BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が、地方の中小事業者までじわりと浸透しつつある。4回にわたって、これから導入しようという事業者にも参考になりそうな事例を紹介していく。初回に取り上げるのは群馬県高崎市で設立間もない設計事務所と、広島市の中堅設計事務所だ。共に3次元(3D)モデリングソフトから移行。検討の前倒しや改修工事への適用など、幅を広げている。
2023年8月半ばの引き渡しに向け、仕上げ工事が進む「介護付き有料老人ホーム グラシアようざん」(群馬県高崎市)の施工現場。「BIMによる3Dパースのおかげで、施工後に発注者の『こんなはずじゃなかった』という食い違いはなくなった。イメージを先行してつかめるので、仕上げ材もさくさくと決めてもらえる」と、施工管理を担う塚本建設建築本部建築部課長代理の長坂晋之助氏は説明する。
この現場では、設計者が作成したBIMモデルを使用しながら現場での定例打ち合わせを進めた。長坂氏のコメントは、BIMを用いた発注者と設計者、施工者の話し合いの利点を表している。
「介護付き有料老人ホーム グラシアようざん」(群馬県高崎市、発注者:プランドゥ)のBIMモデル(右手)と中庭部分のパース。同施設は群馬県内初の木造のZEB推進モデル事業。中庭部分は当初、腰上が開口だったが発注者の要望で足元まで開口とした(資料:モアブレーン、アアデル)
グラシアようざんの現場で、中庭を背にして立つアアデル代表取締役の小林一彦氏(右手)と塚本建設建築本部建築部課長代理の長坂晋之助氏
設計・監理を担当するのは高崎市のモアブレーン。担当者の小林一彦氏は、22年に同社から独立し、アアデルを同市内に設立後も引き続き、工事監理を手掛けている。塚本建設の長坂氏とは、これまでいくつもの現場を共にした息の合った間柄だ。
グラシアようざんは2階建て、延べ2528m2の木造準耐火建築物で、ツーバイフォーによる構造体には群馬県産木材を約94%使用している。県内初の木造のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)推進モデル事業だ。内部空間では開放性とともに断熱性や施工コストへの配慮が求められた。
「中庭周りのガラス開口は、発注者の要望でよりオープンな掃き出し窓になった。BIMを使えば空間イメージの確認のほか、開口と壁量、コストのバランスも数量をフィードバックしてトータルで検討しやすい」と小林氏は話す。
小林氏は、モアブレーン時代の今から4~5年前、3Dモデリングソフトから移行する形でBIMを利用し始めた。使用ソフトは、Graphisoft(グラフィソフト)社のArchicad(アーキキャド)で、独立後はArchicadの製品版を3ライセンス購入し、クラウド環境で事務所外にいるスタッフとデータを共通しながら作業できるようにした。
導入当初は老人ホームやオフィスビルの設計にBIMを利用、ファサードにテクスチャーを張るなど、3Dイメージを発注者と共有するのにとどまっていた。今では設計の初期段階で課題を洗い出し、施工コストを踏まえた詳細検討を行うことでプロジェクトを成立させるための重要ツールとなっている。
アアデル代表取締役の小林一彦氏
その契機となったのは群馬県発注の「群馬県畜産試験場 肉牛繁殖育成牛舎」の設計。同じくモアブレーン時代の担当プロジェクトで、高さ3mまでは鉄筋コンクリート造とし、それより上部を木造架構とした。22年に「ウッドデザイン賞 2022」を受賞している。
群馬県発注で初めて基本設計図としてBIMモデルなどの納品が求められた。「木造架構の接合部など、2次元で描いていたときは、何となくで済ましていた箇所が、BIMだと納まらないので、構造設計者などとのキャッチボールが始まる。これまでふわっとしていた部分がクリアにされて、設計の精度が上がった。特にコストがシビアな地方のプロジェクトでは、今後はこうした検討が欠かせないと思う」(小林氏)
広島市のさくら建築設計も、3DモデリングソフトからBIMに移行するのが出発点だった。現在23人の社員を抱える同社では、2016年にArchicadを5ライセンス導入、2~3人のスタッフで訓練を始めた。
「3Dモデリングソフトからのステップアップを狙った。BIMならば、内外装のイメージを同時に作成できる。発注者に説明する際、3Dの立体を使うとニーズを聞き取ったり、イメージを確認したりしやすい。お客様ファーストの発想でBIMを使った設計手法を推し進めていこうと考えた」。さくら建築設計設計部・BIM推進グループの沖颯真氏はそう説明する。
複合施設の設計でのプレゼンテーション例。左上はBIMモデルと断面図を重ね合わせたもので、右下はBIMモデルと平面図を重ね合わせたもの。さくら建築設計では、BIMを導入した7年前から延べ150件の設計を手掛けており、うち53件でBIMを用いた。最近は全物件でBIMによる3Dパースを作成している(資料:さくら建築設計)
BIM導入時から担当している同社設計部プランナー・BIM推進グループの野村亜衣氏は、最初に大阪でBIMの研修を受けた後、実際の立ち上げに向けて準備した。同氏は「マニュアルを読んでもなかなか理解できず、YouTubeの動画を探して学んだ。周囲に教えられるようになるまで苦労した」と振り返る。
導入して半年後から実務に適用し、3Dパースの作成という目的は早期にクリアした。次のステップとして、BIMモデルから一般図を出力するため、モデルの精度を上げていく中で、構造や設備、意匠の干渉チェックに効果的であることが分かった。例えば、構造は社内の構造設計者から部材サイズなどを教えてもらってBIM化していく。仕上げと重ねてみると、構造材が天井の懐に納まっていないといった矛盾点が解決できる。任意の断面を指定し、その中で問題はないか、確認も可能だ。
その後、発注者のニーズから様々な使い方が生まれている。例えば、何棟にも分かれた工場の建屋を今後のリニューアルを反映しながら管理していきたいという要望。設備系の施工会社がつくる設備のBIMデータと統合する形で、工場のBIMモデルを作成した。
完成後のスポーツ施設でも活用例がある。屋外競技場のスタンド改修工事にBIMデータを生かした。スタンドの形状を入力したモデルを作成して、防水工事の対象面積の算定などに用いた。この他、点群スキャンデータを活用した既存建屋のBIM化など、「BIM活用はお客様に育てられた面も大きい」(設計部マネージャーの正木宏昌氏)
さくら建築設計の3人。写真右手から順に、正木宏昌氏(設計部マネージャー)、沖颯真氏(設計部・BIM推進グループ)、野村亜衣氏(設計部プランナー・BIM推進グループ)
BIM普及のカギを握るのは発注者だ。例えば、維持管理などでBIMモデルの有効利用が進めば、設計段階からBIMの導入を求める発注者が増えるだろう。さらに、万国博覧会など大型イベントでも、広報活動にBIMによる3D画像などを利用するのが効果的だ。
2025年に向けて施設の建設が始まった2025年大阪・関西万博でも、2025年日本国際博覧会協会は、「パビリオン等の設計・建設に係るガイドライン、会場全体施工ルール」の中で、「パビリオンタイプA(敷地渡し方式)のためのBIM要件」を示している。
同万博は「Society5.0実現型会場」を目指しており、広報活動から運営、会期後の活用まで、3Dモデルや情報の活用が重要になる。会場建設にBIMを利用するとともに、広報活動用にBIMデータを求め、その仕様を示している。
「パビリオンタイプA(敷地渡し方式)のためのBIM要件」。PDFでダウンロードできる(資料:2025年日本国際博覧会協会)