――様々な企業で人事に携わった木下さんがパナソニック ホールディングスのグループCHROになられたのは、どのようなことがきっかけだったのでしょうか。
改めてこれまでの自分のキャリアを振り返ると、まずP&G、GEという2つの外資系企業で人事を担当したので、GEを離れるときに「これからは日本の社会の役に立ちたい」と思ったのです。
日本の企業で自分が貢献できる機会があれば、と探していたところ、メルカリと出合うことができて、CHROに任命されました。まだメルカリが上場する前で、「これからグローバルに事業を広げていくぞ」という勢いがある時期にCHROを任されたのは、とても面白く、やりがいのある経験だったと思っています。
でも、同じ人間がずっとCHROをやり続けるのではなく、会社としての発展段階に応じてふさわしい人材に交代するのが大事だと思っていたので、5年半勤めてメルカリを退職しました。
外資系、テック系と渡り歩き、その中で自分が培ってきたものを次に生かすとすれば、世界で事業展開しているような国内大手企業ではないかと考えていたところ、ご縁があってパナソニックにお声掛けを頂いたのです。
パナソニックグループからのオファーを受けた決め手は何だったのでしょうか。
現グループCEOの楠見雄規から、「本気で会社を変えたいので、社内ではなく、外部からCHROを招請したい」という思いを聞かされたのが決め手でしたね。
「今まで積み上げてきたことの延長線上にないことをしていかないといけない」という楠見の言葉に、何が何でも変革を実現するんだという強い気迫を感じました。
変革を前に進めるためには、トップの強い意思が何よりも重要ですからね。具体的には、どのようなゴールを求められたのですか。
楠見はグループCEOに就任して以来、パナソニックグループの経営基本方針にのっとった経営や事業の実践を社内に強く呼びかけています。この経営基本方針にうたわれていることが体現できるような組織文化を創りたいというのが楠見の思いでした。
そもそも経営基本方針は、創業者である松下幸之助の時代から受け継がれてきたパナソニックの精神の集大成です。そこにうたわれていることを体現するというのは、いわば「原点回帰」ですよね。
かつては体現できていたけれど、何らかの阻害要因によってそれができなくなっている。それを取り除くことができれば、活気や成長力を取り戻せるのではないかと思ったのが、楠見から話を聞いたときに感じた第一印象でした。
お話をうかがっていると、それはパナソニックだけでなく、日本の大手企業の多くが抱える課題であるように感じますね。これまでの歴史の中で築き上げてきた会社としての“軸”は持っているけれど、それが何らかの理由で揺らいでいる。その“軸”を「原点回帰」によって立て直そうとする取り組みは、他の企業にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。
おっしゃる通りです。パナソニックグループほどスケールの大きな会社でも、原点に立ち戻って会社を変革できるというケースを示せたら、他の企業にとっての参考事例となり、日本そのものが変わるんじゃないかという思いもあって、CHROへの任命を受けることにしました。
――パナソニックグループのグループCHROに就任されて数カ月が経過しましたが、具体的にどんな方針で人事変革に取り組んでいくお考えですか。
「働きがい」と「働きやすさ」の両面で変革を推し進めていきたいと考えています。「働きやすさ」については、私がグループCHROに就任する前から、非常に良い兆しが見え始めているんです。
パナソニックは2022年4月に事業会社制に移行し、9つの事業会社がそれぞれの裁量で独自の経営計画、経営戦略を立てながら事業を展開しています。それまでフレックス勤務や服装のカジュアル化などは実施されていましたが、事業会社制になって、ジョブ型人材マネジメントやハイブリッド勤務を取り入れ、TeamsやViva Engageを活用したカジュアルでオープンなコミュニケーションが増えるなど、 良い変化が表れているのです。こうした動きが一歩ずつでも進めば、いずれグループ全体の働き方も大きく変わっていくのではないかと期待しています。
――「働きがい」については、いかがでしょうか。
それが非常にハードルの高い課題であると思っています。「働きがい」は、今までやったことがない仕事や、今まで以上にレベルの高い仕事に挑戦することによって得られるものですが、失敗を恐れて挑戦をためらう風潮が根付いてしまっているように思います。それを打ち壊すため、「挑戦を促す文化」をいかに創り上げるかが、大きな課題です。
いかに挑戦を促すかということも、パナソニックだけでなく、日本の大手企業に共通する課題だと思いますね。
失敗を恐れずにチャレンジすることが、個人の成長、ひいては会社としての成長につながるわけですが、「どうせ失敗するから」と上司に言われそうなので、忖度してやらないといったことがあるわけです。
昨年、経営基本方針の実践を目指すための行動指針として「Panasonic Leadership Principles」を制定したのですが、その中には、「日に新たに挑む」(挑戦者となり、周囲の挑戦も後押しする)という指針も盛り込んでおり、社員の挑戦を促すことは当グループとしてのコンセンサスになっています。
人事変革のための具体的な仕組みは考えておられるのでしょうか。
挑戦したことをしっかりと評価する信賞必罰の仕組みは不可欠でしょう。もともとパナソニックは信賞必罰をちゃんとやってきた会社なのですが、それがやや不明瞭になっているようです。
また、パナソニックグループには、社員一人ひとりがオーナーシップを持って仕事に取り組むことを奨励する「社員稼業」「自主責任経営」といった考え方もあります。その原点に立ち返って、言われたからやるのではなく、自ら仕掛け、チャレンジしていけるような人材をいかに育成できるかが今後の課題だと思っています。
――最後に、これからCHROを目指す人、現在CHROとして活躍されている人にメッセージをお願いします。
CHROは、経営者の1人として、「会社のあるべき未来」から逆算して人事領域のアジェンダを設定し、推進する重要な仕事です。他のCHROの方々とも互いに刺激し合って、ぜひ未来の日本が元気になるように励んでいきたいですね。
人間の可能性を信じ、社員の成長とともに会社の成長に貢献できる役割は、CHRO以外にありません。今後、より多くの会社でCHROが活躍されるようになると、木下さんがおっしゃるように、日本そのものが元気になるのではないでしょうか。
グロービスも、その実現に向けてCHROの育成や活躍を後押しするサポートをさせていただきます。