産業界と挑む「社会実装」─産総研が描くオープンイノベーション

Vol.3

脱炭素と資源循環を目指し
民間企業との
連携プロジェクトを推進

日本政府が宣言した2050年のカーボンニュートラル実現に向け、CO2を分離・回収・利用・貯留する「CCUS技術」の実用化が急務となっている。産業技術総合研究所(産総研)のCCUS実装研究センターでは、「冠ラボ」と称した民間企業との連携プロジェクトをはじめ、幅広いステークホルダーと研究開発を推進している。「CO2を削減、活用して未来の資源へ」を合言葉に、CCUSの社会実装と高効率バリューチェーンの構築を目指す。

CO2の分離・回収・利用・
貯留を一貫して扱う専門家集団

石油などの化石資源の使用で発生したCO2を分離・回収して地中などに貯めておく「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と、分離・回収したCO2を燃料や化学品に再利用することで化石資源の使用量を減らす「CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)」からなる「CCUS」。産総研でその技術開発と社会実装に取り組むのが、CCUS実装研究センターだ。研究センター長を務める玄地裕氏は、カーボンニュートラル実現に向けた使命をこう語る。

「我々は『CO2を削減、活用して未来の資源へ』を掲げ、CO2の分離・回収・利用・貯留までの技術開発を一貫して手がけています。現在はカーボンニュートラル社会への移行期であり、将来的には大気中のCO2を分離回収する必要がありますが、現状では産業由来のCO2を利活用する技術を開発することで、2050年までの過程においてもCO2削減に貢献できると考えています」

玄地 裕 氏

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
研究戦略本部
CCUS実装研究センター
研究センター長
(兼務)エネルギー・環境領域 領域長補佐
玄地 裕

特筆すべきは評価にも目を向けている点だ。CO2の削減や再利用を社会全体で推し進めるには共通の価値指標が欠かせないことから、CCUS実装研究センターではライフサイクルアセスメント(LCA)を用いたカーボンフットプリントの評価ツールの実用化を目指している。

「複数の企業と連携して開発を進めています。開発メンバーは国際的な委員会で委員を務めており、グローバルなCO2評価ルールへの反映も見込まれています」(玄地氏)

CCUS実装研究センターで扱う研究テーマは多岐にわたる。分離・回収分野では非水系吸収液を用いてバイオマス発電所の排ガスからCO2を回収するシステムを開発。数トン規模のパイロットプラントが稼働中だ。固定・貯留分野では玄武岩などの苦鉄質岩(くてつしつがん)にCO2を圧入・固定する技術のモデル化に取り組んでいる。

CCUS実装研究センターが目指すカーボンニュートラル社会への貢献
CCUS(CO2回収・利用・貯留)脱炭素化されたバリューチェーンの構築

産総研のリソースを活用して
研究開発に挑む「冠ラボ」

産総研では2016年度から企業ニーズに特化した研究開発を実施する「連携研究室(通称:冠ラボ)」を推進している。ポイントはパートナー企業の名を冠した研究室を産総研内に設置すること。企業の社員は「特定集中研究専門員」として籍を置き、産総研の施設や設備を活用したり、研究者の先端技術情報にアクセスしたりでき、産総研のリソースを最大限に活用できる。

2025年度からは複数企業が共同で冠を担う形態も可能になった。例えば、CO2の分離を担う企業とCO2を利用する企業が連携するような、バリューチェーン全体に貢献する成果が生まれることが期待されている。

「我々としては若手からマネジメント層まで、産業界のリアルな話が聞ける貴重な機会でもあります。パートナー企業の経営層とは定期的な意見交換会を設け、技術交流だけでなく組織としての次の方向性まで積極的に議論しています」と玄地氏は話す。

冠ラボは1期3年を基本とし、更新も可能だ。現在7年目(第3期)を迎えたのが大阪に本社を置く機械・プラントメーカー「カナデビア」だ。第2期から冠ラボに籍を置くカナデビアの髙野裕之氏は、連携の経緯をこう振り返る。

「第1期は下水汚泥からの水素製造に取り組みました。産総研さんとは資源循環やクリーンエネルギーについてのビジョンが非常に近く、さらにお互いがもう一歩踏み込んで研究すれば、より効果的なシナジーを伴って社会貢献できる技術が生み出せると考え、第2期では、CO2からLPGを合成する技術の開発をはじめました。第3期でもLPG合成技術の開発は社会実装に向け、継続して取り組んでいます」

髙野 裕之 氏

カナデビア株式会社
開発本部 技術研究所
エンジニアリング研究センター 化学グループ グループ長
兼 国立研究開発法人産業技術総合研究所 CCUS実装研究センター
カナデビア-産総研循環型クリーンエネルギー創出連携研究室
特定集中研究専門員/副連携研究室長
髙野 裕之

第2期のテーマはCO2から液化石油ガス(LPG)を選択的に合成する技術の確立だ。LPGは都市ガスに匹敵する規模で活用されている。高い圧力設備を使わずに液化できるため携帯性・可搬性に優れ、都市ガスが通っていない地域でも利用できる。また、自然災害で被災した際にも使い勝手が良く、災害対応の観点からも重要なものだ。

「技術開発のカギは触媒開発にありました。LPGの主成分である炭素数3のプロパンと同4のブタンを選択的に得るには、従来と違う視点が必要で、そこに至るまでにかなりの時間がかかりました」(髙野氏)

課題解決の糸口は、冠ラボならではの日常的な交流の中にあった。部門の垣根を越えた定期的な進捗報告会で、他分野の研究に従事する産総研の研究員が「ふとこぼした一言」が髙野氏にインスピレーションを与えた。

目指すはCCUS
バリューチェーン全体の
高効率化

この触媒開発を産総研側から支えたのが、当時CCUS実装研究センターで合成燃料製造・評価研究チーム長を務めていた望月剛久氏である。

「産総研が蓄積してきた燃料に関する触媒開発の知見と分析装置に、カナデビアさんのメタネーション知見を組み合わせることで、世界最高性能の触媒を開発できました。髙野さんが冠ラボに常駐し、周囲と密に交流しながら検討を重ねたことで、研究が加速したのだと思います」(望月氏)

望月 剛久 氏

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
研究戦略本部 企画部企画室
室長
(兼務)CCUS実装研究センター 合成燃料製造・評価研究チーム
望月 剛久

既にラボベースの研究は一段落し、現在は実証プラントを用い、社会実装に向けた製品化を進めている。実証プラントは20フィートコンテナをひと回り小さくしたサイズ感で、連続稼働時には1日最大12kgのLPGを合成できる。

産総研内に設置されたCO2から液化石油ガス(LPG)を合成する実証プラント
実証プラントの様子

次なるテーマはスケールアップだ。プラントを大型化すれば、現在の規模では見えなかった課題が顕在化してくる。加えて、社会実装には液化石油ガス法(液石法)の規格等に適合するよう組成比率を制御し、かつ市場に通用する価格競争力を確保しなければならない。

昨今は地政学リスクを背景に、燃料の国産化の重要性が一層増している。自然災害の多い日本では地域分散型のエネルギー供給とレジリエンスの確保も重要だ。いずれにしても、もはや一企業や一研究機関の努力で解決できる課題ではない。髙野氏は「個々の取り組みだけでは成し得ない脱炭素化を、オーケストラのごとく、いろいろな人たちと調和しながら実現したい」と抱負を語る。

玄地氏は「我々が目指しているのは高効率なCCUSのバリューチェーン構築です。それにはCO2の供給元となる企業や、CO2由来の燃料や原料を利活用する企業との連携が不可欠です」と話す。

CCUS実装研究センターでは今後、各社が有する特徴的な技術を持ち寄り、一緒に高効率なプロセスを作り上げる議論を深めていく予定だ。

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産総研とは

産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)は日本最大級の公的研究機関です。ミッションは「社会課題解決」と「日本の産業競争力強化」。全国12拠点での幅広い研究と、傘下の株式会社AIST Solutionsと一体で進める社会実装が強みです。「ともに挑む。つぎを創る。」をビジョンに、研究開発の総合力で経済・社会の発展を支えます。

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