BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を用いることで、3次元パースが自在に作成できるのも利点だが、BIMモデルの情報(属性データ)を活用すれば、部材の種類や大きさ、数量をリスト化するのは容易だ。積算や部材手配につなげることができる。最終回となる今回は、建築デザイン、施工図作成をBIM導入の足がかりに、企業間の連携などでBIMデータの有効利用を図る2つの事例を取り上げる。
BIMで先行する企業などが講師を務め、広島県内の設計事務所や建設会社、メーカーからBIM担当者が集う――。2017年から2カ月に一度のペースで、広島市内の杉田三郎建築設計事務所(以下、杉田事務所)で開いている「ヒロシマBIMゼミ」だ。新型コロナウイルス禍以降はオンラインとなったが、視聴回数は毎回500ほどに達する。
左上は、2017年より開催している「ヒロシマBIMゼミ」の会場の様子。地方都市のBIM関係者の横のつながりをつくりつつ、情報交換や協働のきっかけづくりを目指している。同時に、広島工業大学の学生などの社会との接点となっている。右下は「ヒロシマBIMプロジェクト」の成果を発表したときの様子。20年以降はオンライン開催を続けている(写真:杉田三郎建築設計事務所)
BIM担当者の“駆け込み寺”をつくったのは、広島工業大学 (以下、広工大)環境学部建築デザイン学科准教授の杉田宗氏、杉田事務所の長谷川統一氏、田原泰浩建築設計事務所代表の田原泰浩氏の3人。長谷川氏と田原氏は、杉田氏が2016年に広工大で始めたBIM講座の非常勤講師だった。
「広工大のBIM講座は、80人ほどの2年生が受講した。せっかくBIMを習得しても、広島県内ではそれを生かせる就職先がなかなかない。BIM普及のためには、企業の担当者が勉強や情報交換できる場がまずは必要だと田原氏らと話した」。こう杉田氏は振り返る。
米国でアルゴリズミックデザインを学んだ杉田氏は2010年に帰国して、父が代表を務める杉田事務所に入った。12年からは東京大学の職員としてコンピュテーショナルデザインにも携わり、15年に満を持して杉田事務所で長谷川氏と共にBIMに取り組み始めた。広工大の教員となってからも、同事務所との協働が続いている。
「BIMゼミは、長谷川がまさにモデルだった。地方の中小企業でBIMを担当しろと言われ研究してもなかなか周囲の理解が得られない。その際、横のつながりが助けになる」(杉田氏)
杉田事務所でAutodesk(オートデスク)のRevit(レビット)を導入した当初、3DモデリングソフトのRhinoceros(ライノセラス)や環境シミュレーションソフトで検討した上でBIM化を図るなど、デザインやプレゼンテーションに軸足を置いていた。
特に成果が上がったのはプレゼンだ。BIMモデルからリアルなビジュアルを作成できるTwinmotion(ツインモーション)を利用、3Dプリンターで模型を出力することでプレゼンの準備時間を短縮できた。
「かも保育園ハッチェリー」のBIMモデル(左)(上)。福西健太建築設計事務所との共同設計にBIMを活用した。遺伝的アルゴリズムを用いた日照の比較(右)(下)など、コンピュテーショナルデザインを取り入れた(資料:杉田三郎建築設計事務所)
「山根木材福山支社」では改修計画にBIMを活用。広工大・杉田宗研究室がデジタルファブリケーションを活用してパーティションをつくった(資料・写真:杉田三郎建築設計事務所)
国土交通省による令和3年度の「BIMモデル事業」として進めた「ヒロシマBIMプロジェクト」のミーティングの様子(左)(上)。設計事務所や構造事務所、建設会社、専門工事会社、大学研究室が協力してBIMを活用した新しい協働の在り方についての検証を行った。右下は参加企業と実施フロー(写真・資料:杉田三郎建築設計事務所)
ヒロシマBIMプロジェクトでは、異なるBIMソフトや専門ソフトによって作成された3Dモデルを統合した。上の画像は、干渉チェックを行った様子(資料:杉田三郎建築設計事務所)
2020年にはBIMゼミに参加する企業に声をかけて「ヒロシマBIMプロジェクト」に取り組んだ。中小事業者は、使用するBIMソフトやファイル形式が異なる場合が多い。仮想の中規模オフィスビルの基本設計と実施設計を通してソフト間でやり取りし、BIMを生かした協働の可能性を探った。
こうした試みを経て、今は基本計画でBIMを活用できないか、地元の建設会社3社と共に検証を進めている。BIMモデルと連動して積み上げ式の積算ができるようにする。施工費が高騰するなか、m2単価ではなく、部材費の変動を反映できる仕組みがBIM拡大の一つの突破口となりそうだ。
広島工業大学環境学部建築デザイン学科准教授の杉田宗氏(左)と杉田三郎建築設計事務所の長谷川統一氏(右)
一方、施工図を出発点にBIMデータの有効利用を図るのは東京都江東区のM&F。BIM人材の派遣を手掛ける株式会社M&F(守屋史章代表)、BIMの作図や人材教育、関連アプリケーションを担う株式会社M&F tecnica(守屋正規代表)が一体で活動する。
BIMデータを有効利用し、施工現場とコンクリート製品製作者が連携するイメージ。Revitの拡張アプリであるMFToolsを用いて、BIMモデルからエクセル形式で属性データを書き出し、鉄筋や埋金などの数量表を自動で作成して発注につなげる。MFToolsはM&Fの自社開発ソフトで大塚商会が販売している(資料:M&F)
総勢約70人のスタッフのうち、半数を宮崎市の支店に配置している。兄の守屋史章氏が経営や渉外、弟の正規氏が技術を中心に担当。正規氏は施工会社の現場管理部門から転身し、施工図を手掛けてきたスペシャリストだ。
M&FでBIMを導入したのは2017年。専従の担当を東京と宮崎に1人ずつ配置し、Revitを使い始めた。東京の担当は正規氏だ。「これまで施工図は2次元の図面でやってきたが、BIMという仕組みが必要になる時がくる。こんな直感と、会社として新たな技術を取得しなければいけないという気持ちが半分半分だった」(正規氏)
BIMによる施工図の特徴は、スタート時からLOD(モデルの詳細度)が350以上と高いこと。躯体図の場合、数多くのファミリ(部材データ)を準備するなど、最初の手間は大きかった。
BIM導入当初は、2次元での発注だった施工図を、自主的にBIMで作図し、図面の右下にコンクリートの体積を表示させるなど、BIMの利点をPRする努力も欠かさなかった。一方、M&Fでスタッフを採用する際、3カ月かけてBIM教育をするなど、人への投資が奏功。人材の教育をしてほしいという注文も増えた。
BIMに取り組んで数年で、施工図の受注が軌道に乗る一方、新たに注力し始めたのがBIMデータの活用だ。「BIMで躯体体積を自動で拾うことなどは導入部に過ぎない。例えば、施工のBIMモデルを部材の製造につなげれば、効率化が図れる」(正規氏)
手始めがM&Fで自社開発し、大塚商会で販売しているMFTools(エムエフツールズ)だ。Revitの拡張アプリで、初弾ではコンクリートの数量拾いや打設計画書の作成、外部足場自動生成ツールを盛り込んだ。第3弾では躯体鉄筋の種類や長さ、本数などをエクセル形式で出力し、発注につなげられるようにした。
各製品モデル(青色の部分)に配置しているオブジェクトは全て属性データとして出⼒する。製品ごとや建物全体で出⼒可能。様々なデータ連携ソリューションを見据えている(資料:M&F)
さらに、野原グループと業務提携し、BIM活用による生産性向上を図る。例えば、軽量鉄骨を用いた乾式間仕切り。Revitのプラグインを用いて自動で割り付けし、軽量鉄骨や石こうボードをプレカットすることで、現場作業の効率化、廃材の削減を実現する。
株式会社M&F tecnica代表取締役の守屋正規氏(左)と株式会社M&F代表取締役の守屋史章氏(右)
新庁舎建設を契機にBIMを活用したFM(ファシリティーマネジメント)システムを導入する自治体が出てきた。京都府八幡市は独自のFMシステム(財産管理台帳システム)を構築、2023年10月からの本運用を目指している。
同市は、設計や施工でBIMを用いる以上に、施設管理での活用で有効性を引き出せると考えた。設計仕様書には、維持管理でのBIM利用に向け、設計時からの調整が必要だと記載。設計と施工、維持管理での連携をうたった。
FMシステム構築を担当したのは日建設計だ。同社グループ会社の日建設計コンストラクション・マネジメントが提唱する「やさしいBIM®」を活用し、施設管理に必要な情報を徹底的に整理して適切な詳細度(LOD)のBIMをつくることを目指した。
FMに使うシステムには汎用性の高い施設管理ソフト「ARCHIBUS(アーキバス)」を利用。施設管理の業務委託の見直しもしやすくした。将来的には市所有の他施設への展開も見据えている。