4回シリーズでお伝えする「中小事業者が取り組むBIM活用新時代」の3回目は、地域に根差して事業を展開する2社を取り上げる。東京都世田谷区を拠点とする伊佐ホームズは、木造住宅でのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用法を開拓している。鳥取県米子市の美保テクノスは、20年近く蓄積してきたノウハウをもとに中小建設会社が使いやすいBIMを開発中だ。
パソコンの画面に現れた室内の画像には、内装仕上げや設備、家具などがリアルに描き込まれている。バーチャルリアリティー(VR)機能を用いて、室内を歩きまわることもできる。
「建て主にデータを送ればスマートフォンやタブレット端末でも見てもらえる。設計の早い段階から3Dモデルで打ち合わせると図面では説明しきれない内容も伝わり、イメージや認識を共有しやすい」。東京都世田谷区の伊佐ホームズで設計部一課の主任を務める岸憲氏は、BIM導入の利点を語る。
同社は、東京の城南エリアを中心に、設計・施工で手掛ける注文住宅を事業の柱とする。約30人いる社員の半数ほどが設計スタッフだ。その設計業務にBIMを導入したのは2018年のことだ。
伊佐ホームズの設計部一課主任の岸憲氏(右)と、関連会社の森林パートナーズ取締役社長の小柳雄平氏
きっかけは、地元の世田谷区で手掛けた鉄筋コンクリート(RC)造の「長谷川町子記念館」(2020年開館)だった。「建て主から3Dでのプレゼンを要望されたが、当社では3Dはほとんど使っていなかった。いずれ木造住宅でも必要になると考えて導入した」。同記念館の設計を担当し、現在は関連会社の森林パートナーズで取締役社長を務める小柳雄平氏は振り返る。
ソフトはGraphisoft(グラフィソフト)社のArchicad(アーキキャド)を3ライセンス購入。図面の描き方や、設計内容と積算との関係などに戸惑いながらも実施図面レベルまでBIMモデルで描き、積算にも生かした。
その後、Archicadを7ライセンスに増やし、設計スタッフは使い方をひと通り学んだという。しかし、「基本設計に使うスタッフもいるが、現状は3Dのプレゼンが中心という使い方にとどまっている。実施設計や積算には至っていない」と岸氏は打ち明ける。
RC造の建物と違って、木造住宅は、軸組みから下地材や金物まで、部材の種類と点数が非常に多い。従来のCAD図面は細かい部材まで描く必要はなく、経験則を生かして正確な積算もできる。それがBIMになると、入力した情報をもとに自動的に積算する。そのために、例えば釘1本まで入力する必要があるとしたら作業量は膨大だ。「どこまで描き込めば的確な積算につながるのか。そのバランスの見極めがまだできていない」(小柳氏)
その他にも模索は続く。構造や設備などの協力会社に、導入負担の大きいBIM化をすぐに求めるのは現状では難しい事情もある。そのため、同社の設計業務は今も、従来通りJw_cadを中心に使っている。一方でBIM活用の幅を広げる環境整備は続けている。その1つが、建材・設備のデジタルプラットフォーム「Arch-LOG(アークログ)」を運営する丸紅アークログ(東京都港区)との業務連携。Archicadにプラグインでつなげることで、まだBIMで使える情報が少ない住宅用建材・設備などをArch-LOGに充実させていこうとしている。
一方、設計から施工、さらには維持管理も視野に入れて、「地方型BIM」を開拓している建設会社がある。鳥取県米子市の美保テクノスだ。約220人の社員を擁し、同県西部や、隣接する島根県東部を中心に、土木・建築のプロジェクトを幅広く手掛ける。
同社のBIM導入は2004年。主力事業だった公共工事の先細りに備え、民間建築にも事業の領域を広げたいと考えて導入した。「民間の建て主に対しては、公共工事のような専門的な設計図書ではなく、もっと分かりやすく設計を説明する必要がある。そのツールとしてBIMが有効だと考えた」と、同社代表取締役社長の野津健市氏は話す。
以来、試行錯誤を繰り返しながらコツコツと同社なりのBIMの活用法を探ってきた。現在は、それぞれ約10人ずつが所属する設計部とBIM戦略部でAutodesk(オートデスク)のRevit(レビット)を使っている。
BIM戦略部は、モデリングやテンプレートなどの整備のほか、外注先の構造・設備事務所などから受け取る2Dデータを3D化して設計部に渡す役目も担う。「設計部もRevitで設計しているが、意匠設計に専念できる体制を取っている」と、同社BIM戦略部長兼設計部担当部長の新田唯史氏は説明する。
美保テクノス代表取締役社長の野津健市氏(右)と、BIM戦略部長兼設計部担当部長の新田唯史氏
「BIMは単なる設計ツールではなく、施工の生産性向上につなげてこそ意味を持つ」と野津氏は言う。しかし、施工BIMの壁は厚かった。自分で施工図を描く現場担当者からすると、設計のBIMモデルは必要ないからだ。
「試行を重ねた結果、着工後の施工BIMでは遅い、現場にBIMを意識させてはいけないと気付いた。そこで、着工前に施工担当者を交えて施工上の問題を解決し、正確な設計情報を現場に渡す方法を考えた」(新田氏)
具体的には、BIM戦略部が施工図レベルまでBIMモデルで描き込み、2D図面に出力した「施工検討図」を現場に渡す。それをそのまま施工図として活用するのか、改めて施工図を描くかは現場に任せる。この取り組みは最近の3件で実施し、いずれの現場も施工検討図を使ったという。
22年に同社は、BIM活用のソリューションサービスなどを手掛ける応用技術(大阪市)と「BIM活用に関するMOU(基本合意書)」を締結。進行中のプロジェクトの設計・施工・維持管理で取り入れた “フルBIM”を検証しつつ、使いやすいBIMとしてパッケージ化し、全国に提供することを目指している。「中小建設会社が使いやすいBIMのスタンダードを、米子から発信していきたい」と野津氏は抱負を語る。
既存施設を数多く所有する発注者の中で、点群スキャンデータを用いて効率的にBIMモデルを作成し、維持管理に役立てようという試みが目立ってきた。
約1万5000棟の賃貸住宅ストックを抱える都市再生機構(UR)は、三谷産業と共同で2021年度に「レーザースキャナーを活用した点群データの取得およびBIMデータ作成」の研究に取り組んだ。対象は高さ約13.5mの中層団地と同約40mの高層団地。外観と住戸内の計測で得られた点群データを市販ソフトで処理しAutodeskのRevitに読み込ませてBIMモデルをつくる。
住戸内はモデル化に成功したが、外観は2団地とも想定通りにモデル化できず、別のフローによってBIMモデル化を図った。外観は既存図面をもとに3次元モデル化する時間と大差はなく、研究結果をもとに最適な処理方法を探る。