2022年末に登場したChat GPTを皮切りに、生成AIが脚光を浴びている。一方で、活用のための人材やノウハウ不足、セキュリティーなどが課題となり、導入に二の足を踏む企業も多い。そこでAIに関する最新情報を共有すべく、日経BPは2024年10月16日「経営課題解決シンポジウム〜経営×AI編」を開催。AIとの付き合い方や活用事例、生成AIの活用法などを紹介する。
基調講演
進化を続けるAIとの付き合い方
AI活用に求められるルール作成や意識改革
京都橘大学
工学部情報工学科教授
情報学教育研究センター長
松原 仁氏
AIの研究は1950年頃にスタート。以降2度のブームと冬の時代を経て、2010年代3度目のブームを迎えた。長年AIを研究する京都橘大学の松原氏は、「生成AIを含む今回のブームで、ようやくAIが実用化されました」と語る。
今回のAIブームをけん引するディープラーニングは2006年に登場。今や画像や音声認識は人間の精度を超えつつあり、自動運転タクシーが実用化された国もある。将棋や囲碁ではプロ棋士より強くなり、株売買の判断や創薬など様々な方面で応用されている。
ディープラーニングはパターン認識が得意で、人間には取り出しにくい傾向をつかめるが、なぜその答えになったかの説明が難しい。データの多い定型作業は得意だが、データの少ない例外対応は苦手だ。また、ゲームのようにルールが明確で範囲が限定されていることは得意だが、ルールが不明確で範囲が限定されていないことは苦手である。「社会で起きることの多くはルールが不明確で範囲が限定されていません。そこは人間の専門家に比べると、まだ劣っています」(松原氏)。
2022年終わりには、言語生成AI「ChatGPT」が登場した。生成AIの仕組みは単純で、学習したネットワークの中から次の単語を予測している。松原氏は、「正解を見つけているのではなく、統計的に多い言葉を選択していることがポイントです。記述が多い方が正しい可能性が高いからですが、総理大臣のように情報が変わるものは間違う場合もあります」と指摘する。変なことを言わないよう学習させているため、優等生的な答えも多い。
ChatGPTは日本語でも問題なく使えるが、英語で学習しているので英語のやり取りの方が精度が高く、比較的日本についての知識も少ない。そのため日本製の生成AIを作成する動きが盛んになっている。新しい生成AIも続々と開発され、特定の領域や組織に特化した生成AIも作られつつある。「将来的には、生成AIに経営を理解させ、AIによる経営を実現させようという流れになると考えられます」(松原氏)。
生成AIには間違える、根拠が不明、著作権の扱い、情報漏洩などの課題がある。しかし、それぞれ改善されてきている。松原氏は、「生成AIはT型フォードのようなもの」として次のように語る。「馬車に代わってT型フォードが登場し、ルールや免許制度ができました。死亡事故というデメリットはあるが、メリットの方が大きく車社会が形作られました。生成AIも同様で、メリットがデメリットより大きいため、今後ルールを整備し、道具として使っていくことになるでしょう」。
一方で中長期的な課題として、人間の思考や教育への影響がある。文章作成は知能に大きく影響するため、生成AIに作文を任せることはその劣化を引き起こしかねない。人間は生成AIが書いた文章をチェックする能力を保つ必要があり、そのため教育システムの見直しが必要となる。
最後に松原氏は、「これまで知能は、人間だけが持つ特別な能力でした。部分的にとはいえ、AIがそこを侵食しつつあります。それを受け入れるのには若干の時間がかかるでしょう」と締めくくった。
特別講演
すかいらーくグループの生成AI活用
人材不足や多言語対応
顧客体験向上に立ち向かう
すかいらーくホールディングス
執行役員
マーケティング本部
マネージングディレクター
平野 曉氏
外食、中食、内食の3つの領域で様々なブランドの事業を展開するすかいらーくグループは、コロナ禍を経て「本部を中心としたコスト管理による経営」から「店舗中心経営」へと大きくかじを切った。すかいらーくホールディングス 平野氏は、「お客さまの選択眼が厳しくなる中、店舗での体験価値向上を重視しており、すべての取り組みは店舗のサポートのために行っています」と語る。
このような中、同社が現在課題と感じているのは次の4つである。
1つ目はIT/DX人材不足、2つ目は外国人クルーの増加に伴い多言語対応が急務であること、そして3つ目は 厳しくなる顧客の選択眼や移り変わるトレンドへの対応、4つ目は店舗DX化に伴う顧客接点の減少。
これらの課題に対する同社の取り組みを紹介する。
1つ目については、IT部門がコンサルティングやSI会社に対して開発委託をしていたスタイルから、ノンIT部門のスキル向上を進めて開発に巻き込むとともに、SEに常駐してもらい現場を見せて興味を持ってもらう開発スタイルに変更した。また部門ごとにDX選任担当者を任命しDXを推進。DXはあくまでも手段に過ぎず、業務を熟知する担当者による困りごとの改善により累計300件を超えるDX化を実現した。この活動の成功事例として、AIを活用したメニューブックのチェックや、チラシやのぼりなど各種クリエイティブの評価システムなどがある。
2つ目については、マニュアルを動画化し、AIを活用し多言語に翻訳するツールを導入した。翻訳だけでなく、今後クルーが利用するチャット、スケジュール、日報などの業務ツール群をまとめ、アシスタントのような形で、多様な人財一人ひとりの成長をサポートするツールにしていく予定だ。
3つ目については、コールセンターやアプリなどを通じて集まる顧客の声を、生成AIを活用して要約し可視化。関連する社員に公開し、対応が必要なものについては進捗管理まで行っている。その結果、クレーム件数が減少した。また自社アプリにポイント機能を付加し、喫食データとユーザーのひも付けによる密なコミュニケーションを実施。一方で現在不足している細かいセグメントへのアプローチを実現するため、生成AIの活用に取り組んでいる。
4つ目については、店舗DX化で、デジタルメニューブック、配膳ロボット、セルフレジを導入し、顧客とクルーとの接点が減少する状況下で、店舗の研修やトレーニング時間に投資し、人によるサービスの価値向上を図っている。また、「AI Co店長」という実験を進めている。これは、メニュー選択のアドバイスをするコンシェルジュ機能、困り事や不満をその場で解決するお客様相談室機能を提供する。
「生成AIの活用はまだ始めたばかりで、不完全でも現場で使って、改善するようにしています。また生成AIの進化スピードに追随するため、データは多少無駄だと思ってもできるだけ収集し、生成AIとのインターフェースはゆるやかにしています。これによって、業務システムと生成AI、両者の成長を両立できると考えています」(平野氏)。

