デジタルガバメントが実現する豊かな未来

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Vol.5 オンライン座談会
デジタルガバメントの
実現に向けた期待と課題

新型コロナ対策では、日本の行政サービスのデジタル化の後れが改めて露呈した。こうしたなか、新たにデジタル庁が発足し、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」というミッションのもと、デジタルガバメントの実現に向けて本格的に動き出している。これからの行政サービスはどうあるべきか。デジタル化に向けての課題は何か。IT企業には何を期待するのか。DXに積極的に取り組む川崎市の福田紀彦市長、電子政府を研究する早稲田大学の岩﨑尚子教授、シビックテックの第一人者である関治之氏、首相主宰のデジタル田園都市国家構想実現会議構成員の若宮正子氏、そして富士通で公共分野のデジタル化に長年かかわってきた播俊太郎氏の5人に語ってもらった。

デジタルガバメントが実現する豊かな未来

なぜ日本はデジタル化で後れをとってしまったのか

――新型コロナウイルスの感染拡大への対応で、日本の行政サービスのデジタル化の後れが改めて浮き彫りになりました。何が原因だとお考えですか。

岩﨑 確かにデジタル化への後れは指摘されていますが、日本はネットワークインフラにおいては世界トップレベルですし、政府CIOも海外に比べて早く導入してきました。ただ、日本の行政は現場力のレベルが高く、平時には優位性があったのですが、今回のコロナ禍のような有事では縦割り行政や中央と地方の連携不足、ペーパーの優先、標準化の問題などが後れにつながったと考えています。

 現場の自治体職員は現場での業務においてはとても優秀です。一方で、現場力が強すぎるところが、逆に全体の最適化を阻んでしまったところがあると、自治体の中で仕事していて感じます。加えて、ICT部門の発言力や権限が弱いところがほとんどで、現場の作業を変えるほどの強いリーダーシップを発揮できていないことも理由だと思います。

 私はシステム開発の現場に長く携わってきました。DXが進まない理由の一つに我々ITベンダーの責任もあるとメディアからは指摘されます。そもそも行政は、法律・政令といったルールに忠実で、前例主義でもあります。このような行政のあり方を前に、ベンダー側から現場の大きな変化を伴うような提案をしづらかったのは確かです。そういう意味で、発注者の意向に沿ったものづくりを優先し、国民目線・利用者視点で課題に取り組む姿勢がベンダーにも乏しかったという状況はあります。

福田 紀彦氏
福田 紀彦氏
神奈川県川崎市 市長

福田 原因は3点あると思います。1つ目は、行政手続きが対面・書面・押印・紙原本の確認が原則になっていること。本市では、全体の9割にあたる約4000の申請書の押印廃止を既に行っています。2つ目は、行政の実務で住民の個人情報を扱っているので、行政内部でも住民情報を扱うシステムは完全に分離し、情報連携が生まれないこと。そして、役所の中で人材が育っていないことです。

若宮 私は消費者目線からお話しします。まずDX推進は行政だけでは駄目で、官民が足なみをそろえなければできません。私はエストニアを勉強したことがあるのですが、元大統領が「エストニアの電子政府化が成功したのは銀行を口説き一緒に進めたからだ」とおっしゃっていました。それから、最近はIT化が進んだせいか企業への問い合わせなどもWebサイトのFAQを見なさいとだけ言って突き放したりして、IT社会は冷たいというイメージを抱かせてしまっています。ここも変えないといけません。そして、マイナンバーカード。今は税務署くらいしか使えないので、やっぱり税金の取りっぱぐれをなくすためのものなんだと不信感が持たれてしまいました。この3点をなんとかしなければいけないというのが、消費者目線からの意見です。

デジタルガバメントの実現には「豊かさ」がキーワードに

――これからの行政サービスとはどうあるべきだとお考えですか。

福田 川崎市では令和4年度までに何千種類もある行政手続きを基本的に全てオンライン化することを目指しています。また、子育て世代が多いので、育児相談のオンライン化も進めています。実際にオンラインに変えたことでアクセスが良くなったと言われますし、保育士などの業務もとても楽になりました。超高齢社会に向け、市の最重要課題である地域包括ケアシステムについても、情報をデジタルで共有するための基盤整備に取り組んでいます。このように、日常生活のデジタル化という観点でもっと多くのサービスを作っていかなければならないと考えています。

岩﨑 尚子氏
岩﨑 尚子氏
早稲田大学 電子政府・自治体研究所 教授

岩﨑 人々が利便性を実感し、幸福を実感できる社会にすることが必要です。早稲田大学電子政府・自治体研究所が毎年発表している電子政府ランキングでトップのデンマークは、幸福度が非常に高い国だといわれますが、デジタルとの相関関係があるという研究調査もあります。デンマークも日本と同じく高齢化に悩む国ですが、ほぼ100%近くデジタル化を推進しながら、“誰一人取り残さない”社会にするため、高齢者や障害者など、行政サービスをうまく受け取れない人にはアナログ方式を残す形で、社会全体の仕組みをつくっています。

関 治之氏
関 治之氏
コード・フォー・ジャパン代表 理事
デジタル庁 プロジェクトマネージャー

 私が専門にしているシビックテックは、いわゆる共助領域といわれる部分です。行政が全ての課題を解決するのではなく、地域の人たちが力を出し合いながら課題解決をしていく。この領域は非常に大切だと思っています。従来の行政サービスは決まったことを型通りに実施することは得意ですが、仕組みを変えるのは難しい。もちろん行政主導でやれることはどんどん進めつつ、地域の人々もポジティブに手を動かし、一緒にできることはやっていくことが必要でしょう。そうしたコラボレーションをより多くの人ができるようになると、社会は変わっていくはずです。

若宮 昨年末に台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タンさんと対談をしました。そのときオードリーさんは、高齢者が冷たいと感じずに満足できる行政サービスをデジタルで作るには、制度設計の段階から高齢者の意見をよく聞く、そして取り入れられるものは即取り入れることが大事だと話していました。そうすれば、高齢者のためを思って作られた仕組みなんだと実感できると言うのです。シニアのデジタル活用を推進するにはそういった考え方をしなければいけないのではないでしょうか。

 災害やパンデミックなど社会の変化によって「豊かさ」とは何かを考える機会が増えました。そんな中、富士通がデジタルガバメントに取り組む意義を考えることになり、幸福学をご専門とする慶應義塾大学の前野隆司教授から個人の幸福が「豊かさ」と深く関係していることを伺いました。これからの行政サービスに求められる要素としては、人のために何かができることで幸福度が上がる「利他性」、そして多様な選択肢から自分で選ぶことができる「主体性」の2つが挙げられると考えています。この2つを行政サービスで実現するには、行政と企業と個人、官・民・個の三位一体で、共的サービスにリデザインする必要があると富士通は考えています。
 福田市長は以前、行政がサービスを一方的に提供する時代は終わり、個人がほしいサービスを作ればよいというような話をされていました。関さんが取り組んでいるのがまさにその運動だと思いますが、富士通が考えるデジタルガバメントも近いイメージです。官・民・個が連携し、行政から個人に対してパーソナライズした情報をプッシュ型で届けること、そして個人の側も様々な情報を官側に提供していくことで、豊かさを実感できる共的サービスの実現に近づくのではないでしょうか。ただ、富士通だけで進めるのは難しいので、同じ目的に向かって進む仲間をどれだけ集められるかが鍵になると思っています。

新たに発足したデジタル庁への期待

――行政のデジタル化を進めるにあたり、司令塔となるデジタル庁が設置されました。デジタル庁には何を期待しますか。

岩﨑 当研究所の電子政府ランキング対象国64カ国のうち、日本のデジタル庁のような組織はまだ数えるほどの国にしか設置されていません。デジタル庁は発足以降、DXを一気に進めていますが、国民の声をしっかり吸い上げてソリューションに活かすなど、多様な取り組みに対して、スピード感をもって進めていると感じます。何より、これまで日本の行政の構造的弱点とされてきた電子政府(中央)と電子自治体(地方)の総合的連携強化にDXの司令塔としての役割に期待しています。

 私はデジタル庁の仕事もしているのですが、デジタル庁で働こうと思った理由は、オープンガバメント、国が重視するKPIの提示、デジタル公共財を作ること、この3つの推進を組織の中からお手伝いしたいと考えたからです。オープンガバメントは透明・参加・協働の推進、KPIは効率性や経済性だけでなく豊かさについても数字で示すこと、そしてデジタル公共財はオープンソースで共通化・標準化し、作ったものをシェアする仕組みをつくっていければと思います。

福田 これからは役所が持っている基盤を使い、民間とつながっていくことが重要です。そのためには情報連携が必要なので、個人情報保護に配慮しながら、情報連携に向けた法整備、突破していくための仕組みづくりなど、デジタル庁には多くを期待しています。また、政令指定都市は一般市町村と仕組みが異なるので、標準化にあたっては政令市の話もよく聞いたうえでの制度設計をお願いしたいですね。

若宮 正子氏
若宮 正子氏
ブロードバンドスクール協会 理事
デジタル田園都市国家構想実現会議 構成員、デジタル社会構想会議 構成員

若宮 私としては、やはり国民目線で、デジタル庁はデジタル改革の同志という思いで手を取り合いながらやっていかなければならないと思っています。デジタル庁もそういう気持ちで接してくれています。道はまだまだ遠いですが、ITとは基本的に相性が悪いもののゼロとイチばかりで考えないのは日本人の良さでもあるので、その良さを活かした取り組みもお願いしたいと思います。

播 俊太郎氏
播 俊太郎氏
富士通
公共デジタル事業本部 デジタルビジネス推進室 エグゼクティブディレクター

 若宮さんの言う同志とはまさに同じ目的を向く仲間のことですが、共的サービスを実現するにはそれに加えて官側の強いリーダーシップも必要です。デジタル庁にはぜひ強いリーダーシップを発揮してほしいですね。また、長年チャレンジしながらなかなかできない縦割り行政の改革も、なんとか実現してほしいと思います。

デジタルガバメントに向けITベンダーが果たすべき役割とは

――デジタル化を推進するにはITベンダーの力も不可欠だと思いますが、期待や要望をお聞かせください。

岩﨑 川崎市も富士通と一緒にいろいろ取り組んでいるとのことなので、ぜひお願いしたいのは、川崎市と富士通がタッグを組み、デジタルシティのモデルをつくってほしいということです。デジタル政府の研究を行う中で、デジタル技術を活用しながら人に寄り添うDXを進めることが、市民の幸福を実現していく住みよいまちづくりの成功要因になるのではないかと考えています。そこではやはりITベンダーの力が重要になるので、高齢社会と情報社会を融合していく技術戦略や、多世代共生型の社会づくりのパートナーとしての長期的視点を持っていただき、産・官・学・個が一緒になってデジタルシティの取り組みを進められればいいですね。

福田 まさに私たちもITベンダーはDXを進めていくうえでの重要なパートナーだと考えています。実際に富士通とは、市内の工場が立地するエリアを使い、ウェルビーイングな都市づくりのための議論を進めているところです。そこには住民も加わることが必要だというのが共通認識で、若宮さんのお話のように制度設計段階から住民に参加してもらい、モデルになるような成果を出していきたいと思います。

 これまでの囲い込み型モデルから脱却し、オープンエコシステムのリーダーとなって変革の推進をお願いしたいと思っています。様々な企業が参加できるプラットフォームを自治体向けに提案して多数のユースケースをつくり、そこで生まれた仕組みを海外に輸出していくことも大事でしょう。

若宮 デジタルの取り組みは国民に使ってもらうところでつまずきがちなので、ITを専門にする人と一般の人との交流を増やすことが必要ですよね。ただ一番大事なことは、施策の結果を公開・共有し、失敗を活かして次につなげていくことだと思います。

――播さん、皆さんから意見をお聞きしていかがですか。

 貴重なご意見をありがとうございます。富士通に限らず大きな企業には多くのお客様とビジネスパートナーがいるので、ITベンダーにはこうした人たちをつなげるハブとなる役割もあります。富士通の従業員は3万2000人、グループでは12万6000人いますから、社会実装する前にまず社内実践し、その成果を社会に伝えていくこともできるので、これからもいろいろと皆様のお力になれることがあるのではないかと考えています。

――本日はありがとうございました。

桔梗原 富夫
【聞き手】桔梗原 富夫
日経BP 総合研究所 フェロー

富士通が考える
デジタルガバメントのあり方

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