




欧州の規制をトリガーとする自動車産業の資源循環に向けた動きは、今後他産業にも波及していく可能性が大きい。モデレーターを務めるPwCコンサルティング スマートモビリティ総合研究所 GX & Ecosystemプログラムディレクターの細井裕介氏は「自動車産業は産官学連携により、どのように再生プラスチック市場の形成に向き合ってきたのでしょうか。これまでの取り組みを振り返りながら、産官学連携のポイントについて議論していきたいと思います」と問いかけ、議論の方向性を示した。
細井氏は続けて「再生プラスチックの資源循環は、自動車業界だけに閉じたテーマではありません。今後は『X to Car(他産業の廃プラを自動車に活用)』や『X to X(産業横断の資源循環)』へと広がり、多くの産業に関係するテーマになっていきます。そしてこの課題は、QCD(品質・コスト・供給量)のギャップを埋めるための技術導入と、それを加速する政策の両面で、多くのステークホルダーを巻き込むエコシステム形成そのものです。個社単独では解けない構造的課題だからこそ、産官学連携の進め方が重要になるのです」と論点を整理した。
自動車業界における再生プラスチック市場の形成は、産官学コンソーシアムを中心に、2024年ごろから越境的な連携が進められてきた。その背景について、環境省 資源循環制度推進室 室長の河田陽平氏は「欧州ELV規則はサプライチェーン全体の見直しを要求するものですが、日本では動脈産業と静脈産業の連携が遅れているため、再生プラスチック市場が空洞化しています。こうした状況を解消するためには、個社ではなくセクターカップリングの思想で連携を進める必要があります」と述べた。
規制対応を個社で行うことの困難さについて、東京大学 特別教授の伊藤耕三氏は「とくにデータ活用、品質評価、原料探索は連携して進める必要がある」と前置きした上で、「近年はグリーンウォッシュという言葉もありますが、再生材の真正性を担保するためのトレーサビリティ確保が求められています。また再生材の品質を高めるためには品質向上や品質評価の技術開発のほか、第三者認証機関が評価に活用するためのデータ整備も必要です。中立的なデータ・技術・評価基盤を確立していく上では、業界団体を中心としたアカデミアや省庁のサポート体制が欠かせません」と語った。
しかしながら、多様なステークホルダーとの連携は容易ではない。まず最初に共通認識化していくべき事項について、日本自動車部品工業会 サーキュラーエコノミー部会 部会長の嶋崎亨氏は「サプライチェーン全体で品質保証を行う意識が必要ですし、連携の過程では品質や安定供給、コスト感覚のギャップのすり合わせも求められます。静脈側との丁寧な対話は、自動車業界のグローバル競争力を高めるためにも不可欠です」と、動脈側の見解を述べた。
これに対し、SusPla 理事の平野二十四氏は、静脈側の立場から「静脈の中でもリサイクラーによって様々な役割や機能があり、使用する用語の意味も異なります。さらに、製品製造にとっての品質管理と、廃棄物処理の管理の考え方には大きな違いがあります。こうしたギャップを埋めていく作業がなければ、品質のばらつきにもつながりかねません」と、連携初期の留意点を語った。
両者の発言を受け、細井氏は「産官学連携の第一歩は、関係者が集まること自体ではなく、言葉や評価軸、判断基準を1つずつ共通言語化していくプロセスにあります。需要側が一方的に要求を示すのではなく、供給側の実態や制約を共に理解し、課題を整理しながら対話する姿勢こそが、動静脈連携の基盤になりますね」と、議論のポイントを提示した。
このような立場の違いがある中で、動静脈をつなぐ取り組みを進める際に留意すべき点とは何か。嶋崎氏は「動脈側は再生材の品質や量のばらつきを前提とした、設計や生産のプロセスを作るべきです。1つの部品に使用する材料を1種類にとどめるモノマテリアル化など、解体を容易にする設計も検討するべきでしょう。さらに動脈側が求める材料の量や用途、需要のある地域などの情報も開示していく必要があります」と、静脈側に歩み寄る必要性を主張した。
一方、平野氏は自身の経験を振り返りつつ「動脈側と静脈側とでは事業の前提や管理の思想が大きく異なります。お互いの文化を知らない状態で双方が一方的に要求を提示しても、実現は簡単ではありません。大切なのはサプライチェーン全体を把握してこの取り組みを設計していくことです。さらに自動車業界の高度な要求を達成するためにもベンチマークとして、第三者認証の仕組みの導入も必要です」と、静脈側から連携のポイントを語った。
各パネリストの発言を受け、細井氏は「量・品質・コストの課題に対してデータとAIという解が見えてきました。では、この構想を実際の市場として立ち上げるために、産官学それぞれが次に何をすべきか、議論を深めていきましょう」と、議論を次のフェーズへ導いた。
今後立ち上がる再生プラスチック市場においては、自動車業界がどのように原料を探索するのかが課題となる。伊藤氏は「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)等が開発を手掛けた情報流通プラットフォーム『PLA-NETJ』を活用すれば品質に関するデータが得られるため、トレーサビリティの確保につながります。また物性や化学懸念物質等のデータについては、AIエージェントの活用によりデータを企業内に保持したまま原料探索をすることも可能です」と、開発中のデータ基盤を活用する意義について述べた。
また伊藤氏によると、日本がペットボトルやトレーなどの「由来別回収」に成功している点は、世界的に見ても大きな強みになるという。今後プラスチックも大量に回収しデータ活用できるようになれば、高品質な再生材を自動車部品に利用できるようになる可能性は十分にあるということだ。
一方、嶋崎氏は市場に流通している再生プラスチックの品質調査を行った結果、「自動車に使える可能性のある再生プラスチックは想定以上に市場に存在していましたが、臭いや異物混入、環境負荷物質の含有等の課題も明らかになりました」と指摘。実態を正確に把握するための高度選別技術の導入とともに、データに基づく品質を可視化する必要性を示した。
細井氏は「感覚や経験に基づく議論から、データに基づく会話へとシフトできたことが、この産官学連携における大きな前進です。品質の見える化が進んだからこそ、次のステップとして『技術の産業化』、すなわち集約拠点化構想のような具体的な施策に落とし込めるようになりました」と、議論のフェーズが進展していることを指摘した。
実際に再生材を使用するにあたっては、品質・コスト・量のギャップを埋める作業が求められる。これらの課題の解消に向けた施策について、伊藤氏は「由来別データとAIで、低コスト・一定品質の再生材を使いこなすことが日本の勝ち筋になるでしょう。例えば、化学懸念物質が原料に含まれる場合、再生材が小ロットの日本では分析コストが膨大になりやすいのですが、この分析コストはプロセス認証で抑えることが重要です」と述べた。
環境省が検討を進めている集約拠点化構想も、品質・コスト・量の課題を解決する上で高い効果が見込まれる。河田氏は「既存のリサイクル拠点や生産ラインは地方に偏在していましたが、集約拠点にて品質向上を図ることで、規模の経済によりコストギャップも徐々に埋まっていくと考えています。この産業がデスバレーから抜け出せないということにならないよう、一定の市場の流動性が見えるまで伴走支援をしていきたいです」と、環境省として積極的な支援を行っていく姿勢を示した。
では、産官学が連携して描いてきた再生プラスチック市場の構想を、実際の市場形成につなげるためには、どのようなポイントが重要になるのか。平野氏は「サプライチェーンの中の特定のセグメントに負荷を集中させたり、局所的な技術導入だけで課題を解決したりするやり方は望ましくありません。サプライチェーン全体を最適化するための技術の使い方、仕組みを検討することで、結果的に品質向上、コスト削減にもつながるはずです。日本は世界が真似したくなるような資源循環インフラを構築できる力があると考えています」と語る。
一方、嶋崎氏は「国際的な競争力を高めるためには、今後は品質管理だけでなく、欧州のように認証制度にも力を入れる必要があります」と今後の方向性を示した上で、「再生プラスチックの環境価値を経済価値に置き換えるには官の支援が必要です。さらに消費者の製品購入のモチベーションも醸成していかなければなりません」と、産官学に民も足した四位一体で取り組んでいく必要性についても強調した。
河田氏は環境省の立場から相互理解の重要性について触れ、「産官学がお互いの主張だけを訴えていると、連携はなかなか進みません。この産官学コンソーシアムも2年続けてきてようやく同じベクトルを向いて進めるようになりました。今後はこの相互理解の深度を深めながら、環境政策の枠組みを超えた産業政策としての支援をしっかりと行っていきます」と、これまでの活動を振り返りつつ、今後の展望を述べた。
最後に伊藤氏は「優秀な人材がこのリサイクル産業に入ってくる状態になることが望ましいです。欧州では環境マネジメント学科が人気で、有名大学の博士課程を修了した方がリサイクル業界で働いていることも珍しくありません。リサイクル業界は、AIやデータ科学によって今後発展が見込まれるブルーオーシャンです。今回の動静脈連携を機に魅力ある産業に進化することができれば、この分野はさらに発展していくと思います」と、リサイクル業界発展への期待を語った。
4人の発言を受け、モデレーターの細井氏は議論を総括した。「本日の議論を通じて明らかになったのは、産官学連携とは、QCDのギャップを乗り越えて市場形成につなげるための“エコシステム形成型の枠組み”だということです。動静脈をつなぐためには、言葉の背後にある意味や前提を合わせるプロセスが不可欠です。そして、認証制度や品質管理基準、役割分担といった市場の基盤を1つずつ設計していく必要があります」。
細井氏はさらに、「データ・AI・認証・人材──これらを組み合わせることで、日本型の資源循環モデルを構築できると確信しています。産官学の連携により、課題を整理し、技術や人材を集め、制度を作り、社会全体を巻き込みながら新しい産業を構想する。この枠組みは自動車産業にとどまらず、今後資源循環に取り組むすべての産業に適用可能なものです。本日の議論が、その一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです」と締めくくった。