総論
マンション管理・再生の将来を改めて考える
管理不全と資産価値の低下を防ぐ
「超長期修繕計画」という新発想
例えば築45年の分譲マンション。耐震性に不安がある。最近は暑さがこたえ、この先は寒さが身にしみそうだ。耐震や省エネの改良工事を施したいが、修繕積立金には余力がない。将来どうなるのか――。高経年マンションに共通の先行き不安。まずは将来の見通しを立て、それにしっかり向き合うことが必要だ。
「区分所有者の高齢化」「居住者の高齢化」「修繕積立金の不足」――。分譲マンションの管理組合が抱える運営上の将来不安、トップ3だ。
出所は国土交通省が5年おきに実施する「マンション総合調査結果」。全国の管理組合4270を対象に2023年10月から2024年1月までの間に実施した。回収率は37.2%という。
区分所有者や居住者の高齢化は管理組合運営を担える人材の不足に拍車をかける。一方、修繕積立金の不足は修繕・改良工事の先送りで資産価値の低下を招きかねない。
80年先の見通しまで立て
経済的耐用年数の設定も
明海大学
不動産学部不動産学科 准教授
藤木 亮介氏分譲マンションの保全コンサルタントとしてマンション保全に20年以上携わる。2020年4月から現職。博士(工学)、一級建築士。
管理不全と資産価値の低下――。管理組合の将来不安は突き詰めれば、この2点に行き着く。区分所有者にとっては、ともに避けたい問題だ。
管理組合としての理想は、管理不全に陥るのを防ぎ、資産価値の維持・向上を図ること。それには、将来の見通しを立てた上で、その見通しにしっかり向き合うことが求められる。
明海大学不動産学部不動産学科で准教授を務める藤木亮介氏がその手法として提唱するのが、「超長期修繕計画」の立案である(図1)。
この分譲マンションは1980年代に建築された新耐震基準に基づくもの。地上11階建ての建物2棟で構成される。総戸数は約500戸。築37~61年を計画期間とする長期修繕計画を基に築125年までの超長期修繕計画を作成した。この計画によれば、修繕積立金を当初の金額に据え置くと、第3~5回の大規模修繕工事の段階で資金不足が生じるが、おおむね5年以内に解消される見込みのため、借り入れで対応する想定だ。しかし第6回の大規模修繕工事以降は資金不足が解消される見通しが立たないため、マンションを築84年以上もたせるには修繕積立金の値上げが不可避になる。
資料提供:藤木亮介氏
長期修繕計画の計画期間は、国交省の作成ガイドラインで「30年以上」と定めている。これに対して超長期修繕計画の計画期間は、80年以上など。人の一生分に匹敵する期間を見込む。
区分所有者にとってその意義は何か。藤木氏が挙げるのは次の2点だ。
一つは、修繕工事や改良工事など将来必要になる工事費用を見込み、その確保の見通しを立てておくこと。「工事予定の時期が迫ってから修繕積立金を値上げしようとしても合意を得るのは困難です。管理不全の原因になりかねません」と藤木氏は指摘する。
もう一つは、マンションの経済的耐用年数を設定することである。将来必要になる工事費用を工面できなくなりそうな時期を割り出し、区分所有関係の解消時期の検討を行う。
「長期修繕計画は通常、5年ごとに見直します。それを延々と繰り返していく想定ですが、それでは先行きは不安です。人口減少を踏まえれば、将来マンションをたたむという発想があっていいと考えています」(藤木氏)。
その場合、土地・建物の処分方法にはさまざまな選択肢が見込まれる。区分所有者や議決権の一定割合の合意は必要だが、建替えもあれば、土地・建物一体の売却もある。分譲マンションに余命を設定できれば、建物利用の仕方や投資回収の考え方に割り切りが生まれる。
計画では想定されにくい
耐震や省エネの改良工事
超長期修繕計画では計画期間がただ長くなるだけではない。長期修繕計画で通常想定されにくい工事も計画に見込む。その典型が、耐震改修や断熱改修など建物の耐震性や省エネ性の向上を図る改良工事だ。
「これらは社会的な陳腐化対策です。建物の性能が時代の流れに追い付けていないと、中古市場や賃貸市場で需要が減退し、資産価値が低下しかねません」。藤木氏は意義を語る。
住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資を利用することも可能だが、返済を終える前に大規模修繕工事の時期を迎える恐れもある。「それでも乗り切れるのか、超長期のシミュレーションを通して見通しておく必要があるのです」(藤木氏)。
管理不全や資産価値の低下といった事態を招かないためにもまず確認しておきたいのは、管理組合として将来見通しを立てているのか、それに基づき将来必要になる資金を確保する手立てを講じているのか、という点だ。
冒頭紹介した国交省「マンション総合調査結果」によれば、超長期と言わないまでも、せめて長期修繕計画を作成している管理組合は、回答全体の9割近く。問題は、それに基づく修繕積立金の設定だ。25年以上の長期修繕計画に基づき設定している管理組合は、回答全体の6割近くに過ぎない(図2)。
これでは大規模修繕工事を計画的に実施するだけの資金を工面できない例があっても決して不思議ではない。実際、同じ調査結果によれば、修繕積立金積立額が長期修繕計画上の積立額に対して不足している管理組合は回答全体の36.6%と少なくない(図3)。
計画期間の長さはともかく、修繕計画に基づき必要な資金を手当てするのは、管理組合の社会的な責務だ。資金を手当てできず、管理不全や資産価値の低下に陥れば、マンションはいずれ巨大な空き家になりかねない。
手を打つなら早いほうがいい。超長期の発想にも立ちながら、専門家と手を組み、自ら所有する分譲マンションの将来としっかり向き合いたい。
