2021年春より、スーパーシティ法を軸に、いわば第2期地方創生計画が動き出す。法改正の狙い、地方創生において必須となるアーキテクチャ構築のあり方について、アーキテクチャ研究の第一人者である、慶應義塾大学大学院教授の白坂成功氏、会津若松市のスマートシティ推進に取り組むアクセンチュア・イノベーションセンター福島で共同統括を務める中村彰二朗氏に聞いた。
2020年5月に成立した「スーパーシティ法」が、今春には指定自治体が選定されるなど具体的に動き出します。従来のスマートシティではなく、スーパーシティと銘打った新たな法律で地方創生のあり方はどう変わるのでしょうか。
白坂従来のスマートシティの取り組みがエネルギーや交通インフラといった個別分野の効率化、いわばIT化だったとするなら、スーパーシティでは法改正、いわゆるスーパーシティ法による規制改革で、暮らしに直結する複数の分野でデジタル化を進め、地域が抱える社会的課題の解決を図る。いわゆる地域DX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す点が大きな違いとなります。
さらに大原則となるのが住民参画型で、住む人が理想とするコミュニティを創造していくこと。行政やサービス供給側のトップダウンではなく、住民合意の下、多様性、インクルージョン(包括性)に対応できる街づくりを実践していくことがスーパーシティ構想でもうたわれており、あるべき街づくりの重要な視点と捉えています。
白坂成功氏
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科
教授
三菱電機にて15年間にわたり宇宙開発に従事し、「こうのとり」などの開発に参画。欧州の人工衛星開発メーカに駐在し、欧州宇宙機関(ESA)向けの開発にも加わったほか、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラムマネージャーとしてオンデマンド型小型合成開口レーダ(SAR)衛星の開発などにも携わった。2004年度より慶應義塾大学にてシステムズエンジニアリングの教鞭をとり、2010年度より同大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授。2017年度より同教授。変化の早いビジネス環境等に対応できる経営システムや技術システムのデザイン方法論をはじめ、宇宙開発から社会システムまで、人が経験的・感覚的に行っていることを体系化する研究を実施している。
中村おっしゃる通りで、地域DXにおいては企業のITプロジェクトのように明確なRFP(提案依頼書)もなく、誰も正解は分かりません。アクセンチュアは東日本大震災を機に、2011年8月、会津若松市に拠点を構え、震災復興を起点にデジタル技術を活用した街づくりを支援してきました。そこで常に意識してきたのが「市民中心」に考え、「オープン・フラット・コネクテッド・コラボレーション・シェア」にアプローチすることです。
つまり多くの市民とオープンかつフラットに意見を交換し、腹落ちしたらコネクテッドし、可能なことはコラボレーションし、最終的にシェアする。私も含め、連携する産官学のメンバーもみな肩書を取り払い、会津若松市に住む市民として考え、行動を起こす姿勢を徹底しています。
中村彰二朗氏
アクセンチュア・イノベーションセンター福島
センター共同統括 マネジング・ディレクター
東日本大震災を機に復興・地方創生を実現するため会津若松市に拠点を移し、首都圏一極集中から機能分散配置を提言し市民主導型スマートシティ事業開発、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。オープンガバメント・コンソーシアム代表理事。日本IT団体連盟副会長。
白坂世界各国のスマートシティの取り組みを見ても、会津若松市は市民一体となって復興のあり方と真剣に向き合い、ヒューマンセントリック(人間主体)な取り組みで成果を上げている稀有なケースと言えるのではないでしょうか。
市民中心・地域主導によるスマートシティ拡大には、標準モデルの策定、連携が欠かせません。スーパーシティ法によって、先行事例として、会津若松市の取り組みの広がりが期待できる点もポイントだと思います。
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その標準モデルに関し、政府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)において、アクセンチュアも参画する形でスマートシティ分野のアーキテクチャの研究が進められ、標準化モデルも公開されています。スマートシティを進める上でアーキテクチャがなぜ必要で、どうあるべきか。アーキテクチャを専門とする白坂先生のご意見を伺えますか。
白坂アーキテクチャとは元々、建築分野で生まれた言葉で、ものごとの構造や関係性を示す設計図。スマートシティ向けに一言で表すなら「目的を実現するための仕組み」というべきもので、大きく2つの役割があります。
1つ目が全体構想を作り上げること。住民を主役に多種多様な意見を反映するといっても、街の構成要素として多くのプレーヤーが存在し、利害関係も絡みます。その要素間の関係を決め、設計図のように整理していくことが肝要です。
2つ目が各要素をデジタルによってつなげ、技術以外の人間系も含めて体系的に相互運用性を高める仕組みを作る。つながる社会とデータ活用により、市民に新たな価値を提供していく土台となるものです。
具体的なプロセスとしては、どういう街を目指すのか、目標を設定したらそれをトップに置き、街にどんな機能を持たせるのか。その機能を何で実現し、誰が役割を担うのか。手段や実現法も多岐にわたり、従来、常識とされてきた手段と役割・機能の組み合わせを切り離す必要も出てくる。人間系が深く関わる点が地域DXならではの特徴であり難しさです。
ただし、勘違いされがちですが、アーキテクチャ構築の最大のポイントは、あくまでも住民を中心に街を構成するステークホルダーが参画できる仕組みを作ることにあります(図1)。私の考えるスマートシティとは、ガチガチに何かを決めるのではなく、地域ならではのニーズ、時代の変化に合わせ、自由度が高く、地域の人たち自らも新たなサービスを実現できる土台を持った街であると思っています。
中村白坂先生のお話に付け加えると、スマートシティへの取り組みは、市民と対話しながらアジャイルで進めていく必要がありますが、土台となるアーキテクチャなしでは、収拾がつかなくなるという事態も起こり得ます。しっかりとした土台があってこそ、システムを標準化していく視点も生きてきます。
会津若松市では9年前に会津モデルをアーキテクチャに落とし込み、仕組みを標準化し、プラットフォームを作成。参加したい企業がオープンに参加できる仕組みを作り上げたことが、数多くのサービス創出、その後の進化にもつながっていると考えています。
具体的なデジタルイノベーションの取り組み、標準化に加え、デジタル活用の観点から留意しているポイントについてもお聞かせください。
中村例えば行政と市民のコミュニケーションポータルとして、2015年12月に開設した「会津若松+(プラス)」は、エネルギー・行政サービス、ヘルスケア、観光、教育など、市民生活を幅広く支援する8分野のスマートシティのサービスが提供され、市民利用率は20%程度にまで浸透しています。その仕組みを公開し、他地域にも展開することで奈良県橿原市の「かしはら+」ほか、今春には5地域で同種ポータルの運用がスタートする予定です。
こうしたデータやテクノロジーの活用において留意しているのは「データは市民のもの」という原則です。「会津若松+」では、SNSと連携しログインすると属性情報に応じて、パーソナライズされた行政・地域情報が提供されるのが特徴ですが、プラットフォームとなる「都市OS」については、市民の意志でデータを提供するオプトインにこだわっています。