Vol.4
ステークホルダーの信頼をいかに得るか

サステナビリティ情報の保証で
トラストギャップ(信頼の空白域)を埋める

GHG(温室効果ガス)排出量や人的資本の状況などのサステナビリティ情報の開示と保証は、真の企業価値創造において欠かせない重要なテーマである。「サステナビリティ」をプライオリティーテーマに掲げ、サステナビリティ情報の開示支援と保証の提供に力を入れているPwC Japan有限責任監査法人で保証をリードする遠藤英昭氏と、監査の研究を専門とする立教大学の小澤康裕准教授に、サステナビリティ情報の開示が求められる理由と、この領域におけるトラストギャップ(信頼の空白域)の埋め方について聞いた。

会計で示される企業価値は実際の価値の半分にも満たない

地球温暖化による気温上昇や生態系の変化、人権に関する問題の発覚など、サステナビリティを脅かす現象や出来事が日常的にメディアをにぎわしている。

自社が社会や環境からどのような影響を受けるのかをステークホルダーに信頼できる形で開示することは、企業にとってますます重要な取り組みとなっている。

「今や企業のサステナビリティ情報は、企業価値を測るための重要な判断材料となっています」と語るのは、PwC Japan有限責任監査法人の上席執行役員 監査事業本部 副本部長でパートナーの遠藤英昭氏だ。

遠藤 氏
PwC Japan有限責任監査法人
公認会計士
上席執行役員
監査事業本部 副本部長
パートナー
遠藤 英昭
1997年に公認会計士2次試験合格後、監査業務に加え、金融規制やサステナビリティ開示に関する保証業務に従事。日本公認会計士協会にて、銀行業一般指針等検討専門部会部会長、残高確認電子化専門委員長、業種別委員会銀行業専門部会の専門委員を歴任。現在、企業情報開示委員会の委員を務めている。
また会計監査確認センターの設立に携わり、2023年まで執行役を務めた。この他、サステナビリティ基準諮問会議委員、ESG情報開示研究会理事、日本公認会計士協会サステナビリティ能力開発協議会委員、サステナビリティ情報開示・保証業務特別委員会委員(現任)。近著『サステナビリティ保証の実務対応』。

周知の通り、日本にはPBR1倍割れの上場企業が多いが、サステナビリティ情報の開示が十分でないことも、企業価値に大きく影響しているとみられる。

「会計で示される企業価値は、実際の企業価値の半分にも満たないと言われています。財務情報では表現できない企業価値を示すため、サステナビリティ情報をいかに積極的に発信していくかが問われているのです」と遠藤氏は語る。

国際的な潮流としても、企業のサステナビリティ情報の開示・保証の機運は高まっているが、サステナビリティの領域は財務情報の開示・監査のように定まったルールや法制度が整っておらず、企業の任意の開示は投資家をはじめとしたステークホルダーから信頼されないという問題が発生していた。これをいかに整備していくかが、サステナビリティ領域におけるトラストギャップを埋める上で重要な取り組みとなるだろう。

「歴史を振り返れば、財務会計の世界も黎明期には企業が独自に会計処理方法を考え、まちまちな決算書類を開示していました。しかも、その内容に対する第三者の監査保証は行われていませんでした。それが年月をかけて、会計基準を設定し、今日のように客観性や信頼性の高い監査・保証制度へと洗練されていったのです。サステナビリティ情報の開示・保証についても、ようやく国際基準作りや法制化の動きが始まっており、会計基準や監査基準が時間をかけて整ったように、今後整備されていくでしょう」

そう語るのは、監査の研究を専門とする立教大学経済学部の小澤康裕准教授だ。

小澤 氏
立教大学
大学教育開発・支援センター 副センター長
経済学部 准教授 博士(経営学)
小澤 康裕
2008年より現職。10年4月から11年8月まで、オーストラリアのUniversity of New South Walesにて上級客員研究員として従事。15年4月より立教大学 経済学部の会計ファイナンス学科長に就任。その後、18年から総長補佐、20年から同大学の大学教育開発・支援センター センター長を歴任。

サステナビリティ情報の開示・保証でトラストギャップを埋める

基準や法令の整備とともに、企業によるサステナビリティ情報の開示が今後さらに活発化することは間違いない。昨今の世の中の動向から見ても、顧客や株主、取引先、従業員など、ステークホルダーからの信頼を得るには欠かすことのできない取り組みだからである。

「サステナビリティ情報の開示は、一義的にはサステナビリティへの取り組みが企業価値に与える影響を示すものですが、企業が社会や環境に与える影響を開示するものであるという考え方もあり、欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)ではその両方を開示対象にしています。その場合、ステークホルダーは全世界ということになるので、開示と保証によってトラストギャップを埋めることの重要性はますます大きくなります」と遠藤氏は指摘する。

一般に企業の存続期間は数十年、長くても100年程度だが、地球環境の存続は、数十億年ものタイムスパンにわたる問題である。サステナビリティへの取り組みは、未来に大きな影響を与える重要なテーマでもあるため、しっかりとマーケットメカニズムを働かせ、地球に配慮しない企業を排除する仕組みが求められ始めていると言っても過言ではないだろう。

しかし、サステナビリティ情報の開示・保証を求めるニーズは年々増加傾向にあるにもかかわらず、小澤准教授が指摘したように、その情報の開示・保証は会計情報の開示・監査に比べて歴史が浅く、これらの仕組みが完全には整っていない。このこと自体がトラストギャップを生み出しているとも言える。さらに、サステナビリティにまつわる課題は年々多様化・複雑化しているので、空白域はどんどん広がり、それを速やかに埋めていくことの難度もどんどん広がっている。

小澤准教授は、「情報に信頼が付与されることが、情報を発信する側、受け取る側の双方にとってのメリットです。ただ、そこには確固とした独立性を持った第三者の担い手が必要で、それがサステナビリティ領域のトラストギャップを埋めていくためのカギを握るでしょう。会計情報の開示・監査の基準を生み出してきた歴史を踏まえると、数字と実態を結びつける能力に最も長けた監査法人こそがそれを担える唯一の存在ではないかと考えます」と話す。

「監査法人には、いつの時代も第三者として企業の会計監査を行ってきた歴史があります。開示や保証、監査を担う上で、長年にわたる監査実績の蓄積は非常に重要で、それ自体も保証の重要な要素の一つです。そういった監査法人の立ち位置がステークホルダーの安心感につながることに加え、会計監査を通じて企業のビジネスから業界特性、経営陣の人となりまでをも知っていることも、『トラスト』の付与に結びつく要素と考えられます」と遠藤氏は言う。

徐々に整いつつある基準やルールを速やかに理解し、信頼性の高い保証サービスが提供できる点も、長年会計監査に携わってきた監査法人の強みと言えるだろう。

中でも、「サステナビリティ」をプライオリティーテーマに掲げ、その開示・保証サービスに注力しているのがPwC Japan有限責任監査法人だ。

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