4回シリーズでお伝えする「中小事業者が取り組むBIM活用新時代」の2回目は、専門工事・専門設計事務所に視点を向ける。構造設計事務所のベクトル・ジャパンは設計全般でBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を駆使し、大手建設会社などからも一目を置かれる存在だ。プレキャストコンクリート(PCa)メーカーの大栄産業は、生産性向上のボトルネックとなってきた設計業務のBIM化に取り組み始めた。
「これは、いつか来た道と同じだな、と思うことがある」。東京・銀座に拠点を構える構造設計事務所、ベクトル・ジャパン代表取締役の安藤浩二氏は、設計のBIM活用を巡る現状をそう指摘する。「いつか来た道」とは、1990年代に、図面作成が手描きから2次元CADに移行した時期を意味する。
「当時、中小の設計事務所を中心に『CADはやらない、図面は手で描き続ける』と言う人がたくさんいた。ところが、あっという間に誰もがCADを使い始めた。同じことが今、BIMで起こりつつある」(安藤氏)
ベクトル・ジャパン代表取締役の安藤浩二氏
建設会社の土木構造設計部門に所属していた安藤氏は1990年に独立した。当初は上下水道施設などの構造設計が多かったが、徐々に建築の分野にも領域を広げていった。現在は、大手の建設会社やデベロッパーなどが手掛ける超高層建築や大規模開発、大型物流施設を始め、様々な建築・土木の設計業務をこなしている。
2023年7月の時点で54人の社員を擁し、中国・大連の事務所にも22人が所属する。構造設計事務所としては大手と言える。発展の原動力は、積極的に新しい技術を取り入れ、設計の品質向上と効率化を追求してきたことにある。大手建設会社からも注目され、仕事の領域や規模が広がっていった。
BIMの取り組みも早かった。まだ日本で登場して間もないAutodesk(オートデスク)の3次元CADソフトRevit(レビット)を導入したのは2014年のことだ。
Revitは土木配筋図を描くところから使い始めた。それまで2次元CADで描いていたが、作業負担が大きいうえ、誤りを確実に防げる手立てがない。「3次元モデルを使えば自動的かつ正確に数量を拾えるのではないか」。安藤氏はそう考えてRevitを導入し、4年ほどかけてほぼ実用化にこぎつけた。
今、同社の技術者は3次元モデルで設計するのが基本だ。構造解析には、一貫構造計算ソフトのSS7などを使うが、STブリッジなどの中間ファイルを経由してRevit上に書き出し、それを編集していく。構造計算がある程度、固まった時点で3次元モデルを作成。そこから構造用と意匠用に分け、構造は構造用モデルを、意匠は仕上げなどを付加して意匠図をつくっていく。
意匠や設備を始め、関係者とのやりとりはクラウドを利用する。例えば、大手建設会社の場合、各社が運用するACC(オートデスク・コンストラクション・クラウド)に関係者が集まり、設計の初期段階からデザインレビューを繰り返していく。その過程では3次元モデルに手を入れれば、意匠や設備を含め、すべての設計情報が自動的に修正されていく。従来の2次元図面のように、関係する図面を1つずつ描き直す手間と時間はなくなった。最終的には、3次元で練り上げたモデルから2次元の図面にアウトプットするが、その作業は最終版まで必要としない。「BIMの優れたところは意思決定が早くなることにあり、クラウドを利用してこそ、そのメリットを得られる」。そう話す安藤氏は、「この先5年程度で、すべてが3次元に変わる」と見ている。
大栄産業代表取締役社長の櫻井馨氏
専門工事会社にもBIMの流れが押し寄せている。新潟県魚沼市のプレキャストコンクリート(PCa)メーカーである大栄産業は、まさに今、BIMの本格導入に向けて走り出した。
首都圏の超高層マンションやスタジアムなど、同社は大型建築のPCa部材を数多く設計・製造している。2017年ごろから独自の生産管理システムを開発し、約70人の社員にタブレット端末を配布。従来、紙の図面で進めてきた業務の効率化や、製品の品質精度向上などを図ってきた。だが、「製品図などの作図業務が課題となり、供給能力や生産性の向上に悩みがあった」と、同社代表取締役社長の櫻井馨氏は語る。
柱や梁は、1棟のワンフロアだけでもそれぞれ数十本ずつある。それを1本ずつ作図するだけでなく、作図後に依頼される修正も膨大な手間と時間がかかる。「BIMモデルを使えば設計業務・積算を大幅に効率化でき、自動的に2次元の図面にも反映される。さらに、これまで熟練スタッフが3日ほどかけていた鉄筋などの部品の数量を拾う作業も、瞬時に、かつ正確にできるようになる。受注から納品までの時間が短縮され、生産性を上げられる」と、櫻井氏はBIM導入によるメリットの大きさを話す。
BIM化で用いるのはAutodeskのRevitだ。建築総合アウトソーシング事業を手掛けるM&Fテクニカ(東京都江東区)の協力を得て進めている。「3人いる設計担当者のスキルや、BIMモデルから出力する2次元図面の内容、積算、製造などのワークフローを精査しながら、テンプレートやファミリを用意するなどしてアプリケーションを使えるように環境整備を進めている」と同社代表取締役の守屋正規氏。
3人の設計担当者は今、Revitでのモデリングの勉強を重ねている。作成するBIMモデルは、登録した部品ごとの色や太さから、鉄筋同士の組み方までが、従来の図面よりもはるかにリアルに描き出される。
「まずは設計段階のBIM化を図り、続いて製造の現場にもつなげていきたい。今はまだ2次元の図面で製造しているが、BIMモデルを用いて製造できるようになれば、PCa業界にとって希望の光になると思う」と櫻井氏は語る。
右から順に、代表取締役社長の櫻井馨、設計部部長の鈴木歩、設計部設計課課長の星野千恵美、設計部設計課の本田有紗、総務部企画課課長の櫻井智子の各氏
ファーストリテイリング(以下、ファストリ)のユニクロ事業は2022年8月期末時点で、国内外に計2394店舗を数え、うち3分の2ほどが海外店舗だ。
直営店が大方を占めるファストリでは、インハウスの設計部隊が中心となって、国内外の店舗設計を進めている。母体は国内担当の出店開発部と海外を担うグローバル出店開発部。これらの中に、計20人ほどの設計担当を置く。
2015年ごろからBIMを導入し始めており、BIMをプラットフォームにグローバルで品質統一を図る。使用ソフトはAutodeskのRevitだ。現在、設計メンバー全員がプラットフォームを使えるよう、協力会社を巻き込みながら「FR-BIMプロジェクト」を進行中だ。23年にはBIMマネージャーを募集しており、設計の川上、施工やアセットマネジメントへの展開も視野に入れる。