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サーキュラーエコノミーの歯車が回り始めている。
理念先行で始まった小さな取り組みは、
技術と経済性の壁を乗り越え、輪を拡げつつある。
循環経済が企業と社会の重要ファクターになった今、
貴方は傍観者か、あるいは旗手の一員として参加するのか。
理念を社会実装した際の戦略性と覚悟が、問われている。

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総論

農業の競争力強化へ、漁業で処分に困る牡蠣殻を活用
地元協議会を舞台に展開する
「里海」ビジネスの紡ぐ物語

循環経済(サーキュラーエコノミー)の時代にふさわしいビジネスが、岡山で生まれ育ちつつある。仕掛け人は、JA全農おかやま(岡山市)。大量に廃棄される牡蠣の殻を資材として活用し農畜産物を育て、「里海(さとうみ)」の名を付けブランド化。新たな価値を加えた上で販売する。そこにある戦略思考とは。

「里海」ビジネスの第1弾は、主食の米だ。名付けて「里海米(さとうみまい)」。米政策の転換で産地に競争力の強化が求められる中、岡山県内では2016年度から生産を始め、他産地のような新品種の開発とは異なるアプローチで勝負を挑む。

差別化のポイントは、牡蠣殻を資材として利用する点だ。

もともと牡蠣殻には、化学的・物理的な特性から一定の効能が認められていた。海域では底質改善などに、陸域では園芸品目の資材として利用されていたのである。

資材として利用されてきたのは、主成分であるカルシウムが土壌中のアルカリ値を上げる一方、植物の細胞壁を強化するため。多孔質の形状は、土壌中の有用微生物の活動を促し、増殖を助ける働きも持つ。

岡山県内では実際、麦の生産に利用されてきた。さらに2014年頃になると、米の生産にも利用する動きが出始めていた。JA全農おかやま農産・園芸部部長の小原久典氏は言う。

「化学肥料の多用や酸性雨の影響で土壌が酸性化し、中性化が求められていたからです。しかも牡蠣殻資材は、中性化によく用いる苦土石灰に比べ、土壌が団粒化しやすい。水稲の生育に好ましい環境を整えられます。生産者は収量アップを見込めます」

その牡蠣殻が、県内で厄介者だった。瀬戸内エリアは当時、牡蠣の国内生産量で約8割のシェアを握っていた一大産地。むき身を取り除いた後の牡蠣殻が大量に発生する。漁業関係者はその処分に頭を悩ませていたのである。

「環境上の理由から、焼却処分は行わず、海底の堆積場で一時保管されています。ところが、そこが満杯になり、行き場を失っていました。広島県では生産量を調整するほどの状況にある、と聞いています」(小原氏)

■園芸品目の資材として利用される牡蠣殻
■園芸品目の資材として利用される牡蠣殻一般に流通する資材には、牡蠣殻を粗く砕いた製品、砕いたものを粒状に加工した製品、粉末に加工した製品がある。機械や人力における施用のしやすさが異なる

「豊かな海」を取り戻したい
その願いを込め、ブランド化

こうした背景の下、牡蠣殻資材は古くから製造・販売されてきた。JA全農おかやまでは、広島県福山市に本社を置く卜部産業から製品を仕入れ、県内2JAに卸すことを決める。JAではその資材を生産者に販売する一方で、収穫された米を集出荷する。

そこで「里海米」というブランドを打ち出したのは、なぜか。

「里海」とはもともと、瀬戸内海発の学術用語だという。「人手が加わることによって、生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と定義される。「里海米」というブランドには、そうした「里海」を再生しよう、すなわち「豊かな海」を取り戻そう、という願いが込められているのである。

実際、「里海米」の生産は海を豊かにし得る。牡蠣殻資材を施用した水田に残された栄養分が、河川を通じて海に流れ込むからだ。海で牡蠣殻という形に凝縮された栄養分が、再び海に還元されることから、「里海」再生活動の一つともいえるのである。

小原氏は「安全安心でおいしい米という訴求は、もう当たり前の時代です。差別化に向け付加価値を高めるには、商品の背後に物語が欲しい。『里海』の再生につながる米という訴求は、その物語になるはず」と言う。

物語を広めていく基盤ともなるのが、県内の農業関係者や農畜産物の流通に携わる企業と共に2018年3月に設立した「瀬戸内かきがらアグリ推進協議会」である。JA全農おかやまは、その事務局を担っている。

設立の狙いは、大きく2つ。「里海米」の生産から販売まで一貫したバリューチェーンを整えることと「里海」再生活動を展開することだ。

■「里海」ビジネスにおける循環の仕組み
■「里海」ビジネスにおける循環の仕組み養殖で育った牡蠣を食べると、牡蠣殻が残る。その牡蠣殻を加工・粉砕し、稲作・畑作の土壌改良材として、また家畜の飼料として利用する。その後、土壌中に残った栄養分は河川を通じて海に還元される。それが「豊かな海」を育む、という循環

「里海」の再生につながる米
多様な語り手が物語を伝える

「里海」再生活動では、地元の漁業関係者と手を結ぶ。「県内の穀倉地帯が干拓で生み出された経緯から漁業関係者とは隔たりがありましたが、『里海』関係者の知己を得たことで関係構築を図れました」(小原氏)

構成メンバーは、農業・漁業関係者の枠を超える。会員数は2025年10月現在、95者を数える。「自動車、住宅、建設など、異業種の企業参加も目立ちます。SDGs(持続可能な開発目標)の達成につながる活動として評価されています」(小原氏)

これら異業種の企業の中には、「里海米」2合パックをノベルティ(景品)として活用するところもある。パック1つを消費すると、協議会が設立した「瀬戸内かきがらアグリ基金」に1円が積み立てられる。ノベルティ活用を通して、「里海」の再生につながる米という物語が顧客に伝わる。

物語の語り手が異業種まで及ぶ一方、物語の主役には、様々な新顔が加わる。酒造米として「里海米」を使用した加工品「里海酒」が生まれたり、「里海米」に代わって「里海キャベツ」「里海タマネギ」などの「里海野菜(サトベジ)」も栽培されたりする。

■「里海米」をはじめとするブランド商品
■「里海米」をはじめとするブランド商品「里海米」を中心に、「里海米」を酒造米として用いた純米吟醸酒「里海の環(さとうみのわ)」、「里海キャベツ」「里海タマネギ」といった「里海野菜」、牡蠣殻飼料で育てた鶏の産んだ「里海卵」など、各種の農畜産物で「里海」ブランド化を進める

その先に見据えるのは、「倫理的」「道徳的」ともいわれるエシカル消費。協議会では、社会、地域、環境に配慮した消費行動を、「里海」ブランドの各商品で促していく戦略だ。

地域独自のキーワードである「里海」。「豊かな海」を取り戻す物語を、多様な語り手が多様な語り口で紡ぐことで、循環経済の市場を切り開く。

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総論

農業の競争力強化へ、漁業で処分に困る牡蠣殻を活用地元協議会を舞台に展開する
「里海」ビジネスの紡ぐ物語

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