サステナビリティは新たな局面へ社会課題の解決をCO2削減や環境への配慮など、サステナビリティ(持続可能性)に対する企業の取り組みが広がっている。だが、これまでのような断片的な活動では、将来の成長は望めない。今こそ社会課題と正面から向き合い、持続可能性をビジネスの中核に据えるときである。
今や多くの企業がサステナビリティ推進に取り組んでいますが、従来と現在でサステナビリティの捉え方に変化はあるのでしょうか。
海老原歴史をたどれば、古くはCSRという形で、企業の社会的責任を果たすためのやや義務的な活動でした。それが、ESGと呼ばれる企業の社会的意義を示す活動に進化しましたが、これはもっぱら、株主に向けたものであったとも言えると思います。
そんな中、2019年8月に米国の主要企業経営者がメンバーであるビジネス・ラウンドテーブルで、「企業の目的に関する声明」が発表され、株主資本主義との決別が宣言されました。従来の株主に偏重していた企業経営を修正し、株主を含め、社会全体、従業員、顧客など様々なステークホルダーへの対応を強化しながら、持続的発展を目指すべきという発表は、世界に衝撃を与えました。
このマルチステークホルダーへの貢献を取り入れた企業活動を「Responsible Business」と呼んでいます。CSR、ESGの進化した形として、複数のステークホルダーへの貢献を企業のビジネス戦略の中核に据えて、成長の果実も取り込みながら持続的な成長を目指す戦略であり、事業活動です。世の中に対して、良い製品・サービスを提供していることを示すことで、よりマーケットからの支持を得て、企業の成長を目指します。
海老原城一氏
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
公共サービス・医療健康 プラクティス日本統括 兼
サステナビリティ プラクティス日本統括
マネジング・ディレクター
1999年アクセンチュア入社。公共、民間企業を問わず多くの組織で変革を支援し、戦略立案から新制度・サービスの設計、効果創出を実現。スマートシティの構想立案も多数従事。東日本大震災復興支援プロジェクトの責任者も務める。
なぜ今、「Responsible Business」が注目されているのでしょうか。
海老原私がサステナビリティの仕事に関わって10年ほどですが、10年前を思い返してみると、当時はサステナビリティ担当役員というようなポストが事業部とは別にあり、ややもすると事業の行き過ぎを抑えるブレーキの役割を担っているような側面もあったと思います。
その状況が、ここ2年ぐらいの間に、大きく変わったと感じています。サステナビリティはCEOのアジェンダとなり、企業の成長戦略に取り込まれてきたと実感しています。
齋藤倫玲氏
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ
シニア・マネジャー
2008年アクセンチュア入社。現在ビジネス コンサルティング本部でシニア・マネジャーを務める。サステナビリティ分野のエキスパートとして、主に民間企業を対象に、幅広い業界で事業戦略立案、新規事業開発を支援。
齋藤新型コロナウイルス感染症拡大の影響も、企業のサステナブル志向を加速させていると感じます。コロナ禍で今まで通りの仕事が続けられなくなったり、ステイホームの間に自分の生き方を問い直したりしたことで、これまで自社が儲ければいいとしてきた考え方を改める機会になりました。そして、従業員や取引先、環境に良いことをして、周りに悪影響を与えずに成長していく。これがとくに若い世代の考え方と一致したのだと思います。
もう一つは、テクノロジーの進化です。例えば製造業だと、原材料が環境に配慮していない、労働者の環境が悪いといった情報が、SNSなどを通じて外に出やすくなっています。一方で、テクノロジーを有効に使うことで、サプライチェーン全体を管理して正しいものづくりをすることができるチャンスになっている側面もあります。また、自然災害が激化しており、従業員個人レベルでも、経済活動を改善して社会を持続可能にする必要があること、そしてそういった企業で働きたいという機運が高まっていると感じています。
Next
日本には古くから「三方よし」※のような思想があり、多くのステークホルダーに目を配る企業文化が根付いていたという見方もあります。そこを生かし、サステナビリティの時代をリードすることはできないのでしょうか。
※近江商人の活動の理念。「買い手よし、売り手よし、世間よし」を示し、売り手と買い手共に満足するのはもちろん、社会貢献もできるのが良い商売であるという考え方
海老原確かに、近江商人の「三方よし」や環境に配慮したものづくりなど、サステナビリティは日本が本来持っている強みを生かせる領域だと思います。ですが、「Responsible Business」は、単に昔から日本企業が社是としてうたっていたものに合わせればいいということではありません。
従来の日本企業の取り組みは、世の中に良いものを作ることに主眼を置いていましたが、それを野心的な目標に落とし込むところが弱かったと思います。「この製品を何年までに何台売って、シェア何パーセントを獲得する」といった具体的な事業戦略に結びつけなければ、企業はスピード感のある成長は難しくなります。サステナブルとビジネス成長を、同じ軸で考える、ある意味でしたたかさが必要です。「Responsible Business」は、あくまでもビジネス戦略であるということを意識しなければいけません。
激しく変化する社会だからこそ、その変化に対応し、課題を解決する取り組みを事業の中核に据えることで、変化の荒波を武器にして、生き残る企業となることができると考えています(図1)。
図1:「Responsible Business」で目指すべき姿
齋藤同感です。日本企業のCEOとお話しをしますと、「当社のビジネスは世の中にいいことそのものです」と皆さんおっしゃいます。その通りだと思いますが、さらに視点を変えて、世の中の課題に対して、自分たちの技術や人材、ナレッジを使って何ができるのか、という見方をしなければいけません。
海老原そうですね。「Responsible Business」では、事業をスケールさせるドライバーとして、自社の強みをどう生かしていくのかがカギを握ります。競合と何が違い、その差異がビジネスの優位性を生むのか。さらに、それが顧客のニーズに合っているのか、その理解が必要です。自社の強み・ニーズ・社会的な必要性の3つを掛け合わせて、自社の中核事業を作るべきです。
齋藤事業をサステナブルの視点で見直すこと自体が、ビジネスチャンスになります。これまで誰も手を付けていなかった、いわゆるアンメットニーズをあぶり出す近道になるからです。
一例をお話ししますと、英国の携帯電話サービス大手のボーダフォンでは、ケニアの携帯市場に進出した際、モバイル送金サービスの「M-Pesa(エムペサ)」を広く大衆に普及させました。これを女性が収入を得る手段として利用したことで、女性の社会進出を大きく後押ししています。同時に、ボーダフォンはビジネスとしても大きな成功を手にしました。
これは、まだまだ伸びることが予測される新市場で、第一人者となった例です。他にも多くの企業がサステナビリティへ向かっており、新しい市場を取るのは、早い者勝ちの状況です。
取り組みの入り口は、CO2削減やリサイクルといったテーマでもいいと思います。そこから自社の強みをどう生かせるのか、ビジネスモデルを変えるような事業に発展させていくことが重要です。