特集

「ファンクショナル・アプローチ」を 今日から使いこなすための実践ガイド
視点をグルリと変える問題解決入門(2)

カタチではなくファンクションに注目することで、新しい視点から斬新な改善方法を導く。ファンクショナル・アプローチの原理を前回はご紹介した。今回は一歩踏み込み、実際にビジネスで生かすためのノウハウを改善士・横田氏に伝授してもらう。
「何のため」という問いかけが出発点

株式会社ファンクショナル・アプローチ研究所代表取締役社長。
顧客サービスを最大化させる経営改善コンサルタント。10年間で総額1兆円の公共事業改善を担当し、総額2000億円のコスト縮減を達成。その経験をもとに、実践的なファンクショナル・アプローチの技法を啓蒙する活動にも注力している。著書に「問題解決のためのファンクショナル・アプローチ入門」「ワンランク上の問題解決の技術《実践編》」(ともにディスカバー・トゥエンティワン)がある。
すべての製品やサービスは、「何のため」という「機能=ファンクション」を持って作られたものだ。カタチのまま考えていても突破口を見いだせなかった課題に対し、ファンクションに置き換えるという作業をしてみることで、新しい視点が得られ、まったく別の解決策が見えてくる。それがファンクショナル・アプローチだ。今回は実践的な手法を紹介しよう。
ファンクショナル・アプローチの出発点は「何のため」という問いかけだ。あるカタチが「何のため」に作られたのかを繰り返し繰り返し考え、思いつく限りのファンクションを書き出していく。
たとえば、喫茶店は「何のため」にあるのか。「コーヒーを味わう」ためだ。しかし、心地良い音楽が流れ、ゆったりとソファに座ってリラックスできる空間には「気分を和らげる」効用もあるだろう。待ち合わせやミーティングに利用する人にとっては「場を提供する」というファンクションが重要になる。あるいは、冬には「体を温める」、夏は「体を冷ます」ために利用するという人も多いだろう。つまり「体調を整える」ファンクションも持っているということになる。

問いかけは「何のため」であって、「なぜ」ではいけない。「なぜ」にすると犯人捜しになってしまうからだ。特にグループで討議しているような場合には、メンバーそれぞれが自己保身に走ってしまい、建設的な意見が出てこなくなってしまう。
ファンクションを書き出すときには、「○○を○○する」という「名詞+他動詞」の形で表現するのが鉄則だ。なおかつ、機能を絞り込むため、名詞はなるべく具体的にする。逆に、余計な価値判断などを挟まないよう、動詞はなるべく抽象的にするのがポイントだ。
また、「誰のため」かを考えることも大切だ。たとえば、喫茶店の小さなテーブルに置かれたままになっているメニューは、顧客のためだろうか。顧客がいつでもメニューを見られるようにしておく、という目的もあるだろうが、小さなテーブルがメニューのためにいっそう手狭になってしまうことを、顧客は快く思っていないかもしれない。それよりは、店側がメニューを出したり下げたりする手間を省くため、という理由の方が大きいかもしれない。改善は誰のために行うのか。「使用者優先」の意識を持たなければ、良い結果は望めない。
カタチから自由になることで見えてくるものがある
思いつく限りのファンクションを出したら、それらを階層に整理する。これをFASTダイアグラムという。

FASTダイアグラムでは、上位、つまり左へ行くほどファンクションは抽象的になっていき、最終的には一つのファンクションにまとまる。上の例では、喫茶店というカタチが、最終的には顧客の「活動を助ける」というファンクションにまで抽象化された。
ここまで抽象化すると、それが喫茶店のファンクションを表しているとは、もう誰も気がつかないだろう。それが大切だ。顧客が求める効用を提供するためには、一定のカタチにとらわれる必要はない。ファンクションで考えると言うことは、カタチから自由になるということなのだ。
次に、FASTダイアグラムからキー・ファンクションをピックアップする。どのファンクションを重視すべきか。顧客が求めているのは何か。あるいは、競合との差別化を図るには、どこを強化すべきか。何をキー・ファンクションと考えるかによって、喫茶店の営業形態、つまりビジネスモデルには大きな違いが出てくる。コーヒーの味に徹底的にこだわるのか。あるいは、仕切りを多く設置して商談がしやすい雰囲気を提供するのか。「ファンクションではなくカタチだけで考えてしまうと、どうしても他社の模倣や、あるいは思いつきでしかないビジネスモデルになってしまいます。トライ&エラーを繰り返すうちに、資金も時間もなくなってしまうでしょう。それをファンクショナル・アプローチで考えることで、画期的な解決策や、ブルーオーシャンを効率よく見いだすことができるのです」(横田氏)。
ユーザーはカタチだけでは満足しない
「ユーザーはカタチだけでは満足しません」と横田氏は強調する。たとえば、レッツノートという製品がユーザーの支持を受けている本当の理由も、単に「軽い」「バッテリーが持つ」といった特長を見ているだけではわからない。「そういった個々のスペックはカタチに過ぎません。単に本体が軽ければいいというわけではないし、一昔前は2kgのノートパソコンでも『軽量』と言われていたように、軽さも絶対的な尺度でないのです」(横田氏)。
社内で会議室へ移動したとき、あるいは商談のために外へ出たときなど、場所にとらわれずパソコンで仕事をこなすには、どういうファンクションが必要か。持ち歩くのが苦にならないこと。電源のないところで使えること。故障などのトラブルで仕事が中断されないこと。業務をこなせるだけの処理性能を持っていること。レッツノートの個々の特長には、ビジネスパーソンの「仕事を支える」というファンクションが一貫して根底にあるのだ。「重要なのは、ファンクションを達成できるかどうかです。だから、今後もビジネスパーソンのニーズを満たし続けていくとするなら、レッツノートはレッツノートらしさというカタチをどんどん手放していくでしょうね」(横田氏)。

ファンクショナル・アプローチの伝道師として多忙な毎日を送る横田氏は「日本を良くしたいのです」と率直にその思いを語る。魚の煮付けを作るとき、必ず魚を真っ二つに切る人がいた。「昔、祖母がそうするのを見ていたから」というのが理由だが、祖母に「何のため」と確認すると、単に、当時は小さな鍋しか持っていなかったからだという。「そういう無駄が、仕事でも生活でも、山ほどあるんです」(横田氏)。誰のためにするのか。何のためにするのか。その問いかけが、仕事や日常を少しずつ良い方向へと変えていくのだ。今回はファンクショナル・アプローチの入り口へご案内した。さらに詳しく知りたい方は、横田氏の著書「問題解決のためのファンクショナル・アプローチ入門」(ディスカバー・トゥエンティワン)などを手に取ってみていただきたい。





