Vol.3
富士フイルム
PwC Japan有限責任監査法人

イノベーションを生む「人財」の力を引き出す
「信頼」を根幹とした組織カルチャーとは

“コア事業消滅の危機”という事業環境の激変を乗り越え、多様な事業領域でイノベーティブな製品・サービスを次々と生み出している富士フイルムホールディングス。テクノロジーの進化や世の中の変化とともに広がる「トラストギャップ(信頼の空白域)」を埋めるため、新しい保証や監査のあり方を追求し続けるPwC Japan有限責任監査法人。それぞれ事業は異なるが、どちらも未知の領域に果敢に挑む「人財」の力が、変化に対応しながら価値を提供し続ける原動力となっている。そんな人財を、両社はいかに育て上げているのか。

富士フイルムが直面した「コア事業消滅の危機」

たった1年で世界中に浸透した生成AIのように、革新的テクノロジーはそれまでの働き方や生き方、世の中の常識すら一気に変える爆発的な力を持っている。

それを今から20年以上前に身をもって体験したのが富士フイルムだ。当時のコア事業であった写真フィルムの消滅の危機である。

「最盛期の2000年には、写真フィルムなどの写真感光材料が売上高の約6割、営業利益の約3分の2を占めていました。それが、デジタルカメラやスマートフォンの急速な普及とともに一気に縮小。現在、写真フィルムは売上高の1%未満となっています。まさに屋台骨を揺るがす大激震でした」

そう振り返るのは、富士フイルムホールディングス 執行役員 人事部長 総務部管掌 兼 富士フイルム 取締役 常務執行役員 人事部長 総務部管掌の座間 康氏である。

座間 氏
富士フイルムホールディングス株式会社
執行役員 人事部長 総務部管掌

富士フイルム株式会社
取締役 常務執行役員 人事部長
総務部管掌
座間 康
1987年、富士写真フイルム株式会社(現富士フイルムホールディングス株式会社)に新卒入社。「写ルンです」マーケティング、国内営業、人事等を経験後、中国に駐在。海外営業等を経た後に、2019年 富士フイルム株式会社の執行役員 人事部長に就任。21年より富士フイルムホールディングスの執行役員 人事部長に就任し、現在に至る。

写真フィルムは、まさに社名にある通りのコア事業だった。コア中のコアビジネスがみるみる縮小する事態に経営陣は強い危機感を抱いた。しかし、「ピンチをチャンスと捉え直し、『第2の創業だ』と社員を鼓舞して変化に立ち向かったことが、その後の事業発展につながる大きな力になったのです」と座間氏は言う。

現在、富士フイルムグループは、医療機器や化粧品の提供、バイオ医薬品の製造受託などを行う「ヘルスケア」、半導体の材料などを開発、製造、販売する「エレクトロニクス」、企業の働き方改革・DXを支援する「ビジネスイノベーション」、写真や画像・映像などの分野の「イメージング」の4つの事業領域で製品・サービスを提供している。事業ポートフォリオを大きく変化させながらその領域を広げることができたのは、変化に正面から向き合い、自分たちも変わろうとする社員たちのチャレンジ精神があったからだ。

「化学や電気、機械・情報という富士フイルムがそれまで培ってきた幅広い技術が、新たな事業ドメインにも応用できることは大きな強みでした。しかしそれ以上に、昨日まで写真フィルムを売っていた社員が、化粧品や半導体材料を売るという仕事の変化に対応してくれたことが、今日につながっているのです。社員一人ひとりが、『自らをトランスフォーメーションしよう』とするマインドを持つことが、いかなる事業環境の変化にも対応できる組織づくりの基礎であることを理解しました」と座間氏は語る。

一方で、変わりゆく世の中や市場のニーズに柔軟に対応し、変革を繰り返しながらも創業から続く富士フイルムの本質は、変わることなく現在まであり続けていると座間氏は言う。

富士フイルムグループにとってのそれは、「信頼」だ。

「写真フィルムは、撮影してから現像するまできれいに撮れているかどうか分からない製品です。結婚式や記念日、旅行など、お客様の二度とないその大切な瞬間の記録が台無しにならないように、品質をしっかり保たなければなりません。私が若かりしころの先輩の言葉を借りれば、『われわれが売っているのは“写ルンです”ではなく、“信頼”だ』ということ。思い出が常にちゃんと撮れるフィルムであるという『信頼』を提供することこそが、われわれの価値の原点であり、今もなお富士フイルムの根幹を成しているのです」(座間氏)

富士フイルムの原点でもある「信頼」は、自然と社風として浸透していき、そういった企業カルチャーを富士フイルムグループでは「オープン、フェア、クリア」という言葉にして、行動規範として定めている。

双方向に意見を交わし(オープン)、公平・公正な態度でルールを遵守し(フェア)、自身の意思決定や行動に責任を持ち、噓・偽りなく透明性を保つ(クリア)というものだ。

富士フイルムグループはこの行動規範の下、信頼ある製品・サービスを提供することによって、「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」ことをパーパスに掲げている。このパーパスは、富士フイルムグループが創業90周年を迎えたのを機に、24年1月に制定したものだ。

「当グループが提供する製品・サービスを通じて、お客様に幸せになっていただきたい。その思いの言語化を考えたときに、やっぱり『笑顔』だろうという結論に行き着いたんですね。われわれは長年、たくさんの人の様々な『笑顔』を見てきました。写真フィルムを祖業とするわれわれにとって親しみがある言葉です。多くの人を笑顔にできるような付加価値を提供していきたいという思いを込めてこのパーパスに決定しました」

パーパスを実現するには、時代やニーズの変化に対応し、その時々に求められる製品・サービスを提供しなければならない。そのためには、常に自らを変革し、新しいことにチャレンジできる「人財」の存在が不可欠だ。

そんな人財を継続的に育てるため、富士フイルムグループは20年に社員の自己成長を支援するプログラム「+STORY」(プラストーリー)をスタートさせた。