SDVの価値とは……
安井 正樹(やすい まさき)氏PwCコンサルティング合同会社 代表執行役CEO。大手コンサルティングファームを経て、2014年10月プライスウォーターハウスクーパース株式会社入社。デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家として、製造業を中心とした幅広い業種に対しサービス提供を行う。デジタルを活用したオペレーションの効率化、ITのモダナイゼーションを得意とする。近年はデジタルを活用した新規事業開発を多く手がけ、AI/IoTデジタル化構想、スマートシティ構想、宇宙ビジネスなどの戦略立案から実行までを一貫して支援。公益財団法人PwC財団の代表理事を務めた経験を有し、官、民、ソーシャルセクターをつなげた社会課題の解決にも従事する。
(写真:山下裕之)
安井正樹(以下、安井) SDVは、自動車業界でCASE〔Connected(インターネットにつながる)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電動化)〕を推し進める中で見えてきた、新たな価値の実現手段であると言えます。これまでの自動車の価値は、販売時点が最大でしたが、SDVでは自動車の「スマートフォン(スマホ)化」が進み、ユーザーは購入後も新たな価値を享受できます。つまり、ソフトウェアをアップデートしていくことで、自動車の価値は継続していくようになります。
安井 正樹(やすい まさき)氏PwCコンサルティング合同会社 代表執行役CEO。大手コンサルティングファームを経て、2014年10月プライスウォーターハウスクーパース株式会社入社。デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家として、製造業を中心とした幅広い業種に対しサービス提供を行う。デジタルを活用したオペレーションの効率化、ITのモダナイゼーションを得意とする。近年はデジタルを活用した新規事業開発を多く手がけ、AI/IoTデジタル化構想、スマートシティ構想、宇宙ビジネスなどの戦略立案から実行までを一貫して支援。公益財団法人PwC財団の代表理事を務めた経験を有し、官、民、ソーシャルセクターをつなげた社会課題の解決にも従事する。
(写真:山下裕之)
ソニー・ホンダモビリティさんが推進するSDVが目指すのは、どのような姿でしょうか。
川西泉(以下、川西) 我々が実現したい社会や新たなモビリティにおいて、ソフトウェアをベースにしたコンセプトが大事だと考えています。しかし、SDVはあくまで手段であり、目的ではありません。私がソニーの一員として過去に関わってきたロボットやゲーム機の開発もずっとそうした考え方の下でやってきました。
私自身、自動車とは一人のユーザーとしての関わりしかありませんでした。しかし自動車においてもソフトウェア領域が増えてくると、ソニーとして長年育んできたロボティクスの技術が未来の自動車に生かせるのではないかと考えるようになり、モビリティのプロジェクトを開始しました。
2020年、我々はソニーグループとして新しいモビリティを追求した「VISION-S」を発表しました。しかし、量産車の開発には自動車メーカーの知見や経験が不可欠でした。またホンダさんもハードウェアとソフトウェアを融合したモビリティを模索していらっしゃいました。
ソニー・ホンダモビリティは、こうした両社の「我々が実現したい未来を創造するモビリティを生み出したい」という思惑が一致して誕生しました。「今までになかったこと」を創造していく、「よりよい未来を実現する」ということには、相当な覚悟と努力が必要ですが、そういった気概で開発に取り組んでいます。
そこでは、移動における時間と空間の解放を大事にしたいと常々思っています。「映画を見ながら移動したい」「スマホを見ながら目的地までたどり着きたい」など、自分で運転しない電車などで日常的に行われていることが、自動車でもかなえられると考えています。
川西 泉(かわにし いずみ)氏ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役社長 兼 COO。1986年ソニー株式会社入社。以後、「プレイステーション」や「Xperia」などの商品開発に従事し、2014年、業務執行役員SVPに就任。17年よりAIロボティクスビジネスを担当。「aibo」の開発責任者のほか、ソニーのモビリティへの取り組みである「VISION-S」を担当。21年6月にソニーグループ常務、AIロボティクスビジネス担当に就任。22年9月にソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役社長 兼COOに就任。現在に至る。
(写真:山下裕之)
ただし、エンタテインメント性を生かしていく前に、SDVでは「ドライバーを運転から解放する」必要があります。つまり、ユーザーがまるで家で過ごすように、好きな格好で、リラックスした体勢で過ごせる空間を提供するために、自動運転の実現がとても重要になります。
川西 泉(かわにし いずみ)氏ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役社長 兼 COO。1986年ソニー株式会社入社。以後、「プレイステーション」や「Xperia」などの商品開発に従事し、2014年、業務執行役員SVPに就任。17年よりAIロボティクスビジネスを担当。「aibo」の開発責任者のほか、ソニーのモビリティへの取り組みである「VISION-S」を担当。21年6月にソニーグループ常務、AIロボティクスビジネス担当に就任。22年9月にソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役社長 兼COOに就任。現在に至る。
(写真:山下裕之)
安井 なるほど。確かに、従来の自動車づくりは、「運転する喜び」のようなところを追求していくものだったと思います。
川西 はい。運転の楽しみは、これからも残ると思います。ただし、そうではない考え方もあるのではないかと思います。
安井 SDVが進化するにつれ、ハードウェアからソフトウェアへと価値がどんどん移行していくと思います。イノベーションにおいても顧客とのコンタクトにおいても、ソフトウェアが非常に重要になってきます。つまり、企業の競争力の源泉も、ソフトウェアになってくる。それが、SDVの大きな流れですね。
グローバルな市場動向と、今後のSDV推進の在り方
安井 SDVにおいては、中国系の新興自動車OEM(自動車メーカー)の躍進が目まぐるしい。SDVを取り巻くグローバルな現状や、海外と日本との違いなど、川西さんはどのようにお考えですか。
川西 SDVの市場競争は激しく、変化のスピードも速いです。そうした中で、中国系の新興自動車メーカーのスピード感は目を見張るものがあり、先端技術を取り入れたモビリティを次々と提案しています。
ただし、新興メーカーなのか従来メーカーなのかという二元論とは限らないと考えています。新興メーカーがリードしている先進的サービスと、従来メーカーが長年積み重ねてきた安心・安全への知見、その両方の掛け合わせが重要だと考えます。そういう観点では、両親会社の強みをソニー・ホンダモビリティとして享受し、AFEELAに反映しています。例えば安全面では、ホンダの知見や技術の上に、ソニーならではのネットワークやセンシング技術が生きています。
このような異業種の組み合わせは中国などでは当たり前になりつつあります。しかし、軌道に乗せるのはそう簡単なことではなく、それぞれの立場をリスペクトしたビジネス文化の融合が課題になると思います。
安井 ソニー・ホンダモビリティさんのような、自動車メーカーとハイテクメーカーの融合は、今後より進みそうですね。
我々のようなコンサルティング会社はチーム制で動いていて、「自動車・製造業」「半導体」「金融」「テクノロジー」などと分けて担当してきました。ただ、組織がサイロ化していたため、異分野の横連携が極めて重要なSDVのコンサルティングには不向きな体制でした。
そこで、2024年8月にPwCコンサルティングでは、社内の複数部門から専門人材を集めた横断組織「SDVイニシアチブ」を立ち上げました。テクノロジー、戦略、決済サービス、半導体、セキュリティ、法規制など、専門に特化したコンサルタントを同じチームに集結させたのです。これにより、SDVに関わる企業(プレーヤー)に対して、ソフトウェア事業企画から、SDV開発、販売後のソフトウェアアップデート、車両外サービスまで、総合的に支援できる体制になっています。
中でも、決済関係の支援が重要なポイントになると考えています。マネタイズの仕方をどうすべきか、ビジネスモデルはどうあるべきかを考えながら、SDVのプレーヤーが対応できない部分を補完するような伴走支援をしていきたいと思います。
SDVの未来、どう描く?
安井 私は今、地方暮らしをしていますが、自動車での長距離移動では「移動のストレス」を感じることがあります。年を重ねていくと、その負担がますます大きくなることでしょう。そうした面でも、先ほど川西さんがおっしゃった「運転から解放される」ということには、ユーザーにとって大変価値があると思います。エンターテインメント空間としての価値が加われば、モビリティにおける移動という定義が大きく変わってくる。このことには、私自身、非常に期待しています。将来は、家や部屋を改装するように、居住空間としてのSDVをカスタムしたりアップデートしたりしていくといったことが考えられそうですね。
川西 そうだと思います。コロナ禍で、米国の西海岸の人たちの間ではプライベートな空間が保たれる自動車内でのリモートワークが広まったと聞きました。また、西海岸では自動車通勤の方が多いので、この時間を有効に使うため、会議も、オフィスに到着してからではなく、移動中にリモート参加しているという話もよく聞きます。
安井 SDVが広がり、ユーザーが運転から解放されると、そのような用途が拡張していきそうですね。
でも、それだけではありません。日本における、少子高齢化や働き手不足などに起因する難題を打破することにもつながるのではないかと考えています。例えば、ドライバー不足で運送が滞ってしまう、物流の2024年問題※や、公共交通機関が減っている地方での高齢者の移動の問題、多大な経済損失を生んでいるとされる交通渋滞の問題などです。これらの問題は全て、「移動」という手段に関わる課題です。SDVが普及すれば、こうした課題も解決されていくことでしょう。
例えば、高齢者が診察を受けに病院へ行きたいときには、SDVが渋滞を避けながら、最も速いルートを使って連れて行く。その際、SDVに搭載されたヘルスケアシステムが、高齢者の血圧や心拍などをリアルタイムで計測し、そのデータを病院側と共有。医療費の支払いも、SDVの決済機能で自動的に行う。こんなことができるようになれば、診察や会計までの待ち時間を減らし、病院側にも患者側にもメリットがあります。
こうした社会課題の解決に貢献することも、SDVの大きな価値ではないかと考えています。
川西 そういうことをハードウェア中心の設計で解決しようとすると、「専用の自動車」が必要かもしれません。ところがSDVなら、ハードウェアの部分は変えず、ソフトウェアのアップデートで課題や目的に応じて自動車の価値を変えていくことも可能ではないかと思います。我々は、ソフトウェアに求められてくることを予測し、将来的にはこうした課題の解決策を提案するモビリティも模索できればと考えています。
※2024年4月より、トラックドライバーを含む自動車運転者の時間外労働について年960時間(休日労働含まず)の上限規制などを定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」(厚生労働大臣告示)が適用されることで、運送能力の低下や運送業の収益減、人手不足など様々な問題が懸念されている。
SDVで日本が世界をリードするために
安井 SDVの推進においては、社会課題解決が重要な目的になり、ビジネス構造の変革も伴います。これまでのサプライヤーやディーラーなど、バリューチェーンの在り方も大きく変わってくることでしょう。加えて、新たな法律や規制の制定なども必要になります。PwCコンサルティングでは、政府機関や学術機関とも連携し、産官学の橋渡しができるような活動も重視しています。
川西 PwCさんは、お客様から色々な問い合わせを受けていることでしょうし、間口がすごく広いですよね。我々の共創プログラムでも多彩なクリエイターやパートナー様からお問い合わせをいただき、いくつかの取り組みを始めています。
新しいモビリティの創造や移動の概念を変えていくには多くの知見や経験が不可欠です。当社はホンダとソニーが一緒になって設立された会社なので、それぞれの産業を経験した人材がいますが、両社以外のフィールドで活躍する多様な方々にも参画いただき、様々なアプリケーションやサービスを一緒につくりながらモビリティとしてのエコシステムを構築していくという考え方で開発に取り組んでいます。
安井 過去には、日本で素晴らしい技術や用途を生み出しても、いつの間にか海外勢によりルールが再定義されてしまい、市場での競争力を落としてしまうといったことがありました。同じ轍を踏まないようにしながら、かつてスマホが新市場を生んだように、日本からSDVで新市場を生み出していかなければと思います。
それには、企業間のアライアンスを加速し、従来のビジネスのやり方を刷新していかなければなりません。これまでの日本は標準化などのルールメークでリードすることを苦手としてきましたが、SDVでは日本がルールメーカーにならなければいけないと思っています。
川西 そうですね。そのようなSDVのエコシステムの中で、「おもてなしの心」のような、細部への気遣いができる日本らしい強みを生かしながら、日本がグローバルスタンダードになれるレベルの技術を開発していきたいですね。例えば自動運転でも、モビリティがユーザーの心を細やかに察して「いい感じ」にもてなしてくれる、そんな価値をお届けできればと思っています。
安井 ソニー・ホンダモビリティさんが取り組むSDVは、日本の将来を占う上でも重要だと思います。我々のモットーでもあるのですが、日本の良さは、「やさしさが生む、強さがある」こと。この「やさしさ」は、まさに川西さんがおっしゃった、細部への気遣いやおもてなしの心だと思います。それが、SDVにおいて日本が世界をリードしていく一つのカギになるのかもしれません。
安井氏(左)と川西氏(右)。(写真:山下裕之)







