世界一の店も採用! 日本初のラーメン用小麦「ラー麦」

業界の垣根を越え官民が一丸となって開発

かけあわせた2000種から試食を経て、ラーメン専用小麦が誕生

 そもそも小麦は、加工される食品によって使う種類が異なる。ケーキやカステラに使用する薄力粉、うどんやそうめんなどに使う中力粉、そしてラーメンやパンなどに用いられる強力粉などだ。コシが強く、歯ごたえのある麺にするにはタンパク質の含有率を高める必要がある。新たに開発する小麦は、含有率12%を目標として開発が始まった。 

 開発方法は、同試験場がビール用大麦育種で培った「半数体育種法」。トウモロコシの花粉を交配に用いることで、通常の育種法の約半分の期間で安定した個体を得ることができるバイオテクノロジー技術だ。これによって小さなシャーレの中にできた新しい2000種の培養から選別を重ね、さらに製粉、製麺を経て人間の五感による官能評価を実施。最終的に「ちくしW2号」が選ばれた。日本で初めてのラーメン用小麦の誕生である。

普及促進に向けて「ラー麦」のブランド化がスタート

 新品種のブランド化がうまくいかないことはしばしばある。しかし“チームラー麦”の進撃の手は緩まなかった。小麦の品種を作ることを目的としていた「福岡県ラーメン用小麦品種開発協議会」を解散後、すぐさま「福岡県ラーメン用小麦普及促進戦略会議」が発足、今度は“普及”に軸足を移したのだ。

 最初の一手は、名称の公募だ。1600という応募の中から、「ラー麦」という名称を選定し、ロゴを作成してその誕生を広く知らしめた。また協力してもらった製粉会社5社にも協力を仰ぎ、各社の小麦袋にはラー麦のロゴを入れてもらっている。

製粉会社5社の小麦袋
製粉会社5社の小麦袋。デザインは少しずつ異なるものの、ロゴがあるため統一感がある
ピンバッジやボールペンなど、ラー麦普及のために製作したグッズ
ピンバッジやボールペンなど、ラー麦普及のために製作したグッズ。

 2009(平成21)年に県内の5つのJAで149ヘクタールから始まった作付面積は、2016(平成28)年には9つのJAで約1770ヘクタールまで増加。県の小麦作付面積の11%を占めるまでになった。ほかの品種の小麦と比べても収益性が確保できることもあり、まだ生産していない農家からも注目をされている。また、目標としていたタンパク質の含有率も開発当初こそバラツキがみられたが、2014年産から上昇。15年産では目標の12%をクリアできたという。

「ラー麦」(ちくしW2号)作付面積・収穫量 推移
出所:福岡県「『ラー麦』(福岡県産ラーメン用小麦)ホームページ」より

ラー麦の麺を採用する店は200店舗以上に

澄んだスープが特徴的な「純ラーメン七節」
澄んだスープが特徴的な「純ラーメン七節」。トッピングには鹿児島のブランド豚や大分県産の卵など、九州の美味が集う

 「ラー麦」で作った麺は歯切れがよく味わいがあり、風味が良いと表現されることが多いという。また麺が伸びにくい点も、細くて硬めの麺を好む博多っ子から評価されている。現在、ラー麦を使ったラーメンを出している店は福岡、北九州などにあり、その数は200店舗以上に拡大。「ラー麦」のロゴを掲げ、全店でアピールするチェーン店もあるほどだ。

 今回、2017年に行われた世界規模の創作ラーメンコンテスト「ワールド・ラーメン・グランプリ」で見事グランプリを獲得した福岡市の「大重食堂」店主、大重洋平氏を訪ねた。グランプリに輝いた「純ラーメン七節」は、麺にラー麦を100%使用。スープは平戸のあごと羅臼昆布に、自家製の牛節やフグ節など7種類の節(ぶし)を調合、1杯ずつコーヒーサイフォンで抽出する。大重さんは福岡市内に2店の創作料理店を経営しているが、ラーメンを作り始めたのは2017年7月からだという。大重氏にラー麦との出会いを伺った。

「純ラーメン七節」で用いるラー麦細麺
「純ラーメン七節」で用いるラー麦細麺。明るい色合いと豊かな香りが特徴

 「以前から和洋中に使ういろいろな節を自分で作っていたんですが、それを合わせてラーメンスープに生かそうと試行錯誤を始めました。スープに合わせる麺として試作段階で結構いろいろな麺を試したんですが、一番しっくりきたのがラー麦。節を使った出汁との相性が際立っていました。麺自体にも味わいがあり、モチモチしていてコシがある。小麦の香りがすごく立つのも選んだポイントです」と、大重氏は評価する。現在、「純ラーメン七節」はランチ営業のみ1日30食限定だが、今春4月にはラーメン専門店を出す予定だ。

大重さんご夫妻
大重さんご夫妻。ランチ時は「大重食堂」、夜営業は「ビッグヘビーキッチン」と看板を掛け替える。「二毛作です」と笑う

 「福岡で作った小麦で福岡のラーメンを!」を掲げて誕生したラー麦。協議会自体は解散したが、今でも毎年同じメンバーでその年産のラー麦の味や品質をみる試食会が続いている。「品種の開発にゴールはありませんから」と声を揃える田中さんと甲斐さん。ラー麦は今も進化を続けている。

遠くに宝満山を望む圃場で並ぶ田中さんと甲斐さん
遠くに宝満山を望む圃場で並ぶ田中さんと甲斐さん。麦踏みを済ませたさまざまな種類の大麦や小麦が整然と並ぶ