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パートナー講演
日本アイ・ビー・エム

AI+時代のサプライチェーン
~製造現場オペレーション変革

日本アイ・ビー・エム

テクノロジー事業本部
ソフトウェア・エンジニアリング事業部
オートメーション・プラットフォーム
カスタマー・サクセス・エンジニア

秋葉 眞子

 サプライチェーンの不確実性が高まるなか、製造現場そのものの安定稼働が重要性を増している。調達や物流だけでなく、生産工程の停滞も供給力を揺るがす要因となるためだ。日本アイ・ビー・エムの秋葉眞子氏は、設備保全を例に、AIを業務に加える「+AI」から、AI主導で業務を再構築する「AI+(ファースト)」への転換を提起した。

製造現場こそ、サプライチェーンの要である

 「サプライチェーンというと、調達や物流が注目されがちだが、実は自社の製造現場そのものもサプライチェーンの非常に重要な構成要素である」
秋葉氏はまず、製造現場をサプライチェーンの一部として捉え直す必要性を示した。

 その製造現場では今、3つの課題が同時に進んでいる。労働人口の減少や労働時間の制約による人手不足、熟練者の退職やノウハウの属人化による人材育成の難しさ、そして設備の老朽化だ。故障頻度の増加や過去事例の少ない故障への対応難度の上昇は、業務品質の低下、保全コストの増加、突発停止のリスクにつながる。

 秋葉氏は「製造工程の不確実性をいかに小さくするかが、サプライチェーン全体のレジリエンス向上に直結する」と述べ、製造現場の強化が供給網全体の安定に関わると強調する。

「+AI」から「AI+(ファースト)」へ

 こうした課題を解く鍵として挙げたのがAIの活用である。従来のAI活用は人が主体となって業務を進め、その一部をAIで効率化するものだった。設備保全でいえば、設備データや履歴データ、センサー情報をもとにAIが故障発生を予測し、担当者がその結果を確認しながら保全作業の必要性やタイミングを判断する。秋葉氏は「人が主体の業務にAIを活用して効率化している段階までを、我々は『+AI』と呼んでいる」と説明する。

 これに対し、次の段階として示したのが「AI+(ファースト)」である。AIが業務の中心となり、人は判断や確認、監督に回るモデルである。重要なのは、AIを既存業務に後付けするのではなく、AIを前提に業務プロセスそのものを組み直す点にある。

 従来型AIは、あらかじめ決められたルールやシナリオに沿って結果を返す。一方、AIエージェントは、与えられたゴールに向けて自律的に判断し、タスクを遂行する。さらに複数のAIエージェントが連携すれば、状況把握、作業提案、予測、判断支援といった一連の業務をAIが担えるようになる。人は細かな作業の担い手ではなく、全体を見て判断する立場へと移る。

AIエージェントで設備保全を高度化する

 この変化は概念論にとどまらない。自社業務を題材に新技術を検証する取り組みを「クライアント・ゼロ」と呼ぶが、IBMのその一例として、設備保全部門における産業設備向けエージェント型AIの事例が紹介される。

 設備保全の現場には、日々の点検記録やセンサー情報、過去の作業履歴、マニュアルなど膨大なデータが蓄積されている。

 「データの多様性も規模も大きい環境では、従来は担当者が一つひとつ確認しながら保全判断を行っていた。しかし、エージェント型AIを活用することで、状況把握や作業提案、予測、判断支援を自律的に行えるようになる」と秋葉氏は語る。

 その実装例として紹介されたのが、IBMの設備保全・アセット管理基盤である「IBM Maximo Application Suite」だ。設備の状態や保全履歴、センサー情報などを一元的に管理し、現場の保全業務を支えるシステムである。

 このシステムに搭載されるAIエージェントの一つが、Condition Insight Agentである。設備に関する複数のデータを分析し、数秒で現場に必要な洞察を提示する。例えば、あるポンプに異常の兆しがある場合、単に数値を示すだけでなく、その数値が何を意味し、次にどのような対応を検討すべきかを文章で示す。担当者はデータを探し回るのではなく、AIが整理した情報をもとに判断できるようになる。

 「専門知識がなくても、複雑な分析モデルなしに、数秒で洞察が得られる点が重要だ」とし、秋葉氏は、AIが現場担当者の意思決定を直接支える段階に入ったことを強調した。

 この仕組みが目指すのは、保全業務の最適化である。従来の定期メンテナンスでは、まだ問題のない設備まで点検する「過剰保全」が起こる一方、注意すべき設備への対応が遅れる「事後保全」も避けにくかった。AIによって設備の状態を把握できれば、実際の劣化状況や使用状況に応じて、必要なタイミングで必要な対応を取れるようになる。

 その結果、保全コストの抑制や突発停止リスクの低減だけでなく、設備の長寿命化やエネルギー効率の改善にもつながる。設備保全は単なる現場業務ではなく、製造現場の安定稼働を支え、サプライチェーン全体の強靱化に直結する領域になりつつある。

 「従来は人が主体となって業務を行い、その作業をAIが支援する+AIの考え方が中心だった。しかし今後は、AIが自律的に業務を主導し、人は判断、確認、監督に回るAI+(ファースト)時代の業務モデルへと移行していく」と秋葉氏は語る。

 サプライチェーンの強靱化は、外部環境への対応だけでは完結しない。自社の製造現場を止めないこと、設備状態を正しく把握すること、判断を属人化させず、実行につなげることが不可欠である。AIを業務に追加する段階から、AIを前提に業務を組み直す段階へ。AI+(ファースト)の実装は、製造現場のオペレーションを変え、サプライチェーン全体のレジリエンスを高める現実的な一手になりつつある。

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