日経ビジネスオンラインスペシャル

TOPICS2020.10.21

映画ヒーローは腕時計がお好き

日本が誇るあの男は、
どんな時計をしていたのか

映画の中で使われた腕時計というのは、ときに伝説となり、そのモデルの将来を大きく変えることがある。例えば、『007』の主人公、ジェームズ・ボンドが使用した時計。ショーン・コネリーが演じた初代ボンドが愛用時計したロレックス サブマリーナ6538は、いまやマニア垂涎のアイテムとして知られ、その後のサブマリーナの価値を大きく高めた。

また、ロジャー・ムーア時代の『007 死ぬのは奴らだ』(1973年公開)では、当時最新鋭だったLED式によるデジタル時計パルサーP2が使用され話題に。80年代にはセイコーのデジタル時計を数多く使用されており、今も「ボンドウォッチ」「ボンドモデル」という名でヴィンテージ市場では高値をつけている。史上最もマッチョなボンドともいえるダニエル・クレイグが着けるのは、オメガのシーマスターだ。2021年公開予定の最新作では、自身も制作に関わったというキモ入りのボンドウォッチが使用されることになっているが、ダニエル・クレイグ最後の出演作品となるだけに、これも将来的に重要なピースとなるかもしれない。

このように、映画で使われることによって、腕時計は新たな価値を持つことになる。大好きなヒーローが映画の中でした腕時計を自分もしてみたい。そう思うのは当然のことだ。

寅さんの愛用した腕時計とは何か

『007』のように多くの人に愛され、何十話ものストーリーを重ねた邦画といえば、何と言っても『男はつらいよ』ということになるだろう。実はこれまで、寅さんこと車寅次郎がどのような時計をしているかについてはあまり多くは語られてこなかった。

結論から言えば、『男はつらいよ』の初期作品において、寅次郎は1965年にセイコーが発売したダイバーズウォッチ「6217-8001」(セイコー1965メカニカルダイバーズ)をその腕にしている。この事実は、一部のコレクターの間では囁かれ続けていたのだが、なぜか一般化することはなかった。この時計が「国産初のダイバーズウォッチ」という称号をすでに持っていたこともあり、それ以上のストーリーを語る必要がなかったのかもしれない。

今回、ビームス ジャパンと『男はつらいよ』との共作により復刻版をセイコーに別注した。これにかこつけ、松竹に「寅さんの時計を撮影したい」と依頼したところ、奇跡的にOKの回答が! 伝説のモデルとはどのようなものだったのか、少し見てみることにしよう。

寅さんが実際にしていた初代セイコーダイバーズ

寅さんが実際にしていた初代セイコーダイバーズ。風防は傷だらけ、使用時に変更されたと思われるブレスレットも一部ねじ曲がるなど、かなりの使用感があるのがわかる。

時計はまさにセイコーの初代ダイバーズウォッチ「6217」である。リュウズのサイズが大きいことから、最初期の「8000番台」ではなく、一般的によく知られ、復刻版の元にもなっている「8001番台」であることがわかる。

最も寅さんの腕時計をチェックしやすいのがシリーズ第5話「男はつらいよ 望郷篇」。ポスターにも腕時計がバッチリ写っている。©1970 松竹株式会社

本来ならトロピックバンドと呼ばれるラバーストラップが着くところだが、映画内で使われたモデルにはマルマン社製のブレスレットが装着されている。ラバーストラップでは少しスポーティになりすぎることを懸念し、使用時にブレスレットに変更された可能性が高い。

風防を含めて、かなり傷が目立つ。使用年数を考えると少し傷が多すぎる印象があるので、もしかすると、寅さんのイメージに合わせダメージ加工を施したのかもしれない。山田洋次監督は常にリアリティを重視しており、寅さんの鞄の中にはいつも荷物が詰め込まれていたという。寅さんの着る洋服に関しては常にパリッとしていてリアリティを持たせなかったというが、果たして腕時計はどうだったのだろうか。

セイコー プロスペックス 1965 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン 男はつらいよ ビームス篇

新作の「セイコー プロスペックス 1965 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン 男はつらいよ ビームス篇」。バンドは写真の黒以外に、ベージュのトロピックバンドも付属。

ここで、今回のビームス ジャパンによる復刻モデルに目を移そう。文字盤は、チャコールグレーから黒へ。リュウズの「SEIKO」の刻印が浮き文字から彫り文字に変更されているが、それ以外はかなり忠実に再現されており、質感的にはオリジナルより上を行っている印象がある。ダイバーズウォッチとしては黒文字盤のほうが視認性が高いし、見た目にもメリハリがあって腕につけた時の存在感は強い。何より、映画の中やポスターに出てくるときの印象はチャコールグレーよりも黒に近く見えることを考慮すれば、正しい選択肢かもしれない。

“寅ダイバー”の裏側

“寅ダイバー”の裏側。裏蓋はスクリューバックになっており防水性は十分。オリジナルにも描かれているイルカのモチーフまでも寅さん仕様に。

本来、セイコーのファーストダイバーズの裏蓋にはイルカのモチーフが施されているが、今回の復刻版では、そこに寅さんのトレードマークともいえる帽子とトランクが加わった。ケースの素材は耐食性の高い「エバーブリリアントスチール」を採用しているので、海での使用にも十分耐えうる。ブレスレットがつかなかったことはちょっと残念だが、こちらにかんしては、寅さんよろしく、自らで楽しめばいいということか。

寅さんの愛用モデルの復刻版としてはもちろん、実用時計としての実力もかなり高い本作。寅さんファンだけでなく、時計好きでも十分に納得できる1本だろう。

セイコー プロスペックス 1965 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン
男はつらいよ ビームス篇

自動巻き、SSケース、径39.9㎜、52万8000円、2色の強化シリコン製トロピックバンドを付属、ビームス限定300本、11月20日発売(事前予約受付あり)。

詳細はこちら

文=安藤夏樹、写真=岩崎 寛

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