New Future 日経ビジネス 電子版SPECIAL

N e w F u t u r e

Vol.17 日本企業が再び世界で
輝くために、今すべきこと
CEOが掲げる
野心的な目標への共感が
不確実な時代を切り拓く
羅針盤になる

気候変動リスクや国際情勢、資源価格の上昇など、企業を取り巻く環境は厳しさ、不確実性を増している。この状況を克服し、企業が持続的な成長を遂げるためにアクセンチュアが掲げる概念が、自社の企業価値を再創造する「トータル・エンタープライズ・リインベンション (TER)」である。日本企業がTERを実現するための要諦を、2人の専門家が語った。

不確実な未来に
生き残る企業に必要なもの

 不確実な時代に企業が成長し続けるためには、企業としてのビジョンを定めることが重要だと言われています。しかし、とくに日本企業は長期的なビジョンに基づいた変革が苦手です。なぜなのでしょうか。

廣瀬日本企業では、変革についてCEO、CFOのコミットが足りないという意見がありますが、必ずしもそうとは思いません。日本企業は現場力が強く、国内市場にある程度の規模・成長余地があったこれまでは、現場のリードによる改革が機能してきました。言い換えれば、10年、20年後を見据えた探索や新しいことにチャレンジする覚悟を示さなくても、企業は生き残ってこられたのです。

 ところが、今後の展望として、少子高齢化の進展により、加速度的に国内市場そのものが縮退していくことが予想されます。国内市場に依存したレガシーのビジネスだと、成長はおろか継続すら危うい状況に直面しているのです。

 加えて、労働力不足の状況下で現状維持の企業は、成長に不可欠な人材の獲得も厳しくなるでしょう。事実、外資系企業が日本に工場を建設する際に、日本企業よりもはるかに良い条件で社員を集める動きも出てきています。成長企業に人材が集まるため、今のままでいいという企業は人材獲得の点でも厳しい状況に追い込まれるのではないでしょうか。

 こうした局面でCEO、CFOが果たすべき役割は間違いなく増えていくでしょう。

廣瀬隆治 氏

廣瀬隆治 アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
ストラテジーグループ日本統括 兼
通信・メディア プラクティス日本統括
マネジング・ディレクター
東京大学工学部建築学科卒、同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了後、アクセンチュア入社、2023年より現職。長年にわたる通信業界での5G等の各種支援実績に加え、建設・化学・電力・自動車・金融など幅広い業界においてAIやIoTを活用したデジタル戦略立案、オープンイノベーション推進を支援。関連する記事執筆・講演も多数実施。近年は、社会インフラの在り方にも興味・関心を抱き、2017年より東京都水道事業運営戦略検討会議委員も務める。

 日本企業はすでにグローバル進出を果たしており、売上高における海外比率が高い企業も少なくありません。それでは不十分なのでしょうか。

村上日本企業の場合、仮に海外進出を進めていたとしても、国内の成功から地続きの成長を目指す発想が多いと思います。これまでは、日本国内の商品・サービスを海外向けにも販売することで、一定の売り上げを得られてきました。しかし、不確実性が増す今の時代、未来に向けて事業を成長させていくには、業界や社会をも変革させていく力が求められています。

廣瀬当社が提唱するトータル・エンタープライズ・リインベンション(TER)は、既存事業の延長ではない新しい事業領域を探求し、価値を生み出していくことで持続的な成長を目指す企業の挑戦です。その進め方は、これまでの成功モデルの横展開や海外展開に留まらず、ギアを数段上げていかなければなりません。

村上不確実な時代に価値を生み出す企業になるには、野心的な目標を掲げ、それを社内外のステークホルダーを巻き込んで納得させ、共感を呼ぶことが求められます。これは企業トップの使命であり、トップ自らが変革をけん引していく必要があるのです。

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日本企業が
新たな価値創出の道筋をつける
パイオニアとなるための3つの要諦

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 これまで企業が行ってきた事業変革とTERの考え方には、どんな違いがあるのでしょうか。

村上最も大きな違いは、従来とは異なる新しい価値を探し出し、生み出していく点です。

 そして、変革は一過性のものではなく、持続的に取り組むことも意識しなければいけません。例えば、1年後の新ビジネスのために外部から事業そのものを買うなり、必要なケイパビリティを獲得することは分かりやすい打ち手です。しかし、それではいつまでたってもその構造から抜け出せません。社会は変わり続けるので、企業も変革し続けることを前提とする必要があります。

村上隆文 氏

村上隆文 アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括
マネジング・ディレクター
業界横断でテクノロジー戦略及びアドバイザリーを担当する組織の責任者。20年以上にわたり、金融・通信・製造・小売・インフラなどの幅広い業界で、テクノロジー戦略、ITトランスフォメーション、PMI等のプロジェクトに従事。テクノロジー戦略、イノベーション戦略、IT投資戦略、ビジネス・ITトランスフォメーション、大規模システム導入等に多くの知見を持つ。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」(FinTech研究会)メンバー、日本情報システム・ユーザー協会 監事を務める。

廣瀬やはり、変革への本気度が問われています。現在の成功モデルがあったとしても、それが今後10年、20年継続するのは非常に難しいと考えるべきです。今から次の成長のための探索を行い、新しいビジネスに挑戦するための経営資源を投下していくことが不可欠です。

 とくに大企業で現業がある程度順調な場合は、危機感を共有することが難しいと思います。むしろ「できない理由」を並べてしまうかもしれません。そこで、短期で結果を出すことに必死で取り組んでいる野心的な大企業やスタートアップと連携するなど、外部の圧力を使って自らを追い込むことも有効です。

 いざ改革に着手してからも、活動は中長期にわたるため、その間にだんだんと勢いがなくなっていきます。そのため、最初にどれだけ高い角度で立ち上げられるかが、最終的な到達点に大きく影響します。

 改革への意欲が生まれている企業は、増えていますか。

廣瀬間違いなく増えています。また取り組み自体も手の届く成長にとどまらない意欲的なものが多くなっていると感じています。

 TERを進めるために、企業は何から着手すればいいのでしょうか。

村上企業は改革にあたり、「目線は高く、実行は深く」と考えて取り組むべきです。当社が提唱しているのが、次の3つの要諦です。

 最初に、先ほどお話しした「CEOによる野心的なビジョン」の提示です。経営者は、潜在的な社会の変化を捉え、それを踏まえて自社を取り巻く産業や社会を自社がどう変えていきたいかを描く必要があります。

 次に、変革し続けるための事業基盤を持つことが重要です。これは「デジタルコア」と呼ばれ、企業全体で円滑にデータをやり取りできる相互運用性の高いシステムを実装し、クラウド、データ、AIの力や新興技術を取り込むことで、新たな事業ドメインやケイパビリティへの対応、新たな価値創出を迅速に行えるものを指します。企業全体のデータを一元管理し、AIなどの先端技術を全社的に使えるようにすることで、データから新しい価値を生み出すことができるのです。また、デジタルコアによって、M&Aなどの際に獲得した新たなケイパビリティを素早く活用できるようになり、価値創出においてスケール感を持って実現することができます。

 そして3つ目が、ビジョンとデジタルコアを生かし切るための、企業を超えた「共創型の働き方」です。複雑さを増す社会において、自社だけで解決できる課題はほとんどありません。社内において、まだ見えない新しい価値を追い求め、組織横断で協働できる組織風土をつくり上げることはもちろん重要ですが、その範囲を社外に広げ、共感を通じて外の力を巻き込みながら、より大きな力を生み出していくことが求められています。

図1

図1:トータル・エンタープライズ・
リインベンションの3つの要諦

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日本のビジネス環境は、
協働の価値を生み出しやすい

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 TERに向けた変革を実現する企業には、どのような例があるのでしょうか。

村上例えばデジタルコアの構築では、以前は企業内で先端テクノロジーを扱う部署を作り、その中で活用を検討するケースが多かったと思います。しかし、企業全体で取り組まなければ、競争力に転嫁できないことが分かってきました。そこで成功している企業では、IT部門とデジタル部門を一体化して、大きな活動にする動きが見られます。

 加えて、成功している企業に共通して見られる特徴は、社内で成功事例を共有し、勝ちパターンを認識させる仕組みを作っていることです。経営トップが、新しい価値を生み出す取り組みにチャレンジすることを後押しし、既存の仕組みに比べてどれだけ効果があったのかを経営メンバーをはじめ、組織に浸透させています。

 必ずしもトップダウン型アプローチのみが全社的な変革を実現する手法ではありません。例えば、経営は大きなビジョンとサステナビリティなど大枠のアジェンダ設定と予算配分を行い、実際の価値創出は各事業部門の自律性を重視することで、効果的に成果を上げている例もあります。

 いずれの成功事例も、共通するのは組織横断型のコラボレーションです。自社内にない能力は、積極的に社外に求めていくことが必要です。代表例として米ウォルマートは、店舗とECの融合だけでなく、金融機関やヘルスケア企業と連携することで、消費者に新たな価値を提供しています。

 ウォルマートも最初からうまくはいかなかったと記憶しています。失敗を糧に成功を勝ち取ることが必要ですが、日本企業は失敗に厳しいと言われます。

廣瀬だからこそ、企業のトップが、自社が目指す“山の頂上”を定めることが重要です。頂上への道は1つではありません。失敗しても目的がブレていなければまた別の道を探索でき、ステークホルダーの理解も得られるでしょう。

 TERの取り組みは、デジタルコアの構築から組織改革まで、多岐にわたります。自社だけで成し遂げるのは難しい企業も多いと思います。

廣瀬この点について、日本のビジネス環境は非常に恵まれていると思います。東京の経済規模、人やビジネスの集積度は世界屈指の水準にあり、そのポテンシャルをまだ生かし切れていません。今後のコラボレーションが生きる余地は十分にあります。

村上欧米企業は、役割分担主義を貫くことで効率化を追求してきました。一方、日本企業はすり合わせる能力が高い。互いに良いところを持ち寄って助け合いながら成果を出すことに長けています。例え足元の利害は異なっても、中長期で協力できる関係を作れる文化を持つ日本企業は、TERに適しているのです。

廣瀬これから10年のビジネスの展開が、日本の未来には非常に重要だと思います。アクセンチュアの知見と最新テクノロジーを使って、ぜひ共に一歩を踏み出していきましょう。

廣瀬氏、村上氏
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