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Vol.13
Web3時代にデータの真正性・信頼性を担保し
「つなぐ技術」で新しい価値を創造する
データの正しさをいかに確保するかは、社会全体にとって重要なテーマだ。もし経済活動におけるあらゆる分野のサプライチェーンのどこかでデータの改ざんや不正があれば、経済活動の大きな混乱を招くかもしれない。富士通研究所のデータ&セキュリティ研究所は、データのセキュリティ、特にデータの真正性や信頼性を確保しつつ「つなぐ技術」に注力している。では、データのセキュリティやトラストを実現するためには何が必要になるのか。データ&セキュリティ研究所長である津田氏に、富士通のセキュリティ研究の今を聞いた。
津田 宏氏
富士通株式会社
フェロー
SVP 富士通研究所
研究本部データ&セキュリティ研究所長
トラストをベースに、多様なプレーヤーがつながる世界をつくる
――データ&セキュリティ分野の最近のトピックスを教えてください。
津田 先ごろ、当社は「Fujitsu Web3 Acceleration Platform」をグローバルで提供することを発表しました。Web3の本質はデータの非集中化です。セキュリティやトラストが確保される仕組みがあれば、いろいろなプレーヤーは安心してつながり、新しい価値創造が促進されるでしょう。このプラットフォームは、そんな社会づくりを目指した活動です。セキュリティというとこれまではもっぱら「守り」のイメージで語られていましが、これからは「攻め」のセキュリティにも注力したい。もちろん、攻撃という意味ではありませんよ(笑)。
――データの積極的な活用を後押しするためのセキュリティという意味ですね。近年、Web3への注目度が急速に高まっています。Web3時代にはセキュリティの考え方も変わるのでしょうか。
津田 Webの歴史を振り返ってみましょう。CERN(欧州原子核研究機構)にいたティム・バーナーズ=リーは、いろいろな研究者が入れ替わる組織の中で、情報がなくなってしまう事態をなくそうとして、Webのアイデアに行き着きました。様々な組織の人が作った情報が分散していても連携できる仕組みです。その後、GAFAを中心としたプラットフォーマーが隆盛するWeb2.0の時代が到来します。便利なサービスが次々生まれました。データはプラットフォーマーに集中して膨大な利益をもたらしましたが、その利益は個人にはほとんど還元されません。こうした状況を改めようというのが、Web3の目指す方向です。
データは抱えているだけでは価値を生まず、つなぐことで初めて価値を生みます。これからの時代、データをつなぐ技術が極めて重要。このような認識のもと、富士通は2010年代半ばごろから、守る技術だけでなく、つなぐ技術にセキュリティ研究の焦点を当ててきました。
――トラストというと、データの真正性を確保するブロックチェーン技術が思い浮かびます。
津田 私たちがブロックチェーンの研究を始めたのは、2014年ごろでした。ブロックチェーンはトラストに基づく経済活動を支える技術ですが、そこで生まれる経済圏は一つひとつが島のように孤立しています。インターネットやWebは世界に1つしかありません。だから、世界中の個人や企業がつながり、巨大な経済活動が行われています。それに対して、ブロックチェーンの世界は個別の経済圏が散在している状態。しかし、将来的にはそれらがつながり、大きな経済圏を形成するのではないかと考えています。
データは持つだけでは価値を生まず
つなぐことで価値が生まれる
コネクションチェーン技術と透過的トラスト技術
――島のようなブロックチェーンの経済圏を統合するための鍵は何でしょうか。
津田 私自身は、一種のトークンが大きな役割を担うと考えています。従来のトークンは特定事業者によって管理され、閉じた経済圏の中でサービスが運用されていました。複数事業者がトークンを共同管理するようになれば、ユーザーは経済圏を横断してトークンを利用できる。例えば、自治体や企業がCO2排出量削減に役立つライフスタイルに対して、トークンを発行します。ユーザーはそのトークンを貯めて、商品やサービスと引き換えるという具合です。
――安全かつ確実につなぐためには、どのような技術が必要ですか。
津田 富士通はつなぐ技術に注力してきました。代表的なものが、研究所で開発したコネクションチェーン技術です。複数のブロックチェーンの間を、別のブロックチェーンで接続して価値の交換を実現します。そこには、取引の透明性を実現する技術、複数サービス間での処理の整合性を確保する技術、様々なブロックチェーン基盤との接続性を確保する技術などが盛り込まれています。
――個人や企業がデータを盛んにやり取りする中で、一貫してデータの真正性を確保するのは容易ではないと思います。
津田 以前は「ここには正しいデータがたまっている(入れ物のセキュリティが確保されているから)」、「社内ネットワークの中はトラストが維持されている(境界で防御しているから)」といった考え方が一般的でした。しかし、その発想はいまでは通用しなくなっています。データそのものの真正性が保証されなければなりません。
例えば、取引先との間で刻々と流れるデータの正しさをいかに保証するか――。それは難しい問題です。まず、データを送ってきた相手が、本当にその人物なのか。次に、そのデータの中身は正しいのか、あるいは人物の意図通りに作成されたデータなのか。これらの問いにYesと答えられて初めて、そのデータを信頼することができます。
さらに、データのサプライチェーンを考える必要があります。A社がつくったデータをB社が加工し、それをC社が再加工するといった流れのどこかで、不正が起きるかもしれません。こうした課題を解決するため、富士通研究所は透過的トラスト技術を開発しました。これはデータがどのようにつくられたのかというプロセスと、その真正性を保証する技術です。例えば、組織間の伝票処理の効率化、メディア記事作成プロセスの透明化、コンテンツの所有者管理などの領域で活用できるでしょう。フェイクニュース対策などにも応用可能です。
コネクションチェーン技術と透過的トラスト技術は、いずれもFujitsu Web3 Acceleration Platformに搭載します。
新しい形態のデジタルツインが出現する
――データのサプライチェーンは、デジタルガバメントを推進する上でも重要な意味があるように思います。
津田 CO2排出量のトレーサビリティは、分かりやすい例かもしれません。モノのサプライチェーンには、工場やトラックなどでのCO2排出が伴います。行政が適切な規制を実施するためには、どこでどれだけのCO2が排出されたかという可視化が欠かせません。モノとデータのサプライチェーンを並行して走らせる必要があるのです。そのデータの信頼性をいかに確保するか。現在、富士通はすべてのCO2排出量を追跡するサプライチェーンの実証実験を行っています。
――自社だけでなく、これからはスコープ3、サプライチェーンの上流と下流におけるCO2排出量も把握する必要があります。正確な可視化は必須ですね。
津田 同じことが、CO2以外の領域でも求められるようになります。例えば、加工食品です。どのような原材料が、どのように用いられているのかを可視化すれば、消費者にとっても安心感やメリットがあるでしょう。サプライチェーンのデータの真正性、信頼性を支える技術はますます重要になると思います。
――モノのサプライチェーンの裏側に、データのサプライチェーンがある。デジタルツインのイメージです。
津田 デジタルツインは今後さらに進化するでしょう。一般に、デジタルツインはリアル世界の状態をデジタル空間で再現したものです。いわば、リアルが主で、デジタルは従。いま、その関係が逆転するタイプのものが現れつつあります。
コロナ禍で新たに生まれた業態の1つに、バーチャルレストランがあります。リアルの店舗や設備などは必要ありません。Webでの集客やレシピ提供などは行いますが、リアルの調理は既存の飲食店に、配達はウーバーイーツのようなところに外注します。このようなビジネスモデルではデジタルが主、リアルは従です。
これまで私たちはもっぱら、リアルからデジタルにいかに正しく情報を送るかを考えてきました。これからの時代はデジタルからリアルへの情報の流れにも注目し、リアル世界における真正性や信頼性を確保する必要がある。それをテクノロジーでいかに担保するか、最近はそんなことを考えています。
――急速に発展するAIを使いこなす上でも、データのセキュリティが重要になると思います。この観点では、どのような取り組みを進めていますか。
津田 最近、AIを「だます」手法が注目されています。例えば、先日ニューヨークで開催された小売業向け展示会「NRF2023」では、AIの商品検知アルゴリズムをだます特殊なシールのデモを行いました。スーパーのレジを通るとき、商品に特殊なシールを貼っておくと、レジ側のAIが安い商品と誤認してしまうというもの。このようなシールを悪用すれば、1万円の商品を1,000円で購入できることになります。
富士通は2023年4月、イスラエル・テルアビブ市にセキュリティ技術の拠点を開設します。現地の大学やスタートアップなどと連携して、研究開発活動をスタートしています。AIセキュリティは、重要な研究テーマの1つ。NRF2023で公開したデモは、この拠点での研究成果に基づくものです。さらにネットワークのトラストもイスラエルで強化する領域です。ネットワークの情報を使って、データや人がどこの国にあるかを保証することができれば、リアルとデジタルの両方の社会での信頼性が高まります。経済安全保障の観点からも、これらの研究を強化していきます。
(聞き手は日経BP 総合研究所 桔梗原富夫)



