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Vol.19
生成AIは行政DXの切り札になるか?
先進自治体に見るAIへの期待と課題
大阪市と神戸市はデジタル化への積極的な取り組みを続けてきた。2市は2023年に生成AIの試行利用を始め、24年には活用を本格化して庁内業務の効率化を目指している。労働力人口の減少という環境変化の中で、行政サービスを維持・強化するためには業務の効率化が欠かせない。生成AIを適用することで見えてきた課題と可能性、さらには行政DXの方向性などについて、2市のデジタル化をリードするキーパーソンに語り合ってもらった。
行政における生成AI活用への
取り組みが本格化
――米オープンAIが22年11月に公開した「ChatGPT」は、その自然な対話能力で世界に衝撃を与えました。官民を問わず、今、様々な組織がその活用を模索しています。まず、両市の生成AIへの対応についてお聞きします。
吉岡 神戸市では23年春ごろから、庁内でも生成AIがよく話題に上るようになりました。そこで、23年夏から数カ月間、庁内での試行利用を行いました。マイクロソフトの「Azure OpenAI」ベースの独自環境を構築し、職員130人ほどが参加しました。文書作成支援などの利用法が多かったのですが、面白いアイデアもありました。例えば、架空の市民モデルをペルソナとして作成し、複数のペルソナから市の事業への意見を聞くというものです。ペルソナが政策の「壁打ち」相手になってくれます。生成AIの可能性を感じましたし、参加者からもおおむね好評でした。
鶴見 大阪市もほぼ同時期のスタートです。まず、デジタル統括室内に生成AI調査研究チームを設置しました。その活動を通じて接点のあった2社と一緒に、23年後半の数カ月間、実証実験を行いました。そのうち、PwC社との協業では、広報記事の文書作成業務などへの生成AIの活用をテーマに掲げ評価しました。一方のアマゾン ウェブ サービス社との実証では、AWSのAIエンジン(生成AI、機械学習など)を活用し、業務の効率化や業務品質の向上の可能性を探りました。生成AIを活用する際に、大きな課題となるのがAIが間違った回答をするハルシネーションです。そこで、大阪市のウェブサイトや行政文章などデータを生成AIが参照できるようにするRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)を導入することで、ハルシネーションを軽減できないか、検証しました。いずれも完璧とはいえないものの、注意すれば有効に使えるとの感触を得ました。
吉岡 RAGの検証は神戸市でも行っています。例えば、マニュアル類、条例、規則などを読み込ませて、生成AIの精度を高められないか。そうした検証を続けていますが、課題は読み込ませるデータをある程度整理しなければならないことです。工数のかかる作業ですし、もう少し研究が必要だと感じています。
大阪市
CDO補佐監・CIO・CISO デジタル統括室長
生成AI活用のための
ガイドラインづくり
吉岡 鶴見さんにお尋ねしたいのですが、複数の種類の生成AIを使ってみて、特性の違いをお感じになりましたか。
鶴見 正直、特性を見極められるレベルにまでは達していません。ただ、日本語の文法や言葉遣いについてのうまい下手は感じます。詳細は分かりませんが、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)開発過程で読み込ませる日本語の量と関係しているのかもしれません。
吉岡 日本語に特化したLLMが次々に登場すれば、生成AIとのやり取りはより自然なものになるかもしれません。日本のITベンダーの動きに注目したいですね。
鶴見 同感です。さらにいえば、生成AIの学習量は膨大ですが、そこには行政と全く関係のない知識が多く含まれています。行政特化型の言語モデルができれば、高い費用対効果が期待できるのではないでしょうか。
――次に、生成AIの使い方です。両市とも利用のガイドラインを定めていますね。
吉岡 神戸市は23年6月の試行開始に当たって、ガイドラインを策定しました。
鶴見 大阪市は24年1月、全部局の職員約700人が参加する試行利用を開始しました。生成AIに触れたことのない職員も多いので、生成AIの特徴やリスクの説明を含め、利用の参考になるようなガイドラインをつくりました。「べからず集」ではなく、文書作成など現場業務に役立つものにしたつもりです。プロンプトの事例集などもつくりました。
吉岡 神戸市で特徴的だと思うのは、23年にAI活用に関する条例改正を行ったことです。この条例で、AIへの入力が禁止される情報を定義しています。24年2月からは、全職員による本格利用が始まりました。試行期間はAzure OpenAIでしたが、本格利用では「Copilot」を採用しています。その際、Copilotは画像生成AIの機能も有しているのでガイドラインもバージョンアップしました。また、別冊のプロンプト集も用意しました。
鶴見 大阪市では24年4月から、Azure OpenAIの本格利用を予定しています。ユーザーの使い勝手をよくするには、プロンプト集だけでなく、いろいろな工夫が必要だと考えています。職員の自由に任せるだけだと、「ヘビーユーザー」と「名ばかりのユーザー」に二極化しかねません。大阪市では、Azure OpenAIを使いやすくするUI(ユーザーインターフェース)を独自開発しました。トップ画面からプロンプト集にアクセスすることもできます。生成AIを導入する最大の目的は、業務の効率化です。そうすると、今後は業務プロセスの中に生成AIを埋め込んで、「このプロセスでは生成AIを利用する」といったルールづくりが求められるかもしれません。
神戸市
企画調整局 デジタル戦略部 部長
ガバメントクラウドの
現状と課題
――生成AIを使いこなす上で、ITベンダーにはどのようなことを期待していますか。
鶴見 今後、特定用途向け生成AI、ソリューション埋め込み型の生成AIなど、多様なサービスが生まれると思います。技術動向や進化の方向性を見極めた上で、ITベンダーには適切な提案を期待したいですね。
吉岡 多種類の生成AIについて、職員がすべてを試した上で最適なものを選ぶというわけにはいきませんからね。「この生成AIが得意なのはこの業務」というように、専門家の目線でそれぞれの技術の特性に応じた提案をお願いしたいと思います。
鶴見 加えて、期待するのは行政の文書やデータとの融合についての知見です。既存の様々な情報を生成AIに読み込ませるためには、タグ付けなどの作業が必要です。手作業では無理なので、変換の仕組みあると便利です。一部登場しているとは思いますが、そうしたソリューションの拡充には期待しています。
――ここまで生成AIについてお話しいただきましたが、話題を少し広げて行政のデジタル化について伺います。デジタル庁は全国自治体の20業務の標準化とガバメントクラウドへの移行を掲げていますが、対応状況はいかがですか。
吉岡 神戸市はデジタル庁のガバメントクラウド先行事業に採択され、住民記録システムなどをガバメントクラウドにリフトする検証を進めてきました。現行システムをそのままAWSに移行する形です。これにより、従来のオンプレミスと比べてどのような課題が生じるかを検証しています。移行によって従来よりも費用がかさむという懸念はありますが、コスト低減の余地はあるでしょう。
鶴見 サービス事業者に対しては何度もRFI(Request For Information)をお願いしていますが、デジタル庁が目指す25年度末までに20業務というのは容易ではありません。現状、7業務については見通しが立っていますが、残る13業務は受注する事業者がいない状況です。全国の自治体が一斉にガバメントクラウドへの移行を進めようとしているので、事業者側に余力がないのです。そのため、ガバメントクラウドとオンプレミスの現行システムを並行運用する期間が長くなる可能性があります。クラウドとオンプレミスのデータ連携基盤など、追加的なシステムの構築が必要になるのではと懸念しています。
――最後に、今後注力したい分野などをお話しください。
吉岡 神戸市はフロントヤードとバックヤードの改革を進めています。フロントにおける代表例は市民からの電子申請です。スマホなどで多くの手続きができるようにすると同時に、それを使いやすいものにして電子申請率を高めます。一方で、電子申請から既存システムへの連携の部分では、手入力するプロセスがかなり残っているので整備が必要です。市民の利便性向上と庁内業務効率化の両方を、並行して進めていきたいと考えています。
鶴見 大阪市でも、フロントシステムと裏側の既存システムとの連携は大きな課題です。データを自動的に受け渡す仕組みづくりは重要なテーマです。また、既存システム間の連携という課題もあります。現状、AシステムのデータをBシステムに手入力するようなプロセスが相当残っています。こうした課題を解消するため、24年4月にバックオフィスDXプロジェクトをスタートさせる予定です。
(司会は日経BP 総合研究所 桔梗原富夫)
※肩書などは2024年3月公開当時のものになります



