ITの発想転換こそがDXの基盤レガシーシステムを待ち受ける昭和~平成の企業を支えたITシステムが今、「技術負債」となって重くのしかかっている。構造的な問題を打破し、企業は新たなITへ「モダナイゼーション」を決行するときが来た。日本のレガシーを知り尽くした2人のスペシャリストが、成功するモダナイゼーションへの最適解を提示する。
古い設計思想の基幹システムを使い続けていることが、日本企業から競争力を奪っていると言われます。この現状をどう見ていますか。
中野経済産業省が2018年に公開した最初の「DXレポート」では、既存の基幹システムをブラックボックス状態のまま使い続ければ、25年に年間12兆円規模の損失を生むことになると警告しています。いわゆる「2025年の崖」です。
ショッキングなタイトルだったので、覚えている人も多いと思いますが、多くの企業では基幹システムの維持管理は外部のSIベンダーに任せている状況で、このレポートが示している危機がどれだけ切実なのか気づかないか、気づいても先延ばしにして今日に至っている状況ではないかと思います。
もっとも、企業も基幹システムの改修は長年にわたって進めてきました。全く未着手という企業は存在しないでしょう。しかし、これまでの改修は周辺領域の比較的容易に変えられる箇所にとどまっており、システムのコア部分は依然としてレガシーが残されてきました。この、いわば「ラスボス」に対して、いよいよ手を打たなければいけない状況であると、認識してほしいと思います。
中野恭秀氏
アクセンチュア
テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェントソフトウェア
エンジニアリングサービスグループ
アソシエイト・ディレクター
メーカー系SIerや複数ベンダーで約30年にわたり、メインフレームのオープン系プラットフォームへのリホスト業務などを経験。2016年にアクセンチュア入社後は、レガシーシステムのモダナイゼーションを数多く手掛ける。
レガシーシステムをこのまま使い続けることで、どんな問題が起きるのでしょうか。
中野企業はデータドリブンな経営をしなければいけないが、レガシーシステムがそれを困難にしているという事実は確かにあります。しかし、ここでは、もっと切実な話をします。
昨今、レガシーシステムを製造してきたメーカー、また企業に導入してきたベンダーが、自らのシステムに手を付けられなくなるという事態が起きつつあります。すでに、国内の大手コンピューターメーカーでは、メインフレームサーバーの製造から撤退または事業縮小し、サードベンダーが提供するメインフレーム用ソフトウェア事業を他社に売却するという発表が相次いでいます。企業の根幹を担うシステムが、今後も動き続けるという保証が危うくなってきているのです。
ソフトウェアについても同様です。古い基幹システムで使用されている「COBOL」などのプログラミング言語が扱えるエンジニアは高齢化し、現場から次々と退いています。一方で、需要が激減しているため、SIベンダーは、新たにその言語を使えるエンジニアを育成したり、採用したりすることはしたくありません。メーカー、SIベンダー共に、レガシーシステム事業の採算悪化のため、撤退する動きが加速しています。
西尾友善氏
アクセンチュア
テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェントソフトウェア
エンジニアリングサービスグループ
マネジング・ディレクター
1998年アクセンチュア入社、多数のシステム開発を経験後、2010年からレガシーシステムモダナイゼーションのチームをアクセンチュア内に立ち上げ、多数の移行プロジェクトを経験。現在はレガシーモダナイゼーション専門の部隊のリーダーを務める。
西尾その結果、レガシーシステムに対するサービス費用の値上げが起きています。ユーザー企業に対して「数年後、レガシーの保守費用を今の10倍にします」という通告をしているケースもあります。ユーザー企業にとっては、ただでさえ古くて使い勝手が悪いシステムなのに、その維持コストは急上昇し、収益を圧迫する元凶となっているのです。
システムの将来にわたる安定と、維持管理コストの上昇を抑えるために、レガシーの脱却は待ったなしの状況です。
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レガシーシステムの維持がますます厳しくなることは認識しつつも、モダナイゼーションがうまく進まない企業も多いようです。なぜでしょうか。
西尾モダナイゼーションのアプローチに問題があると感じています。
企業はまず、今のシステムを丸ごと新しいシステムに「リビルド」することを考え、開発に着手します。いわゆるDXの考え方で、企業の基幹システムを含めたデジタル化を一気に進める方法です。確かに、理想像に向けてゼロベースで開発を行うことはベストな方法に思えます。しかし実際は、そう簡単にはいきません。事実、途中で頓挫して巨額の損失を計上した例や、企業と開発ベンダーの間で訴訟にまで発展する例もあります。
その理由は、基幹システムの規模が大きすぎて、作り替えが事実上不可能だからです。ここを理解する必要があります。大企業が長年にわたり運用してきたレガシーな基幹システムは、何万本のプログラム、何千万のプログラムステップで構築されています。これらをすべて解読し、作り替えるには少なくとも5年、数百億円の費用がかかるはずです。それが可能な体力があるのは、ごく一部の企業だけです。
中野また、リビルドではレガシーシステムに付随した業務を全面的に見直すことが必要になります。企業にとっては、ここが大きな障壁になるでしょう。既存の業務プロセスと組織を抜本的に見直すためには、現場の説得、IT部門の抵抗勢力との戦いなど、相当のエネルギーが必要です。
その中で、作り替えに代わる現実的な方法として近年注目されているのが「リライト」です。これは、既存のCOBOLなどで書かれたプログラムコードを、自動でJavaというコードに書き換えるものです。既存の業務プロセスを変えないため、ビジネス戦略上の変化はありませんが、維持管理費用の高騰、メインフレームサーバーの管理者やCOBOLエンジニアの枯渇など、これまでお話ししてきた「2025年の崖」にまつわる諸問題を解消することができます(図1)。
図1:モダナイゼーションのアプローチ方法
他にモダナイゼーションに当たって、注意したほうが良いことはありますか。
西尾多くの企業が、モダナイゼーションの際にレガシーシステムを維持管理しているベンダーに依頼してしまいがちですが、それが正解とは言えません。
ベンダーも、一企業ですから、既存の基幹システムの維持管理である程度の売り上げを立てている取引先に、自らコストダウンの提案をしてくることは考えにくいです。また、言いすぎかもしれませんが、最悪、モダナイゼーションのプロジェクトが頓挫しても、引き続き既存システムの面倒を見れば収益は維持できます。そうしたモチベーションのベンダーに相談するのは、良い結果を生まないでしょう。
企業の基幹システムは、まさに事業の根幹を担う心臓部です。その将来像は、ベンダーの商売の都合に左右されるものであってはいけません。企業経営者は、この観点に立ってレガシーの見直しを考えていただきたいと思います。