美容医療業界において第一線で活躍する医師や著名人とで行われる鼎談の第二弾。美容医療の現状と課題に迫った前回を踏まえ、今回は、安全性をより高めるための業界の取り組みや消費者に求められる知識について、グリーンウッドスキンクリニック立川 院長の青木律氏、森・濱田松本法律事務所外国法共同事業 パートナー・弁護士の堀尾貴将氏、美容・医療ジャーナリストでライターの海野由利子氏が鼎談する。
年々拡大傾向にある美容医療市場だが、どのような規制やルールが整備されているのか。今回は、「美容医療の安全性を高めるための医療施設の取り組み」をテーマにした議論から幕を開けた。
美容医療は、公的な保険制度が適用される「保険診療」ではなく、「自由診療」で行われる治療が多い。自由診療は、医師の裁量によって価格や治療内容が設定できる。
「かつては芸能人やモデルといった限られた職業の方が施術を受けていた美容医療ですが、20年ほど前から一般の方にも広がり、ここ5年でさらにマーケットが拡大してきた。それに伴ってトラブルも増加している」と切り出したのは、長年、美容医療を現場で支えてきた形成外科医の青木律氏。


昨年、そんな現状を受けて開催された厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」に青木氏も構成員として参加したという。「2020年に作成された美容医療の主要な4学会1団体による『美容医療診療指針』は、主にエビデンスに基づく治療についてのガイドラインでしたが、美容医療はサイエンスだけでは語れません。患者さんがどう治療のリスクを知るべきか、医療機関の説明義務など、今回は美容医療の安全性に着目したガイドラインが作成されることになりました」と青木氏。
健康保険や国民健康保険などの公的医療保険が適用されない自由診療では、医師の裁量が大きく、規制や質を高めることは難しい。美容医療の特殊性でもある。これまで数多くのヘルスケア産業分野の案件を担当してきた弁護士の堀尾貴将氏も、「自由診療は、価格や施術メニューが多様。患者さんが美容医療を選ぶ際は、医師の説明とともに医療機関の広告も拠り所になります。医療法による広告規制はあるものの、それを遵守させる仕組みをさらに整備する必要がある」と、法律家の視点から語った。


それに対し、「患者さんの安全・安心は、医師の技術や知識によって作られるもの。ルールももちろん必要ですが、医師自身のモラルも重要。患者さんも医療機関を選ぶ目を持つことが必要です」と警鐘を鳴らすのは、美容医療の現場で四半世紀も取材を続けてきた美容・医療ジャーナリストの海野由利子氏。「そもそも美容医療は、コンプレックスを解消したり、前向きな気持ちを後押ししてくれるもの」と前置きしつつ、「今は医師の見た目やネットの情報量でもクリニックが選ばれる時代ですが、美容医療は“医療”であるということを忘れてはならない」と述べた。


美容医療が身近なものになるにつれ、開設されるクリニックが年々増加しているが、青木氏はその状況を「本来、医療法で医療機関は営利を目的としてはいけないとされているが、最近、効率化や合理化を最優先にするクリニックが増えています」と危惧する。
「近年、美容医療のクリニックでも、医療法に基づく規制当局の管理を受ける医療法人ではなく、業務範囲の制限なども受けない一般社団法人が開設するクリニックが増加傾向にあります。一般社団法人が開設する医科診療所の数は、23年時点で全国に780あり、4年間でおよそ2倍に増加したというデータもあります※1」と堀尾氏。患者さんの医療機関を選ぶ目がさらに問われているといえるだろう。
※1 出所:厚生労働省 第113回社会保障審議会医療部会 資料3「認定医療法人制度の延長等について」 (https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001341001.pdf 2025年6月6日アクセス)
2つ目のテーマとして取り上げられたのは、「適切な情報を消費者・患者さんに提供するための取り組み」。患者さんが医療機関を選ぶ際、最も参考にする情報源は「病院・クリニックのホームページ」※2だという。こうしたホームページに掲載されている情報は、医療広告に該当し、医療法による規制がある。
「医療機関が広告できる情報は、診療科名、医療機関の名称、電話番号、住所、診療日時、医師の紹介など、一定の事項に限定されています。保険診療の場合は治療や検査の方法なども広告できますが、自由診療の治療については、原則として広告はできないよう規制されています。ただし、例外として、自由診療でも、ウェブサイト上で治療に要する費用や治療に伴うリスクや副作用などの情報を併記した場合は、広告できる情報を限定する規制が解除され、治療内容などの広告も可能とされています」と堀尾氏。
「だが、実際には、治療のリスクや副作用の記載が不十分なウェブサイトが散見される」(堀尾氏)とのことで、厚生労働省では、17年から医療機関などのウェブサイトにおける医療広告規制の違反を監視する「ネットパトロール事業」という取り組みを行っているという。「美容医療の広告で違反数が最も多いのは、『広告が可能とされていない事項の広告』※3。つまり、限定解除のための要件を満たさない広告が多いということです」と堀尾氏は強調する。
一方、SNSは、さらに規制が行き届いていないようだ。「若年層の美容医療の情報源はSNS。ですが、SNSのプラットフォームは、基本的に広告の内容まで関知していないようです。広告は通常の記事とは異なり、その医療機関が経費をかけて宣伝している案件だということを、患者さん自身も理解する必要があります」と、海野氏は訴えた。
これに対し青木氏も、「美容医療を求める層とSNSを利用する層の親和性が高い」と同調。「現在、SNSの医療広告はグレーゾーンで、ウェブサイトの医療広告と同様に扱われているが、今後は厳格なルールを整備することが必要不可欠」と堀尾氏も力説し、議論が白熱した。
患者さんがこうしたウェブサイトやSNSで情報を収集する際、どんな点に気をつけるべきなのか。海野氏は、「価格や即効性などに目が行きがちですが、ウェブサイトやSNSの情報を鵜呑みにしないことが肝心です。なかには、ホームページに院長の名前が記載されていない医療機関もあります。治療を受ける医師の経歴や資格などがきちんと確認できる医療機関を選んでほしい」と強調した。
※2 出所:美容センサス2024年下期《美容医療編》資料編(詳細版)「15〜69歳男女の美容医療意識やクリニックの利用状況」P60-61(株)リクルート ホットペッパービューティーアカデミー調べ (https://hba.beauty.hotpepper.jp/wp/wp-content/uploads/2024/12/fullreport_census_clinic_202412.pdf (2025年6月6日アクセス))
※3 出所:厚生労働省 第4回医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会 資料2-3「ネットパトロール事業について(令和5年度)」 (https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001292003.pdf 2025年6月6日アクセス)
最後は「美容医療で使用されている医薬品・医療機器について」をテーマに議論が交わされた。
「現在、日本の美容医療では、承認品と未承認品の両方が使用されている。それを消費者・患者さんも正しく理解する必要があります」と青木氏。「基本的に保険診療で使われる医薬品・医療機器は承認品。安全性・有効性などを厚生労働省が確認したものです。それに対して未承認品は、医師の裁量で海外から輸入し、自身の患者さんの治療に使う医薬品・医療機器で、自由診療が多い美容医療では未承認品も使用されています」とのことだが、承認品と未承認品が存在すること自体を知らない患者さんも多い。

国が認可していないと聞くと不安を感じるが、「未承認品を使用すること自体は法律違反にはあたりません。医師による未承認の医薬品や医療機器などの個人輸入は、患者の治療を目的としたものであれば認められています」と堀尾氏。ただし、美容医療の場合は、承認品があるにもかかわらず、安価だという理由で個人輸入した未承認品が使用される事例も存在するといい、「医療機関は、必ず患者さんの同意を得て未承認品を使用する必要があり、患者さん側も未承認品がどういうものかを理解しておく必要があります」と指摘した。
また、承認品の医薬品については、副作用で重篤な健康被害が生じた場合に公的な「医薬品副作用救済制度」が適用されるが、未承認品の場合は対象外であることも知っておきたい。「輸入した医師が責任を負うことになる」と青木氏。
海野氏は、「だからこそ、クリニック選びが重要」と強く訴え、「本来、美容医療は30年近く続けている医師も多い成熟した医療。患者さんが望んでも必要のない治療を制止し、きちんと治療してくださる先生がいる医療機関もあります」と語った。
美容医療において、患者さんが医療機関を見定める重要なステップとなるのが施術前のカウンセリングだ。「カウンセリングのときに、使用する薬や医療機器が承認品なのか未承認品なのか、不明点は医師に確認しましょう。提案される治療は何か、どんなリスクや副作用があるのか、納得するまで説明を聞き、その日はカウンセリングだけ受けて帰っても良いのです。落ち着いて考えて、施術は別日に行っても良いのです。厚生労働省のウェブサイトの『確認してください!美容医療を受ける前にもう一度』というチェック項目も参考になります※4」と海野氏。
締めくくりに、美容医療の安全性をより高めていくために、社会全体が心がけていくべき事柄について、それぞれから提示された。
青木氏は、「美容医療は人を幸せにする医療。ルールや規制を一層整備し、それを守る医師が選ばれることで、医師のモチベーションが上がり、美容医療全体のモラル向上にもつながるはず」と力説。
「納得の上で安心して美容医療を受けるためにも、『インフォームド・コンセント(医師と患者の間においての説明と同意)』というプロセスが大切です。患者さんは、自己決定をするための情報収集を怠らないでほしい」と堀尾氏が発言すると、海野氏も重ねて「患者さん側は、医師に何でもお任せにせずに、自分自身で知識を身につけることを心がけてほしい。まずは小さな治療から始めることも大事」と付け加え、鼎談の幕を閉じた。
アラガン・エステティックスとしては、今後も日本の美容医療の現状と課題を浮き彫りにし、安心・安全な美容医療の実現に向けた、取り組みを提言していくという。
※4 出所:厚生労働省ウェブサイト「確認してください!美容医療を受ける前にもう一度」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04978.html)
長年にわたり美容医療に貢献してきた企業として、アラガン・エステティックスが進める安全性や質向上のための具体的な取り組みについて、現場の声を聞いた。

佐々木孝明氏
アッヴィ合同会社
製品品質保証部 部長
Q1.美容医療の安全性・質向上のために、どのような取り組みを行っているか。
佐々木氏: 研究開発、製造、販売促進、マーケティング、および流通を含むすべての活動で、正直さ、公平さ、誠実さを重視し、これらを最も高い水準で維持しながら業務にあたることが、社員全員の責任となります。
また、私たちの使命であり、企業文化の中心となっているのは、常に患者さんや医療従事者に対して、高い品質と安全性を提供することです。製品の品質と安全性を最優先に考え、製造においては厳格な製造管理、品質管理の手順を徹底しています。また、GMP(医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準)を含む業界基準を順守したプロセスを採用しています。
Q2.信頼を維持する重要性についてどう考えているか。
佐々木氏:信頼とは他から与えられるものではなく、私たちが毎日行うあらゆる活動を通して獲得するものだと思います。患者さんや医療従事者を含めたさまざまなステークホルダーと信頼関係を築き維持していくことは、当社の基盤と言えます。関連法規を順守し、高品質な製品の提供を通じて、信頼されるパートナーであり続けることを目指しています。