• Vol.1 「GXビジネスモデルの確立」
  • Vol.2 「広域渋谷圏戦略の推進」
  • Vol.3 「グローカルビジネスの拡大」

「まちづくり」を起点に社会課題を解決 未来を切り拓く東急不動産の挑戦 Vol.2 「広域渋谷圏戦略の推進」

渋谷を拠点につながる個性的な街 多様な機能で国際競争力を高める

東急不動産 取締役 常務執行役員 都市事業 ユニット長 宇杉 真一郎氏

不動産業を中核に多様な事業を展開する東急不動産。その取り組みについて、事業を統括する同社のユニット長に話を聞く連載企画。第2回は、日経BP 総合研究所の徳永太郎が同社 都市事業 ユニット長の宇杉真一郎氏に話を聞いた。

国内外から人が集まる
エリアの課題も再開発で解消

東急グループは、渋谷駅を中心とする半径約2.5km圏内を「広域渋谷圏」と定義しています。ここは、どのような魅力を持つエリアなのでしょうか。

宇杉 東京には、渋谷以外にも中核となる街がいくつもありますが、ある街は商業が中心、別の街は住宅が中心といったように、それぞれの役割が決まっている傾向があります。

その点、渋谷は働く場所、遊ぶ場所、住む場所が混在しているのが特徴です。さらに、その周辺には原宿・表参道・代官山、恵比寿など異なる個性を持ったエリアがあります。こうした異なる文化のエリアが共存することで、そこに集まる人も様々で、国内外から多様な背景を持つ方々が大勢集まってくることが「広域渋谷圏」の大きな特徴です。

一方、「広域渋谷圏」には大きく3つの課題がありました。

まず、渋谷駅周辺は谷地形で坂道が多く、回遊性がやや乏しい。2つ目は、他の街に比べて大型オフィスビルが少ない。3つ目は、ナイトタイムエコノミーの活性化に欠かせない宿泊施設が意外と少ないということです。

それらの課題の解消に向けて、どのような開発を手掛けてきたのでしょう。

宇杉 課題を解決すべく、推進したプロジェクトの一つが2024年7月に全面開業した「渋谷サクラステージ」です。

オフィスを中心とした複合施設で、約1万人のワーカーを擁しています。店舗には、飲食店の他、スーパーマーケットなど生活に根付くテナントに入居いただき、また、中長期の出張者や旅行者のナイトライフを充実させるため、施設内には「ハイアット ハウス 東京 渋谷」というサービスアパートメントが開業しました。

施設内に地上・地下の複層的な歩⾏者ネットワークを整備することで駅周辺の回遊性も向上しました。さらに、JR渋谷駅の新南改札が施設に隣接する形で移設し、エレベーターやエスカレーターで縦移動を促す「アーバン・コア」を整備しています。これをペデストリアンデッキとつなぐことで、水平移動もスムーズになっています。

こうした街の機能向上を行い、桜丘エリアの人流はコロナ前と比較して、約1.7倍増加しました。

ビジネスの観点で見てみると、渋谷は、多くのスタートアップにとって“創業の地”となっている街ですが、事業が拡大すると、それに見合う大きさのオフィスが少ないので外に出ていってしまう傾向がありました。渋谷サクラステージをはじめ、大型オフィスの供給が増えたことで、スタートアップの街としての地位をさらに高めることができると考えています。

3つの軸でエリアを整備
スタートアップ育成プログラムも始動

「広域渋谷圏戦略」の推進は、東急不動産ホールディングスの中期経営計画でも重点テーマの一つに掲げていますね。

宇杉 「広域渋谷圏」における30年度までの投資額は計3000億円を予定しています。都市観光、産業育成、都市基盤の構築という3つの軸で、開発を進めていきます。

まず、都市観光ですが、ナイトタイムエコノミーを活性化させるため、ホテルをさらに増やすほか、夜の観光資源を充実させます。直近では、26年3月に開業予定のホテル「東急ステイ渋谷 恵比寿」や、“裏渋谷通り”として近年人気が高い神泉で、25年12月に開業した飲食ビル「QLINK(クリンク)渋谷神泉」などが代表例ですね。

写真:宇杉 真一郎氏

都市観光の魅力を高めるコンテンツの強化として、大型複合施設の「渋谷フクラス」では、Netflixと連携した人気コンテンツを題材とする体験型のイベントを開催しています。アーバンスポーツの場づくりにも取り組んでおり、25年3月に開業した「代々木公園 BE STAGE」は、スケートボードなどのアーバンスポーツが楽しめる公園も整備しています。

産業育成については、「渋谷サクラステージ」内で、二つのスタートアップ支援施設がスタートしました。MIT*1の教授陣が監修するディープテック*2に特化したスタートアップのコミュニティ拠点となる「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」と、海外大学と連携してアントレプレナーシップを育む「TECH-Tokyo」です。前者は、支援プログラムに参加した10社のスタートアップのうち9社が海外企業で、ワールドワイドな反響が得られたことに正直、驚いています。

「都市観光」×「産業育成」×「都市基盤構築」の3つの軸で「広域渋谷圏戦略」を推進

図:広域渋谷圏 図:「広域渋谷圏戦略」の3つの軸 都市観光・産業育成・都市基盤構築

都市基盤の構築には、どう取り組んでいきますか。

宇杉 Green(環境)、Resilience(安心安全)などの6つの領域を「GROWTH(都市基盤構築)」と称して、街の成長を促進する基礎力を強化していきたいと思っています。

とくにResilienceを重視しており、渋谷区と連携して大規模災害時の帰宅困難者受け入れの訓練や、ドローンを活用した防災訓練などを実施しています。

「広域渋谷圏」においては、それぞれの街が持つ個性や魅力をさらに高めることが必要だと考えています。様々な規模や用途のアセットが混在し、少し雑多な部分も残していくことで街の多様性が保たれます。大規模な開発だけでなく、小規模なリノベーションも交えて、「何回来ても飽きない」エリアの魅力をこれからも輝かせていこうと考えています。

*1 マサチューセッツ工科大学 *2 AI、ロボティクス、環境、宇宙などの分野における先端技術

徳永太郎取材後記

取材後に、「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」で国内外のディープテック企業による成果発表会に参加、その熱気に刺激を受けました。こうしたグローバルな産業創出の一方で、小さな路地の雑多な店舗に多くの人が集う光景が共存するのが「広域渋谷圏」の魅力。大型開発にとらわれず、多様性を生かしたまちづくりを進めるという同社の姿勢が印象に残ります。

  • Vol.1 「GXビジネスモデルの確立」
  • Vol.3 「グローカルビジネスの拡大」
ロゴ:東急不動産