――担当している領域を教えてください
リッケイでCACOを務めています。少し珍しい役職かと思いますが、AIコンサルティングの責任者、という役割です。
AIコンサルティングとは何かというと、当社では大きく2つの意味でこの言葉を使っています。
1つ目は、お客様向けの業務をAIを使って効率化する際のコンサルティングです。機械学習や最適化といった以前からあるAIに加え、AIエージェントなどの最新のテクノロジーをどう活用するかを、コンサルティングを通じて考え、ご提案します。
もう1つはリッケイ社内でAI活用を推し進める際のコンサルティングです。AIトランスフォーメーション(AIX)とも呼ばれるもので、生成AIを使ってシステム開発をするAI駆動開発の導入などを主導しています。
AIコンサルティングの中で、特に力を入れていることの1つが、前者のお客様向けコンサルティングにおけるレガシーシステムのモダナイゼーション支援です。これを「AIモダナイゼーション」と呼んでいます。
多くの企業で稼働しているCOBOLなどの古い開発言語で作られたレガシーシステムを、AIを活用して、JAVAなどのモダンな言語、アーキテクチャに変換するのがAIモダナイゼーションです。
モダナイゼーション自体は目標ではなく、モダナイズしたシステムを使うことで、AIをはじめとした新しいテクノロジーが活用しやすくなることが重要です。新たなIT・デジタルの基盤を手に入れることで、変革が実現しやすくなるということです。
――本連載の第2回でも「日本企業からのマイグレーション依頼がとても多い」とうかがいました。その背景を教えてください。
マイグレーションのニーズは日本以外からもありますが、特に日本では大きな話題になっています。それには大きく3つの理由があります。
1つ目は保守人材の不足です。レガシーシステムで使われている古い言語を扱える人が減っていて、保守を任せるのが難しくなっているのです。
2つ目は、レガシーシステムのプログラムが長い年月を経てかなり複雑になってしまっていることです。業務内容が変わるたびに修正を加えてきた結果、今どこかを変えようとすると、どう変えれば良いか分からないし、変えた場合どこに影響が及ぶか分からない、といった具合になっています。それでも保守作業によってプログラムに修正を加えようとすると、膨大な工数とコストがかかります。
3つ目は、お話してきた保守やAIXに関連しています。AIXに取り組みたい日本企業が増えているのですが、AIによって業務やシステムが効率化することが分かったとしても、それに対応するようにレガシーシステムを柔軟に変更することができないのです。そのため、「レガシーシステムをモダンなものに変えなくては」と考える企業が増えていますね。

株式会社リッケイ
副社長兼CACO
ファン・クァン・カン 氏
AIとコンサルタントの役割を
明確に分けている
――リッケイが提供している「AIモダナイゼーション」がどのようなサービスかを教えてください。
マイグレーションのように、単なるコード変換のサービスではなく、現行システムをしっかり理解したうえで、テクノロジー活用の新しい基盤として作り直すサービスです。
レガシーシステムを使っている多くの企業の課題は、コードの内容が分からないことだけではありません。設計書や仕様書などのドキュメントも不足していることが多いのです。そういった重要なドキュメントを作り直し、現行の業務やシステムがどういった役割を担っているかをはっきりさせたうえで、「もっと最適なやり方があるのではないか」と業務プロセスやシステムの作りを見直していきます。その過程でお客様と多くの議論をすることになるので、コンサルティングが必要なのです。
――BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)にも、AIモダナイゼーションの一環として取り組むのですね。
はい、そうです。お客様はプロジェクトの当初からBPRを望まれている訳ではありませんが、現行の業務やシステムが明らかになってくると、我々からの業務・システムに対する見直しの提案に対し興味を示していただけますね。見直しをすることで、マイグレーションのコストも下がりますし、再稼働後の保守性も大きく高まります。
――AIモダナイゼーションにおいてAIが担う部分とコンサルタントが担う部分はどのように分けているのでしょうか。
よく知られているように、人間が「幻覚」を見るように、AIは虚偽や不正確な情報を自信を持って回答してしまうことがあります。「ハルシネーション」と呼ばれる現象です。したがってAIの回答を100%信頼することはできないので、AIの出した回答が正しいのかどうかをコンサルタントが確認する、ということが全行程で必要です。
そのうえで、行程ごとにAIとコンサルタントの役割を明確にしています。AIは現行システムのプログラムをリバースエンジニアリングするのですが、コードを見るだけでは全体の業務プロセスを把握することはできません。システムを使って進める業務には、途中で人による手作業が入ったり、他のシステムと連携したり、と様々な工程があるためです。
AIに業務プロセス全体を理解させるためには、コードとは別に設計書や仕様書などのドキュメントをインプットする必要があります。ドキュメントの内容が不十分な場合は、足りない内容を補えるようコンサルタントが顧客企業の従業員にヒアリングし、それをAIにインプットします。
このようにしてAIが業務とシステムの全体像を紐解き、それをコンサルタントが正しいと確認できたら、AIが新しい設計書を作ります。BPRが必要な場合は、それを終えた後に設計書を作ることになります。
設計書についてもコンサルタントが確認し、問題ないとなったら、顧客企業が設定しているコーディング規約などをAIに学ばせます。そのうえで、AIが新たなプログラミング言語を使ってコードを作ります。古い言語と新しい言語を1対1で変換するのではなく、求めるシステムを1度言葉にしてそれを下敷きにするため、新たに作るコードは新しい言語の特性を生かした、優れた性能のものになります。
従来のマイグレーションは、「COBOLをJAVAに自動で変換する」といったことはできたものの、JAVAの特性を生かせない「JABOL」と呼ばれるコードができてしまうといった具合で、保守性が下がっていました。AIモダナイゼーションであれば、この課題が解消できます。
このような形でAIの自動化と、コンサルタントによる確認や顧客企業との相談が必要な部分を適切に組み合わせるのが我々のAIモダナイゼーションの考え方です。
AIの「弱点」を避けるための
ノウハウがある
――AIを使ったマイグレーション、モダナイゼーションは他社も提供しているかと思いますが、リッケイ独自の取り組みだと言えるのはどういった部分でしょうか。
マイグレーション、モダナイゼーションは汎用的なツールを使って提供するようなサービスではないため、他社がどのようなことをしているかを細かく把握することはできていません。ですが、これまで長くマイグレーション、モダナイゼーションに取り組んできて、それによって生まれたノウハウはいくつもあるので、それは当社独自のものなのではないかと自負しています。
まず1つは、AIの「弱点」をうまく避けながら活用していることです。お話したようにAIはハルシネーションを起こすことがあります。それを避けるためには、作ろうとしているものがどういった文脈にあるものなのか前もってインプットすることと、インプットするデータ量を制限することが重要です。
後者は分かりにくいかもしれません。「1つのAIにたくさんの作業を担わせない」とも言い換えられます。まっさらな状態のAIに、あらかじめコンテキストを学ばせ、システムのコードの数十行だけを解析させる、といった形にします。こうすると、AIが沢山の情報に悩まされることなく、正しい解析ができる可能性が高まるのです。現行システムのコードを適切に細かく分け、他のコードのデータを共有しない形で沢山のAIにそれぞれ解析させる訳です。コードの切り分け方やAIへのインプットの仕方に、これまでのノウハウが生きます。
ほかにも、マイグレーションやモダナイゼーションのクオリティを管理するための独自開発ツールである「トレースリンク」があります。マイグレーションやモダナイゼーションをすると、古いコードや設計書が、新システムではどの部分に当たるのかを繰り返し確認する作業が発生します。その関連を把握し、分かりやすく提示するのがトレースリンクです。トレースリンクを使うことで、人による確認作業が大幅に効率化します。
――AIモダナイゼーションによって基幹システムを作り直すことで、AIをはじめとした新しいテクノロジーが活用しやすくなる、というお話でした。稼働後の保守はどのように変わるのですか。
先ほど元のシステムのコードをリバースエンジニアリングすることや、設計書や仕様書など足りないドキュメントも作るというお話をしました。そうして得たコードやドキュメントは「ナレッジデータベース」という形で保存します。
このナレッジデータベースとAIエージェントを組み合わせることで、最近盛り上がっているAI駆動開発が可能になります。保守作業で言えば、AIエージェントがナレッジデータベースを確認し、適切な実装の仕方や、新しく機能を追加した場合の影響範囲などを自動で把握して、実行できるようになるのです。
人間が担当するのは、AIエージェントが実装しようとしている機能は適切か、影響範囲も正しそうか、といったことの確認なので、従来の保守に比べてはるかに工数を減らすことができます。顧客企業の方が保守作業を自ら担当しやすくなりますし、我々は何か問題が起きた場合のみサポートする、といった形を採れます。
コスト面でも大きな違いが出せる
――AIモダナイゼーションの特徴は理解できました。一方で優れた特徴の多くは、実際にプロジェクトが始まってから実感できるものが多いように感じます。顧客企業はどのような理由でリッケイへの発注を決めているのでしょうか。
1つは過去のマイグレーション、モダナイゼーションの実績ですね。生成AIが登場する以前から多くの案件を手掛けてきましたので、それによって培った技術やノウハウをご評価いただいています。
日本市場に特化したチームを組み、市場や企業に対する理解度が高いこともご評価いただくことが多いです。コンサルティングとAIをうまく組み合わせる、といったプロジェクトの進め方を好意的に捉えていただくこともよくあります。
受注前に、試験的に一部機能に限定したマイグレーション、モダナイゼーションを提供するサービスもあります。ここまでお話したような作業を実際に実施して見ていただき、工数が大幅に削減できることや完成したシステムの品質を実感していただくことで、発注を決断していただける機会も多いです。
――コスト面についても教えてください。「ベトナムオフショアは以前ほどコストメリットがない」という話を聞く機会が増えましたし、日本のベンダーもAI活用には力を入れていると思います。
はい、コスト面でも競合する日本のITベンダーよりかなり有利な状況です。まず人件費については、確かにベトナムでも上がってきてはいるのですが、それでも一般的な日本のシステムエンジニアよりは安価です。
マイグレーション、モダナイゼーションの案件の場合、レガシーなハードウエアをメーカーとして提供している超大手のITベンダーと競合になる機会が多くあります。彼らの場合、エンジニアの単価も平均的な日本のITベンダーよりずっと高いので、我々と比べると数倍の価格になる、といったケースが多いですね。
AI活用についても、やはり我々はコストメリットを出せていると感じます。当社がまだ2000人程度の小回りが利く規模であり、AIの効果的な活用方法などが見つかると、3か月で全社導入を終えられる、といった具合なのです。まさにAIトランスフォーメーションと言える取り組みなのですが、この実行スピードが規模の大きい他社よりも速いため、結果としてコストメリットが出せています。
――リッケイのAIモダナイゼーションの利用に最適な顧客企業はどんな企業ですか。
AIモダナイゼーションは、企業の基幹システムを深く理解したうえで再構築する取り組みです。そのため我々は、これまで多くの案件を手掛けてきた製造、物流、小売、金融など、業務理解が重要な分野で特に高い価値を提供できると考えています。
基幹システムの規模では、20~30億円規模で構築されたシステムのマイグレーションを最も得意としています。この規模では、業務ロジックが複雑でありながら、インフラ刷新を伴う大規模な再構築までは必要としないケースが多く、アプリケーション層の再設計やAI活用による高度化を効果的に進められるためです。
100億円を超えるような巨大な基幹システムでは、全体アーキテクチャの再定義やデータセンター構成の見直しなど、インフラ領域まで含む大規模な再構築が必要になるケースが多くなります。我々は、そうしたインフラ中心の再構築よりも、業務システムそのものの高度化に強みがあります。
また、20~30億円より小規模な基幹システムをお持ちの企業からのご相談も歓迎しています。 企業規模やシステム規模にかかわらず、「AIを活用して業務を変革したい」という意志がある企業には、最適な形で提案できる自信があります。
結果として、売上数百億円~数千億円規模の中堅・大企業を中心に、基幹システムの刷新を通じて業務効率化やデータ活用を加速したい企業が、リッケイのAIモダナイゼーションを最も効果的に活用できると感じています。
「単なるシステムの作り直しではなく、
これからの事業の基盤となるものに」
リッケイとシステム刷新を進める大東建託パートナーズの取り組み
AIモダナイゼーションは、AIツールを活用するだけで実現できるものではない。プロジェクトを担当するITベンダーには、顧客企業の業務や既存システムについて理解し、今後の事業展開に必要となる基盤を設計・構築する力が求められる。リッケイは生成AIの活用が本格化する以前から、モダナイゼーションに取り組み、さまざまなノウハウを蓄えてきた。その実力を示す事例の一つが、大東建託パートナーズのプロジェクトである。大東建託グル―プは2024年から、「オーナー様向けマイページ」のモダナイゼーションを進めている。パートナーとしてリッケイを選択し、2027年2月の稼働に向けて取り組みを進めている最中だ。リッケイを選んだ理由や、実際にプロジェクトを進める中で感じたこと、今後の展望などについて大東建託パートナーズの泉専務に聞いた。
――大東建託グループの事業内容を教えてください。
グループとして中心となる事業は、土地をお持ちのオーナー様に活用の提案をすることです。現在、グループがサポートするオーナー様は約9万3000人、グループの賃貸住宅にお住まいの入居者様は推計で約236万人に上ります。その中で、大東建託が営業や設計、施工を担当し、大東建託リーシングが入居を斡旋し、大東建託パートナーズが建物完成後の管理を担当する、といった具合にグループ各社で役割が分かれています。オーナー様と出会い、土地活用をご提案し、建物完成後は管理でお付き合いするといったビジネスモデルなので、30~40年といった長いスパンでオーナー様をサポートする形になります。
――今回モダナイゼーションの対象となったシステムについて教えてください。
「オーナー様向けマイページ」という名称で、オーナー様に対する情報提供のさらなる充実と、アプリを活用した円滑な双方向コミュニケーションの実現を目的として開発を進めています。
モダナイゼーション前のオーナー様向けマイページは、オーナー様にインターネット経由で「マイページ」にアクセスしていただき、各種の情報をご確認いただくためのものでした。それによって、何か確認事項があるたびに毎回オーナー様をご訪問する、といった状況は解消されました。
しかし、稼働から時間が経つにつれ、このシステムの機能が時代に合わなくなってきていました。例えば、情報提供はこちらからの一方通行で、マイページ上でオーナー様とやり取りすることはできません。マイページに登録された情報を一元管理して見える化する機能もなかったため、オーナー様に何らかの情報変更があると、当社グループの社員は部署間でメールし合って情報を連携していました。
――新しいオーナー様向けマイページでは、それらの課題を解消するのですね。
その通りです。双方向に連絡できるようにすることでマイページの利便性が高まりますし、情報を一元管理することでオーナー様をより素早く適切にサポートできるようになります。ほかにも電子契約の機能など、様々な機能を追加しますし、稼働後にも柔軟に機能を拡大できるような基盤を構築するつもりです。
大東建託パートナーズ株式会社
専務取締役
泉 和宏 氏
コミュニケーションやセキュリティ面は
全く問題なかった
――モダナイゼーションのパートナーとしてリッケイを選んだ理由は何でしょうか。
当社グループの1社が、リッケイと以前から取り引きがありました。オフショア開発をすると大きなコストメリットがあり、リソースも豊富に活用できるということは知っていたため、このプロジェクトをリッケイにお願いできないかと考えたのが最初のきっかけです。
最初は不安も大きかったです。日本企業のモダナイゼーション実績が豊富にあるとはいえ、要件定義でうまくコミュニケーションをとれるか、海外のベンダーに頼んでセキュリティは大丈夫か、といったことに悩みました。しかしそういった悩みは、リッケイの方とお話するうちに解消していきました。皆さん、コミュニケーション能力が本当に高いのです。ベトナムにあるRikkeisoftのダナン支社にも足を運び、セキュリティ面への配慮なども知ることができました。組織全体の活気にも刺激を受けましたね。
――リッケイへの発注を決めた後は、プロジェクトはどういった具合で進みましたか。
オーナー様向けマイページをお使いになるオーナー様はご高齢の方もいらっしゃるため、UI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザー体験)には工夫が必要でした。リッケイは、我々の業務やオーナー様についてしっかりと理解したうえで、設計段階から一緒になって考え、いろいろな提案をしてくれました。特に、「多機能にし過ぎず、わかりやすいインターフェースにしたい」という我々の意図をしっかり汲んでいただいたと感じています。
もちろん、リッケイの方にも当初は日本の文化や我々の業界の商習慣などで分からないことがありました。そういったものがあった場合は、すぐに質問してくれるのもとても安心できます。我々はとても密にコミュニケーションしていると思います。
プロジェクト管理についても、高く評価しています。期限を設定してプロジェクトを開始するものの、進めるうちにいろいろな問題が出てきてプロジェクトが延期される、といったケースは多いと思います。しかし、リッケイはトラブルが起きたとしても円滑に解決してくれますし、時間をかけるべきところにはしっかり取り組んだうえで、スケジュールを守ってくれています。新システムのリリースを2027年2月に控えており、今が一番大事なタイミングですが、安心してプロジェクトに取り組めています。
――今後の展開を教えてください。
新しいオーナー様向けマイページはリリースして終わりではなく、その後の拡張もにらんだ基盤だと考えています。稼働後にも我々の業務削減やオーナー様の利便性を高めるための機能はどんどん追加していきたいと思っています。そういった改善、改良の取り組みについても、リッケイにお付き合いいただきたいと考えています。
大東建託パートナーズ株式会社
- 所在地
- 〒108-0075 東京都港区港南二丁目16番1号 品川イーストワンタワー
- 設立
- 1994年7月
- 資本金
- 10億円 ※大東建託株式会社(東京証券取引所:プライム市場)の100%出資
- 事業内容
- アパート、マンションの管理/総合的なビル運営管理
- URL
- https://www.kentaku-partners.co.jp/
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AIモダナイゼーションの価値は、AIによるコード解析や開発の自動化だけで決まるものではない。大東建託パートナーズの事例は、リッケイがこれまで培ってきたシステム刷新の実践知と実行力を示している。その蓄積をAIによって高度化することで、リッケイはレガシーシステムの刷新を、次の事業成長を支える基盤づくりへと進化させている。次回はRikkeisoftがどのような思想で事業に取り組んでいるかを、専門家との対談で明らかにする。


