デジタルガバメントが実現する豊かな未来

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Vol.4 地域課題を
デジタルの力で
解決するために
自治体や企業が
取り組むべきこととは

デジタル庁が設立され、行政のデジタル改革が本格的に始まった。地方のデジタル化を進めることで地域課題を解決し、地方と都市の双方を豊かにする「デジタル田園都市国家構想」も動き始めた。しかし、実現への道のりは決して平たんではない。デジタルの力を活用し、地域課題を解決するにはどうすればよいのか。官民の連携はどうすれば推進できるのか。デジタル庁統括官 国民向けサービスグループ長の村上敬亮氏、福岡県直方市 CIO補佐官の森戸裕一氏、富士通理事 首席エバンジェリストの中山五輪男氏が語り合った。

デジタルガバメントが実現する豊かな未来
※鼎談の一部を視聴いただけます。

日本がデジタル化の後れを挽回するために

――コロナ禍で日本のデジタル化の後れが露呈しました。後れを挽回するために、デジタル庁には何を期待しますか。

中山 「デジタル敗戦国」という言葉がメディアで流布していますが、日本がデジタル化で後れをとってしまっているのは否定できない事実だと思います。デジタル庁には、省庁間の風通しを良くし、縦割りを解消していってほしいですね。

森戸 政府は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、地方のデジタル化を進めることで地域課題を解決し、地方と都市の双方を豊かにするという構想を描いていますが、デジタル庁が旗振り役になって地方を変革してくれるのはとてもありがたいです。また、地域のDXを進めるには官民連携が必須ですが、デジタル庁がロードマップを発信してくれているので、非常に助かっています。

――デジタル庁には大きな期待が寄せられていますね。村上さんにお聞きしたいのですが、デジタル化を推進していくうえで、参考にしている国はありますか。

村上 電子政府の話でよく引き合いに出されるエストニアは、確かに進んでいます。また中国も取り組みのスピードが速いですし、技術的にも見るべきところはあります。ただ、エストニアの人口規模は東京都の10分の1以下ですから規模が異なりますし、中国も国の仕組みが違うので、そのまま参考にはなりません。

――新型コロナ対応の話ですと、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏の活躍が話題になりました。

中山 台湾は若い人を巻き込み、市民自らがデジタル技術を使って行政サービスを改善しようというシビックテックを活用し、デジタル化を推進しています。諮問委員会にも20代の人を入れるなど、極めてダイナミックな動きをしていると感じます。日本のデジタル庁も、デジタルネイティブの人たちの力をどんどん取り込んでいってほしいですね。

村上 実は、日本にもオードリー・タン氏がほめている、「地域経済分析システム(RESAS)」というものがあります。日本にもかのオードリー・タン氏に影響を与えるような動きが、部分的にはあるということです。それはともかく、若い世代を入れること自体はよいと思いますが、シニアにはシニアの想いがあり、シニアだからこそ気づく視点で解決できる課題もあります。つまり、それぞれの世代にそれぞれのデジタルがあるので、若ければよいというわけではありません。要は、多様性と向き合い、いかに包摂していくかがポイントになります。

 デジタル庁では最近、インクルーシブ・スクエアの話をよくしています。職住学遊が近接し、デジタルインフラが整った包摂性空間のことですが、この広場ではコミュニケーションに「トイレ」が大事だと考えています。リラックスできる狭い空間で多様な人が密度高く出会うと、非連続な変化としての新しい取り組みが生まれやすいということです。ですから私は「密度を信じろ、お互いをあおり合え」がキーワードになると言っています。

中山 いろいろな世代の人たちが集まって、濃い密度の中で、お互いにあおり合っていく。これが新しいアイデアやビジネスを生み出すためには大切なのですね。

村上 敬亮氏
デジタル庁 統括官 国民向けサービスグループ長

国民に伺うのではなく、巻き込むという姿勢が大事

――国のDXを推進するうえでは、官民連携が重要だと思いますが、どうすれば実現できるとお考えですか。

森戸 民間企業から見ると自治体は「 お役所」ですし、自治体からは民間企業は金儲けばかり考えているように見えやすいので、まずはお互いの立場を考えなければ連携しづらいと思います。今まで一緒にやってこなかったから組めない、と考えてしまう傾向もあります。昔ながらの業種やエリア内に限ったコミュニケーション方法では、連携という発想はなかなか生まれづらい。ですから、まずは地域の壁がなくなるオンラインでコミュニケーションを取ってみるのはどうでしょうか。

中山 官と民が連携して国民向けサービスを展開していく際に、IT企業の役割は大きいと思いますが、システムやサービスを作るときに独りよがりでなく、国民の声を広く集めることが大事になると考えています。

村上 もちろん国民の意見を聞くのは重要ですが、伺うという姿勢ではなく、巻き込むことが大事だと考えています。国民はお客様ではなく、一緒にやりましょうという雰囲気が出てこないといけないのではないでしょうか。ただ、なかには国民の意見を聞いて作らなければならないシステムもあります。例えばワクチン接種証明のQRコードシステムは、名前を知られたくないのでQRコードを読まれないようにしてほしいという意見が多く、画面の出し方を選べる仕組みにしました。このように、国民に意見を聞くべきものもあるのですが、現場で連携して真の変革を目指すプロジェクトを行うときは、国民をお客様にするのではなく、一緒に取り組む姿勢が大事だと思います。

――富士通には、変革に向けて社内を実験場にした面白い取り組みがあると聞きます。

中山 富士通は自らを変革する全社DXプロジェクト「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を進めており、そこでは社員の声を経営に反映する仕組みである「VOICE」を活用しています。富士通では以前から、まず社内を実験場とし、成果が出たものをサービスとして世の中に出していく形を取っています。

森戸 富士通グループは全世界で約13万人、国内でも9万人弱の社員がいますよね。私がCIO補佐官を務めている直方市は人口約5万6000人ですから、富士通は結構な規模の自治体と並ぶ人数で実証実験を行っているわけで、自治体のデータ収集においてもその取り組みは参考になります。

中山 富士通は川崎市に大きな工場を持ち、工場周辺には数多くの社員が住んでいることから、川崎市とは地域の課題解決に向けたスマートシティの取り組みを一緒になって推進しています。

森戸 裕一氏
日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事
福岡県直方市 CIO補佐官

地域の課題解決で重要なのは「公助」より「共助」

――地域の課題解決におけるポイントは何だとお考えですか。

村上 様々な事業者がばらばらにデジタルインフラ投資を行ったら、まずコスト面で回収できません。スマートシティがうまく進まない理由は、実は技術やソリューションではなく、そこにあります。ある共通の基盤を作ろうとしたとき、誰がコストを負担するか。まず思い浮かぶのが公助でしょう。ただ、スマートシティについて自治体が補助金を出すとしたら、関係する全事業者を対象にしなければなりません。例えばモビリティであれば、宅配業者、郵便、スーパーマーケット、さらにはバスやタクシーの事業者まで不特定多数に広がり、一体何台の車を買えばよいのかという話になってしまいます。

 求められるのは公助ではなく、様々な関係者が協働して地域の課題解決に取り組む「共助」です。そして共助は、不特定多数ではなく、特定多数でなければ有効なコストシェアのルールを作れません。私は、現状のスマートシティの取り組みは「山頂なき山登り」であると言ってきました。公助に頼って山登りを始めると、1合目かせいぜい2合目で補助金が切れ、そこで終わってしまいます。

 そうではなく、ある分野で共助により取り組みを進めると、データ連携基盤を通じて他分野でもその仕組みを活用でき、例えば自動走行車両の取り組みがヘルスケアなどにも広がって、やがてスマートシティという山頂が見えてきます。

森戸 高齢化、人口減少、地場産業の衰退など、地域は課題が山積みです。その解決にこれまでは補助金を利用してきましたが、これからは地域課題をネタにして新しいビジネスを作っていく必要があります。そのためには、多様な人や企業と組んでいかなければなりません。そのとき、地元も地元以外も、大手企業もベンチャー企業も集まりやすい広場を、自治体としてどうデザインして作るか。そして、この街にはこういう広場があると外に伝える広報の役割もこれまで以上に大事になってくるでしょう。

中山 富士通では社員が地域のために活動する「地域おこし協力隊」の取り組みを行っています。現在は宮崎県日南市と新潟県見附市で展開しており、前者は地域スポーツ情報の発信、後者は地産地消のPRや社会実験プロジェクトに参画しています。日南市の事例では、社会人女子バスケットボールチーム「富士通レッドウェーブ」の選手だった社員が引退後に地元に帰って支援しています。このほか、国内のスタートアップやベンチャー企業と一緒になって日本を盛り上げていく「富士通アクセラレータプログラム」も実施しています。

中山 五輪男氏
富士通 理事 首席エバンジェリスト

――とても興味深い取り組みですね。もう少し詳しく教えてください。

中山 コンサルテーション、都市OS、市民向けサービス、デジタルガバメント、AI・IoT活用、オープンイノベーションの6つのカテゴリーでスマートシティの取り組みを行っています。

 地場企業と連携して地域課題の解決を実践している事例をいくつか紹介しましょう。広島県のサンドボックス事業では、特産のカキのいかだの分布がわからず小型船舶同士の事故が多いという地域課題に対し、スマートフォンアプリとカメラ映像のAI分析によって事故を防ぐための支援を行っています。また岡山県吉備中央町では、個人の医療・健康情報を集積して一元管理し、救急・母子健康促進・教育・移動の各分野で活用する取り組みを進めています。

森戸 医療情報の話がありましたが、それをどのように個人に紐づけ、活用するかという点で、やはりマイナンバーという仕組みに注目したいですね。マイナンバーカードは、情報が漏れるのではといった不安が先立ち、あまり普及していませんが、これからは利便性を考えて持つべきではないかと思います。CIO補佐官としても、普及に向けた施策に力を入れていかなければなりません。

村上 マイナンバーカードは、実はそもそも本人認証の手段としてセキュリティが高いものです。ただ普及させるには、本人認証のレベルの高さを活かせる民間サービスとどんどん連携し、マイナンバーカードによって便利になることを地道に一つずつ増やしていくしかないと考えています。

――マイナンバーカードの普及は引き続き課題ですね。地方の課題解決に向けて、富士通はデジタル人材を派遣されているとお聞きしました。

中山 地方ではデジタルに詳しい人材が不足しているという話をよく聞きます。そこで富士通は社員をデジタル人材として派遣しています。例えば、長野県伊那市では富士通社員が住民票も移して市民となって、県庁や市役所に入って、モバイルオフィス構築事業など地域課題を解決する取り組みを行っています。

――今日はありがとうございました。最後に、今後の意気込みや期待を聞かせてもらえますか。

村上 地方の課題を解決するには、とにかくあおって、あおって、やってもらう。何をやるのが正解というよりも、まずは取り組んでもらうことが大切だと思います。富士通をはじめ日本のIT産業にもより一層がんばっていただきたいですね。

森戸 富士通は自分たちの会社自体を実験場として、社員をあおっていろいろ新しいことに挑戦していることが分かりました。富士通グループだけではなく、地域のパートナーももっとあおっていただいて、さらなる自治体のサポートをお願いしたいと思います。

中山 国民向けのサービスをより良くするために、デジタル庁や自治体のみなさんと一緒に地域の課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

※本記事は「富士通Japan Online Days 2022」での鼎談を基に構成した

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