


SAPが自社のソリューションに生成AIを組み込んでいく方向性を正式に発表したのは2023年5月のこと。9月には、日本でもAI分野における国内のパートナーエコシステムを構築していくことを表明。10月には、生成AIアシスタントの「Joule」を発表した。
以上のような矢継ぎ早の展開を経て、同年11月の「SAP TechEd」開催に至ったわけだ。既に述べたように、SAPはこのテックイベントで生成AIに関連する様々なテクノロジーやソリューションを紹介しており、スピード感を持って生成AIの導入を進めている。
では、SAPはどのような戦略の下で「生成AIへの対応」を進めているのか? 織田氏はそのポイントとして、「関連性」「信頼性」「責任」の3つを挙げる。
「まずは、SAPの主要なアプリケーションとテクノロジーソリューションに生成AIを組み込み、お客様の業務に最も『関連性』の高いAIエクスペリエンスが得られるようにすること。次に、SAPが持つ様々な業種・業界の知見をベースとする学習を行い、ビジネスにすぐ利用できる『信頼性』の高い生成AIとすること。さらに、セキュリティー、プライバシー、コンプライアンス、倫理の面で最高レベルの『責任』ある生成AIを提供すること。この3つの組み合わせによって、お客様のビジネスの成果を実現します」(織田氏)
こうした戦略の下、既に数多くの生成AIソリューションを発表しているSAPだが、そのポートフォリオは大きく4つに分類できるという。
「1つは、すべてのユーザーのデジタルアシスタントとして機能する『Joule』。2つ目は、SAPの各ソリューションに組み込まれる生成AI群。そして3つ目は、ユーザーが自社で生成AIを開発するための基盤となる『AI foundation on SAP Business Technology Platform』(以下、『AI foundation』)です。この他に4つ目として、他のテック企業とのパートナーシップや投資を強化しています」と岩渕氏は語る。
SAPが提供する生成AIソリューションのポートフォリオ。大きく4つに分類できる。1つ目は、デジタルアシスタント機能の「Joule」。2つ目は、SAPの各ソリューションに組み込まれる生成AI群。3つ目は、ユーザーが自社で生成AIを開発するための基盤となる「AI foundation on SAP Business Technology Platform(BTP)」。4つ目が、他のテック企業とのパートナーシップや投資だ

ユーザー自身による生成AI開発の支援や、他のテック企業との連携をソリューションのポートフォリオに組み入れているのは、SAPが描く「顧客のビジネスプロセスをE2Eで自動化・高度化する」という理想を早期に実現するためだ。
ユーザーのビジネスプロセスを動かしているのは、SAPの製品ばかりではない。ユーザーが独自に開発したシステムもあれば、他のテック企業のシステムも利用されている。それらすべてに貢献するソリューションを提供できなければ、その理想の実現は不可能だ。
ゆえにSAPは、「AI foundation」による支援と、生成AIエコシステムの形成にも力を入れているのである。
「ユーザーの生成AI開発を支援する『AI foundation』は、必要なツールや、あらかじめ開発済みのコンポーネント群の他、開発のための知識を学ぶトレーニングなどで構成されています。さらに、SAPのERPやアプリケーションなどから生成AIにインプットされるデータを最適な状態に事前処理する『SAP HANA Vector Engine』なども用意しています」と岩渕氏は説明する。
この他、今回の「SAP TechEd」では、SAPのビジネスソフトウエアに連携する業務アプリをユーザーがスピーディーに内製できるソリューションも発表された。
SAPは前回(2022年)の「SAP TechEd」で、ローコード・ノーコード開発用の「SAP Build」というソリューションを発表したが、今回はこれに「Pro-Code」という新たな機能が追加された「SAP Build Code」のリリースを発表。プロユーザー向けのツールで、とくに特徴的なのが、ユーザーが求める業務アプリの要件を「Joule」に入力すれば、生成AIが自動的にコードを書き出してくれる機能だ。
織田氏は、「ローコード・ノーコード機能は、市場の変化に対応して業務アプリの開発スピードを上げるためのものでしたが、生成AIだけで自動開発できる機能も加わったことで、よりスピーディーに対応できるようになったと思います」と語る。
「AI foundation on SAP Business Technology Platform」は、ユーザーが生成AIを開発するために必要なツールや、開発済みのコンポーネント群、開発のための知識を学ぶトレーニングなどで構成されている。SAPのERPやアプリケーションなどから生成AIにインプットされるデータを最適な状態に事前処理する「SAP HANA Vector Engine」も用意されている

今回の2023年の「SAP TechEd」では、「生成AIへの対応」の他、SAPがこれまで取り組んできた「Clean Core戦略」「統合戦略」の最新動向についても注目が集まった。
「Clean Core戦略」とは、予想もしない市場の変化に対応してERPを常にアップデートできるようにするため、余分なアドオンを極力減らし、ERPのコア部分をクリーンな状態に保っておくことをユーザーに奨励する戦略だ。
今回の「SAP TechEd」には、実際にClean Coreを行った日立ハイテクのデジタル推進統括本部 本部長 兼 デジタル営業本部 デジタル営業本部長 酒井卓哉氏が登壇し、SAP ERPを導入してから20年の間に約9000本に膨れ上がったアドオンを、約800本まで削減した事例を紹介した。アドオンをERP本体の外で開発する「Side-by-Side開発」を推進したことが功を奏した。
岩渕氏は「長年蓄積されたアドオンは、簡単に一掃できるものではありません。最初から100%なくしましょうではなく、考え方を理解いただいた上で、システムのアーキテクチャーやデザインをよりそこへ近づけていくというのが現実的な戦略だと言えます」とアドバイスする。
また「統合戦略」とは、SAPのCloud ERP、SuccessFactors、Ariba、Fieldglass、Concur、CXなど複数のクラウドサービスと、既にユーザーが利用しているSAP以外のクラウドサービスを統合する仕組みを提供する戦略のことだ。
それぞれのサービスをつなげるには、データモデル、UX、クラウド運用、認証セキュリティーなどを統合しなければならず、一筋縄ではいかない。これを解決するためにSAPは様々なアップデートを重ねている。今回の「SAP TechEd」では、SAPのすべてのSaaSの入り口となる「SAP Start」のリリース、承認プロセスなどに用いられるワークフローInboxのサードパーティー製品への対応、90項目以上に及ぶマスター項目の抽象化、約3800のプロセステンプレートと約1200のワークフローテンプレートの提供などが、最新のアップデートとして発表された。
織田氏は、「我々が理想とするE2Eでのビジネスプロセスの自動化を実現するには、生成AIの活用だけでなく、すべてのクラウドサービスの統合が不可欠です。SAPはこれからも、理想の実現に向けて、新たな技術やソリューションの開発に取り組んでいきます」と語った。
ERPのユーザーの多くは長年の間に様々な拡張開発を行うため、SAPが提供するコア(標準)部分へ直接修正が行われている。SAPが推進する「Clean Core戦略」は、こうしたコアの修正をなるべくなくし、アップデートがスムーズに行われる環境を整えるのが目的だ。アドオンをERP本体の外で開発する「Side-by-Side開発」などの支援を行っている
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