



慶應義塾大学卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅する。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『はじめてのエシカル』(山川出版社)ほか。東京都消費生活対策審議会委員、日本サステナブル・ラベル協会理事、中央環境審議会循環型社会部会委員(2021.4~)、産業構造審議会産業技術環境分科会資源循環経済小委員会委員(2023.9~)などを歴任。
――エシカルが関心を集めています。どのように定義しますか?
エシカルは英語で、直訳すると「倫理的な」という意味です。一般的には、「多くの人たちが正しいと思うことで、人間の良心から発生した社会規範」であるといえます。私たちエシカル協会が推進しているエシカルは、一般的定義が根底にありつつも、「人、すべての生き物、地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」のことを指します。
――SDGs、循環型社会の実現に向けてエシカルが果たす役割とは何ですか?
エシカル協会は、エシカルな消費行動やライフスタイルの普及を目指し立ち上げました。設立した2015年は、SDGs(持続可能な開発目標)が採択された年です。2030年を期限とする17の国際目標を達成するには、人の心のあり方が大事。エシカルは「心のものさし」となる哲学のようなものです。SDGsの推進に、なぜ哲学が必要なのか。気候変動、人権侵害、児童労働、貧困問題、生物多様性の損失など、世界が抱える各問題の相関性は極めて複雑です。エシカルなマインドを持って「エいきょうをシっかりとカんがえル」。SDGsの取り組みでは個々の目標だけではなく、包括的視点で全体に及ぼす影響を考慮したアプローチが求められます。
循環型社会の実現でも、エシカルという「心のものさし」は道標となります。EV(電気自動車)普及による脱炭素化は有益ですが、EV電池の原材料であるコバルトはその生産を児童労働に依存しているといわれています。また大事なのは循環率ではなく、投入量そのものを減らすこと。ごみの発生を抑制するリデュースが大前提です。その上で、レンタルと再販を組み合わせたリコマース、リユース、シェアリングなど“捨てない”ことの徹底が大切です。
――これからのビジネスになぜエシカルが重要なのでしょうか?
様々な国際ルールに対応するために、ここ数年日本企業にもエシカルなビジネスの動きが出てきました。大切な視点は、品質の意味が変わってきたということ。これまで品質といえば性能、耐久性、機能性などでした。今はものがつくられる「背景」も、品質と見なされ始めています。
EU(欧州連合)は、サーキュラーエコノミー(循環経済)政策の一環としてDPP(デジタル・プロダクト・パスポート)の導入を進めています。DPPは製品の製造元、使用材料、環境性、持続可能性などの情報を記録したデジタル証明書です。グローバルで事業展開する日本企業はDPP対応が急がれます。またDPPをきっかけに、製品背景情報を提供する企業も増えてくるでしょう。エシカルな視点で製品や企業を選択する消費行動が今後、日常化していくと思います。
――エシカルなビジネス拡大のために必要なポイントとは何でしょうか?
エシカルを追求する企業が正当に評価される社会をつくらなければならないと思っています。エシカルなビジネスにトライしたものの、その後撤退した企業もたくさん知っています。理由は、消費者に手に取ってもらえなかったからです。ビジネスとして成立しなければ、エシカルに対し持続的に取り組むことはできません。
エシカルな需要をいかにつくり出していくか。企業は、消費者の教育者になることができます。日本企業はもっと消費者とコミュニケーションを図りながら、「自分たちがなぜエシカルに取り組んでいるのか」考えるよう、積極的に働きかけるべきだと思います。エシカルな商品やサービスの提供には、あるべきサプライチェーン構築に一定のコストが必要かもしれません。しかし、消費者や投資家がその価値に気づき始めた今、ブランドイメージ向上などコスト以上の事業的価値があるでしょう。
海外の生活者との実践的な活動を重ねてきた末吉氏。エシカル協会代表として行う各種講演・講座にもその知見を生かす
©一般社団法人エシカル協会
――日本の消費者間でエシカルへの共感は広がっているのでしょうか?
最近、エシカルに関してZ世代を中心に日本の消費者意識が大きく変わってきました。例えば、動物福祉の観点から革製品でフェイクファーを選んだり、少し高いけれど環境に配慮した製品を買ったり、エシカルなビジネスに共感し購入する。消費者の選択が企業や地球環境に影響を与えることを理解し行動しています。
今後、日本においてエシカルな消費行動は確実に広がっていくだろうといわれています。その要因の一つが、中学校、高校の教科書にエシカル消費が掲載されていることです。エシカルを学んだ中高生は、10年後には消費者の中心です。ビジネスがエシカルであるほど消費者の共感を生み、商品購入にもつながりやすい。さらに、人手不足が深刻化する中、就職先としてエシカルな企業を希望する学生も増えており、エシカル就活という言葉も生まれています。
――エシカルに取り組む企業に対してメッセージをお願いします。
エシカル協会は、エシカルな消費者育成に力を注いできました。近年では、企業向けにも講演会やセミナーなど積極的に啓発活動を行っています。エシカルの基礎、トレンド、経営への生かし方などを学べるeラーニングも用意。法人会員制度も設けており、最新情報の提供、会員同士の情報交換やコラボレーションなどを行う機会を提供しています。
社会の仕組みが変わらなければ大きな変革は無理だと思います。法律や制度を変えるためには多くの時間がかかり大変ですが、エシカルな社会変革は若い世代から既に始まっています。日常生活や学校教育でSDGsに関する言葉や知識に触れたSDGsネーティブが、成長して大人になるのはすぐそこです。エシカルのうねりをビジネスや地方創生の力に変える。エシカルこそが環境とビジネスの両輪で持続可能な社会を実現していく原動力になると確信しています。
一般社団法人エシカル協会