
日本の農業機械だけじゃない
クボタの秘密に迫る

みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。不肖フェル、この2年ほど、クボタの農業機械や水道管、エンジン事業について潜入取材を敢行するとともに、自動車評論家のハシクレとして、さまざまな農機の試乗にチャレンジしてまいりました。
北海道クボタのご尽力で友人が経営する北海道の農園に最新の自動運転田植え機とコンバインを持ち込んで試乗をし、欧州ではフランスはダンケルクの工場にて、クボタ最大のトラクタである「M7」の最新機種を運転するという、得難いチャンスにも恵まれました。
今回突撃したのは、世界最大のマーケットである、アメリカです。こちらではまず動画でもご紹介する乗用芝刈り機「ゼロターンモア(Z400シリーズ)」に試乗してまいりました。グリーンの芝生に映えるクボタのオレンジカラー。そこに麦わら帽子をかぶった覆面コラムニストというなんともシュールな絵柄となった訳ですが、芝を刈りながら広大な地を疾走する気分は何とも爽快なものでありました。
ここでふと疑問を感じる方もおられましょう。
「わざわざアメリカまで行って、芝刈り機?」「そもそも農業機械メーカーのクボタが、なぜ芝刈り機市場に?」
いえ旦那。日本ではニッチな製品にも思える芝刈り機ですが、実はココにこそ、クボタがライバルひしめく巨大市場に斬り込み、米国で愛されるブランドに成長した秘密が隠されているのですよ。
日本で培ったトラクタ、ディーゼルエンジンの技術を生かし、農業以外に新たな可能性を見いだして、海の向こうでまい進し続けるクボタ。その軌跡、戦略について、まずは米国販売会社クボタトラクターコーポレーション(Kubota Tractor Corporation、以下KTC)代表の吉川正人社長に伺いましょう。いざ、アメリカはテキサス州ダラスの本社へ。

Profile
取締役専務執行役員
クボタトラクターコーポレーション 社長
1981年久保田鉄工(現クボタ)入社。2010年経営企画部長、13年クボタトラクターコーポレーション社長。18年1月取締役専務執行役員に就任(現在)

Profile
執行役員
クボタ・マニュファクチュアリング・オブ・アメリカコーポレーション 社長、クボタ・インダストリアル・イクイップメントコーポレーション 社長
1986年久保田鉄工(現クボタ)入社、2012年モノづくり統括部長、14年筑波工場長、18年1月より執行役員就任、現職

Profile
自動車評論家、コラムニスト。一般企業に勤める傍ら、自動車に関するコラムなどを執筆し人気を博している。講演やテレビ・ラジオなどさまざまなメディアで活躍中。著書に『仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはなぜ売れる?』(日経BP社)など
初の国産トラクタ輸出では大苦戦……。
そこでとった起死回生の策とは?
吉川: フェルさん、はるばるアメリカまでようこそ。
フェル: いやー、さすが日本の国土の約25倍を誇るというアメリカ。車窓から目に飛び込んでくる畑も牧場もサイズ感が違いますね。そして、ニューヨークやロサンゼルスなどとは違って、より“アメリカ”らしいというべきでしょうか。テンガロンハットをかぶったカウボーイがひょいと出てきそうな独特な街の雰囲気も印象的です。こちらにはいつから?
吉川: 昨年、2017年の1月、カリフォルニア州から移転し、4月から本格的に稼働いたしました。
米国で畑作の中心エリアといえば中西部。畑作用の大型トラクタ事業を本格的に進める上で、その本丸に近く、国全域へのアクセスもしやすい。16年に買収したインプルメント(トラクタ装着用作業機器)メーカーほか、米国の他の製造拠点との連携を強化し、北米事業をさらに拡大していくのが移転の狙いです。
フェル: クボタというと、日本では国内向けの農業機械メーカーというイメージが強いですが、海外売上高比率は実に約70%に上ると聞いています。その中でも米国は最大のマーケットに位置付けていらっしゃる?
吉川: そうですね。前期の売上高1兆7515億円のうち、海外売上高は1兆1873億円。そのうち地域別で見ても、北米は全体の約3割を占めています。事業別でも売上高の8割を占める機械事業のうち、近年、売り上げをけん引しているのが海外です。
なかでも北米は好景気もあって、おかげさまで小型トラクタを中心とする農業機械、建設機械、共に前期比増で推移しています。
■売上高・海外売上高比率

※2015年12月期は決算期変更のため9カ月決算
■部門別売上高

■地域別売上高

全売上高に占める海外売上高の割合は約7割。特に北米は好景気も追い風となり、売り上げ伸長中
フェル: なるほど。道中、建設現場もあちらこちらで見かけました。リーマンショックも乗り越え、政治的リスクがささやかれつつも、GDP世界No.1国の底力は健在なり、というところでしょうか。そもそもクボタがアメリカに進出したきっかけは何だったのですか?
吉川: 当社KTC設立は1972年ですが、初めて日本からトラクタの輸出をスタートしたのはその3年前の69年になります。ただし、参入当初は苦戦続きでした。
フェル: トラクタ開発にあたっては、技術者が農家に長期間泊まり込んで、農作業をしながら国産初の製品を生み出したという波乱万丈のストーリーを以前、伺いました。その渾身(こんしん)の策をもってしてもこの地では歯が立たなかった、と。
吉川: 当時、クボタが得意としてきたのは、日本の農業に照準を合わせた稲作用の機械の開発であり、小麦や大麦、トウモロコシといった、欧米の畑作中心の市場で十分機能を発揮できるものではありませんでした。
加えて、米国の大規模農園では60~150馬力帯の大型タイプが求められますが、当時のクボタ製は15~50馬力程度が主力。販売体制も整備されていないまま、参入初年度の輸出台数は200台程度でした。
フェル: 馬力も足りなければ、販売体制も未整備だった。そこからどのようにして巻き返したのでしょう?
吉川: 諦めモードが漂うなか、窮地を救ったのが「コンパクトなサイズ感を生かして、芝刈りやガーデニング用として、トラクタを売り出してはどうか」という現地社員の意見でした。
フェル: 逆転の発想ですね。しかし、日本でも家庭菜園やガーデニングは人気ですが、トラクタを使ったガーデニングとは……。彼らの言う“ウサギ小屋”の住民である我々にはまったく想像がつきません。
吉川: アメリカ市場の特性ですね。米国のトラクタ所有者は農家などのプロユーザーに加え、個人のホビー農家や自宅の庭の手入れ用に購入する個人客などに分かれます。ウィークデーは仕事に集中し、週末は郊外にある自宅の広い庭で花壇や芝生の手入れをしたり、野菜を育てたりするウィークエンドファーマーも数多くいらっしゃいます。
また、現役時代にお金をためてセミリタイアし、のんびり田舎暮らし(カントリーライフ)を楽しむというのが、アメリカ人が憧れるサクセスストーリーの一つでもあります。
フェル: お国柄でしょうか。たとえシリコンバレーのIT事業で巨万の富を築いたとしても、最後はそっちに行くんですね。そこで、クボタは「トラクタといえば農業機械」という従来の概念を打ち破り、個人向けの芝刈りや軽作業ニーズに目をつけた、と。
吉川: はい、まずはトラクタに芝刈り用のインプルメント(トラクタ装着用作業機器)をつけてテスト販売をしたところ、予想以上に好評を得たんです。サイズ感やディーゼルエンジンの性能が支持されたのでしょう。
そこから穴堀用の「バックホー」、土砂などの運搬に使う「ローダー」といった各種ショベル類のインプルメントもラインアップし、簡単な土木作業にも対応できる小型トラクタの市場を確立したことが後の事業拡大につながりました。
フェル: なるほど、クボタのトラクタは農業機械だけにあらず。アメリカではライフスタイル製品として認知されているわけですね。これは知りませんでした。
番外編

■PIVトレーニング



マニュアル「Before Operation Tractor」で、安全に関するポイントをたたき込む。運転には詳しいフェル氏だが、作業機特有のルールと英語のハードルに四苦八苦


ペーパーテストと実技試験を受ける。ペーパーテストはなんと100点! 実技も難なく乗りこなし合格サイン。「自動車評論家としてのメンツはなんとか保つことができました」(フェル氏)
ディーラーとの強固なパートナーシップが新製品開発の源泉に

新入社員時代から、水道管事業でイラクに赴任するなど国際派の吉川社長。インプルメントメーカーのグレートプレーンズ社の買収、カリフォルニアからの本社移転もけん引
フェル: しかし、国土の広さも違えば、家のサイズ感、生活習慣も違う。日本人とはまったく異なるこの地の人々のニーズを正確につかみ、期待値に合った商品を送り出すことは決して生易しいものではないとお察しします。
吉川: そこで、もう一つ、米国ビジネスにおける成功のポイントが、ディーラーとの強固なパートナーシップです。現在、アメリカ全土、9地域の合計約1100件のディーラーと契約を結び、その大半がクボタの製品のみを扱う専業ディーラーとなっています。
フェル: ライバル社もひしめく米国市場にあって、多くのディーラーがクボタブランドを選ぶ決め手は何でしょうか。
吉川: まずは製品の信頼性への評価です。自社のディーゼルエンジンを搭載したトラクタは、他社製品と比べて「壊れにくい」「タフな作業でもへこたれない」という評価につながっています。
また、北米進出時から、4つの地域から選出されたディーラーからなる全国ディーラー諮問委員会を設け、重要なコミュニケーションチャネルに位置付けています。直接連絡を取り合い、「ディーラーの声をしっかり聞く」という姿勢を貫いている点もポジティブに受け止められています。
フェル: “クボタファミリー”。その結束は固い、と。
吉川: また、毎年10月にナショナルディーラーミーティングを開催していますが、全米から約3000人のディーラーが「クボタのことをもっと知りたい。エンジニアに伝えたいことがある」と参加されます。
こうした定期のミーティング以外に、サーベイと当社では呼んでいますが、エンジニアが頻繁に製品を使っている現場に訪ね、ディーラーの意見を製品開発に反映している姿勢も信頼感につながっているようですね。
フェル: ある業界紙に「アメリカには2種類のディーラーしかいない。クボタのディーラーとクボタディーラーになりたいと思っているディーラーだ」といった意見が掲載されたこともあるとか?
吉川: やや大げさな言い回しかもしれませんが……(笑)。実はヒット商品に挙げられるガーデニング用の小型トラクタ「BX」、乗用芝刈り機の「ゼロターンモア」、トラクタの技術を生かし、運搬用の多目的車両として開発したユーティリティビークル(UV)もディ―ラーの意見が元になって生まれたものなんです。
フェル: さすが現場の声は的確ですね。
UVといえば、女優さんがパークレンジャーにふんしてUVを乗り回す御社のCM、実にカッコ良かったです。私も以前、クボタの新春発表会で拝見して以来、何とか入手して近所の買い物クルマに使いたいと思っているのですが、現行法では日本の公道で走ることが難しいようでして……。国内販売を期待しています(笑)。
吉川: お褒めの言葉ありがとうございます(笑)。UVは牧場内の見回りや荷物運搬のほか、北米の広い邸宅では新聞や牛乳などの回収、業務用として公園やモールの清掃、山林などでの災害対応などの分野でも活躍しています。
作業用UVだけでなくレジャーでの使用を想定した車速を向上させたガソリン機市場にも今年、進出しました。
フェル: おお、今回、試乗させていただける「SIDEKICK(サイドキック)」ですね。実に楽しみです。近年、伸びているという建設機械はいかがですか。
吉川: 掘削機のミニバックホー、積み込みや運搬用のホイールローダーに加え、コンパクトトラックローダー(CTL)、小旋回が可能なスキッドステアローダー(SSL)も米国に特化した製品として、需要が大きく伸びています。
フェル: なんと、クボタがここまでに多角化戦略を推し進め、米国でプレゼンスを高めているとは! 不勉強、まことに恐縮の限りです。

軽作業用の小型トラクタ「BXシリーズ」、レバー操作で簡単に運転できる乗用芝刈り機「ゼロターンモア」、運搬用ほか広大な庭の移動など“チョイ乗り”用としてもアメリカで定着しているユーティリティビークル(UV)、建設機械のコンパクトトラックローダー(CTL)、小旋回が可能なスキッドステアローダー(SSL)などなど、アメリカのニーズに特化した製品群が多い
■ディーラー&ユーザーと
<ディーラー>
今回はテキサスの有力ディーラー「Ellis Equipment Company」も訪問。テキサス・ダラス周辺には広大な庭、農地を持つユーザーが多いとか



テキサスで出荷台数で常に上位をキープする有力ディーラー「Ellis Equipment Company」にて。ひっきりなしに訪れるクボタユーザーをフェル氏もお出迎え


作業員の方々も突如現れた覆面フェル氏に驚きつつも、笑顔で作業現場を案内してくれた
<ユーザー>

約40エーカーの広い自宅・農場の敷地内には息子さん家族も居を構える。「絵に描いたような美しいカントリーライフ。実に憧れますな」(フェル氏)


クボタ製品を愛するユーザー代表・Frank Schefflerさん。愛するクボタ製品は大事にガレージに収納し、手入れを欠かさない
ローン販売のシステム化も
消費者の支持を集める
吉川: もう一つ、北米の消費者の支持を集めてきた背景には、ローン販売のシステム化も挙げられます。
82年に製品購入時にファイナンスを提供する「クボタ・クレジット・コーポレーション」を設立し、与信の審査も自前でやっています。
フェル: ほう、ローンも自前で。自動車ローンについては貸し倒れリスクが顕在化し、第二のリーマンショックを引き起こすようなリスクも指摘されていますが……。
吉川: 米国景気にやや過熱感があるのは確かですが、トラクタのユーザーはそもそも土地をお持ちの富裕層が多い。リスクは回収遅延率から見ても低いといえます。近年の低金利政策もあって、多くの方にご利用いただいています。
フェル: となれば、好調な北米ビジネスを支えるクボタ製品のモノ作りの現場にもぜひお伺いしたいところです。
吉川: KTCにも日本の技術部から派遣されてきたエンジニアチームが製品開発に携わっていますが、ジョージア州アトランタにある工場や技術部門でも多くの日本からのエンジニアたちがアメリカのスタッフたちと切磋琢磨(せっさたくま)しつつ、モノ作りや製品開発に励んでいます。ぜひご覧になってください。
フェル: アメリカに息づくクボタのモノ作りの現場、しかと取材してまいります。


広い邸宅の前に広がる、これまた超弩級(どきゅう)に広大な緑の芝生。そこに居並ぶクボタのオレンジカラーの製品。テキサス・ダラス郊外を車で走っておりますと、窓からそんな光景をちょくちょく目にします。
実は、取材しょっぱな、ダラスの空港でも印象的な出来事がありました。入国審査の際に「Where are you going?」と聞かれ、「日本のメディアの仕事で、クボタに取材に行く」と告げたところ、「Oh! クボタか。オレもクボタのトラクタを持っているぞ。クボタのファンなんだ!」と満面の笑み。これ、完全な実話です。
なんでも、北米において「KUBOTA」といえば、高級乗用車と同様に一流ブランドとして広く知られており、クボタ製のトラクタは憧れの耐久消費財の一つなのだとか。
郊外に行くほどにセダン車よりもピックアップトラックが目立ってくるお土地柄。日本の農業地帯で軽トラが日常的に活躍しているように、一家に一台トラクタ。クボタのトラクタはもはや生活必需品なのです。
さて、そんなカントリーライフの実態を探るべく、クボタユーザーの元にも潜入取材をしてまいりました。お伺いしたのはKTC本社から約1時間の距離に自宅・農場を構えるFrank Schefflerさん。
その敷地面積は約40エーカー。東京ドームに換算して3個分超というもはやワケが分からない広さです。

広大な池。コレ、敷地内にあるんです。「お孫さんと魚釣りも楽しめるとは。カントリーライフ、イイっすね~!」
出迎えてくれたSchefflerさん。覆面レスラーの登場に、やや戸惑いながらもお話を聞かせてくれました。「もともと、フォートワースのダウンタウンで働いていたんだけどね、プライバシーが確保された静かな生活を送りたいという思いから、この地を購入したんだ」、と。そりゃこれだけ広ければプライバシーも守られましょう。
現在は森林ビジネスの仕事をする傍ら、奥様と芝刈りをされたり、庭の手入れをしたり。同じ敷地にはご子息も居を構えられ、お孫さんとご一緒に敷地内の池で魚釣りを楽しむなど絵に描いたようなカントリーライフを楽しんでいます。
クボタユーザー歴は25年、現在保有するクボタの製品はなんと7種。彼のテキサスの暑さに負けないほどの熱いクボタ愛についてはコチラで詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
吉川社長によると、こうしたセミリタイア組のほか、ウィークデーはオフィスワーカー、週末に庭仕事を楽しむウィークエンドファーマーも数多いのだとか。
そんなアメリカのお父さんに聞くと、「芝刈りが最高のストレス解消法」という声も。なんでも独りの時間を持てて、無心に作業に没頭できるのがいい。そして、家族たちも、その時間だけは庭仕事ということに免じて許してくれる……。
なんだか身につまされる話です。「週末、家で居場所がない」「定年後、ぬれ落ち葉扱いされるのが怖い」という日本のお父さん、自宅を売却し、退職金をブチ込んでアメリカで芝刈りライフ、いかがでしょう。

トラクタ、芝刈り機のゼロターンモア、コンパクトトラックローダーなど、所有するクボタ製品は7種。4人乗りのUVはお孫さんを乗せて敷地内を移動する際に活躍
アメリカの「5ゲン道場」に、フェル氏突撃。「たのも~!」
次に向かうはアメリカにおける事業拡大を支えるモノ作りの現場です。
ダラスから飛行機で約2時間。ジョージア州アトランタに位置する「クボタ・マニュファクチュアリング・オブ・アメリカ(Kubota Manufacturing of America Corporation、以下KMA)」「クボタ・インダストリアル・イクイップメント(Kubota Industrial Equipment Corporation、以下KIE)」へ。KMA・KIEの新井洋彦社長が迎えてくれました。

ミニチュアのRTVや芝刈り機の前で新井社長と握手
フェル: アトランタで現地生産をスタートしてから、どれぐらい経ちますか?
新井: KMAが設立されたのが88年です。当初は0.2万坪ぐらいの小さな規模からスタートし、事業拡大に合わせて規模を広げ、96年に第二、2009年に第三工場、昨年17年にはUV専用の第四工場を稼働いたしました。こちらでは小型トラクタ、乗用芝刈り機、そしてUVを生産しています。
04年に設立したKIEは、インプルメント(トラクタ装着用作業機器)と中型トラクタ、建設機械の生産拠点になります。
フェル: 事業拡大に合わせ、現地生産を積極的に推進されている、と。どんな人たちが駐在されているのですか?
新井: 日本からは芝刈り機やUVの開発を担当するメンバーが駐在しています。20~40代ですが、30代が中心でしょうか。

米国で大ヒットした運搬・軽作業用UV(ユーティリティビークル。多目的四輪車)の「RTV」シリーズの前にて。「UV、カッコいいですよねー。日本の公道で走れれば、すぐに購入するんですが」とフェル氏
フェル: 若いエンジニアを積極的に海外に送り出すクボタならではですね。ぜひお会いしてお話を伺いたいものです。こちらで製造されているものは、ほぼ北米向け?
新井: KMA、KIEの両工場通じて、8~9割が北米向けとなります。エンジンは日本で製造していますが、ほぼ地産地消でアメリカのお客様に使っていただくものに特化しているのが北米工場の特徴です。
フェル: 出荷台数は伸びているのでしょうか?
新井: 08~09年がリーマンショックで一時落ち込んだものの、トレンドとしてはKMA、KIE共に右肩上がりで増えています。
フェル: 素晴らしい。先に吉川社長にお話を伺いましたが、UVや建機などの新商品投入が出荷台数増につながっているということでしょうか?
新井: そうですね。ただし、今の好業績を維持していく上で大事なポイントとなるのが出荷台数増に加えた生産効率の向上です。米国に特化した製品を製造しているという点でも、お客様が必要なものを、必要な時に、必要なだけスピード感を持って提供するというムダを徹底して排除した生産スタイルの構築に注力しています。
フェル: まさにメーカーの要となる「ジャスト・イン・タイム」を実践していらっしゃる。
新井: 当社ではKPS(クボタ生産方式)と呼んでいますが、リードタイムをいかに短縮し、在庫を減らして、生産性を向上していくかがミッションとなります。
フェル: 特に御社のように多品種の商品を手掛ける現場では、効率的な生産体制の構築が肝要となりますね。
新井: KPSの展開では、その中核となる部門を生産管理から出荷まで含めて統括する部門へと改変しました。一層のスピードアップを図るのが狙いです。
その試金石として海外で初めてKPSを導入したのが、KMAの第四工場です。
実は私自身、昨年、アメリカに赴任する前は工場長、その前は製造・生産技術・資材調達の業務に従事しておりまして、一貫して製造・生産システムの構築に関わってきました。KPSとその土台となる“5ゲン主義”、“お客様第一主義”というクボタパーソンが共有する価値観をアメリカのスタッフたちとも共有していくべく、日々、全員で力を合わせて改善活動を進めています。
フェル: おお、5ゲン主義といえば、以前、木股昌俊社長(クボタ代表取締役社長)にも、とくとお話を伺いました。その5つのゲン、「現場へ行き、現物を通じて、現実の姿(現在の実力)を把握し、原理・原則(あるべき姿)という“モノサシ”と比較して、改善していく」をアメリカでも愚直に実施されている、と。
新井: はい、5ゲンはクボタエンジニアのDNAのようなものですから。今、ちょうど“5ゲン道場”が開かれています。ご覧になりますか?
フェル: ぜひ。“5ゲン道場”とはなんともモノモノしい名前。さぞスパルタ式で運営されているのでは……「たのも~!」。

これは意外。道場といっても実に和やかな雰囲気で、先生も生徒もアメリカ人で英語で講義されているんですね。竹刀で叩かれたりはないんだ(笑)。
新井: “5ゲン道場”は、94年に大阪の堺製造所での活動からスタートし、海外拠点ではKMAが初の道場となります。日本の道場で修業し、免状を受けたアメリカ人を師範代(指導者)として、卒業生も年々増えています。
こうして、北米5ゲン道場を卒業したメンバーと師範代が一緒になって、5ゲンの考えを生産現場に取り入れていくのが狙いです。実際、現場では月3つのモデル工程を設定し、人員配置やフローなどの改善も実施しています。では、工場をご案内しましょう。
米国におけるクボタ生産方式を支えるPrinciples(原則)

KMAの第四工場は、海外で初めてKPS(クボタ生産方式)を導入した現場。「レイアウトもスッキリ。さまざまな改善活動が進められています」
フェル: なるほど。確かにレイアウトも効率的で、働いていらっしゃる人員数も予想していたより少ない印象です。在庫が積み上がっているようなこともなく、スッキリされています。こちらの一角は何をするところでしょうか?
新井: 通称、KPI(Key Performance Indicator)ルームです。毎朝、前日の生産・デリバリ体制について、定めたKPIに基づき評価をし、課題を関係メンバーで共有し、その日の改善に生かすのが目的です。

工場の中で、手書きの文字がいろいろと書き込まれているボードが壁一面に
フェル: 反省、改善もスピード感が大事ですね。その他、音楽で経過時間を知らせたりと、言語のハードルを越えたさまざまな仕組み化が実践されていますね。
新井: 成果についてはまだまだこれからですが。KPSについてはまずは考え方の基本を定着させる観点から、KMA・KIEで共有するPrinciples(原則)を英語で設定しています。
こちらをご覧ください。
KPS Principles
| 1 | The prosperity of our business depends upon the development of our team members. 我々、従業員の成長が会社の繁栄を支える |
| 2 | Efforts in all processes are necessary to make production and shipping smooth. 生産から出荷までをスムーズに成し遂げようとしたら全ての過程で必要な努力がある |
| 3 | There is no improvement without reduction in lead time. 全ての改善がリードタイムの短縮につながるものでなければならない |
| 4 | Production flow should be stable without bottlenecks or defects in the assembly line. 組み立て工程では清々と製品を流さなければならない |
※日本語訳は編集者の解釈によるものです。
一番目に掲げている「The prosperity of our business depends upon the development of our team members.」から「There is no improvement without reduction in lead time.」といった基本原則を、まずは染み渡るように、全員の胸に刻み込んでいくことが大事だと考えています。
そのために、社内の主要メンバーには、Principlesを記したカードを作り、「クレド」のようにIDと共に常に持ち歩いてもらうようにしています。
正確さを期すために、英語の表現についても副社長であり、“5ゲン道場”の責任者も務めるアメリカ人スタッフに添削してもらいながら、相当練りに練りましたね。
フェル: もともと、英語は堪能でいらしたんでしょうか?
新井: いえいえ、恥ずかしながら、55歳になって初めての海外赴任でして、“50の手習い”よろしく、ノートに一言一句手書きで英語を学び直しました。
フェル: 実は私、社長と同じ年齢なんですが、今なおも新たなことを学ぼうとされる姿勢が素晴らしいです。見習わなきゃなー、とは思うのですが、実際にできるかどうか……。
新井: いやいや、アメリカ人のスタッフには随分助けられています。
常々、スタッフによく話しているんですが、私はKPSや5ゲンというのは、タペストリーの縦糸のようなものだと思っているんです。
フェル: タペストリー?
新井: タペストリーとは壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種ですが、表面に出ている横糸によってカラフルな模様や絵柄を創り出す織物で、縦糸は完全に横糸に隠れて見えなくなるのが特徴です。
フェル: つまり縦糸は、表面の鮮やかな絵柄を支える“縁の下の力持ち”のような存在である、と。
新井: はい、けれど縦糸なくしてタペストリーは成り立たない。それと同じで、新商品が続々と並ぶクボタ製品のカタログや製品ポスターがタペストリーだとすると、裏で支える縦糸の5ゲン、KPSがあってこそビジネスが成立する。
お客様からは見えない縦糸の強化とその取り組みこそが大事だと常々話しています。

「5ゲン道場」で生産方式について学ぶアメリカ人スタッフたち。講義はすべて英語で行われる
フェル: なるほど、地道な生産現場のカイゼンなくしてクボタ製品なし、と。
新井: はい、そのためには、社内だけでなく部品やパーツを提供していただくサプライヤーの皆様とも一体となってKPSを展開していくことも大事なポイントです。
フェル: 好景気を背景に、部材・資材の不足、高騰への対応。これは全てのメーカーに共通する課題ですね。
新井: その観点から、ぜひエンジニアには目に見える結果だけでなく、“プロセス”を大事にしてほしい。生産・製造プロセス全体を見渡し、サプライヤーの皆様へもKPSのスキル、フィロソフィーを伝えていけるような若いエンジニア、社員を育てていくことも私の大事なミッションだと考えています。
レジデンシャル(家庭向け)から コマーシャル(商用向け)市場に向けた戦略とは
新井社長の熱き思い、現場での取り組みに触れたところで、再び吉川社長の話に戻ろう。

「本格的畑作市場でもプレゼンスを高めていくための戦略も構想中です」と力強く語る吉川社長
フェル: 今後、クボタはアメリカでどう事業を展開していくのか。将来の展望についてお聞かせ下さい。
吉川: 戦略の主軸となるのが事業領域・顧客層の拡大です。
その柱の1つ、トラクタについては、15年、既に170馬力までの畑作用大型トラクタ「M7」を投入し、M&Aによってグループの仲間入りしたクバンランドやグレートプレーンズといったインプルメントメーカーとも協業しながら、家畜用の干し草(ヘイ)を作ることを主体とした中規模農家までの市場に照準を拡大しています。
より高馬力帯の本格的な畑作農業への進出も視野に入れ、地盤固めをしてまいります。
フェル: お! いよいよ地元メーカーとガチで勝負するシーンも出てくる、と。
吉川: もちろん既存の市場で真っ向から勝負をするのではなく、ひとひねりが必要です。例えば、最近「クボタランチ」という試乗用のコースを作ったのですが、クボタマシンの乗り心地を体感していただくような場やチャンスを増やすなど、少しずつクボタファンを増やしていく戦略を進めていきたいと考えています。
2つ目の柱が芝刈り機、UVなどの汎用機械事業です。芝刈り機については、ホームオーナーからプロの方に向けて「ゼロターンモア」の上級機種の販売を控えており、UVについても初のガソリンエンジンの車速を向上させた機種を今年投入しました。より高速なガソリン機市場は、規模が大きく成長性も高い有望市場です。この分野は後発ですが、これまでに築いてきたブランド力やディーラー網も最大限に活用し、市場への浸透を図ってまいります。
フェル: 自動運転などICT技術の導入については、どうお考えですか。
吉川: 農業分野の人手不足への対応は、世界共通の課題となっています。その観点からも、我々が培ってきたハードのモノ作りのベースに、いかにソフトウェアを連携し、次の成長につなげるかも大事な課題と捉えています。
また、500~600馬力のトラクタを擁するライバル社とも競合していく上でも、自動制御やロボット化などの分野を進め、差別化を図っていく必要があると考えています。
ただし、米国の一般のコンシューマーのお客様にかわいがられ、育てていただいたブランドとして、Do it yourselfの文化、価値観は大事にしつつ、この地におけるQuality of Lifeを支援していくという使命は決して忘れてはならない。ココこそが私たちの米国における原点のようなものですから。
フェル: 人に優しいIT化をぜひ。芝刈りを愛するお父さん世代の一人としてお願いします(笑)。
今回、GMB(グローバルメジャーブランド)確立に向けて、このアメリカで着々と手を打たれるお話を伺い、日本人の一人としても非常にうれしく、また頼もしい気持ちにさせられました。
自動車評論家として“乗り物”に関わる身として、農業機械にとどまることのないクボタ製品の良さが世界に広く浸透していくことを、クボタウォッチャーとして今後も陰ながら応援してまいる所存であります。

入社以来、大型トラクタの開発に携わってきた小林孝ディレクター。エンジニアリング部門の統括を担当。「アメリカのライバル社とガチ勝負の勝算は?」とフェル氏の挑発にも、「まずはクボタファンを地道に増やしていくことからです」と冷静に回答。

日本の建設機械技術部から派遣されている倉地宏晃さん。スキッドステアローダー(SSL)の開発に携わり、実際の市場の米国へ。米国で販売している建設機械のテクニカルコーディネーターとして従事。「建機も農業機械も生活の基盤を支える製品の開発に携われるのが魅力ですね」(倉地さん)
フェルディナント・ヤマグチの 編集後記


毎度、クボタの取材をするたびに痛感させられるのが、クボタパーソンの人間的魅力です。人を大事にしている会社だからでしょうか。セールスの統括を担当するアメリカ人スタッフに「他社にはないクボタの魅力は?」と尋ねたところ、「People」と即答して頂きました。そんな優等生的模範解答を真顔でおっしゃるとは。クボタってホントに真面目な会社です。
今回の取材で印象的だったのはKTC吉川社長の経歴です。入社してすぐに配属されたのがイラクの水道管事業。イラクですよイラク。サダム・フセインが大統領だった国です。そこで戦争のドンパチをも目の当たりにしたと思えば、30代には米国でIBMとのシステム契約を担当。2013年から再び米国の地を踏み、全米を渡り歩いていらしたとか。さまざまなご苦労があったかとお察ししますが、語り口は軽妙にして洒脱。まさに国際派・クボタパーソンのお手本のような方です。
コチラにご登場いただく、KTC駐在の汎用事業部・多田室長には、サーベイに同行し、道中、さまざまなお話を伺いました。なんでも、開発をやりたくて入社したのに、最初に配属されたのは、まったく違う部署だったとか。失意のもと、「正直、クサッてた時期もありました」と明かしますが、その後、日本の汎用技術部を経て、渡米。KMAで芝刈り機の開発に携わり、今に至ります。
道中、車の中からも「フェルさん、あの芝生見てください、あそこの刈り方は……」などと熱心に、しかも楽しそうに解説してくださる。お願いすれば芝刈りについて、一晩中でも話してくれそうな……(笑)、根っからのエンジニアの姿がそこにありました。
そして、特に同じ年齢ということもあって、感銘を受けたのがKMA・KIEの新井社長です。インタビューで「50の手習いで英語を勉強しなおしました」とおっしゃっていましたが、ここで見せてくださったのが、欠かさずつけているという業務ノート。KPSのPrinciplesの制定に際しても、まずは自分で英語の文章をノートにつづり、アメリカ人スタッフに添削してもらう。その繰り返しを重ねて、今のPrinciplesが完成したといいます。

今なお新しい分野に果敢にチャレンジしていらっしゃるお姿に思わず感涙。
共通するのは、「やればできる」ということを純粋に信じ、愚直にその思いを貫いていらっしゃることでしょうか。ことさら“熱くなる”ことを、揶揄(やゆ)するような向きもあるなか、クボタパーソンは静かに、そして熱い。
“無事これ名馬”がヨシとされる我が国の社会構造に於いて、同社のCM「壁がある。だから、行く。」とばかりに、クボタパーソンは今日も世界のどこかで何かに挑んでいらっしゃるのです。そのお姿をリポートするべく、不肖フェルも老体にむち打ってクボタウォッチャーとして攻めの姿勢でまいりたいと存じます。















