

キリンホールディングスは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」において、
「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを宣言している。
その中核を担うのは、2019年に立ち上げた「ヘルスサイエンス」事業だ。
これはグループの掲げるCSV※パーパスの一つである、「健康」への取り組みを具現化したもの。
なかでも最も注力しているのが、「免疫ケア」の普及促進だ。
効果を最大化するために、志を同じくするプレイヤーとの共創や協業の場も広げている。
ヘルスサイエンス事業本部の平野真太郎氏に話を聞く。
※ Creating Shared Valueの略。共通価値の創造。社会的ニーズや社会問題の解決に取り組むことで
社会的価値の創出と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていくこと。
「人生100年時代」といわれる今、健康は万人にとっての課題。その意識は、長引くコロナ禍を背景にますます高まりつつある。そうした中、大きくクローズアップされてきたのが、「免疫」の重要性だ。
キリンホールディングスが2022年9月に行った調査※1では、約85%の消費者が「免疫」は健康のために必要だという意識を持っている一方で、免疫ケア習慣(免疫のための食品・飲料・サプリメントなどを摂取する習慣)があるのは約11%にとどまっており、意識と行動に大きなかい離が見られるという現状も明らかになった。
※1 2022年9月調査(20-69歳/男女/n10000)
「免疫は健康な生活を送るための生体防御機構であり、いわばすべての健康の土台となるもの。にもかかわらず、その機能は自覚されにくいため、対策の遅れが大きな健康課題の一つとなっているのです。免疫は、生活習慣の乱れや運動不足、過労などで、簡単に下がってしまいます。低下が目に見えるものでないからこそ、日頃からケアすることが重要です」と訴えるのは、ヘルスサイエンス事業本部の平野真太郎氏。ここに、キリンがヘルスサイエンス領域に取り組む社会的意義があるという。
キリンは2019年にヘルスサイエンス事業を立ち上げ、ビジネスを健康領域へ拡大している。その根幹を担うのが、「プラズマ乳酸菌」を中心とした「免疫ケア」分野だ。
「なぜキリンがヘルスサイエンスを?」と疑問に思う人も多いだろう。だが、祖業であるビール製造で培った知見を食領域へと拡大し、1980年代には医薬事業にも参入しているキリングループにとって、「食」と「医」の間をつなぐヘルスサイエンスは創業以来の基幹技術を生かした事業領域。キリンでは、このヘルスサイエンス事業を将来の大きな柱として育てていく方針だという。

キリンホールディングス株式会社
ヘルスサイエンス事業本部
企画グループ 事業企画チーム
主査
平野 真太郎 氏
「キリンの強みは、ビール造りで培った発酵・バイオ技術にあります。その技能を極める過程で生まれたのが、健康に資する様々な素材です。例えば、乳酸菌などはビール醸造の天敵として対策を徹底したところから転じて、免疫研究へと発展。そうした長年の積み重ねによる技術とサイエンスに立脚したものづくりが、ヘルスサイエンス事業においても生かされています」(平野氏)
コア技術と研究開発力を根幹に持つだけでなく、それをグループ内で広く展開できるのもキリンの特長だ。ヘルスサイエンス事業の主体は、素材・原料を生産する協和発酵バイオ、飲料やヨーグルトなどの最終商品を販売するキリンビバレッジや小岩井乳業、そしてシナジーでさらなる価値を広げるファンケルなど複数にまたがる。バリューチェーンを一気通貫する体制と幅広いチャネルにより、BtoBからBtoC、DtoCを駆使した独自のビジネスモデルを構築できるというわけだ。

発酵&バイオテクノロジーを根幹とした技術力に加え、人財、ICT、マーケティングを合わせた4つの組織能力(コアコンピタンス)を基盤に、食領域、医領域、ヘルスサイエンス領域で社会的価値・経済的価値を創造していく。
免疫にかかわる成分として、以前から注目されていたのが乳酸菌だ。しかし、従来の乳酸菌で活性化できるのは、ごく一部の免疫細胞にすぎないとされていた。その常識を覆したのが、2010年にキリンが発見した「プラズマ乳酸菌」である。2012年、世界で初めて免疫の司令塔であるプラズマサイトイド樹状細胞を活性化できる乳酸菌として発表され、2020年には日本初の免疫に関する機能性表示食品として届け出が受理された。

乳酸菌の中で唯一、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)に働きかけることが論文で報告されている「プラズマ乳酸菌」。免疫の司令塔を直接活性化することで、免疫細胞全体(NK細胞、B細胞、キラーT細胞、ヘルパーT細胞)を活性化し健康維持に寄与する。
「プラズマ乳酸菌の働きは、健康な人の免疫機能の維持をサポートすること。これを科学的に裏付けるのが、キリンが長年研究開発の実績と、ヒト試験16を含む全31もの免疫に関する論文です」という平野氏。同社の健康事業が、実態の曖昧な「ヘルスケア」ではなく、「ヘルスサイエンス」を標榜する理由もここにある。
実際に同社は、国内外の機関と連携し、地域ごとの課題にあわせながら健康に関する試験を進めている。例えばマレーシアではマラヤ大学と共同で研究を行うほか、ベトナムでも臨床試験を実施。国内でも、国立の研究所や大学と共同研究を行うなど、研究内容は多岐にわたっている。
2022年1~8月の国内外におけるキリンの「プラズマ乳酸菌」関連製品の販売金額は、前年比約5割増と絶好調だ。その背景には、昨今の状況下で一層高まる健康への意識、なかでも「免疫」の重要性が認知されてきたことが挙げられる。
「免疫ケアが当たり前に根付いている世界をつくりたい」と平野氏は言う。「プラズマ乳酸菌」は、それを実現するためのベストソリューションとなる。だが、キリン一社で世界を変えるのは不可能だ。そこで、様々なセクターとの連携や協業を進めることで、成果の最大化を図っている。
その一つが、教育現場への働きかけだ。「免疫ケアを子どものうちから習慣づけてもらいたい」という想いから、免疫ケアを啓発する授業教材を開発し、全国1万人の小学生に展開しているほか、学研とコラボした小学生向け学習まんが『免疫のひみつ』も発刊。全国の小学校や公立図書館、児童館などへの寄贈も行い、啓発に努めている。

株式会社ARROWSと共同で開発した小学生向け教材「免疫ケアで健康な毎日を!」。生徒が楽しく「免疫」を学べることができることはもちろん、パッケージ化されているため忙しい教員にとって準備の負担が少ないことも特徴だ。
さらに同社では、神奈川県小田原市などの地域行政と連携し、「健康都市づくり」の一環として「免疫セミナー」も行っている。
「免疫ケアを広めることで、地域の医療・健康課題を一緒に解決していくのが我々の願い。科学的根拠に基づいた『ヘルスサイエンス』を市民の方々の健康長寿に役立てることは、結果的に地域全体の、そして社会や世界のためになると確信しています」(平野氏)
こうした活動を通じて、『プラズマ乳酸菌』の素材認知率も順調に上がっている。

2018年には30%程度だった「プラズマ乳酸菌」の素材認知率は、現在70%にまで向上。医療機関で働くエッセンシャルワーカーへの商品提供など、医療関係者の中での認知向上にも積極的だ。
協業パートナーは、自治体や他業界にとどまらない。キリングループは、森永製菓、カンロといった他業界と提携し、自社内ではできない多彩な商品展開で「プラズマ乳酸菌」の普及拡大を図っている。
更に大きな話題を呼んだのが、2022年9月に発表された日本コカ・コーラとの協業だ。キリンの独自素材である「プラズマ乳酸菌」を同業者へ提供する行為はまさに前代未聞といえる。ライバルに売上を奪われるリスクもあるだろう。だが、それを差し引いてでも、「免疫ケアが当たり前の世界」を目指したいという強い想いがキリンにはある。
「免疫ケアを日常に根付かせるためには、お客様に大きな影響力を持っているパートナー企業との共創が不可欠です。たとえ競合であっても、我々の想いに共感していただける企業様には喜んで素材や技術を提供し、お客様接点の拡大に努めています」と平野氏は言う。
それができるのも、「プラズマ乳酸菌」が食品として利用できる素材だからこそであろう。今ではグループ内外で全38商品※2にまで拡大している。
※2 現在発売している商品数と、2022年10月5日(水)時点で発売が決定している商品数の合計
「世界には、医療や医薬品にアクセスしにくい国も多くありますが、食品であれば手に入れやすく、取り入れやすい。免疫ケアを世界に広めるために、今後は東南アジア、米国、欧州への展開も加速していきます」(平野氏)
実際、海外への菌体販売は順調に進んでおり、米国ではすでに7社9商品を展開、2022年秋にはイタリアにも進出し、2023年には東南アジアでハラル適応の菌体販売も計画しているという。
キリンのヘルスサイエンス領域における取り組みは、「免疫」だけにとどまらない。「腸内環境」「脳」の2分野も、重点領域だ。
「ひと口に健康課題といっても、そのテーマはライフステージごとに様々です。赤ちゃんからお年寄りまで、年代ごとの課題に寄り添うことで、ウェルビーイングの実現に貢献するという発想から、この3分野に注力しています」と平野氏は言う。
例えば、腸内環境分野では、ヒトの母乳に含まれる栄養成分「ヒトミルクオリゴ糖」により、赤ちゃんの健全な生育と「母乳に近い粉ミルクが欲しい」という世界中の親の願いに応えていく。また、脳分野においては認知機能を改善する「βラクトペプチド」や、注意・集中力の向上への効果が期待される「シチコリン」などの研究開発を進めることで、高齢化社会の健康課題に取り組んでいく考えだ。
日本のみならず、世界に健幸を広げていくために、今後も“前例なき挑戦”に邁進し続けるキリングループ。その成果は、国内外様々なパートナーとのコレクティブインパクトで更に大きなものとなっていくに違いない。