主催者セッション
三井倉庫×花王×野村総合研究所

花王
執行役員 ロジスティクス部門統括
CLO(物流統括管理者)
森 信介 氏
改正物流効率化法への対応を背景に、一定規模以上の特定荷主や特定連鎖化事業者には、物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられた。制度対応を出発点に、物流を現場の改善テーマから経営課題へと引き上げる動きが広がっている。問われているのは、荷主、物流事業者、取引先をまたいで、サプライチェーン全体をどう最適化するかだ。荷主と物流企業双方の視点から、サプライチェーン高度化に向けたアプローチと、CLOに求められるリーダーシップのあり方を議論した。
花王はメーカー物流と販売物流を自社グループで担っており、荷主と運送の双方の視点から改善を企画・実行できる点に特徴がある。2026年1月1日付で同社グループのCLO(物流統括管理者)に就任した森氏はその役割について「経営と現場、社内と社外をつなぐ結節点にならねばならない」と語る。
実際に花王では、業界をまたぐ9社の荷主企業による共同配送コンソーシアム「CODE」や、大手小売業と連携したリードタイム緩和にも取り組んでいる。制度対応を起点に、物流を経営アジェンダへ引き上げる動きを具体化させている最中だ。

三井倉庫
上級執行役員 営業担当
鈴木 一豊 氏
物流事業者の立場から荷主企業の変化を指摘したのが、三井倉庫の鈴木氏だ。コロナ禍による物流混乱や2024年問題を経て、物流はコストセンターではなく、事業継続や競争力を左右する機能として捉えられ始めている。三井倉庫グループも、倉庫、港湾運送、航空輸送、陸上輸送、フォワーディング、海外物流、3PL、LLPなど物流機能を最適に組み合わせ、調達・生産・販売物流の川上から川下まで一貫したサービスを提供する体制を整えてきた。
地政学リスクを踏まえてサプライチェーンそのものを見直したいという相談も増えている。鈴木氏は「改正物流効率化法をきっかけに、物流を経営課題として位置づける動きが荷主企業のなかでも非常に増えている」と述べ、議論のレイヤーが現場改善から経営戦略へ移りつつあるとの認識を示す。
野村総合研究所の藤野氏は、制度対応を「ゴールではなく、サプライチェーンマネジメント全体を革新するためのトリガー」と位置づける。CLOの役割を短期的な物流原価の削減に矮小化してはならないとし、CLOは商品開発・マーケティング、営業、経営企画、財務と同じレベルで経営会議に参加し、中長期の企業価値向上に向けた各種の投資意思決定に責任を持つべき存在であるという。「中長期の経営戦略を実現するために、どのようなサプライチェーンのネットワークや情報連携を行うか、また荷主間、荷主と物流事業者間での契約の変更を行うかが日々CLOには問われているからである」と述べた。

野村総合研究所
産業ITイノベーション事業本部
シニアチーフストラテジスト
藤野 直明 氏
CLOを機能させるうえで欠かせないのが、物流事業者との関係性の見直しである。従来のように荷主が一括委託し、物流事業者が作業を一括で受託請負するだけでは、サプライチェーン全体の改善は進みにくい。
森氏は、荷主と物流事業者が中長期の戦略パートナーになるには共通のKPIを持つことが重要だと述べたうえで、「積載率、CO2削減、車両の待機時間など、双方が同じ指標を見ながら、目標に向かってどう取り組むかを共有しなければ、本当の戦略パートナーにはなれない」と語る。
こうした変化に対応するため、三井倉庫が近年力を入れているのがLLP(Lead Logistics Partner)である。同社ではLLPを、荷主と共にサプライチェーンを構築するサービスとして展開している。顧客からデータを受け取り、現状を分析・可視化したうえで、方向性の提示からオペレーション改善まで伴走する。
鈴木氏は、CLOの設置を機に、物流事業者に求められる役割も変わりつつあると見る。荷主から依頼された業務を担うだけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰し、戦略づくりの段階から関わることが求められているためだ。「荷主企業のサプライチェーン戦略を一緒に構築していくパートナーとしてのニーズが非常に高まっている」と述べ、国内外の拠点や国際輸送も含めて、最適な物流ネットワークを描く伴走型の役割が重要になるとの認識を示す。
一方で藤野氏は、荷主とパートナーとしての物流事業者、いわゆるLLPや4PLの関係を構築するには、荷主とLLP事業者との契約のあり方を再考する必要があるとの見解を示す。従来の3PL契約では、物流事業者は、例えば物流センター単位で業務を請け負い、作業量に応じて対価を受け取るという契約が多い。このため、改善によって作業量が削減されコストが下がると物流事業者側の売上も減りかねない。これでは、物流事業者が主体的に改善を続ける動機は乏しい。改善活動は現行契約では、利益相反の構造にあるのである。
そこで藤野氏が注目するのが、「LLP、4PLやコントラクトロジスティクス」の考え方だ。物流コストの構造(原価)を可視化(オープンブック)で荷主と共有し、個数ベースの単価ではなく、固定費や変動費、稼働率などのプロセス指標までを可視化し共有する。そのうえで、改善や改革の計画を共有し、改革によって生まれた成果を荷主と物流事業者で分け合うゲインシェア型の契約を、マネジメントの固定フィーとともに導入すれば、双方が同じ方向を向くことになる。従来の契約の延長線上では、理論上、利益相反と面従腹背の構造から脱却できないと藤野氏は警鐘を鳴らす。
「日本の場合、CLOの横にいて、サプライチェーン全体の改革を提案できるパートナーが必要とされている」と藤野氏は語る。「作業を請け負う関係から、成果を共に生み出す関係へ。物流事業者をCLOの真のパートナーとして位置づけ直せるかが、次の改革の鍵となる。従来の物流事業や3PLの枠組みとは一線を画す、新たなパートナーシップが求められている」というのだ。「もちろん、従来の物流センター単位での3PL事業がいきなり消滅するわけではないが、この2つの契約形態を使い分け、事業拡大に戦略的に応用できる物流事業者が今後、急速に台頭してくるだろう」と述べた。
企業単独の改善には限界がある。特に配送領域では、積載率の低さや車両不足、CO2排出量の削減といった課題を多くの企業が共通して抱えている。
花王が三菱食品とともに推進する共同配送コンソーシアム「CODE」が狙うのは、共同化が進みやすい幹線輸送ではなく、その先の配送領域である。森氏は「配送は積載率が50%に届くかどうかというケースもあり、各荷主が共通して課題を抱えている」と現状を明かす。
個社ではマッチングが難しくても、9社の配送データを重ね合わせれば、共同化できる余地は広がる。CODEでは各社が標準化した輸配送データを持ち寄り、まずはコースマッチングによる車両融通から始める。将来的には混載にも挑戦し、積載率向上やCO2削減につなげる考えだ。
花王は、商慣行の見直しにも取り組む。大手小売業と共同で進めるのが、当日受注・当日出荷について受注を前倒しし、リードタイムを緩和する取り組みである。受注から出荷までに余裕が生まれれば、荷主側は人員や配車を計画しやすくなり、小売側もセンター作業の負荷を平準化できる。
三井倉庫も、国内外で企業間連携の可能性を広げている。海外の複数サプライヤーの商品を積地側で仕分けし、地域ごとに日本の各DCへ輸送するバイヤーズコンソリデーションはその一例だ。コンテナ本数や通関件数、国内転送を減らし、在庫圧縮やリードタイム短縮につなげる。
さらに鈴木氏は、地方工場から国内主要港へ長距離輸送するのではなく、釜山のフリートレードゾーン倉庫を活用する提案にも触れる。国内の長距離輸送を抑えながら、北米や欧州向けの豊富な航路を活用し、輸出の柔軟性を高める取り組みだ。
企業間連携を広げるうえで前提となるのが、物流データの標準化である。各社が必要なデータを安全に持ち寄れる仕組みがなければ、共同配送の可能性を見極めることは難しい。森氏は、物流データを競争領域ではなく、協調領域として扱うことが重要だと見る。「自社製品を市場に届けるためのデータは商流そのものではない」とし、非競争領域のデータを各社が開示し、活用できる形に整えることが共同化を進める第一歩になると語る。
一方で鈴木氏は、企業間連携の前提となるデータ整備がまだ途上にある企業も少なくないと見る。共同配送やサプライチェーン全体の可視化を進めるには、まず自社の物流データを把握し、活用できる形に整えねばならない。「企業によっては、部門内に最適化された物流データを全社で活用できるよう整備していく段階にある」と言及する。
藤野氏は、企業間データ連携を進めるには、物流事業者が安価に業種を問わず連携できるデジタルの仕組み構築が重要だという。帰り荷の業種は多様だからである。そのためには、①事業所コードの統一、②(業種横断の)国際標準EDIの利用、③新しい企業間データ連携基盤、ウラノス・エコシステムの物流分野での活用、の3つを挙げる。
まず、受発注先、納品先、請求先の事業所属性情報を業種横断で特定できる仕組みの構築を訴える。具体的には、業種に依らず大規模荷主や物流事業者が既に登録している税関システムで使われており、信頼性の高い企業コード、事業所コードを国内物流にも活用することを提案する。
さらに近年、中小事業者の利用が拡大するSaaS系の荷主の物流業務システムやトラック事業者のERPなどの物流関連業務システムと、荷主間の取引に利用されている旧来VANとの連携に「(業種横断の)国際標準EDIを利用すること」が現実的という。特に、荷主間の商流EDIを支えるVAN事業者が、荷主と物流事業者との間のEDIサービスを、国際標準EDIを利用して開始、業種横断での共通のメッセージでやり取りできるようにする。AIを利用すれば容易であろう。さらに、データ連携基盤は、セキュアで信頼性が高い「新しい企業間データ連携基盤のウラノス・エコシステム上で行う」のである。こうすることで、物流事業者の帰り荷の調整がAIで瞬時にできるようなサービスが提供可能となり、物流事業者の稼働率向上、生産性が格段に向上するだろう。
CLOの設置は、制度対応として始まった取り組みに見えるかもしれない。だが本質は、物流を現場の効率化から経営戦略へと引き上げることにある。社内の壁を越え、物流事業者との関係を再設計し、業界を超えてデータをつなぐ。その先に、個別最適を超えたサプライチェーン改革が見えてくる。

主催者セッション
三井倉庫×花王×野村総合研究所
経営課題としての
サプライチェーン改革

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