コンサルティング大手のアクセンチュアは、レガシーシステムのモダナイゼーション事業を15年にわたり手掛けてきた。現在では国内最大規模の専任メンバーを揃え、顧客企業に対するコンサルティング提案の実績はほぼ全勝。強さの源は何か。1つはCOBOLからJavaへの変換率が約100%と高く、国内での利用実績が多いコード自動変換ツール「MAJALIS」の無償適用だ。それにより大手競合ベンダーの「1/3」という、圧倒的な価格競争力を実現している。同社が“ギリギリの戦い”を挑む背景には、レガシーシステムのブラックボックス化に陥った企業の自立を促す狙いもある。
アクセンチュア
テクノロジー コンサルティング本部
レガシーモダナイゼーション・オプティマイゼーション日本統括
マネジング・ディレクター
西尾 友善 氏
経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、レガシーシステムを抱える企業が人材不足などにより改修、刷新やデジタルトランスフォーメーション(DX)が困難になる「2025年の崖」問題が提起された。アクセンチュアでモダナイゼーション事業を推進する西尾友善氏は、「当初は崖の問題など存在しない、日本企業のレガシー脱却はすべて自社で対応できると考えていました。しかし2025年になって相談案件が急増した。今、手遅れの企業にとってはこれからが本当の『崖』があり得るな、と感じているのが現状です」と厳しい面持ちで語る。
アクセンチュア
テクノロジー コンサルティング本部
レガシーモダナイゼーション・オプティマイゼーション日本統括
マネジング・ディレクター
西尾 友善 氏
同社の主要顧客である大企業は、数十年前からメインフレームを勘定系システムなどに使い続けているケースが多い。例えばIBM製品のユーザーは、IBMがサポート継続の方針を表明しているため、IBMや関連SIerからは現行システムを維持したモダナイゼーションが提案されやすい。
一方でアクセンチュアは、COBOLソースコードをJavaに変換した上でAWS(Amazon Web Services)などのクラウド環境へ移行するソリューションを提案する。ただし最初は、ユーザー企業が関心を示さないことが多いという。
現状に対して西尾氏は、「既存メインフレーム事業の継続予測は難しい。だからこそ、突然起こるかもしれないサポート終了に備えるべきです」と述べる。実際、“その時”に備えて、同社に相談を持ち掛ける企業も既にあるという。
さらに既存のメインフレーム製品・サポートの提供を継続したとしても、オープンシステムより高いハードウエアの維持コストが企業ユーザーの経営体力を損なう問題は残る。「確かにバッチ処理が多少速いメリットはありますが、専用のCPUやメモリーの製造コストは数の力で勝るオープン系に大きな強みがあります」(西尾氏)
一方で国産のメインフレームを使う企業は、日立製作所が既にハードウエア製造を終了し、富士通も2035年度のサポート終了を表明しているため、脱メインフレームを検討する傾向が強い。しかしそれでも、最初は付き合いの長い現行ベンダーにモダナイゼーションを相談する傾向が強いという。現行システムに既得権益を持つベンダーは、サポート期限の直前まで現行システムを継続させるプランを提案するケースも少なくない。
このため、「最初に採用したプランAが頓挫するか、あるいは見積もりが高額という理由で、次のプランBとしてアクセンチュアに相談いただくケースが圧倒的に多いです」(西尾氏)
現行メインフレームは保守費用が高額になる傾向にある。加えて、現行ベンダーも思い切った刷新提案が難しい場合も少なくない。これらに代わるプランを求めてアクセンチュアに相談する企業が多い
こうしたレガシーシステムの“延命指向”について西尾氏は、「近年、ITシステム業界では優秀な人材の獲得競争が激しくなっています。人の質の問題で現行ベンダーによっては、難易度の高いゼロからシステムを作るプランの提案が難しい場合もあるのではないか」と見る。
この他に近年は、アジア諸国などの若いIT技術者を活用した安価なソリューションで、日本のレガシー市場へ新たに攻勢をかける外資SIerも増えている。こうした選択肢には、「地政学的なリスクも否定できず、自国でのノウハウ蓄積と人材育成が重要と考えています」と見解を述べた。
主要ベンダーや大手SIerとの競合に対しアクセンチュアが強みとして掲げるのは、COBOL to Javaの言語変換率が約100%の自動変換ツール「MAJALIS」の無償適用により、大手ベンダーによるモダナイゼーション費用の「1/3」という価格競争力を実現していることだ。MAJALISはアクセンチュアが日本国内で自社開発するソースコードの機械変換ツールで、10年以上3億ステップの変換実績を経てこの高精度に到達した。
「他社の変換ツールではAI活用により変換率を90%にした製品もありますが、当社が担当するプログラムが数千万ステップの大規模システムに使うと、数百万ステップが間違った結果になります。これの手直しが必要となると作業効率と品質が著しく低下します。こうした事情から、変換率を約100%にまで高めることが非常に重要でした」(西尾氏)
COBOL to Javaの自動変換率約100%の実績を背景に、ソースコード変換から現新比較テストまで「モダナイゼーションの完全自動化」をMAJALISと共に目指す。社員はより高度な業務に専念でき、これが競合大手の「1/3」という価格競争力を実現するポイントだ
また西尾氏は、「2025年の崖を迎えた今のタイミングでは、AIによる簡単なコード変換で済むような多くの企業は既に移行を終えています」とも指摘する。同社が最近よく扱うのは、アプリケーションを動かすためのデータベースI/Oや、オンライントランザクションのエラー処理を担うアプリケーション基盤など、コード変換の難易度が高いケース。この場合も高精度のMAJALISが有効という。
ソースコードの変換はMAJALISに任せ、アクセンチュア社員は顧客とのやり取りに加え、より高度なシステム課題の解決に当たる。重点的に取り組むのは基盤システムを構成する部品やミドルウエアの開発だ。「例えば日本の銀行が運用しているIBMシステムでは、部品やミドルウエアの自動変換が困難で、熟練者が対応する必要があります」(西尾氏)。加えて日本語データの変換や、帳票、各種インターフェース、クラウド環境の作成なども人手で対応する。
企業がレガシーシステムを刷新する上で、「最も重要なのは人の問題」とアクセンチュアは言い切る。中でもユーザー企業の重点課題として指摘するのは、高齢化が著しいシステム部員を若手に切り替えられるか。「COBOL to COBOLという選択肢もある中で当社がJavaへの変換、オープンシステムへの移行を推奨するのは、システム部門の若手が円滑に管理できるシステムに変わることによって、真のマイグレーションが実現するからです。例えばAWSは今クラウドの主流になっています。AWSへ移行することで、現場社員のクラウドの知識が増えることが重要です」(西尾氏)
これは抜本的なシステム刷新を経験した現場社員のスキルが、将来に向けて安定稼働やDX推進を維持するための大きな資産になるという考え方だ。「実際に当社が担当した企業でも、システム構築の経緯からよく知っている“生き字引”のような担当者がいると、移行方針や保守体制の議論、突発的な問題への対処などが円滑に進みますね」(西尾氏)
同社自身も、モダナイゼーション担当部署を含めて社員の若返りを進めてきた。「この7年間は毎年新入社員を一定数採用し、今では彼らがプロジェクトの中核を担っています。当部署では自分なら達成できると私が判断した数十億の見積もりでのシステム開発を若手の部下に委ね、達成できたらすぐに昇進させることで定着率を高めてきました」(西尾氏)。当初はレガシーシステムへの関心が薄かった若手が、大きなビジネスでの成功体験を積み重ねることで、今ではチームの中心メンバーとして活躍している。
大手ベンダーとの競合案件では1/3の金額を提示するために、同社の若手社員はもちろん全社的にも“ギリギリの戦い”を挑む形になる。「半額提示では、着手後に費用を上積みするつもりで、結局同じくらいになるのでは? と思われ負けてしまいます」(西尾氏)。もう少し高くしてみてはという声も社内にあるが、「最初に1/3の金額を提示するとインパクトがありますし、ギリギリの戦いを経験すると部下がよく育ちます」と意に介さない。
一般的に大手企業はキャリアを積み重ねていくと管理職に専念するが、同社は昇進しても現場担当を兼任する。「高い専門性とプロ意識を必要とされる社風で育成する環境も当社の強みです」と西尾氏は語る。
アクセンチュアは他社と比べるとソースコード変換にAI活用をそこまで強調していない。むしろ「本当にAIでできること、できないことを理解している人の話かどうかをしっかり見極めるべき」(西尾氏)と慎重姿勢を取る。その一方で、AI導入効果は精力的に検証を進める。「大規模システムのコード変換は機械変換、小規模なケースはAI変換など、適材適所で活用する方針を立てています」(西尾氏)
「崖」を迎えた多くの日本企業のモダナイゼーションを解決するために、AI活用によって業務効率化を実現するアクセンチュアに今後も期待できそうだ。

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