デジタルガバメントが実現する豊かな未来

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Vol.8 デジタル政府ランキングに見る
日本の行政DXの課題と解決への道のり

早稲田大学 電子政府・自治体研究所は毎年、デジタル政府ランキングを発表している。デジタル政府の進捗度を主要10指標で多角的に評価したもので、アジア太平洋経済協力(APEC)をはじめ世界の関係機関からも注目されている。2022年は、1位デンマーク、2位ニュージーランド、3位カナダ、……10位日本という順位だった。日本におけるデジタル政府の取り組みの課題はどこにあるのか。そして、課題解決に向けてはどうアプローチすればよいのか。2022年度版の公表を受けて、同研究所の岩﨑尚子教授に、日経BP 総合研究所フェローの桔梗原富夫が聞いた。

岩﨑 尚子

早稲田大学 電子政府・自治体研究所 教授

世界デジタル政府ランキングで日本は順位を下げ10位

――早稲田大学電子政府・自治体研究所は11月、「第17回早稲田大学世界デジタル政府ランキング 2022」を発表しました。調査概要と今回のランキング結果の特徴について教えてください。

岩﨑 本調査はICT先進国64カ国・地域を対象に、デジタル政府の進捗度を「デジタル・インフラ整備」や「行財政最適化」「オープン政府データ・DX」など10項目の指標で分析、評価したものです(注)。同種のものとしては国連(国際連合)の「世界電子政府ランキング」がありますが、これは2年に1度の調査で、ベンチマーク指標は3項目です。私たちの調査は毎年実施していることに加えて、より総合的、多角的な分析・評価ができているのではないかと自負しています。

 今回のランキングでは、デンマークが2年連続で総合1位となりました。前回との違いとして目立ったのは、ニュージーランドが7位から2位に大きく躍進したことです。また、新型コロナウイルス感染症対策としてデジタル化を加速した影響が大きいと思われますが、カナダが前回の5位から3位へと順位を上げています。

第17回早稲田大学世界デジタル政府総合ランキング 2022
1位デンマーク スコア:93.8018、2位ニュージーランド スコア:92.6098、3位カナダ スコア:91.7759、4位シンガポール スコア:91.6292、5位米国 スコア:9.0463、
※「世界デジタル政府ランキング 2022 年度版」(早稲田大学)の1位~20位までを抜粋
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――デンマークの評価が高い理由、ニュージーランドの順位が上昇した背景は何でしょうか。

岩﨑 行財政改革の成果もあって、財政的にもデジタル化を推進しやすい条件が整っています。また、新型コロナウイルス感染症への対策としてのデジタル施策が奏功した面も寄与しています。テクノロジーやイノベーションへの投資も盛んで、それが果実を生んでいることも重要でしょう。多くの国にとってデンマークはモデルになり得ると思います。

 ニュージーランドも近年、公共分野のデジタル投資に注力しており、それが結果につながりました。デジタルイノベーションにおいても、ニュージーランドでは最近多くの成果が生まれています。

――そうした上位国に対して、日本は10位です。

岩﨑 前回の9位から1つ順位を落としました。デジタル政府の先頭集団のスピードに対して、日本のそれは不足しているという言い方もできるでしょう。日本でデジタル庁が発足して1年余り、まだランキングを上げるような成果は出ていません。当初は組織の立ち上げに伴う苦労もあったと思いますが、今後に期待したいと思います。

 ランキングのトップ10はデジタル先進国と評価できると思いますが、上位5カ国と6位以下のスコアにはかなりの開きがあります。上位5カ国の共通点は公共分野における積極的なデジタル投資です。日本がデジタル政府を進化させて順位を上げるためには一層の投資が必要ですし、解決すべき課題も多いのが実情です。

(注)早稲田大学世界デジタル政府ランキングの評価モデルは、2005 年に研究所初代所長の小尾敏夫氏(早稲田大学名誉教授)によって開発され、ランキング手法が確立された。最新かつ正確な情報に基づいて分析・評価するために、NPO法人国際 CIO 学会(理事長:岩﨑尚子氏)の世界組織である IAC(International Academy of CIO)傘下の提携大学の専門家による合同研究調査チームを編成し、本研究調査が行われている。10指標は「デジタル・インフラ整備」「行財政最適化」「アプリケーション」「ポータルサイト」「CIO(最高情報責任者)」「戦略・振興」「市民参加」「オープン政府データ・DX」「セキュリティ」「先端技術」。
https://idg-waseda.jp/pdf/2022_Digital_Government_Ranking_Press_Release_Japanese.pdf

マイナンバーカードに紐づくサービス拡充が必要

――日本の課題をどのように見ていますか。

岩﨑 ランキング発表に合わせて、日本について多くの課題を指摘しています。いくつかに絞ってお話しすると、まず、官庁の縦割り行政、スピード感の欠如があります。縦割りの弊害に加え、官庁と自治体におけるデジタル化の遅れ、中央・地方間のデジタル連携の課題が、新型コロナウイルス感染症への対応プロセスの中で浮き彫りになりました。背景には、地方自治法に基づく意思決定の煩雑さがあります。

 中央と地方の関係をどのように整理し、スムーズな連携を実現するか――。こうした課題意識は、総理大臣諮問機関の第33次地方制度調査会でも共有されています。私はその委員を務めているのですが、それは前回の第32次のときから引き継いだテーマであり、地方自治法にも踏み込んだ議論が行われています。

 国民視点のデジタル化という観点でも、課題は少なくありません。ユーザビリティーやUI/UXの重視はデジタル政府の世界的な潮流になっています。利便性を高めるためには、住民に近い自治体の取り組みが鍵を握ります。ワンストップで便利な行政サービスを目指し、サービスイノベーションにつながる施策に注力する必要があります。

 すでに国民の6割程度が申請済みのマイナンバーカードは、ユーザビリティーを向上させる上で重要な手段です。今後、便利なカードにアプリやサービスをより付与することで、ユーザーオリエンテッドな仕組みにしていく必要があるでしょう。

――マイナンバーカードの活用には大きな可能性があります。

岩﨑 私は長らく控えていた海外出張を再開したのですが、少し前まで複雑だった日本への入国手続きがかなりスムーズになっていました。スマホのワクチン接種証明との連携もマイナンバーカードのおかげです。マイナンバーカードに紐づいた行政サービスをどれだけ増やすか、どれだけ便利にするかが課題です。別の観点では、“慣れ”の問題も大きい。多くの人たちがデジタル行政サービスに触れ、その体験を通じて利便性を実感するような機会を増やす必要があるでしょう。

――デジタル行政サービスが住民の豊かさや幸福につながる未来を実現するためにも、ユーザー視点は重要ですね。

 岩﨑 海外でも、最近は多くの政府がウェルビーイングを掲げるようになりました。先日、ASEANや中東の研究者、政府関係者と意見交換する機会があったのですが、「デジタル政府の目的は国民のウェルビーイング向上」という声を多くの方から聞きました。私も共感しますし、政府がそのような方向性を明示することは重要だと思います。

 デジタル化と幸福度には相関関係があるという研究成果があります。よく持ち出される例がデンマークです。日本におけるデジタル化と幸福度の関係についても、分析と研究を深める必要があると感じています。

「産官学+住民」の連携で地域DXを推進する

――政府は今、デジタル田園都市国家構想を推進しています。大きなテーマの1つは、成功した地域DXやスマートシティの展開です。

岩﨑 すでにいくつかの先進事例があります。先端技術ではAI活用の進む広域DX、アプリケーションでは自動運転のMaaSや、中山間地域の医療機関不足に対応したヘルスケアシティなども出てきました。ただ、全国の自治体は規模も経済も多様です。小さな村もあれば、政令指定都市もある。人材や予算などの面でも、自治体によって事情が異なります。すべての自治体に適用できるモデルはありません。

 とはいえ、横展開は重要です。それぞれの自治体がどの成功モデルを取り入れるかを適切に判断するためには、詳細かつ多面的な情報が不可欠。そうした情報を共有する場をさらに拡充する必要があるでしょう。また、全国への横展開の先には、海外展開もあるはずです。グローバルな視点から横展開を考えることで、よりよいサービスが生まれる可能性もあると思います。

――多くの先進事例に共通するのは、行政だけではなく民間を巻き込む仕組みを工夫していることだと思います。産官学の連携が重要なのではないでしょうか。

岩﨑 私は「産官学+住民」の連携と言いたいですね。近年、自治体と民間との協力関係は大きく進展しています。住民との関係づくりが上手な自治体は少なくありませんが、この部分についてはさらに注力する必要があると感じます。地域の困りごとやニーズを把握するため、ユーザー目線のサービス開発のためには住民の協力が不可欠です。

――デジタル田園都市国家構想が目指すのは「誰一人取り残されない」社会です。そのためには、どのような考え方や施策が求められますか。

岩﨑 日本における65歳以上の高齢者人口は3600万人を超えました。総人口に占める割合は30%弱です。そして、デジタル弱者の多くは高齢者です。誰一人取り残されない社会をつくるには、高齢者の社会参加、デジタル社会への包摂は大きな課題。最近は高齢者向けのスマホ教室のような取り組みを実施する自治体も増えていますし、こうした施策は高く評価できると思います。デジタル体験の機会の重要性について話しましたが、とりわけシニア向けの施策は重要です。もちろん、シニア以外のデジタル弱者への目配りも忘れてはいけません。

デジタル活用で日本が世界に貢献するために

――先ほどの、グローバル視点の横展開という話は興味深いですね。もう少し詳しく教えてください。

岩﨑 デジタル政府ランキングが対象にした60余りの国と地域の中でも、デジタルを持てる国と持たざる国の間には大きな格差があります。それ以外の国を含めれば、格差はさらに拡大します。途上国のデジタル政府、デジタル行政に対して日本がどのような貢献ができるのかを真剣に考える必要があります。SDGs2030の視点からも国際貢献でもあり、成長戦略にもなり得るでしょう。

 日本は今、少子化・超高齢化・人口減少社会に直面しています。社会の大きな構造変化の中で、デジタルをどのように活用して国民生活の利便性を高めるか。世界の多くの国が少子高齢化に向かいつつある中で、日本の取り組みに注目しています。ランキング発表時の提言においても、このテーマについて言及しました。日本が有効な対策モデルを提示できれば、それをカスタマイズして適用する国も現れるでしょう。ほかにも、世界に貢献できるデジタル活用の分野は多くあります。

――気候変動対策につながるDX、フードロスを減らすDXなど様々な社会課題解決の分野で、同じことが言えそうですね。

岩﨑 その通りです。17の目標を掲げたSDGsは2030年をターゲットとしていますが、その進捗度は当初の期待値を下回っているのではないでしょうか。持たざる国のSDGsへの取り組みに、先進国として日本はどのような支援ができるのか。デジタルは重要な手段です。

――最後に、早稲田大学 電子政府・自治体研究所について、将来に向けた抱負や方向性などをお聞かせください。

岩﨑 17年間ランキングを続けてきたので、すでに相当のデータが蓄積されています。このビッグデータを新しい切り口でとらえる、あるいはより精緻に分析することで、日本だけでなく世界におけるデジタル政府推進に寄与する知見を得ることができるはずです。当研究所が開発した評価指標などの成果が、世界で広く活用され、デジタル政府の発展に貢献することを願っていますし、そのためにも調査・研究をさらにレベルアップさせていきたいと思っています。

早稲田大学 電子政府・自治体研究所 教授
岩﨑 尚子

1975年生まれ。早稲田大大学院修了(博士)。専門はデジタルガバメント(電子政府・自治体)など。総務省「政策評価審議会」委員、内閣府「公文書管理委員会」専門委員、地方公共団体情報システム機構「機構処理事務特定個人情報等保護委員会」委員、「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」委員、「行政イノベーション研究会」委員、「ICT超高齢社会構想会議WG」、「スマートプラチナ社会推進会議戦略部会」、経済産業省「シルバー産業の国際展開に向けた課題の整理・分析」などに従事.東京都、千葉県、兵庫県をはじめ都道府県のデジタル戦略に委員として尽力。このほか、国際CIO学会世界連合副会長、APECスマートシルバーイノベーション委員長などを務める。

岩﨑 尚子氏

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