消費者の関心が年々高まり、施術の実施件数も増加傾向にある日本の美容医療。そこで今回は、長年、美容医療の発展に寄与してきた福岡大学名誉教授の大慈弥裕之氏と、北里大学名誉教授、自由が丘クリニックソフィア院長の武田啓氏、さらに、長年にわたり美容医療に貢献してきたアラガン・エステティックスの遠藤徹夫氏が鼎談。安全な環境づくりが求められる美容医療の現状に迫る。
近年、美容医療への関心が高まり、消費者の意識や動向も変わりつつある。一般社団法人日本美容外科学会(JSAPS)が実施した全国美容医療実態調査によると、日本の美容医療の実施件数は、過去5年(2019年〜23年)で1.5倍に増加。また、消費者を対象とした別の調査によると、美容医療の利用率も24年が最高水準となり、15~69歳の女性の1年以内の美容医療利用率は4年連続で1割を超え、15~69歳の男性の1年以内の美容医療利用率は2年連続で増加した。


先進的な美容医療製品を開発・製造してきたアラガン・エステティックス(以下、アラガン)プレジデントの遠藤徹夫氏は、美容医療市場が急速に発展する理由について、「美容医療に対して『気持ちを前向きにするもの』『自身の生活や人生をよりよくできるもの』といったポジティブな印象が広がりつつあると思います。美容医療への認識が生活者のなかで大きく変わり、より身近な存在になっていることと感じます」と語り、鼎談の口火を切った。
その動向の変化を医療の現場で間近に見る武田啓氏も、「美容医療の技術の進化により治療の幅が広がったことで、消費者の心理的なハードルが低くなったのではないかと思います。特に、注入治療とレーザーなどの機器による治療の非外科的治療の件数が増えています」と同調。


美容医療の利用者の若年化が見られる背景には、ソーシャルメディアの隆盛も影響しているようだ。美容外科や抗加齢医学の発展に尽力してきた大慈弥裕之氏は、「SNSをはじめとした美容医療情報の増加も背景にあるのでは」と指摘。SNSなどで発信される適切ではない情報の氾濫についても言及し、「手軽、低価格、安全性を謳う内容を鵜呑みにして、安易に美容医療を受ける人もいるのではないかと危惧しています」と付け加えた。


著しい成長を続ける日本の美容医療だが、一方でより安全な環境を醸成することが急務とされている。そのための重要な3つのポイントが3人から提示された。1つ目のポイントとして挙げられたのは、「美容医療に関する正しい情報を消費者に適切に届けること」。
特に大慈弥氏は、「Z世代の人たちは、美容医療の情報をSNSから入手しているケースが多い。"医療行為は必ずリスクと限界がある"ということを十分理解できていない若年層は、SNSの不確かな情報から保護されなければならないと思います。医師向けの診療ガイドラインを公表するなど、学会がもっと積極的に正確な情報を発信することが望ましいのではないでしょうか」と警鐘を鳴らす。
一方で武田氏は、医師から消費者への情報発信のあり方についても触れ、「美容医療を受ける前に、担当医から治療のリスクや安全性といった説明がきちんとされていない現状も考えられる」と、医師が適切な説明をして患者に理解と同意を得るインフォームド・コンセントの重要性を訴えた。それに対し、「アラガンは製薬企業として、医師を通じて患者さんに伝えるために必要な情報の提供を継続的に行っていきたい」と遠藤氏。


2つ目の重要なポイントとしては、「規制環境を整えること」を挙げた。「美容医療を含めた自由診療は、保険診療と比べて診療・施術や契約の内容が標準化されていない。保険診療は法令で細かく決められているのに対し、自由診療は安全で適正な医療が提供されるための仕組みに未整備の部分が多い。自由診療を健全に発展させるには、今後はほかの先進国レベルに規制を整備する必要があると思います」と大慈弥氏。
武田氏も、「本来は医師が自主的に倫理的な行動をすべきだが、規制を厳しくしなくてはいけない社会状況になってきたのではないか」と同意。武田氏も参加した厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」でもガイドラインの策定が進められているという。
3つ目のポイントに挙げたのは、そうした医師に対しての「教育体制(美容医療を目指す医師の卒前教育・卒後教育の環境)を整えること」。現在、美容医療は、非外科治療から外科治療まで非常に幅広く、専門的になっており、「美容医療は、形成外科や皮膚科の修練を十分に積んだ専門医が、さらに美容医療の専門的な研修を受けた後に患者に医療を提供する必要があります。これは、世界的にも一般的なこと。そうした専門医が中心とした体制になるよう、学会や行政も目指すべきです」と大慈弥氏は指摘する。
武田氏も、専門医制度について言及し、「大学での教育ももちろん欠かせないが、卒業後の教育も大事。通常、専門医となるためには、一定期間、保険診療に従事しなくてはならない。その中で、机上だけでは学べない医師としての素養や倫理観が養われるのではないかと思います」と卒後教育の整備に期待を寄せた。
医療従事者に向けて教育プログラムも提供するアラガンでは、患者の満足度向上と日常診療の最適化を目指し「Allergan Medical Institute™」(AMI) という教育部門を設けているという。遠藤氏は、「この部門を通して、美容医療に携わる医療従事者の科学的知識と技術力向上の一助となるような革新的な教育プログラムを提供し、今後も美容医療の適正な発展に貢献していきます」と強調した。
美容医療の実施件数の伸びとともに、健康被害の発生件数も増加している。消費者が望む結果とは異なる美容医療が行われていることが、日本の美容医療の課題となっている。
全国の消費生活センターなどに寄せられた美容医療サービスに関する相談件数は過去5年(19年〜23年)で約3.0倍、危害件数は約1.8倍に増加。「形成外科医として、美容医療に伴う合併症や後遺症の患者さんを診療する機会も多い。最近は、海外で美容医療を受けた後のトラブルも増えています」と大慈弥氏。なかには、重篤で、長期にわたって影響する例も報告されており、決して軽視できるものでないという。

そうした状況に変化をもたらすためにも、先に挙げた3つのポイントが、今後の美容医療で注目すべき点になっていくだろう。
質の高い美容医療を提供するためには、行政、学会、企業の協力が欠かせないが、美容医療に携わる専門家によって、これからに向けた新たな取り組みや活動も始まっているという。
大慈弥氏によると「行政と学会が同じ方向を向いて仕組みをつくる取り組みが始まっており、ここ数年でさまざまなガイドラインが策定されている」という。例えば、美容医療で使用する薬剤や機器には厚生労働省による「承認品」と「未承認品」があるが、質を担保し重大な合併症を回避するための共通の診療指針として、美容医療に携わる5つの学会が協力し、20年に「美容医療診療指針」が作成された。また、正しい情報源がないことが美容医療の1つの課題でもあるが、「厚生労働省が美容医療についてSNSで発信するなど、行政の新たな動きも見られる」(武田氏)という。
美容医療に長年にわたり貢献してきたアラガンの遠藤氏は、これまでも継続してきた消費者に対しての啓発活動の重要性に触れ、昨年は初めての試みとして「美容医療について学べるポップアップイベントを開催した」と述べた。「今後も、学会とも連携しながら、啓発活動にさらに力を入れていきたいと思っています」
また、美容医療の今後の展望について話がおよぶと、「現在、日本の美容医療は転換点にある」と大慈弥氏。「世界的に美容医療が拡大し、消費者の意識も変化しつつある。おそらく10年後には、今とはまったく違う医療環境になっているはずです。今、健全な自由診療体制を整備することが、日本の美容医療業界のさらなる発展につながります」と訴えた。
さらに武田氏は、今後の美容医療のステークホルダーについて「それぞれに役割を果たすことが求められる」とし、「行政は消費者に分かりやすい相談窓口を提供し、企業は教育や情報提供も積極的に担い、メディアは美容医療の課題を取り上げ消費者の関心を高め、医師はインフォームド・コンセントや法令順守を徹底する。もちろん消費者自身も情報を見極め、ときには声を上げることが大事。美容医療の未来は、総力でつくり上げていく必要があります」と力説した。
最後に「アラガンは、何よりも患者さんの安心・安全のために、質の高い美容医療を受けることができる環境づくりに寄与していくことが大事だと考えています」と、美容医療に貢献する製薬企業としての立場から語った遠藤氏。「そのためにも、美容医療に関する情報発信などで課題解決へ貢献し、AMIを通じた継続的な医療プログラムの提供などを精力的に行い、ステークホルダーとともに活動を活発化させていく所存です」と述べ、締めくくった。美容医療業界の成長と変革の行方に、今後も注目していきたい。