


経営ビジョン「変革2027」のもと、DXを推進する東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)。「鉄道インフラを起点としたサービスから、『ヒトの生活の豊かさ』を起点としたサービスに転換することで、新たな価値提供を目指しています」とJR東日本の西村 佳久氏は話す。
ビジョンの実現にはデジタル人材の力が欠かせないため、3つのレベルの人材育成を進めている。現場でデジタルツールを業務活用できる「ベーシックレベル」、デジタル技術で業務課題を解決し、DX推進の実行役となる「ミドルレベル」、全体を俯瞰してDX戦略を策定・推進する「エキスパートレベル」だ。
2019年までに全社員にタブレットを貸与し、教育用動画などの視聴環境を整えた。2023年に各支社等に配置した「DXプロ」によるハンズオン教育内製化などにより、ミドルレベル人材は2027年までに5000人の育成を目指す。エキスパートレベルの育成拠点となる「Digital & Dataイノベーションセンター」も設立した。
「育った人材によって、既に複数のDX事例が誕生しています。列車運行情報を電話で回答する『どこトレダイヤル』、駅構内のポスターの掲出期限管理アプリや振替輸送案内アプリなどを開発したことは、その一例です」と西村氏は紹介する。
また同社は、生成AIの活用にも注力している。独自の業務内容に関する質問に回答できる生成AIシステム「文書検索アシスタント」を内製で2023年11月から開発を開始し、現在は既成の生成AIチャットツールと併せて全社員が利用できるようにしている。
ガバナンスを強化するため、「生成AI利活用ガイドライン」も策定。AIガバナンス協会に所属して最新情報のキャッチアップに努め、2024年3月には第2版もリリースしたという。
さらに2024年10月からは、業種特化型の「鉄道版生成AI」の開発に着手した。鉄道固有の知識を学習させることで、高い回答精度と信頼性を実現する狙いだ。「実用化できれば、これまでベテラン社員に聞かなければ分からなかったことを生成AIに問い合わせて解決できるようになります。経験の浅い社員でも質の高いお客様対応が可能になるでしょう」と西村氏は期待を込める。
設備や車両関係の業務への活用も考えている。作業時の注意点や過去の発生事象に関するアドバイスを受けながら作業すれば、安全性を高めつつ業務負荷の軽減が図れるだろう。
いずれにせよ、変革の取り組みの基盤になるのは人だ。JR東日本は、デジタル人材の育成と生成AI活用の両軸で、さらなる変革に向けて歩みを進めている。


外食大手のすかいらーくホールディングスでは、食の安全・安心を確保すべく、徹底した食品検査を実施している。しかし、この業務に欠かせない食品検査管理システムには、解決すべき課題もあった。
同社の宮内 博史氏は「当社では、理化学検査などの従来実施していなかった検査も取り入れています。旧システムにはその機能がなく、改修するにも多額の費用がかかります。また、システム化が難しい業務プロセスを表計算ソフトや人手で補っており、運用負担が重い点も課題でした」と明かす。
こうした状況を打開すべく、ノーコードツールに着目した。「ノーコードツールによる市民開発であれば、自分たちで継続的な改修が行えるようになります。とはいえ、業務要件が非常に複雑な上に、取り扱うデータ量も膨大。そこで複数の製品を候補に挙げ、システム化が可能かどうか検討を行いました」と宮内氏。その結果、「旧システムと同等の機能を実現できる」「自部門での構築・改善が可能」「環境変化への対応が容易」といった点を評価し、「SmartDB」による内製化に踏み切った。
実際の移行プロジェクトは、3段階のフェーズで進められた。「まずフェーズ1では、新システムのプロトタイプ作成に取り組みました。未経験者でも開発できると分かったのは大きな収穫でしたが、その反面他の検査室の社員や上長に納得してもらうのが大変でした」と宮内氏。その経験を基に「プロトタイプは具体的な業務イメージが湧くレベルにまで作り込むことが肝心」と説く。
続いてフェーズ2では、プロジェクトメンバーを集めて本格的な開発作業に着手。品質管理部門には幅広い年齢層の人材が所属しているため、「みんなが使いやすいシステム」をコンセプトに定めた。「メンバー全員が非IT人材である上に、勤務地域もバラバラです。そこで最初に合宿を行い、対面で集中議論を重ねました」と宮内氏は話す。このことが、後々のコミュニケーションにも大いに役立った。また、開発を進める過程では業務やルールの見直しも実施。「現場の声や機能要求を速やかに反映できるのは内製化ならではのメリット」と宮内氏は続ける。
こうした取り組みの結果、わずか4カ月での短期開発に成功。本稼働フェーズではマニュアル作成や説明会を行うなどして、利用者へのフォローにも努めた。これにより大幅なコスト削減と作業時間短縮を実現できたという。同社では今後も引き続き、ITリテラシーの向上や開発者の育成、DX組織との連携など、さらなる改善に取り組んでいく考えだ。