豊かな体験価値を提供する空間創造を目指す
スポーツ界に貢献する空間づくりとは?

住宅、オフィス、ホテル、商業施設、医療施設などさまざまな領域の空間デザインを提供する三井デザインテックと、サッカー男子日本代表の主将を務め、引退後は日本人のプロ経験者として初のFIFAマスター(国際サッカー連盟主宰のスポーツ修士課程)修了生となり、2024年3月に戦後最年少の47歳で日本サッカー協会(JFA)の第15代会長に就任した宮本恒靖氏との対談企画。新時代の働き方をデザインした三井デザインテックの本社オフィス「CROSSOVER Lab」(東京・銀座)で、同社の村元祐介社長と宮本氏がD&Iやスタジアムを通じた空間づくり、スポーツ界の未来について語り合った。

村元 本日、宮本さんをお招きしたのは大きく2つの理由があります。
 1つは、三井不動産がJFAさんとメジャーパートナー契約を締結させていただいているご縁。三井不動産グループは、未来を見据えた「街づくり」をテーマに様々なビジネスを展開しています。
 一方で、サッカーには「プレーする」「観戦する」「応援する」などの活動を通して、その地に暮らす方々や働く方々、憩う方々の心身を健康にするだけでなく、新しいつながりを生み出しコミュニティを活性化する力があります。JFAさんとの契約を受け、グループ全体が「スポーツの力を活用した街づくり」を加速させており、空間創造の分野を担う当社も近年はスポーツ施設に力を入れています。
 もう1つが、スポーツ界のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)についておうかがいしたかったからです。多様性が尊重され一人ひとりが能力を発揮できる環境作りは今、企業の重要な経営課題となっています。D&Iがうまく実現したのはどこかと考えた時、まず浮かんだのがスポーツ界でした。

宮本 そうですね。JFAには「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する」という理念があり、私はこの精神を大切にしています。端的に言えば「サッカーで未来を創る」ことではないかと思い、これを実現するためにスポーツの力を活かしていきたいと考えています。
 その際に重要なのは人を魅了する強い代表チームの存在で、そこを目指して子供たちがサッカーを始めるようになります。私はさらにその先に、シニアや女性も含めた皆がサッカーを楽しめる世界を目指しています。そのためにはサッカー自体の価値を上げていく必要があります。まずは強い代表チームを作ることが、正のサイクルを生み出していくと考えています。
 村元さんがD&Iの話をされたので女子サッカーを例に取ると、私は一昨年、オーストラリアとニュージーランドが共催した女子ワールドカップ(W杯)の決勝戦を現地で観戦しました。7万5000人の観客が押し寄せ、大きなスクリーンに映し出されたスペイン代表とイングランド代表の選手たちは自信に溢れていました。
 翻って日本の女子選手を見ると、国内では男子に比べて低評価に甘んじ、謙虚過ぎるほど謙虚です。2011年W杯で優勝した後は「もっと発信したらいいのに」と思って見ていましたが、そういう選手は多くなく、JFAも女子サッカーをよく知っていただく機会を作れなかった面があります。女子サッカーは男子と比べるとスピードやコンタクトの激しさで劣るかもしれませんが、別のスポーツとして見れば、柔らかなプレーや発想の豊かさ、少しゆっくりした展開だからこそ分かる戦術性など非常に面白いんですよ。

村元 女子は男子よりひと足早く世界一を達成したにもかかわらず、その記憶が薄れてしまっているわけですね。
 一方、JFAのサイトを拝見すると、代表だけでなく、“見る”“する”“関わる”人をサッカーファミリーと捉え、裾野を大きく広げて情報発信されています。当社には「Design Everything」というステートメントがあり、デザインは表面的な意匠だけでなく、対象を根本的に捉え直し世の中の全てをデザインの対象とする、としています。
 これを実現するための大事な要素の1つが、一人ひとりの個性や多様性を尊重したD&Iであると考えます。当社の仕事に関わる全ての人の力を合わせてデザインに向き合うということです。
 この価値観は、JFAがサッカーファミリーという大きな世界観を持ち未来を描かれていることに通じるように思います。女子サッカーのますますの活躍も合わせ、日本サッカー界のさらなる進化・成長を期待しております。
 さて、宮本さんは会長に就任されてから全国を回り、スタジアムの視察もされています。冒頭でお話ししたように、当社でも近年スポーツ施設の仕事が増えています。当社の強みである多様な領域で得た知見や経験を掛け合わせた「クロスオーバーデザイン」を活かしつつ、今、スポーツ施設の空間創造で重要なキーワードとなっているのが「ホスピタリティ」です。
 千葉を代表するプロバスケットボールチームのホームとなる大型多目的アリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」では、ホスピタリティやエンターテインメントに貢献するVIPルームなどのインテリアデザインを手掛けました。また長崎スタジアムシティでも、ホテルやアリーナにインテリア家具の納品などをさせていただきました。スポーツを「観る」から、スポーツとともに「過ごす」場所としての体験価値が向上する空間とし、人と人とのつながりを生みだす場になってほしいと考えています。

三井デザインテックがデザインを手掛けた千葉県船橋市にある
大型多目的アリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」のVIPエリア。

宮本 長崎スタジアムシティ、行きました。スタジアムは傾斜が強く、迫力あるゲームが楽しめそうです。驚いたのは、隣接のホテルの客室からすぐ下にピッチが見えたことです。

村元 ホテルからサッカーの試合が観戦できる機能は、今後、日本でもニーズが高まってくると思います。海外ではスタジアムに豪華な食事を楽しみながら観戦する施設もありますよね。

宮本 はい。日本では今、各地のスタジアムがどんどん変わってきています。欧州でも15年ほど前にそういう時期がありました。私は当時スイスのベルンに数カ月滞在していたのですが、街中のスタジアムはやはり商業施設や映画館など複合的な機能を持っていました。スタジアムが欧州のように人が集って憩う場所になり、そこからつながりが生まれていく。そうした光景がこの先、日本のスポーツシーンで増えていくのではないかと思います。

村元 ファン同士のコミュニケーションから、コミュニティが形成されていくわけですね。最後に本日、ぜひ宮本さんにおうかがいしたいと思っていたことがあります。男子代表の森保一監督は「フォロワーシップでチームを動かす監督」と評されますが、私はこのフォロワーシップが気になっています。D&Iが求められる今の時代には、森保監督のようなフォロワーシップこそが重要なのでしょうか?

宮本 今の代表チームには欧州のトップリーグで活躍する選手が多く、森保監督は世界のトレンドを知る彼らの意見を積極的に取り入れています。そのためにコーチ陣を配して、選手とのコミュニケーションを取りやすくしてきました。そうした森保監督のマン・マネジメントはW杯での勝利への布石だと思っています。
 我々が目指すベスト4、さらに優勝を狙うなら、戦術に加えて個々の選手が判断しなければならない局面も多数出てきます。能力のある選手が戦術を超えたところで判断を下した時に、何か特別な力が働いてゴールが生まれたりするものです。森保監督のように、選手の自主性を尊重しながら戦術を組み立てられる監督だからこそ、粒ぞろいの今の代表チームをさらなる高みへと導いてくれるのではないかと思います。

村元 本日は興味深いお話をありがとうございました。D&Iやリーダー論など、当社の経営にも参考にさせていただきたいと思います。

文/森田聡子 人物写真/鈴木愛子 
撮影場所/三井デザインテック本社

三井デザインテック株式会社

TEL 03-6366-3131

https://www.mitsui-designtec.co.jp/