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成長投資とデジタルで実現する、
令和
日本列島改造論

生成AIの登場は社会に大きなインパクトをもたらした。また、ノーコード・ローコードツールの台頭で誰もが容易にアプリケーションを開発できる時代が到来しつつある。そうした中、日本が真のデジタル変革を実現し、社会の仕組みや人々の暮らしの質を高めるためにはどのようなことが求められるのか。本フォーラムでは、DXをけん引する産官学のキーパーソンが集い、デジタル立国への道筋や、社会全体の変革を進めるための具体案などを提言した。ここでは当日の講演内容を概括する。
開催日
2025/6/9
主 催
日本経済新聞社、日経BP
協 賛
ピュア・ストレージ・ジャパン、EY Japan、レノボ・ジャパン、NTTデータ イントラマート

基調講演
「地方創生戦国時代」、自らを律し、
政策を迅速に展開することが重要

徳島県知事 後藤田 正純氏
徳島県知事
後藤田 正純
 「四半世紀後には人口、つまり市場と労働力が3割減少します。この有事に危機感を持ち、行政は常に改革に挑まなければなりません。現状維持は衰退であり、前例踏襲は怠慢なのです」と徳島県知事 後藤田 正純氏は強調する。

 徳島県は多様な取り組みを進めている。軸となるのは2024年に策定した「徳島新未来創生総合計画」だ。「『未来に引き継げる徳島』の実現」をビジョンに掲げ、「安心度」「魅力度」「透明度」を高めていく施策を展開している。

 人口減少時代に地方が生き残るためには、「1人当たりの生産性を高める」ことが不可欠だ。同時に、いかにして高付加価値人材を育てるかが重要なカギとなる。

 徳島県では昨年、最低賃金が全国でも過去最大となる84円の引き上げ額となった。しかし、中小企業にとって賃上げは負担になる。生産性の高い企業にならなければ、人材を確保できずに倒産する可能性すらあるだろう。そこで県は、中小企業に対する支援制度や補助金の相談窓口を新たに設置した。

 「確かに刺激的な施策だったと思いますが、それが奏功して、国の補助金申請は3倍に増加。中小企業の生産性向上への意識が大きく高まったと感じます」と後藤田氏は語る。

 加えて、観光戦略や人材交流のためには海外と積極的に連携することも欠かせない。AI時代に対応できる人材の育成、大規模災害に備えた防災対策、透明性のある県政運営の推進など、ほかにも取り組むべきことは多岐にわたる。「地方創生戦国時代に『全国・世界から選ばれる県』になるためには、自らを律し、迅速に政策を実行することが重要です」と後藤田氏は語り、講演を締めくくった。

パネルディスカッション1
AI時代に求められるのは
具体と抽象を横断するデジタル人材

モデレータ:日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原 富夫

官官・官民の枠を超えて
キャリアを形成する仕組みが必要

東京都 副知事 宮坂 学氏
東京都 副知事
宮坂 学
 2022年11月に登場したChatGPTは世の中に大きなインパクトを与えた。今や多くの企業・組織で生成AIの業務使用が当たり前になりつつある。パネルディスカッション1では、これからの時代に求められるデジタル人材像について、議論が展開された。

 まず東京都副知事の宮坂 学氏は「オールジャパンでの行政デジタル人材育成に向けた提言」と題して、3つのことを提唱した。

 1つ目は「公務員のデジタル研修や『デジタルスキルマップ』の共同化」だ。公務員のデジタル研修やジョブタイプごとに備えるべきスキル項目を、自治体の壁を越えて共有・標準化すべきと提案した。2つ目は、「GQ(行政力)とDQ(デジタル力)を兼ね備えた行政デジタル人材の育成」。民間出身の人材が行政のことを学ぶ、あるいはプロパーの公務員がデジタルのことを学ぶ、双方向のリスキリングを促進することが肝心だと訴えた。

 そして3つ目が「行政デジタル人材のキャリアラダーの明確化」である。「リスキリングした行政デジタル人材が、官官・官民の枠を超えてキャリア形成できる仕組みを構築する必要があります。例えば都庁とIT企業、中央官庁、区市町村を行ったり来たりしながら、行政もデジタル技術も分かる人材を育てたい。オールジャパンで配属戦略を策定していければ理想だと思います」(宮坂氏)。

経済産業省 商務情報政策局 情報政策統括調整官 西村 秀隆氏
経済産業省 商務情報政策局
情報政策統括調整官
西村 秀隆
 次に、経済産業省の西村 秀隆氏が、同省が進めているデジタル人材育成政策の改革を紹介した。ローコード・ノーコードツールや生成AIが登場し、「DX本格普及時代」が到来しようとしている中、経済産業省は次の5つの軸でデジタル人材育成政策の抜本的な強化に着手している。

①これからの社会が求めるデジタル人材像の提示
企業・組織の道標になるデジタル人材像と、求められるスキルなどをまとめた「デジタルスキル標準」を2022年12月公開し、生成AIの登場をはじめとする技術進歩などに応じて、随時改訂している(直近では2024年7月に改訂)。

②デジタルの「学びの場」の一元的な提供
民間事業者が提供する学習コンテンツを一元的に掲載するポータルサイト「マナビDX(デラックス)」を提供。現在までに770以上のコンテンツを公開している。

③スキル認定(国家試験)制度の抜本的な改革
約30年前に作られた情報処理技術者試験の体系を、時代に即したものに変革する。

④デジタルスキルを見える化する人材情報プラットフォームの構築
社会を構成する個々人のデジタル関連スキルや保有資格を可視化し、蓄積する統合プラットフォームを構築する。

⑤本政策の推進体制強化
2025年4月、「情報処理の促進に関する法律」を改正。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の役割に、新たに人材育成業務を追加。多彩な施策を推進する。

これからはベンダーの専門家と
現場のユーザーが共創する時代

デジタル庁 統括官 村上 敬亮氏
デジタル庁 統括官
村上 敬亮
 両氏のプレゼンテーションを受けて、デジタル庁の村上 敬亮氏は次のように語る。「これからの時代に求められるのは“具体と抽象を横断できる人材”だと思います。昔の日本企業の人材は、組織のルールづくりや管理などの抽象に特化した人と、ルールに従って具体的な作業を遂行する人とに二極化が進んでいました。しかし、数年後のことが誰にも分からない現在は、それぞれがばらばらでは成り立ちません。状況が変わるたびに組織横断的にチームを組んだり、コミュニケーションを図ったりして柔軟に対応していく必要があるからです」。

 これからは、抽象に強い人と具体に強い人が密に連携する文化が必要だという。その連携を担うものこそ、デジタル技術である。これは先に宮坂氏が提言したGQ・DQを兼ね備えた人材育成とも共鳴する考え方といえるだろう。

慶應義塾大学 特別特区特任教授 村井 純氏
慶應義塾大学
特別特区特任教授
村井 純
 「実際、デジタル人材の本質は、役所のようなサイロ型の組織を横につなぐことにあると思います。組織全体を見通し、課題や解決策を見出す能力を備えた人材を育てていくことが重要です」と慶應義塾大学教授の村井 純氏は言う。

 また、デジタル技術は長く専門家のものだったが、ここへきて状況は一変。生成AIやローコード・ノーコードの登場で、ITリテラシーがそれほどない業務部門担当者でも容易に扱える時代が到来した。「これからは、ベンダーの専門家と業務現場の担当者が同じ方向を向き、共創する方向性に変わっていくと思います。組織内の人材には、そのための知見やノウハウが求められるでしょう」と西村氏は語る。

 人材育成はDXの根底を支える取り組みといえる。産官学の区別なく、まさに“オールジャパン”で取り組むことが、これまで以上に重要になっている。

パネルディスカッション2
AIとデータをどう扱うか
価値を引き出すための方法論とは

事例を共有し、拡大していく際には
横展開を効率化する視点が必要

<モデレータ> 慶應義塾大学 特別特区特任教授 村井 純氏
<モデレータ>
慶應義塾大学
特別特区特任教授
村井 純
 パネルディスカッション2のテーマは、「AIとデータ活用」。まず現在までの成功事例とその横展開の方法が紹介され、その後、データ活用の体制やガバナンス、セキュリティーのあるべき姿などについて議論が行われた。

 近年、政府は「デジタル田園都市国家構想」や「地方創生2.0」などの政策を打ち出し、デジタルによる地方創生の旗振り役を務めてきた。その中核となる取り組みの1つがデータ活用だ。総務省は、都道府県と市町村の連携に基づくDX推進体制の構築を提唱しているが、2024年度末時点で全体の7割の自治体がそのための体制を実現。環境整備は順調に進んでいるようだ。

 「デジタルの強みは複製や横展開が容易な点にあります。いかにして優良事例を共有して、DXを広めていくかが重要で、そのためには国、都道府県、市町村の役割分担も見直す必要があると考えています」と総務省の志賀 真幸氏は語る。例えば「全国共通のルーチンは国が仕様を決める」「都道府県ごとに市町村が集まってデジタル化のあり方を議論する」といったアイデアが挙がっているという。

総務省 自治行政局地域力創造グループ 地域情報化企画室 室長 志賀 真幸氏
総務省
自治行政局地域力創造グループ
地域情報化企画室 室長
志賀 真幸
 一方、事例の横展開に当たっては考えるべき問題もある。例えば、DX補助金を活用して先行事例となった自治体が、横展開の作業にリソースを取られて変革の勢いが失われてしまうといったことがその例だ。

 「そのような事態を回避するには、横展開の効率を高める視点が必要です。例えば、事例集をPDFでつくるケースが多くありますが、そうではなくデータベース化する。これにより横展開を効率化できると思います」とリンクデータの下山 紗代子氏は話す。

 また、「よい事例は表彰する」ことも横展開をスムーズにする方法の1つだ。「国がリーダーシップを発揮して優良事例を表彰したり可視化したりしながら、集約して提示することが有効だと思います」とITコーディネータ協会の野村 真実氏は言う。

データのガバナンスを考えつつ
活用やマネジメントも進める

一般社団法人リンクデータ 代表理事 デジタル庁 オープンデータ伝道師 和歌山県・市町村DX専門プロデューサー 下山 紗代子氏
一般社団法人リンクデータ 代表理事
デジタル庁 オープンデータ伝道師
和歌山県・市町村DX専門プロデューサー
下山 紗代子
 また、AIによるデータ活用を進める上では、データの整備やインフラの管理、セキュリティー対策などにも気を配る必要がある。いわゆるデータガバナンスの観点だ。

 「データガバナンスとデータ活用は相反する取り組みです。『データ資産を守る』ことを主眼に置くデータガバナンスの管轄部門と、データ活用やデータマネジメントの管轄部門はそれぞれ分けるなど、体制を整理することが重要になるでしょう」と下山氏は述べる。

 さらに、企業・組織が適切なデータガバナンスを進める上での拠り所となるのが各種ガイドラインだ。これについては、ITコーディネータ協会で鋭意作成中だという。同協会の野村氏は次のように紹介する。

 「中小企業に向けたAI活用のガイドブックを今年9月に公開予定です。そこでは、データをしっかり蓄積してAIに学習させることを重要視しています。AIの価値はデータが蓄積されるほど高まります。セキュリティーやガバナンスは確保しつつも、企業ごとの強みに関わるデータを学習させることで、AIを強化していくサイクルマネジメントをぜひ推進していただきたいと思います」

特定非営利活動法人ITコーディネータ協会 会長 野村 真実氏
特定非営利活動法人ITコーディネータ協会
会長
野村 真実
 AI/生成AIにできることは、これからも増えていくだろう。大きな可能性を秘めたAIを使いこなす上で、日本がフォーカスすべきポイントはどこなのだろうか。

 「私は『助け合い』を実現するツールとして、AIやデジタルを活用できるとよいと考えています。例えば、都市部の人と地方の人をマッチングして、お手伝いを必要としている人のところに行くというように、社会全体で支え合う基盤をつくる。そんなデジタルとの付き合い方を目指していきたいですね」(志賀氏)

 また、野村氏は次のように続けた。「日本人は『美しさ』という独自の判断基準を持っています。この判断基準が、AI活用を最適化するためのカギを握るのではないでしょうか。美しさを基準とした倫理観でAIと付き合う。その議論を日本がリードしながら、グローバルにメッセージを発信していければ素晴らしいですね」。

 デジタル立国・日本の未来を考える上で、データとAIをどう取り扱うかは重要なポイントとなる。引き続き様々な視点で議論が行われていくことだろう。