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Vol.14
「Data e-TRUST」で
デジタルトラストの社会実装を加速する
プラットフォームにおけるデータの集中管理から、データの自己主権性を確保した上での分散管理へ。Web3というキーワードとともに、世界でこうした動きが広がりつつある。日本でも同様だ。富士通は2023年2月、グローバルパートナー共創プログラム「Fujitsu Web3 Acceleration Platform」を発表。Web3の世界で新たな体験やサービスを創出する取り組みを本格化させている。Web3によって、人びとの暮らしや社会はどのように変わるだろうか。トラストサービスの研究開発を行う富士通の今井氏に、Web3で広がる新しい世界とデジタルガバメントの可能性を聞いた。
今井 悟史氏
富士通株式会社
Uvance Core Technology本部
CaaS Strategy Office
トラストサービス開発部
部長
データ流通・活用を促進する研究の先にWeb3があった
――ここ最近、取り組んでいる研究開発について教えてください。
今井 ビットコインが2009年に使用が始まり、2010年代を通じて広く知られるようになりました。私たちはその基盤技術であるブロックチェーンに着目し、2010年代半ばごろから、この技術を広く情報の流通や活用に生かせるのではないかと考え、研究を進めてきました。2018年ごろになると、こうした研究活動がディセントラライズド(分散型)Webという概念とつながります。中央集権型で大量データを管理するのではなく、自分の情報は自分でコントロールする。その際、ブロックチェーン技術も大きな役割を担います。
考え方自体は、最近盛んに語られるWeb3とほぼ同じです。ただ、分散型Webが注目されるまでには時間がかかりました。というのは、それを使った具体的なサービスが少なかったからです。この状況に変化をもたらした一つの事例がNFT(Non-Fungible Token)です。NFTというユースケースによって、多くの人たちがデジタルコンテンツの権利を守りつつ、インターネットで流通させることができると気づきました。ブロックチェーン技術を用いてデータを流通させるという私たちの研究が、世の中の動きやニーズに出会ったといえるかもしれません。
――そうした研究活動が1つの形になったのが、2月に発表された「Fujitsu Web3 Acceleration Platform」ですね。
今井 富士通はデータやブロックチェーン技術、トラストを実現する技術などを「部品」として提供します。多くの企業がそれらを活用し組み合わせて、新しいビジネスや市場をつくってもらいたい。それがグローバルパートナー共創プログラム、Fujitsu Web3 Acceleration Platformの基本的な考え方です。
Fujitsu Web3 Acceleration Platformという「場」に、Web3に必要な様々な「部品」を用意しますので、興味のある方はどうぞ訪ねてきてください、そして一緒に新しい体験や価値、新しいエコシステムをつくりましょう。いま、そんなメッセージを世界に発信しています。
――では、その「部品」についてお聞きします。
今井 Fujitsu Web3 Acceleration Platformの中核に位置する「Fujitsu Computing as a Service(CaaS)」は、コンピューティング技術やソフトウエア技術を、誰でも容易に活用できるサービス群です。そのCaaS上に、「Data e-TRUST」というサービスが載っています。Data e-TRUSTの主要な要素は2つ。デジタルIDやデータの真正性の証明に用いられるデータウォレットを実現する「IDYX(IDentitY eXchange)」と、ブロックチェーン技術に基づく台帳データベース「Chain Data Lineage」です。
IDYXは分散型アイデンティティ管理を実現する技術であり、データウォレットを活用することで、自分の属性や経歴などを第三者が保証する形で証明できます。
さらに、Chain Data Lineageは、様々な利用シーンに応じて、データのハッシュ値の連結を柔軟にカスタマイズできるブロックチェーンを応用の台帳データベースです。様々な取引の証跡をエビデンスとして証明することができます。
これにより、デジタル環境上に分散された情報を安心・安全に活用可能にし、その中でやり取りされる情報や活動の「証明」を可能にすることでデジタルトラストを実現します。
Data e-TRUST:Web3テクノロジーによる信頼の担保
デジタル世界での信頼の確立が大きな可能性を開く
――Web3の世界において、Data e-TRUSTはなぜ重要なのでしょうか。
今井 自分の情報は自分でコントロールする。それがWeb3の基本的な考え方です。データウォレットにより自分の情報の流通先、使われ方などを管理することができる。例えば、「Aというサービスには自分の情報を開示するが、Bのサービスには使わせない」と自ら判断し、実行することができるのです。これが自己主権性であり、Web3のコンセプトを具現化するものといえるでしょう。もちろん、自己主権性は個人だけでなく、法人においても重要です。
――デジタルガバメントの取り組みも、Web3によって変わりそうです。
今井 データにトラストを与えることにより人と人とのつながりが生まれ、DAO(分散型自律組織)などの取り組みが促進されるでしょう。DAOの事例としては、新潟県長岡市の旧山古志村の取り組みが知られています。新潟県長岡市に編入合併されて行政区としては消滅した旧山古志村が、Web3の中でよみがえりました。村の特産である錦鯉のデジタルアートのNFTを「電子住民票」として販売し、購入者をデジタル村民として迎え、彼らのアイデアや資金を使ってリアルな山古志地域の課題解決につなげています。800人ほどの地域人口を上回る約1000人が、デジタル住民として活動に参加しているそうです。
対面中心のコミュニティでは、誰がどんな人かをお互いに知っていますし、顔を見ればアイデンティフィケーションが完了します。それが信頼の基盤であり、信頼できるから協力して何かに一緒に取り組むこともできる。
デジタルの世界で、このような信頼を確立するのは容易ではありません。逆に、信頼を確立すれば大きな可能性が広がる。その扉を開くのがData e-TRUSTです。自分が興味のあるコミュニティが見つかれば、データウォレットの情報を開示してメンバーとしての参加を求める。そのコミュニティは地域活性化に取り組むDAOかもしれませんし、野心的なイノベーションのテーマを掲げるスタートアップの集まりかもしれません。
デジタルの世界での信頼を
確立するために
Data e-TRUSTは重要になる
日本でも広がりつつあるWeb3適用事例
――Fujitsu Web3 Acceleration Platformの技術を生かした事例について教えてください。
今井 Web3は、必ずしも個人を軸とした先進的な取り組みだけでなく、例えば、企業の業務プロセスの課題を解決する仕組みとしても活用できるものと捉えています。
まず、化学業界で積極的にDXを推進する長瀬産業の例です。化学品の取引を安全に扱うためには、化学品に関わる重要なドキュメントの送付・受領・保管を組織的に管理することが必要になります。一方で、これらの化学品ドキュメントは、膨大であり、それらの配付管理は、担当者のメールなどでのやりとりに依存し、複雑で煩雑な管理が実態でした。
こうした化学品ドキュメントの送付・受領・保管といったやり取りをデジタル環境で効率的に実行するため、同社はサプライチェーンにおける情報交換をサポートするドキュメント管理クラウドサービスを構築しました。そのサービスにおいて、各利用企業の情報を、データウォレットに秘匿化して管理しつつ、必要な情報のみを必要な企業とのみ、安心・安全に連携する仕組みとしてData e-TRUSTが活用されています。導入に当たって高く評価されたのが、Data e-TRUSTが実現する情報流通における安全性と秘匿性のトラストです。「各利用企業が持つ情報を、どこの企業に開示するか/しないか」を、きめ細かく安全に管理できる。Web3の仕組みを、サプライチェーン分野に取り入れた先駆的なケースです。
もう1つは、個人の証明に関するユースケースを一緒に検討している関西学院大学です。大学で何を学んだか、どんな活動を行ったといった個人のキャリアや保有スキルの情報は従来、証明書のような形で示されることはありませんでした。これをデジタルで証明し、本人が管理する状態をつくる。このシステムにおいて、分散型アイデンティティ管理を実現するIDYXが活用されています。ユーザーは自分のデータウォレットに属性や経歴、成績などの情報を入れて自ら管理し、必要に応じて相手に開示することができます。
――同じ仕組みは転職市場などでも有効ですね。
今井 転職の際の困りごとの1つは、前の職場での経歴などが残らないこと。分散型アイデンディティ管理の仕組みがあれば、トラストを付与した形で今までの経歴情報をすべて保持でき、それらを相手に提示することができます。
3つ目の例は、法人の証明に関するユースケースで、「日本版eシール」の社会実装を目指す帝国データバンクの取り組みです。
国の「包括的データ戦略」では、データの真正性やデータ流通基盤の確保のため、人・組織・データなどの正当性を確認し、改ざんや発信元のなりすましを防止するトラストサービスが重視されており、デジタル庁を中心にデジタルトラスト基盤の構築に向けた検討が行われています。eシール(electronic seal)は、トラストサービスの一つで、確かにその組織が発行した電子文書であることや、発行後に改ざんされていないことを証明するものです。このサービスのトラストを担保する仕組みとして、Data e-TRUSTを活用しています。
――今後、Web3がいろいろな分野に広がる未来が見えてきました。
今井 私も大いに期待しています。ただ、だからといってWeb2.0がWeb3に全面的に置き換わるとは思っていません。両者が共存し、互いに連携する状態において、いかにトラストを確保するかが重要なテーマになります。そんなハイブリットな世界において、富士通はWeb2.0とWeb3の橋渡し役を担いたいと考えています。その際、データウォレットの役割は極めて重要です。個人や企業の自己主権性とトラストが担保されれば、ハイブリット世界におけるデータ流通・活用が大きく促進されるはずです。
――これから、若い人たちはWeb3に自然になじんでいくのかもしれませんが、シニア層にとってはハードルがあるようにも思います。
今井 Web3で便利になった、できなかったことができるようになった。そんな体験を少しずつ積み上げていくことが重要だと思います。デジタルガバメントの文脈でいえば、役所や病院などに出向いて行っている面倒なプロセスは多い。実際、様々な生活のシーンにおいて「役所の後では、ここに行き、次はここ」と、いろいろな場所で、提出書類内容の様々な「証明」の手続きが求められたりします。今後、Web3が広がれば、ワンストップサービスも容易に実現できるでしょう。デジタルガバメントにおいても、自己主権性とトラストが鍵になります。
(聞き手は日経BP 総合研究所 桔梗原富夫)



