバレッジでは健康経営を支援する法人向けサービス「KIRIN naturals(キリン ナチュラルズ)」でキリン独自の「適正飲酒プログラム」の提案を行っている。(「KIRIN naturals ホームページ」はこちら)昨今、従業員の健康保持・増進の取り組みが、従業員の活力向上や生産性向上等の組織活性化をもたらすとの認識のもと、健康経営を推進する企業は年々増加しており、健康経営をトータルで支援するサービスとして「KIRIN naturals」を展開している。「適正飲酒プログラム」はそのなかのプログラムの一つだ。LINEを活用して飲酒量を記録し、管理栄養士のアドバイスを通じた適正飲酒習慣の支援や、「キリン グリーンズフリー」を中心としたノンアルコール飲料を活用した置き換え習慣の推進などを行い、従業員の適正飲酒習慣を支援している。

このプログラムでは、参加者の80%が飲酒習慣の改善意識を高め、90%が適正な飲酒習慣の継続意向を示すなど、高い効果が現れている。また、プログラム開始4週間目で、1週間あたりのアルコール摂取量は16.3%(缶ビール約2.2本分)※6低下したことも報告されている。

※6 アルコール度数5%の缶ビール(350ml 缶)1本あたりの純アルコール量=14g

「KIRIN naturals」が展開する「適正飲酒プログラム」は、アルコール摂取に対する従業員の意識変容に大きく貢献。健康経営の実践につながった。

その効果とインパクトも相まって、「適正飲酒プログラム」を提供するキリンビバレッジは、2023年6月の第12回日本HRチャレンジ大賞で「人材サービス優秀賞(人材マネジメント部門)」を受賞。「行動変容を無理なく持続的に促す結果が得られ、適正飲酒による心身健康へのアプローチで従業員のWell-being向上にも寄与する」ことが高く評価された。同社は今後も「KIRIN naturals」を通じた「適正飲酒プログラム」の展開拡大を目指していくという。

「スロードリンク」の提唱で
適正飲酒のよろこびを広げていく

キリングループは自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献することを経営理念としている。だからこそ、アルコール関連問題にも本気で向き合ってきた。お酒はお客様の心豊かな生活に貢献する一方で、一部では飲酒が健康を損なっていることも事実だからだ。

そこで、適正飲酒を広く周知し、お酒の楽しさを再発見してもらうために、キリングループは2019年から「スロードリンク」を提唱している。

キリングループは「スロードリンク」として、
ゆったりとした時間を楽しむことを提唱。

「スロードリンク」は、イッキ飲みなどのスピード飲酒とは対極の、ほどよく心地よい飲み方を提案するもの。スロードリンクには、だれかと語り合いながら、食事のおいしさによろこび、ほどよく飲んで、スマートに心地よく過ごす、飲む「量」ではなく、流れる「時」に心が満たされる、そんな想いが込められている。グループのビアレストラン「キリンシティ」では、「スロードリンクの推進」の観点もあり2021年に飲み放題プランを廃止した。

また、「キリン グリーンズフリー」では、飲食店や食品メーカーとコラボレーションしたキャンペーンにより、ランチでのノンアルコール飲用機会を創出。「これまでにない楽しみ方を訴求することで、ノンアルコール飲料を『気軽にリフレッシュできる日常的な飲みもの』として浸透させたい」と佐藤氏は展望を語る。

キリンビールが販売しているノンアルコール飲料。「キリン グリーンズフリー」を筆頭に、多彩なラインアップを展開する。

新しい飲み方の提案により、ノンアルコール市場の拡大と適正飲酒の推進を同時に進めるキリングループ。今後の取り組みについて、「お酒の持つポジティブな魅力と注意すべき点をバランスよく伝えていきながら、お客様により一層喜んでいただける商品づくり、アルコール関連問題の解決に向けた活動に邁進していきます」と塩出氏は言う。

「酒類メーカーとしての責任」をもって、アルコールに関する社会課題に取り組みつつ、新たな価値創出により市場拡大を目指すキリングループの挑戦に、これからも注目していきたい。