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消費者の購買行動が激変して久しい。
店舗とECを見比べ、体験価値も重視される。
店頭で接客を担う人材不足も悩みの種だ。
解決の一歩はデータ連携。DXの出番だ。
ビジネスモデル変革と業務改革を成し遂げた先に
最強のDX商人は誕生する。その実像に迫ってみる。

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大丸松坂屋百貨店の、デジタル技術の生かし方
デジタル戦略のプロが伝授
店舗DX成功の「方程式」とは?

店舗DXには事業戦略が不可欠――。そう喝破するのは、大丸松坂屋百貨店常務執行役員デジタル戦略推進室長の林直孝氏だ。持株会社であるJ.フロント リテイリングではこの2月まで、執行役常務デジタル戦略統括部長。経験豊かな林氏に事業戦略の実現に向けたデジタル技術の生かし方を聞く。

林 直孝
大丸松坂屋百貨店
常務執行役員
デジタル戦略推進室長

パルコ入社後、店舗、本部勤務などを経てWEBマーケティング部で同社のデジタルマーケティング、オムニチャネル化を推進。2017年、ショッピングセンターのDXを具現化するため「デジタルSC(ショッピングセンター)プラットフォーム」戦略の推進を担当。2022年より持株会社のJ.フロント リテイリング執行役常務グループデジタル統括部長。2025年より現職。

●図1 JFRの2030年に目指す姿「価値共創リテーラー」「感動共創」「地域共栄」「環境共生」3つの価値を創造し、エリア、顧客、コンテンツの3領域にシナジーを追求。目指すはパルコ、大丸・松坂屋などグループ企業全体の一体化だ(出所:JFRの資料を基に作成)

誤解してはいけない。デジタル技術の活用は決して目的ではない。目的を達成するためのあくまで手段。そこをまず、肝に銘じたい。

「インターネット登場前から小売業を確立してきた歴史ある企業ほど、目的と手段を取り違えかねない。目的はあくまで、事業戦略の実現です」。J.フロント リテイリング(JFR)傘下の大丸松坂屋百貨店で常務執行役員デジタル戦略推進室長を務める林直孝氏は、店舗DXの肝を語る。

前任のJFR執行役時代からグループ事業戦略を実現するためデジタル技術の活用に取り組んできた。その戦略とは、中期経営計画(2024~26年度)で打ち出した3つの価値を生み出す「価値共創リテーラー」(図1)という将来像の実現。3つの価値には、「感動共創」「地域共栄」「環境共生」が挙がる。

●図1 JFRの2030年に目指す姿「価値共創リテーラー」「感動共創」「地域共栄」「環境共生」3つの価値を創造し、エリア、顧客、コンテンツの3領域にシナジーを追求。目指すはパルコ、大丸・松坂屋などグループ企業全体の一体化だ(出所:JFRの資料を基に作成)

実店舗の空間価値向上を
閉店後のAR活用で実証

これらの価値創造でデジタル技術をどう活用してきたか、林氏は一つひとつ丁寧に解説する。

まず「感動共創」の一例に挙げるのは、閉店後の百貨店内で米アップル製ゴーグル型ヘッドマウントディスプレーを装着するホラー体験イベントだ。2025年2月に実証実験として実施した。「日常的に利用できない空間でのホラー体験を通して、非日常感を楽しんでもらう狙いです」。

JFRでは2024年4月、XRプラットフォーム「STYLY」を運営する同名の企業であるSTYLYやKDDIと、空間コンピューティング時代の事業創出を目的に共創型オープンイノベーションラボを立ち上げた。実証実験は、ラボの取り組みの一環だ。

「コロナ禍をきっかけに、私たちはリアル店舗での買い物の楽しさを再認識したと思います。その影響を脱し、リアル店舗の空間価値をさらに魅力的なものにしていく試みの一つです」

次に「地域共栄」には、JFRグループの博多大丸が主宰する「九州探検隊」でのデジタル技術の活用例を挙げる。「九州探検隊」とは、九州の自治体と協力しながら地元の優れたモノやコトを発掘し、九州の魅力として全国に広く発信する取り組みだ。

「従来は、発掘したモノやコトを店舗やオンラインを通じて情報発信や販売を行っていました。一方で優れたモノやコトを生み出す生産者・事業者の資金調達や、消費者との間のコミュニティー運営には課題を抱えていました」

そこでブロックチェーン技術を基に構築した、トークン売買プラットフォームを運営するフィナンシェと連携し、課題の克服に向けた仕組みを整えた。2023年4月には、JFRとしても同社に出資し、地方創生モデルの創出を目指す方針を公表済みだ。

「地域共栄」の観点ではメタバース事業も活用する。

●図2 「地域共栄」メタバース事業 島根県の伝統芸能「石見神楽」のメタバース化を自治体と企画。演目内の衣装はアバター販売サイトで無料配布する(画像提供:大丸松坂屋百貨店)

JFRグループが手掛けるメタバース事業は2つある。1つは、先ほど紹介したホラー体験イベントのような仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術を用いたもの。もう1つが、仮想空間で提供するものである。

「地域共栄」という価値の創出には、仮想空間で提供するものを役立てる。大丸松坂屋百貨店が島根県江津市の協力の下で制作した伝統芸能「石見神楽」のメタバース(図2)は、その一例だ。公開は2025年5月。衣装を同社アバター販売公式サイトで無償配布する。

●図2 「地域共栄」メタバース事業 島根県の伝統芸能「石見神楽」のメタバース化を自治体と企画。演目内の衣装はアバター販売サイトで無料配布する(画像提供:大丸松坂屋百貨店)

CX・EXの向上を目指し
その先に事業戦略の実現

最後は「環境共生」。大丸松坂屋百貨店が2021年3月にサービスを提供し始めた月額定額制ファッションレンタル事業「AnotherADdress」(図3)を、その典型例として挙げる。

●図3 環境型のビジネスモデルを構築した「AnotherADdress」440を超える国内外のデザイナーズブランドをレンタルできる、ファッションサブスクリプションサービス。2025年6月、法人向けの新サービス「AnotherADdress.biz」を開始した(画像提供:大丸松坂屋百貨店)

事業立ち上げの背景には、大量廃棄の問題がある。それに向き合うことを企業の社会的責務と捉え、アパレル、配送、クリーニング、リサイクルなどの各事業者と、従来と異なるビジネスモデルを構築した。

冒頭3つの価値創出はJFRの事業戦略による同グループ特有のものだが、その手前には、どの企業にも共通するプロセスがある。CX(顧客体験)やEX(従業員体験)の向上だ。

●図4 JFRの方程式「DX=CXとEX」CXとEXを、デジタルの力で向上させる。これがJFRのDXであり、図1で示した3つの共創価値の創造に寄与する(出所:JFRの資料を基に作成)

「店舗DXを因数分解すると、CXとEXになります(図4)。JFRグループにとって店舗DXの本質は、デジタル技術を用いてCXとEXを向上させる改革です」と林氏はシンプルに説く。

●図4 JFRの方程式「DX=CXとEX」CXとEXを、デジタルの力で向上させる。これがJFRのDXであり、図1で示した3つの共創価値の創造に寄与する(出所:JFRの資料を基に作成)

CX向上を目指す上で意識したいのは、データ活用の重要性だ。スマートフォン用アプリケーションやWeb上のECサイトなどデジタル接点が増え、顧客データは格段に増えた。活用しない手はない。

傘下の大丸・松坂屋とパルコの立地が重なり合う中、JFRでは各社のデータを横断的に分析。「どちらも利用する顧客ほど、関係性を長く継続しやすいと分かった。その結果を、顧客に再び来店してもらうための仕掛けづくりに生かしています」(林氏)。

一方EX向上では、デジタル技術の活用で業務の効率化を進めていくことを意識したい。「店舗DXに向け経営者が旗を振っても、従業員に時間の余裕がなければ広がらない。デジタル技術を生かし、業務の効率化を進めていく必要があります」(林氏)。

店舗DX成功の秘訣を、林氏はこう総括する。「CX・EXの向上、その両軸でデジタル技術を活用していく必要があります。その達成を果たせれば、事業戦略の実現という目的にベクトルは向かい始めます」。

Contents

総論

大丸松坂屋百貨店の、デジタル技術の生かし方デジタル戦略のプロが伝授
店舗DX成功の「方程式」とは?

アドインテ

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