デジタルガバメントが実現する豊かな未来

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Vol.18 デジタル駆使した変革を進め
「新しい自治の形」を目指す

奈良市長に2009年に初当選して以来、仲川げん氏は様々な改革を推し進めてきた。例えば、子育て支援施策に注力し、結果、奈良市は子育てしやすい街との評判を得ている。子育てだけでなく、行政サービス全般においてデジタル活用を極めて重視している。スマホなどで様々な行政手続きができる「奈良デジタル市役所」を拡充しているほか、庁内のDXも進行中だ。数十年先を見据えて、仲川氏はときに大胆な提言も行っている。

仲川 げん

奈良県奈良市長

子育てしやすい街に
ファミリー層を呼び込む

――奈良市は多方面で新しい取り組みを進めています。例えば、2022年の「共働き子育てしやすい街ランキング」(日本経済新聞社・日経BP社共同調査)において、関西で1位、全国で6位に入っています。

仲川 子育てで大きな負担を感じている方は少なくありません。どうしても避けられない負担はあるでしょうが、それ以外の部分について、地域社会でシェアできるものもあるはずです。1人目で苦労したために、次の出産を諦めるお母さんもいます。その苦労を誰かと分かち合うことができていれば、もしかしたら「もう1人ほしい」と思っていたかもしれません。そんな苦労を少しでも軽減できればと考えています。ただ、個人の価値観に関わるテーマだけに難しいですね。今は、結婚し出産して子育てをすることが、誰にとっても「正解」という時代ではありませんから。

――奈良市の人口への影響はありますか。

仲川 奈良市の総人口は約35万人ですが、昨年の出生は1800人で、死亡者は4500人ほどでした。自然減への打ち手は限られており、できるだけ社会増、つまり転入で補いたいと考えています。子育て支援はその一環ですが、もちろん以前からの住民も対象です。2022年の転入超過は842人。過去10年で最大のプラスですが、自然減のスピードには追い付きません。

――人口減少は日本全体の課題です。

仲川 今の人口を維持したいなら、大量の移民を受け入れるといったやり方しかないように思います。それを国民が受け入れるかどうか。数を数で補うという発想ではなく、ある程度の人口減を前提にして、社会の様々な仕組みを見直していく必要があるのではないか。デジタルはそのための重要なツールだと思います。

――子育てだけでなく、住民全体に行政サービスを届ける上で、デジタルの使い道は少なくありません。

仲川 デジタルというとハイテクのイメージで、何となく敬遠している方もいるかもしれません。しかし、今では本当に身近な存在です。子供が生まれて間もない時期、ずっと抱っこしているので、親は片手しか動かせないことがありますよね。そんなとき、スマホを使って片手で子育て相談ができれば便利でしょう。

 デジタル活用はすべての自治体、政府にとっての課題です。ただ、今は過渡期ということもあって、アナログとデジタル両方のプロセスが維持されています。大多数がデジタルを利用するようになれば、どこかのタイミングでアナログのプロセスを廃止するかどうかという判断が求められるでしょう。アナログ対応が必要な住民の多くは、社会的弱者といわれる人たちかもしれません。行政にとって、非常に悩ましい問題です。

仲川 げん氏

デジタル活用は自治体、
政府にとっての課題
ただ、今は過渡期でもある

DX推進リーダーが
ヨコ串として部門間をつなぐ

――次に、庁内のデジタル化についてうかがいます。

仲川 現在、庁内のすべての部門、すべての業務プロセスのデジタル化を推進しています。職員みんながデジタル担当であり、デジタル人材になる。そのような目標を掲げ、組織全体を巻き込んだ活動にしていきたいと思っています。

――リーダーに求められる役割は大きいですね。

仲川 最終的に判断し責任を負うのは市長ですが、デジタルのような変化の激しい分野では専門家の力が欠かせません。奈良市のCIO(最高情報責任者)は経験豊かな専門家であり、部長級職員でもあります。ICTに関する意思決定にも参加してもらっており、私も心強く感じています。

――自治体で外部の専門家を招く際には、CIO補佐官のポストを用意するケースが多いようですが、奈良市ではCIOなのですね。

仲川 プロパー職員から副首長クラスになった方がCIOに就き、外部出身の専門家が補佐官としてサポートするケースが一般的だと思います。私はICT化を推進する意思決定の中心に入ってもらいたいと考え、現在の中村眞CIOに声を掛けました。今から5年以上前のことです。

――官民を問わず、デジタル人材不足は切実な課題です。人材の採用や育成で気をつけている点などはありますか。

仲川 大きな課題です。奈良市では10年以上前から経験者採用を実施しており、一定の成果が上がっています。人材育成にも力を入れてきました。ただ、この分野は次々に新しい動きが起きるので、知識をアップデートし続けるのは大変です。

 現場での実践を通じて経験値を高めるというアプローチも重要です。庁内のデジタル化を推進するために、組織全体のヨコ串となるDX推進リーダーを各課に配置しました。これにより、DX推進リーダーが現場間でつながり、担当者が課題を持ち寄って議論する環境が生まれています。担当者が課題を持ち寄って議論する環境が生まれています。奈良市ではDX推進リーダーを設置するかなり前からRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しており、各課横断型での活用を実際に進めてきました。DX推進リーダーは、その体制を引き継ぎつつ、部局をまたがった課題解決をさらに強化するための組織として機能しています。この活動を通じて、職員の中で様々な課題やデジタル活用を、自分事化するマインドが醸成されてきたと感じています。

仲川 げん氏

職員が5分の1になっても
運営できる仕組みづくりを

――全職員をデジタル人材にできると、市役所も大きく変わりそうです。

仲川 今、奈良市には約2500人の正職員がいます。数十年先を見越して、庁内では「500人で回せるようにしよう」と話しています。みんながデジタルを駆使しつつ、創造的な仕事ができなければ、500人で行政サービスを担うことはできません。人件費が5分の1になれば、財政へのインパクトも大きい。奈良市の場合で100億円以上の余裕が生まれ、将来に向けた投資に回すことができます。

――行政サービスの効率を抜本的に高めるためのアプローチとしては、どのようなことが考えられるでしょうか。

仲川 奈良市は「デジタル市役所」を掲げて、パソコンやスマホで様々な手続きができるようにしています。市民からの申請書が届くと、職員がそれを見て問題がないかチェックします。このプロセスの自動化が次のテーマですが、そこで壁になるのが「ミスは許されない」という行政の文化です。手続きによって、ミスの許容度には濃淡があります。すべてにおいてミスが許されないようでは、抜本的な効率化は難しいと思います。

 例えば、住民への給付金であれば、庁内での確認なしで、申請に基づいて全件に給付する。事後的に抜き打ち検査をして、相応のペナルティーを科すといったプロセスにすれば、行政コストは大きく圧縮できます。また、住民が属性情報などを登録した上で「該当する給付金はすべて受け取る」にチェックを入れれば、申請しなくてもプッシュ型で給付金を受けるといった仕組みもできるでしょう。すると、申請手続きは不要になります。

 住民からの支払いも同様です。子供の通う学校の費用などについては、引き落とし用の口座を登録してもらう。10年以上前からこうした施策を提言してきましたが、変革の前に立ちはだかる壁は高い。申請主義のような長年の慣習、ミスは許されないという文化を変革することが最も大きな課題だと思っています。

仲川 げん氏

奈良市は「デジタル市役所」を掲げて
様々な手続きのデジタル化に
取り組んでいる

――最後に、今後取り組みたいことについて教えてください。

仲川 庁内の情報共有を進めてきましたが、その輪を地域社会につなげていこうとしています。例えば、地域の防災を担うみなさんや自治会などです。市と地域との連携はますます重要になると思います。

 ここ数年、月ヶ瀬という人口1000人強の地域では「Local Coop月ヶ瀬」というプロジェクトが進行中です。行政だけでなく、地域住民も一緒になって、ゴミ収集やスクールバスなどの公的サービスを担うというものです。人口減少によって市場が縮小し、様々なサービスが撤退するという負のサイクルに歯止めをかけたいと思っています。また、住民が自分たちで決め、自分たちで地域を運営するという新しい自治の形をぜひつくっていきたいですね。

(聞き手は日経BP 総合研究所 桔梗原富夫)

奈良県奈良市長
仲川 げん(本名・元庸)氏

立命館大学経済学部卒業。帝国石油株式会社(現 株式会社INPEX)及び奈良NPOセンターでの勤務を経て平成21年7月、当時全国で2番目に若い33歳で奈良市長に初当選。令和3年7月に奈良市長4期目に就任。

仲川 げん氏

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