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Vol.7
デジタル化、規制改革、行政改革は一体で
成功体験の積み重ねがDX推進の鍵
日本のデジタル化を進めるためには、行政改革と規制改革を一体で遂行することが重要――。「テクノロジーの社会実装で、フェアで多様な社会を実現する」を政治信条に、規制改革に注力してきた小林史明 衆議院議員はこう話す。デジタルの力で、地方の個性を生かしながら社会課題の解決を目指すデジタル田園都市国家構想の推進には、「デジタルっていいね」と実感できる成功体験の積み重ねが大切とも。前デジタル副大臣兼内閣府副大臣であり、現在は自由民主党副幹事長を務め、長年、行政と社会のデジタル化推進政策をリードする小林氏に、行政DX・地域DXの課題と目指すべき姿について、日経BP 総合研究所フェロー 桔梗原富夫が聞いた。
小林 史明氏
衆議院議員
自由民主党副幹事長
党デジタル社会推進本部事務局長
技術的には実行可能でも、ルール上できないことが多い
――日本はデジタル化で世界に後れを取っています。この状況を変えるには何が重要でしょうか。
小林 行政の話で言うと、単にデジタル化に取り組むのではなく、行政改革と規制改革を一体で遂行することが重要です。技術的には実現可能でも、法律上できないとか、行政のルールとしてできないことが非常に多いからです。いくつかの経験がありますが、それを強く実感したのは、菅義偉内閣で新型コロナワクチン接種を担当した河野規制改革担当大臣を補佐したときです。私は「ワクチン接種記録システム」の開発・運用をリードしました。
各自治体が住民の接種台帳を管理していますが、こうしたデータをクラウドに集約する仕組みを構築しようと考えました。全国民の接種データをクラウドで管理すれば、一定品質の業務をより効率的に実行できるでしょう。ボトルネックは技術ではなく、ルールでした。
例えば、マイナンバーを利用できるのか、個人情報保護法上そのようなデータの扱いが許されるのか。また、自治体ごとにプライバシー影響評価を行う必要があります。これらの障害をすべて乗り越えるには、相当の時間がかかります。行政の在り方や規制を見直すことの重要性を改めて痛感しました。
――デジタルはあくまで手段であり、何をどう変革するかが重要ということですね。デジタルによって、行政サービスをどのように変えるべきだとお考えですか。
小林 方向性の1つとして提案しているのが、プッシュ型の行政サービスへの転換です。従来の行政は申請主義で、サービスを受けたい人は窓口に行ったり、申請書などをネットや郵送で役所に届けたりする必要がありました。これからは、自ら手を挙げなくても、必要とする人に対して「よかったら、このサービスを利用しませんか」と、通知されるような仕組みを提供したいと考えています。
新しいサービスを生み出すためには、行政組織の多様性が重要だと思います。中央と地方を問わず、同じ役所で何十年も過ごした公務員の中だけで議論をしても限界があります。組織の多様性をいかに高めるか、その多様性をいかに活力に変えるか。さらに、デジタルを行政サービスの拡充につなげるような工夫が求められます。
――多様性のある組織を、デジタル庁は体現しているかと思います。各省庁から集結した公務員だけではなく、民間出身者を多数採用しています。
小林 それだけではなく、自治体からの出向者もいますし、マイナンバー制度関連システムの構築や自治体の情報化を支援するJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)から参画した職員もいます。自治体の現場をよく知っている方々がチームに加わったことで、システムづくりにユーザー視点が強く反映されるようになりました。これには大きな意味があると思っています。
デジタル、デザイン、ダイバーシティの「3つのD」が地域DXの鍵
――政府の推進する「デジタル田園都市国家構想」を受けて、多くの自治体が地域DXに取り組んでいます。デジタルによって地域間格差を解消し、Well-beingを高めるという考え方は素晴らしいと思いますが、実現するのは容易ではありません。各地域が成果を生み出す上で、何が大事だとお考えですか。
小林 最も重要なのは成功体験だと思います。デジタルを使って暮らしが便利になった、仕事が楽になった、お客様が増えた。すごく大きなことでなくてもいいので、「デジタルっていいね」と実感できるような体験をどれだけ多くの人に届けることができるか。成功体験が積み重なれば、地域を超えて、日本全体のDXを進める力になるでしょう。
地域のDX推進の鍵は
「デジタルっていいね」と
体験してもらえるかどうか
都市部に比べると、地方ではデジタルに接する機会が多くありません。手軽にデジタル体験ができるような機会をつくろうと、デジタル田園都市国家構想の交付金を使って全国で拠点整備を進めています。私が注目しているのが、全国に1万5000近くある公民館です。いわば、公民館DXによる地方創生です。ネット予約とスマートロック、Wi-Fiが3点セットです。オンラインで公民館を予約でき、スマートフォンのアプリで鍵を開ける。身近なデジタル体験は、人びとの意識を大きく底上げするでしょう。
――以前は各自治体がサーバーを調達し、ゼロからシステムを構築するのが一般的でした。クラウドの普及によって考え方が大きく変わりつつあります。
小林 これからは、国がインフラの構築や運用を担います。自治体は余裕ができた分、その労力を市民に向けてほしいと思います。今後の方向として参考になるのは、英国政府が運営しているデジタルマーケットプレース(DMP)です。仕組みはスマホのアプリマーケットと同じです。DMPには多くのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)アプリが並んでいて、自治体などのユーザー団体は必要なものをダウンロードして利用します。簡単かつスピーディーにSaaSを実装し、行政サービスを拡充することができます。
英国モデルとは異なりますが、デジタル田園都市国家構想も基本的には同じ考え方です。ある自治体が勝ちパターンをつくったら、それを他の自治体がまねすればいい。成功モデルを横展開することで、全国の地域DXを効率的、効果的に進めることができる。スピードも格段に上がるはずです。
――地域DXの成功モデルを生み出すためには、どのような体制や仕組みが求められるでしょうか。
小林 そこでも多様性が重要です。私は「3つのD」と言っています。デジタル、デザイン、ダイバーシティの3つを掛け合わせた場をつくるということです。公民館でもどこでもよいのですが、地域にそうした拠点があれば、アイデアやその実践が生まれる可能性が高まる。そこには、多様なバックグラウンドを持つ人たちが定期的に集まる必要がありますし、コミュニティのハブになるキーパーソンの存在も重要です。
――都市から地方への移住、あるいはワーケーションのような形で地方を訪れる人もいます。ただ、地域に溶け込めずに長続きしないケースも少なくないようです。コミュニティの多様性を高めるチャンスなのですが。
小林 長続きの鍵は人と場だと思います。キーパーソン、あるいはおせっかいを焼いてくれる人がいること。そして、「ここに行けば誰かとつながれる」と思える場所があることが大事です。一方で、大都市で働いている人はもっと地方に目を向けてほしいし、都市部で多くの従業員を抱えている企業は、ぜひ地方に人を送り出してほしいと思います。社会課題の多くは地域にあります。そうした地域課題を現場で体感し、自分事として考えてほしい。そんな経験が発想を豊かにし、やがては課題解決のイノベーションにもつながると期待しています。
社会全体をデジタルツイン化する時代になる可能性も
――英国のDMPは非常に興味深いのですが、日本で同様の仕組みをつくるには何が必要になりますか。
小林 まず、調達の精度を高める必要があります。ソフトウエアの品質やセキュリティなどの観点で、行政サービスとして利用できる水準にあるかどうかを審査しなければなりません。審査をパスすれば、どの自治体でも使えるようにするのです。今までの調達ルールとは全く異なるので、ここでもルール整備が重要になります。
他方で、民間側も変わらなければなりません。これまで自治体向けにシステムを提供してきた事業者は、SaaSモデルにビジネスを転換する必要があります。
IT産業の構造変革にもつながる大きなテーマだけに、企業や個人にとって容易なことではないと思います。個人のレベルでは、SIerで働くエンジニアのリスキリングは必須です。経営者にも大きな決断が求められます。ただ、従来型のビジネスモデルを、長期にわたって維持できないことは明らかです。
――変わるには、今が最後のチャンスといえるかもしれませんね。
小林 そういうタイミングが来ているのだと思います。大きな変革を促し、サポートするのも政府の役割だと考えています。事業者にとって、これまでのビジネスモデルから離れることに不安はあると思いますが、優れたSaaSアプリを生み出せば全国の自治体に販売することができる。英語バージョンなどを用意すれば、海外にも展開できるようになります。
例えば、北海道の北見市と地元事業者が一緒に開発した「書かない窓口」は好例です。役所の窓口で書類に記入することなく、様々な手続きができるという優れモノで、他の自治体への導入も増えています。これからの時代、これが地方でITに携わる事業者のビジネスモデルだと思います。できるだけ早い時期に、このような素晴らしい行政アプリをそろえたマーケットプレースを開設したいですね。
――今、AIをはじめ様々なテクノロジーが急速に進化していますが、注目している技術や技術活用はありますか。
注目技術はデジタルツイン
イノベーションを生むには
トライアル&エラーが重要になる
小林 今、デジタルツインに注目しています。イノベーションを生み出すには、トライアル&エラーが容易にできることが肝要です。とりあえずプロトタイプをつくり、それを失敗しながら改善していく。このPDCAを高速回転させることが成功の鍵です。一方、日本の組織文化は「失敗を許容しない」とも言われます。精巧なデジタルツインがあれば、デジタル空間で何度でも失敗ができる。失敗し放題、チャレンジし放題です。
デジタルツインはビジネスの現場にも入り込んでいます。例えば、私の地元である広島県福山市は製造業の多い土地柄です。ある企業はデジタルツインを活用して、試作品づくりのプロセスを大幅にスピードアップしました。リアルな試作品を何度も修正するには相当の手間と時間がかかりますが、同じことをデジタルでシミュレーションするのは容易です。
今、デジタル臨時行政調査会のもとで、デジタルツインを用いて法改正のシミュレーションができないかという検討を進めています。ある法律を変えたときに、他の法律にどのような影響が及ぶか、あるいは現実社会のどの部分にどんなインパクトがあるのか。デジタル空間で問題点が分かれば、あらかじめ法律を修正しておくことができると考えています。
もちろん、克服すべき課題は多いのですが、理論的には可能です。将来は、社会そのものをデジタルツイン化して、様々なシミュレーションができる時代が来るかもしれません。
衆議院議員
自由民主党副幹事長
党デジタル社会推進本部事務局長
小林 史明 氏
2007年上智大学理工学部卒業後、同年NTTドコモ入社。12年衆院選初当選。総務大臣政務官兼内閣府大臣政務官、自由民主党青年局長、内閣府大臣補佐官、デジタル副大臣兼内閣府副大臣などを歴任し、22年自由民主党副幹事長。広島県出身。(写真:棚橋 亮)



