産業界と挑む「社会実装」─産総研が描くオープンイノベーション

Vol.1

サーキュラーエコノミーの
実現に向け
新しいテクノロジーの
社会実装を推進

環境貢献から産業競争力の源泉へ――産業技術総合研究所(産総研)のサーキュラーテクノロジー実装研究センターでは、従来の廃棄物処理の観点から脱却し、資源循環に経済価値を見いだす「サーキュラーエコノミー」の実現に向けて取り組んでいる。プラスチックとアルミニウムの資源循環をミッションに掲げ、グループ会社のAIST Solutionsを橋渡し役として産業界と連携し、産総研がこれまで培ってきた様々な基盤技術の社会実装を目指す。

再生材の利活用を促進し、
資源循環を目指す

2026年4月、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法)の改正法が施行され、一定規模以上の事業者には再生材の利活用に関する計画立案や報告が義務化されることとなった。「国の施策が明らかにサーキュラーエコノミーの推進にかじを切った」と指摘するのは、産総研でサーキュラーテクノロジー実装研究センターの研究センター長を務める佐藤浩昭氏だ。

「地球環境保全、資源確保、経済成長の観点で持続可能なサーキュラーエコノミーの実現を目指して、リサイクル技術の開発に取り組んでいます。これまでリサイクルは廃棄物削減という静脈側の視点で扱われてきましたが、資源循環のためには資源を使う動脈側の関与が欠かせず、それには再生材を使うことによる経済的価値を見いだす必要があります」(佐藤氏)

佐藤 浩昭 氏

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
研究戦略本部
サーキュラーテクノロジー実装研究センター
研究センター長
佐藤 浩昭

サーキュラーテクノロジー実装研究センターは資源循環の実現に向けた研究開発を行う
資源循環バリューチェーンを構築

動脈側の利点としてはCO₂排出削減や各種規制対策などに伴う効果、石油資源を含む原材料調達における地政学リスク低減などの他、ブランド価値向上などが考えられる。そこで注目したいのが「リソーシング率」だ。これまでは廃棄物から再資源化された割合を示すリサイクル率が重視されてきたが、これからは製品や素材における再生材の使用率を示すリソーシング率が重要だ。リソーシング率の向上には静脈側が価値ある再生材を提供し、動脈側が積極的に活用する必要がある。

そこでサーキュラーテクノロジー実装研究センターでは資源の中でもプラスチックとアルミニウムにターゲットを絞り、再生材を前提とした製品設計から回収・選別・リサイクルまでの全体設計に取り組む。こうした研究の社会実装を担うのは、産総研の100 %子会社として2023年に設立されたAIST Solutions(AISol:アイソル)だ。AISolには産総研の研究者だけでなく、産学官の様々な分野で活躍したエンジニアやマーケターなど約250名が所属する。中林亮氏もメーカー出身者の1人だ。

「産総研が技術のR&Dを実行するのに対して、AISolはビジネスのR&Dを担います。開発した技術を事業として社会に根付かせるには、設備投資の採算性から持続可能なビジネスモデルの設計まで見通さなければなりません。新たな価値の創出だけでなく、生活スタイルに浸透させるところまでが社会実装だと考えています」(中林氏)

中林 亮 氏

株式会社AIST Solutions
プロデュース事業本部 第一事業部
サーキュラーエコノミー事業構想グループ
プロデューサ/グループ長
中林 亮

PETのケミカルリサイクルは
新たなフェーズへ

産総研とAISolによる協業事例の1つが、プラスチックの1種であるPET(ポリエチレンテレフタレート)を原料または中間原料まで化学的に分解して再利用するケミカルリサイクルだ。PETはペットボトルやポリエステル繊維などの原料である。

基盤技術は、触媒化学を専門とする産総研の田中真司氏が確立した。ペットボトルのケミカルリサイクルには200 ℃以上の高温処理が必要だが、田中氏は触媒を使って50~70 ℃の低温で処理できる手法を開発。2021年に論文を発表した後、衣服や繊維の約66 %が焼却処分されていることから、その技術を繊維に応用することを試みた。

「最大の違いは純度でした。ペットボトルはおおむね同じ成分でも、衣類は混合繊維生地がほとんどで、タグの組成表示も正確とは限りません。リサイクルの障壁になりそうな課題を1つずつ解決していき、ポリエステル繊維の再資源化に成功しました。この手法ならばコットンなども未反応で取り出すことが可能です」(田中氏)

田中 真司 氏

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
研究戦略本部
サーキュラーテクノロジー実装研究センター
プラスチックケミカルリサイクル研究チーム
上級主任研究員
田中 真司

2025年11月、研究は新たなフェーズへと進み、年間10トンの処理を目指すセミパイロットプラントの建設が始まった。目的は連続稼働させて事業採算性を実証すること。セミパイロットとはいえ、ラボとプラントでは大きく異なる。連続生産への対応、多様な素材の投入、スケールアップに伴う微量不純物の蓄積影響などの課題を1つずつ検証していく。

PETケミカルリサイクルの社会実装を目指し、スケールアップの実証に取り組んでいる
処理量スケールアップ

社会実装を加速するための
組織的な支援体制を構築

産総研では、研究成果が事業化されるまでの技術成熟度を示す指標「TRL(Technology Readiness Level)」を意識した研究開発に取り組んでいる。基本原理の発見から技術の普及までを段階ごとに管理し、研究者が自らの研究段階を確認できるようにすることで、社会実装を加速させたい考えだ。

その一方で、資金獲得や共同研究先の探索などを支援する仕組みを構築し、研究者が研究に専念できる環境を整える。また、社会実装までが円滑に進むよう、産総研としてエンジニアリング人材を採用するとともに、AISolに在籍するプラント経験者らによる支援体制も敷く。基礎が分かる研究者と実務を知るエンジニアがタッグを組んで進められる体制が最大の強みだ。

社会実装に向けた、もう1つの重要な柱が「評価」だ。再生材を資源として循環させるには、その価値を測る共通の物差しが必要となる。再生材の環境負荷を定量的に示せれば、それが物差しとなり価値となる。佐藤氏は「企業が安心して投資判断できる根拠にもつながる」と期待を込める。

アルミニウムのリサイクル技術についても社会実装を急ぐ。アルミニウムはリサイクルに適した素材として知られるが、実はアルミ缶のようにほぼ100 %リサイクルできている例は少ない。アルミニウム製品の多くは不純物を含むため、高温で溶解して鋳造材とするのが一般的だが、産業界が求めているのは加工しやすい展伸材だという。

「鋳造材の純度を高めて展伸材に加工するアップサイクル技術を開発し、既にラボレベルでは成功しています。今後、社会実装に向けてスケールアップさせたい。この技術はアルミニウムの地金を100 %輸入に頼っている日本にとって、経済安全保障の観点からも極めて重要なのです」と佐藤氏は強調する。

一連の取り組みはサーキュラーエコノミーの実現に向け、新しいイノベーションを起こすための挑戦ともいえる。佐藤氏は「産学官が連携することで、日本が得意としてきたものづくりの強みで世界との競争に勝ちたい」と訴える。技術と経営と評価指標が一体となった、日本発の資源循環モデルがいよいよ動き出そうとしている。

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産総研とは

産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)は日本最大級の公的研究機関です。ミッションは「社会課題解決」と「日本の産業競争力強化」。全国12拠点での幅広い研究と、傘下の株式会社AIST Solutionsと一体で進める社会実装が強みです。「ともに挑む。つぎを創る。」をビジョンに、研究開発の総合力で経済・社会の発展を支えます。

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