企業文化を守りたい。
だから「ファンドに託す」
―ティ・ケー・エスが、事業承継支援ファンド「TOKYOファンド」の活用を決めたのは約1年前。その際、外部招聘により代表に就任したのが末吉氏だ。親族承継やM&Aなどではなく、ファンドに託す道を選んだ理由とは。
末吉 創業者が事業承継にあたり重視していたことが、大きく2点ありました。それは、会社が築き上げてきた文化を今後も受け継げること。大切な社員を守り続けられること。というのも約180名のスタッフを抱える美容事業を展開する当グループにとって、人は最大の財産。創業からずっと人を大切にしてきた企業文化があったのです。
近年美容業界では、他の事業会社への承継つまりM&Aが主流ですが、経営方針の転換により職場環境が大きく変わるリスクも伴います。そこで創業者が選択したのが、事業承継支援ファンドでした。大きな決め手は、経営における中立性が保たれること。培われてきた企業文化を共有し、さらなる成長を目指す経営パートナーになり得ると判断したのです。
中澤 長く会社に身を置いてきた私としては、当初ファンドと聞いて「大切な会社を本当に任せられるのだろうか」と、不安もありました。他に何社か引き合いもありましたが、親身に当社の想いを聞いてもらえ、心から信頼できると思えたのがTOKYOファンドでした。
新たな視点を得たことで、
現場が大きく変化
― TOKYOファンドの選択は、事業運営にどのような効果をもたらしたのか。
中澤 変化を感じるのは、社内で抱えていた課題が解消されつつあることです。そこにはTOKYOファンドを通じ、外部出身の末吉が新代表に就任したことが大きいと感じています。従来の組織運営は、トップである創業者に大きく依存する部分がありました。現場の店舗の声も本部に届きにくく、組織全体の方針と現場の運営との間にギャップが生じていたのです。今回そこに業界の先入観やしがらみの一切ない、マネジメント経験の豊富な代表の視点が入ったことで、新しい風を送り込んでくれています。
末吉 代表就任から数カ月ほどですが、当社はそれぞれの役職が「主体性」を持つことで、さらに伸びる環境だと感じてきました。そこで取り組んだのが、まず私自身が本部のチームに加わり、一人ひとりが主体的に行動するマネジメントの考え方を共有すること。その先で、組織主導で店舗へ方針をおろしていく流れをつくることでした。そこにはあえて私は介入せず、中澤専務を含む部長やマネージャーにできる限り任せる体制をとっています。
中澤 こうした変革のなかで、大切にしてきたのが対話です。新代表が本部社員と対話を重ねることによって、社員が同じ方向を見ていると実感することができ、同時に会社の大きなビジョンを共有することができたと感じています。
末吉 事業承継ファンドを活用したからこそ得られた、もう一つの効果としては、自社グループだけに留まらない、さらに大きな枠組みでの展開に挑戦できることがあります。具体的には、TOKYOファンドの運営元が展開する、東京発の美容事業を手がける企業のためのプラットフォーム『TOKYO Beauty Platform ※2』への参画です。これは複数の参画企業が互いのブランドや組織文化を尊重しつつ、世界に通用する“美”を提供するサービスの向上を目指していく枠組み。私は参画企業の1つ、k’s International社の代表も務めているのですが、こうした会社を超えた連携を活用することで、自社だけでは難しかった柔軟な働き方の可能性や新たなシナジー効果が生まれていくのではないかと期待しています。

※2 日本プライベートエクイティ株式会社がTOKYOファンドを通じて保有する経営統括会社「TKSCホールディングス株式会社」が形成するプラットフォーム。既に都心で高品質・高付加価値を追求した美容室を展開する「k’s International株式会社(colletグループ)」の事業承継や成長戦略の実現も支援しています。
美容師のキャリアを
より魅力的に変えていく
― 同社が目指すこの先のビジョンは。
末吉 当社はお客様に美容を通じた喜びを提供する「トータルビューティーカンパニー」として、創業から48年、高品質なサービスの提供を目指してきました。そんな業界を牽引するパイオニア企業として、今後はサービスを最前線で支える美容師のキャリアをより魅力的に変えていくことが使命だと考えています。
とくに力を入れていきたいのが、定着率の向上です。美容師は長く一つの職場で働くことが難しいイメージがありますが、その原因はキャリアやライフスタイルの変化に職場が応えられないことにあります。今回参画した『TOKYO Beauty Platform』では、直接雇用や業務委託など様々な雇用形態の参画企業との連携が可能になるため、より美容師が長く活躍できる多様な働き方の実現に向けた環境づくりにつながると考えています。
中澤 人を大切にする風土が長く根付いてきた当社には、現在も73歳で現役のスタッフが活躍中で、過去には80歳のスタッフもいたほどです。産休明けの復職率もほぼ100%ですし、皆が「生涯、美容師として活躍する」という信念を持っています。今まで以上に一人ひとりに合った顧客層や雇用形態で働ける仕組みをつくることで、美容師の働く環境をより良く変えていき、その先で今まで以上に質の高いサービスの提供を目指していきたいです。
事業の未来をつなぐ、
一つの選択肢として
― 最後に、事業承継を考える企業にひと言。
中澤 事業承継をファンドに託すことは、まだまだ一般的ではないかもしれません。しかしTOKYOファンド担当者に事業承継の悩みを親身に聞いてもらい、当社の想いを受け入れてもらえた安心感は大きかったです。実際、活用後の効果も想像をはるかに上回っています。
末吉 一般的にファンド運営の中で投資先事業の成長というと、出店数等が重視されがちです。しかし当社のようなサービス業において、そうした規模だけを追うのは違います。TOKYOファンドが目指すのは、そういったそれぞれの企業と同じ視点に立ち、共に歩んでいく事業のパートナーになることだと感じます。それは、東京都という自治体が中小企業の事業承継を後押しするという目的のもとで出資しているファンドだからこその魅力です。この時代の多くの経営者にとって、事業承継をファンドに託すことは大切な社員や家族を守る、新しい選択肢になり得るのではないでしょうか。
インタビューを終えて
中小企業の事業承継が喫緊の課題である中、東京都では本稿で紹介した「TOKYOファンド」の他にも、「地域金融機関による事業承継促進事業」「事業承継・再生支援」など、多様な支援を展開しており、令和6年度には、経営者を目指す個人が後継者不在の中小企業を発掘する「サーチファンド」を活用した事業も新たに予定されている。事業承継を考える経営者の方は、自社のニーズや状況に合った施策の導入を検討してみてはいかがだろうか。

事業承継課題を抱える経営者を支援する関係者の皆様へ向けて、
様々な情報を発信することを目的とした「TOKYO事業承継ポータルサイト」はこちらから
東京都産業労働局では、中小企業の「事業承継」支援のため、
以下の施策をはじめ、様々な取り組みを実施している。
事業承継・再生支援
M&Aも含めた事業承継に対して、専門スタッフによる相談や弁護士等と連携した課題解決を無料で行うなど様々な支援を実施している。
(オンライン相談可)。
(公財)東京都中小企業振興公社 総合支援課
03-3251-7885 ![]()
地域金融機関による事業承継促進事業
中小企業が保有する技術や人材の次世代への引継ぎを促進するため、地域密着型の取引ネットワークを持つ地域金融機関と連携し、
事業承継に係る啓発から計画の策定などの取組を支援している。
東京都 産業労働局 金融部 金融課
03-5320-4604 ![]()
TOKYO白馬の騎士ファンド(令和6年度・新規事業)
後継者がいない中小企業に対して、企業の理念に共感する友好的な経営者を社外から迎え入れた会社に
出資や支援を行い、より円滑な中小企業の事業承継を促進します。














